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第1章:港町ポルト編
第026話 『その日、従者ができた』
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アリシアは祈りを捧げる姿のまま、こちらを見上げ動かないでいる。私からの返答を待っているようだ。しかし私はまだ、混乱の最中にあった。どう口説こうか考えていたプランは吹き飛び、ここは喜ぶべきか、別の試練が始まったと見るべきか。反応の仕方に困っていた。
そしてワークスさんは困惑も冷めやらぬ中、冷静に「準備をしてきます」と言ってそそくさと退出していった。薄情者ー!
「やはり、私のような未熟者では貴女様にお仕えすることはできないのでしょうか」
「そ、そんなわけないわ。私は貴女の……将来の主人に仕えるために多種多様な事を学ぶ勤勉さ、必要以上に貰えば手抜きはしない真面目さ、仕事に対する熱意、すべて評価しています」
「……お嬢様、私のことをそこまで調べていてくれたのですね。ありがとうございます」
そりゃあ、貴女にはお金も時間も、いっぱい使いましたし?
「……貴女を雇う上で私は、貴女が認める条件を探し出したつもりだったわ。でもそれを提示する前に、こうも服従の態度を見せられては困惑もします。理由の説明をお願いしても良いかしら?」
「ああっ! 私とした事が申し訳ありません。仮にもお仕えしようとする御方を困らせてしまうだなんて。ご説明いたします」
慌てて彼女はペコペコと謝り始めた。待って待って、こんなアリシア見た事ないんですけど! 一体どうなってるのよ!?
「まずその、挨拶ののちに黙ってしまったことを謝罪致します。実はお嬢様をひと目見たとき、あまりのお美しさに目を奪われました。元々、主人の顔の作りなど些細な違いと気にも留めていなかったつもりなのですが、お嬢様を見ているだけ胸がトキメキました。まるで地上に顕現された精霊様のようで、それでいてお嬢様の仕草もまたとてもカワイらしくて……。しばらく見惚れてしまいました」
顔を赤らめながらも、自身を諫めるように言葉を繋いでいく姿がまた愛らしい。ああもう、そんなに褒められたら理由とかどうでも良くなっちゃうじゃない。
素直に嬉しい。アリシアが今まで以上にカワイくみえてきたわ。もう好き!!
……ん? 精霊?
「そしてお嬢様のお召し物です。もしやと思いましたが……私達が見間違うはずもありません。精霊様に認められた者が下賜されると言われる、伝説の『白の乙女』でございます。そのような衣装を見に纏うお嬢様を主人とせず、一体誰に仕えると言うのでしょう」
「私達? それに『白の乙女』を知っているということは……」
「はい。この事はワークス殿を除いて誰にも伝えておりませんから、どんなに調べようとも、お嬢様がご存じないのは仕方のない事でございます」
そう言って彼女は、メイド服の中に忍ばせていたネックレスを外してみせる。すると、なんという事だろうか。彼女の耳が光に包まれ、尖った耳が現れた。
「こういう事でございます。ご理解いただけましたでしょうか」
アリシアはそう言って、長い耳を『ピコピコ』させてアピールしてくる。カワイイ。撫で回したくなる。
私は好感度が最高値に達したとき、長い時間一緒にいた事で親密になれたものなのだと喜んでいたが、思えば実際の理由を彼女に聞くことはしていなかった。まさかエルフだったなんて! そういえばあの日も、『白の乙女』を着てお出かけしようとした日だった気がする。まさかこの服を着る事が条件だったなんて。っていうか好感度0からすっ飛ばしてマックスになるなんて!
衝撃の展開だわ。
「そうなのね、理解したわ。貴女の種族が何であれ、私の意思は変わらない。貴女を雇うわ。でも、いいのかしら? 生涯だなんて簡単に決めてしまって」
「……世界にお嬢様以上に魅力的な方などおりません。精霊様に誓います。未来永劫、何があろうとお嬢様について参ります。勿論お金も不要でございます。何なりとおっしゃってくださいませ」
「ん? 今何でも……じゃなくって! お金は払うわ。ただ働きなんてさせたくないもの」
危ない危ない。今のは内なる欲望ではなく素で口から出てしまった。
「ですが、私はお嬢様にお仕えするだけで幸せなのです。それに私には今までの蓄えが潤沢にありますし、お嬢様に負担をかけるわけには……」
「却下よ。貴女は私に生涯仕えると宣言したわ。なら、家族も同然じゃない。そして家族には家長からお小遣いが支給されるものなのよ。遠慮なく受け取りなさい」
「家族……お嬢様と、私が……」
ゲーム中、アリシアは自分のことを多くは語らなかった。しかし一度、いつだったか家族に関して問いかけた事があった。その時彼女は、もういないと答えていた。その顔があまりにも寂しそうに感じたから、私はいつか彼女を家族に迎え入れたいと考えていた。
構成はそうだなぁ、家長は私で、シラユキが娘兼嫁で、アリシアがお姉ちゃんで、リリちゃんが妹で、リリママがお母さんかなぁ。……見事に女性しかいないわね!
『チラッ』とアリシアの顔を覗き込むと、困ってはいたが嬉しさがにじみ出ていた。よし、もう渡してしまおう!
私は祈る彼女の手を開き、お金を渡した。金貨5枚に銀貨1枚。そう、これがこの街で彼女を雇う場合の、適正価格だ。
「そしてこのお金は、貴女の技術に対しての正当な対価でもある。この料金の解説は必要かしら?」
「……はい、お願いします」
お金を胸に抱きしめた彼女に告げる。
「金貨2枚、これは王宮メイド長の平均月収。貴女はメイド育成学校で免許皆伝。それはすなわち王宮メイドとして働いても遜色ない腕を持っているということ」
「……」
「金貨3枚、これは高級娼婦の平均月収。この月収は人によってピンキリだけれど、貴女に技を教えた人を参考にしたと考えれば計算の必要はなかったわ。逆にその人がもう既に半分隠居していたから探すのには骨が折れたけど」
「……」
「最後に銀貨1枚。これはこのお店側の取り分。これがなければ貴女にはきちんと金貨5枚分の報酬が渡らない。……いかがかしら?」
「……私を雇おうとする人たちの中にも、適正価格を考えようとする人はいました。それでも彼らはこのお店に対するマージンまでは考えが及ばなかった。2度目以降は、さらに給金を跳ね上げてこられるのです。私の技量はなにも変わっていないというのに」
彼女が何を想って、この料金設定をしたのかは、今だによくわかっていない。だが、彼女にとって意味のある事なのだろう。たとえ好感度がカンストしていたとしても、彼女の矜持は守ってあげたい。
「それで、私は合格かしら?」
「もちろんでございます。ここまで私のことを、そしてお世話になったこのお店のことを考えてくださったのは貴女様しかおりません。ああ、そんな御方にお仕えできるなんて、私はなんて果報者なのでしょう」
アリシアを立たせ、視線を合わせる。
「では早速、貴女に一番してほしい仕事を伝えるわ」
「拝聴いたします」
内なる欲望、もう我慢しなくていいわよ!
「私、常に人恋しくて温もりに飢えてるの。だから頻繁にアリシアを抱きしめるしキスもするわ。私が寂しくて死んでしまわないように、可能な限り私のそばにいなさい。いいわね」
「はい。かしこまりました、お嬢様。んっ」
アリシアが言い終えると同時に、抱きしめ貪るようにキスをした。アリシアに対して、だいぶ我慢したのか、いつもより激しい。これがディープなやつかー。
アリシアもされるがままにはならず、きちんと舌で応えてくれる。さすがプロ。シェリーやリリちゃんとは違うわね!
1分ほどの長いキスを終え、ようやく内なる欲望が満足したらしい。ちょっと息苦しかったけど、とっても幸せな気持ちね。
「それと追加ね。朝起きたら必ずすること。いいわね」
「はい。かしこまりました……」
顔を紅潮させ、呼吸も荒いがメイドらしい仕草で一礼する。……プロだなぁ。もう1回したくなってきちゃった。
私の従者なんだもの、遠慮はしなくていいのよね! もう一度アリシアにキスをした。
「キス、上手いわね。もう私のだと分かるけど、今までの主人に嫉妬しちゃうわ」
「ご安心下さい。娼婦としてのスキルは、今まで練習以外では1度も使ったことはありません」
「え、そうなの?」
「はい、私の身体は将来の主人に捧げたモノでしたので。お嬢様が初めてでございます」
リップサービスかまだ判断はできないが……嬉しかったのでもう1度キスした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アリシアとエンドレスにキスしていたらワークスさんがやってきて、契約の話になった。ワークスさんは私とアリシアの状況に見て見ぬふりをするらしい。この人もプロね。
アリシアはメイドとして、ソファに腰掛ける私の後ろに立とうとするも、寂しさをアピールすると笑顔で隣に座ってくれた。彼女を抱きしめつつ話を聞く。
……これ、内なる欲望だけの行動じゃないわね。私自身が、アリシアに甘えてる?
高級娼婦の技術ってそれつまり、人を虜にする事に長けているということ。ならば心地よさを演出することが出来るし、人を安心させることも可能。アリシアってエルフなのに意外と胸が大きくて包容力あるし、エルフだからかアロマを焚いているような、気持ちが安らぐ匂いもする。
うーん、離れたくない。離れられない。真冬のコタツ並みに、人間をダメにするメイドだわ……!
「まずは無期限契約おめでとうございます。シラユキ様、そしてアリシア君。お2人の出会いに神々の祝福がありますように」
「ワークス殿、今までお世話になりました。これからはお嬢様と共に過ごします」
「ワークスさん、ありがとう。この子はもう私の家族よ。ずっと大事にするわ」
「ははは、2人共幸せそうで何よりです。それにアリシア君がここまで気を許すとは、シェリー君が認めるのも納得でありますな」
「あら、そこでシェリーの名前が出てくるのね」
やっぱりメアじゃないんだ。ギルドマスターより副ギルドマスターの方が権限を持ってるように周りからも感じ取れてるってことよね。まぁシェリーなら悪さはしないから、いいんだけど。
「ええ、この街の冒険者ギルドから紹介をもらえるということは、堅物で有名な副ギルド長から認められたも同然。行方知れずだった副ギルド長にシラユキ様の現れた時期。彼女が認めるということは先日の事件、あれもシラユキ様が関わっているのではありませんか?」
「ふふっ、どうかしら」
隠すつもりはないが、こういう会話も楽しい。
「おっと、長く引き止めるわけにもいきませんな。シラユキ様、これを」
そういってワークスさんは1枚の書類を出してくる。
「コレは彼女が奴隷ではない事を証明する物です。エルフは、奴隷として扱うことは王国法により犯罪です。しかし彼女は、従者として貴女様に仕える事を止めることはないでしょう。王都に行かれるなら、コレがきっとお役に立ちます」
「耳が早いのね」
受け取るために名残惜しくもアリシアを手放し、書類をマジックバッグに納める。王都に行く事を告げたのは、オークの集落から出たあとだけだ。まぁ特に内緒にはしていなかったとしても情報通なのね。
「この商売、情報は武器であり生き残るための必需品ですから」
「なるほどね。それで、それも売ってくれるという事で良いのかしら?」
「ええ、信頼できる方に限られますが。それで、どういったものをお求めで?」
「そうねぇ……、この近辺でテラーコングが出たって情報は入っているかしら?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
完全な奴隷契約ではないため、書類と簡単な説明、あとは料金の支払いなどで手続きは完了した。アリシアは荷物は自前のマジックバッグに収納しているためすぐに商店を出れるという。
店を出ると、アリシアが真剣な顔をしていた。真面目な顔も可愛いわね。
「……お嬢様、もし王都へ向かう最中、テラーコングが現れるようなことがあれば、全力でお守りいたします。ただ、番いで現れると、私でも長くは持ちません。可能な限り道は逸れていくべきかと」
なんだ、そんな事を考えていたのね。……アリシアはずっと一緒にいるし、今のうちに説明しておきましょうか。
「テラーコング程度、遊び相手にもならないわ。だから心配は無用よ」
「えっ……?」
「そうね、ここじゃ人目も多いし、こっちにいらっしゃい」
そういって彼女を連れて、路地裏へと進む。おてて柔らかい……。
袋小路にたどり着き、周囲に人の気配がない事を確認し、スキルを実行する。
「『隠蔽解除』」
「えっ!?」
「アリシアなら、今の意味がわかるわよね」
アリシアはNPCの中では非常に優秀だった。それは能力値だけでなく、初期加入時点で最低限の職業やスキルを修めているという点だ。それは『観察』もあれば『隠蔽』も覚えているし、『解体』などの変わり種もあれば、長年の努力により『範囲攻撃魔法』ですら習得している。
そして私の行動は、「『観察』で視ても良いよ」ということだ。
「は、はい。ですが、宜しいのですか?」
「言ったでしょう、貴女は私の家族よ。家族に内緒にするような事は……ほんの些細なことだけよ」
シラユキには隠しても筒抜けだと思うけど。
「かしこまりました。では私も『隠蔽解除』『観察』」
アリシアの前に半透明なプレートが現れ、私のステータスが表示されている。私の補正他職業の部分が多すぎて、非常に縦長になっていた。枠内に収まらなければ改行されていく物なのだが、何せその数が膨大だ。
プレートは基本目の高さに現れるのに、それが見下ろさなければならない程に下へと伸びていた。こうして自分のステータスを改めて見ると、何だか笑えてくるわね。
アリシアにとって、その余りにも非常識な長さと、総戦闘力、にもかかわらず低いレベル。全てが衝撃だったのだろう。プレートを見つめたまま固まってしまっている。
セクハラチャンス? いやいや、頼んだらいくらでもさせてくれそうだし、今は彼女を視ましょうか。
『観察』
**********
名前:アリシア
職業:ローグ
Lv:45
補正他職業:剣士、格闘家、魔法使い、狩人、シーフ、武闘家、魔剣士、魔術士、レンジャー、暗殺者
総戦闘力:3876
**********
うん、想像通りに強いわね。補正数10個……優秀だわ。
このくらいなら確かに、テラーコング相手なら、倒す事は難しくても相手取る事は可能かしら。番いで出たら負けるけど。
それにゲーム時代の謎が解けたわ。この見た目から若い人族にしか見えないのに、周りと比べて隔絶した強さを持っている事が不思議でならなかったけれど、長寿のエルフなら納得の強さね。それにアリシアは努力家だもの。NPCの半端な知識という足枷がある状態で、よくここまで育てたものだわ。たしか、ローグ以外の補正枠は、全部50にしてるんだったっけ。
それを思うと、アリシアって何才なのかしら?
『女の子に年齢を聞くのは、マナー違反よ、マスター』
そしてワークスさんは困惑も冷めやらぬ中、冷静に「準備をしてきます」と言ってそそくさと退出していった。薄情者ー!
「やはり、私のような未熟者では貴女様にお仕えすることはできないのでしょうか」
「そ、そんなわけないわ。私は貴女の……将来の主人に仕えるために多種多様な事を学ぶ勤勉さ、必要以上に貰えば手抜きはしない真面目さ、仕事に対する熱意、すべて評価しています」
「……お嬢様、私のことをそこまで調べていてくれたのですね。ありがとうございます」
そりゃあ、貴女にはお金も時間も、いっぱい使いましたし?
「……貴女を雇う上で私は、貴女が認める条件を探し出したつもりだったわ。でもそれを提示する前に、こうも服従の態度を見せられては困惑もします。理由の説明をお願いしても良いかしら?」
「ああっ! 私とした事が申し訳ありません。仮にもお仕えしようとする御方を困らせてしまうだなんて。ご説明いたします」
慌てて彼女はペコペコと謝り始めた。待って待って、こんなアリシア見た事ないんですけど! 一体どうなってるのよ!?
「まずその、挨拶ののちに黙ってしまったことを謝罪致します。実はお嬢様をひと目見たとき、あまりのお美しさに目を奪われました。元々、主人の顔の作りなど些細な違いと気にも留めていなかったつもりなのですが、お嬢様を見ているだけ胸がトキメキました。まるで地上に顕現された精霊様のようで、それでいてお嬢様の仕草もまたとてもカワイらしくて……。しばらく見惚れてしまいました」
顔を赤らめながらも、自身を諫めるように言葉を繋いでいく姿がまた愛らしい。ああもう、そんなに褒められたら理由とかどうでも良くなっちゃうじゃない。
素直に嬉しい。アリシアが今まで以上にカワイくみえてきたわ。もう好き!!
……ん? 精霊?
「そしてお嬢様のお召し物です。もしやと思いましたが……私達が見間違うはずもありません。精霊様に認められた者が下賜されると言われる、伝説の『白の乙女』でございます。そのような衣装を見に纏うお嬢様を主人とせず、一体誰に仕えると言うのでしょう」
「私達? それに『白の乙女』を知っているということは……」
「はい。この事はワークス殿を除いて誰にも伝えておりませんから、どんなに調べようとも、お嬢様がご存じないのは仕方のない事でございます」
そう言って彼女は、メイド服の中に忍ばせていたネックレスを外してみせる。すると、なんという事だろうか。彼女の耳が光に包まれ、尖った耳が現れた。
「こういう事でございます。ご理解いただけましたでしょうか」
アリシアはそう言って、長い耳を『ピコピコ』させてアピールしてくる。カワイイ。撫で回したくなる。
私は好感度が最高値に達したとき、長い時間一緒にいた事で親密になれたものなのだと喜んでいたが、思えば実際の理由を彼女に聞くことはしていなかった。まさかエルフだったなんて! そういえばあの日も、『白の乙女』を着てお出かけしようとした日だった気がする。まさかこの服を着る事が条件だったなんて。っていうか好感度0からすっ飛ばしてマックスになるなんて!
衝撃の展開だわ。
「そうなのね、理解したわ。貴女の種族が何であれ、私の意思は変わらない。貴女を雇うわ。でも、いいのかしら? 生涯だなんて簡単に決めてしまって」
「……世界にお嬢様以上に魅力的な方などおりません。精霊様に誓います。未来永劫、何があろうとお嬢様について参ります。勿論お金も不要でございます。何なりとおっしゃってくださいませ」
「ん? 今何でも……じゃなくって! お金は払うわ。ただ働きなんてさせたくないもの」
危ない危ない。今のは内なる欲望ではなく素で口から出てしまった。
「ですが、私はお嬢様にお仕えするだけで幸せなのです。それに私には今までの蓄えが潤沢にありますし、お嬢様に負担をかけるわけには……」
「却下よ。貴女は私に生涯仕えると宣言したわ。なら、家族も同然じゃない。そして家族には家長からお小遣いが支給されるものなのよ。遠慮なく受け取りなさい」
「家族……お嬢様と、私が……」
ゲーム中、アリシアは自分のことを多くは語らなかった。しかし一度、いつだったか家族に関して問いかけた事があった。その時彼女は、もういないと答えていた。その顔があまりにも寂しそうに感じたから、私はいつか彼女を家族に迎え入れたいと考えていた。
構成はそうだなぁ、家長は私で、シラユキが娘兼嫁で、アリシアがお姉ちゃんで、リリちゃんが妹で、リリママがお母さんかなぁ。……見事に女性しかいないわね!
『チラッ』とアリシアの顔を覗き込むと、困ってはいたが嬉しさがにじみ出ていた。よし、もう渡してしまおう!
私は祈る彼女の手を開き、お金を渡した。金貨5枚に銀貨1枚。そう、これがこの街で彼女を雇う場合の、適正価格だ。
「そしてこのお金は、貴女の技術に対しての正当な対価でもある。この料金の解説は必要かしら?」
「……はい、お願いします」
お金を胸に抱きしめた彼女に告げる。
「金貨2枚、これは王宮メイド長の平均月収。貴女はメイド育成学校で免許皆伝。それはすなわち王宮メイドとして働いても遜色ない腕を持っているということ」
「……」
「金貨3枚、これは高級娼婦の平均月収。この月収は人によってピンキリだけれど、貴女に技を教えた人を参考にしたと考えれば計算の必要はなかったわ。逆にその人がもう既に半分隠居していたから探すのには骨が折れたけど」
「……」
「最後に銀貨1枚。これはこのお店側の取り分。これがなければ貴女にはきちんと金貨5枚分の報酬が渡らない。……いかがかしら?」
「……私を雇おうとする人たちの中にも、適正価格を考えようとする人はいました。それでも彼らはこのお店に対するマージンまでは考えが及ばなかった。2度目以降は、さらに給金を跳ね上げてこられるのです。私の技量はなにも変わっていないというのに」
彼女が何を想って、この料金設定をしたのかは、今だによくわかっていない。だが、彼女にとって意味のある事なのだろう。たとえ好感度がカンストしていたとしても、彼女の矜持は守ってあげたい。
「それで、私は合格かしら?」
「もちろんでございます。ここまで私のことを、そしてお世話になったこのお店のことを考えてくださったのは貴女様しかおりません。ああ、そんな御方にお仕えできるなんて、私はなんて果報者なのでしょう」
アリシアを立たせ、視線を合わせる。
「では早速、貴女に一番してほしい仕事を伝えるわ」
「拝聴いたします」
内なる欲望、もう我慢しなくていいわよ!
「私、常に人恋しくて温もりに飢えてるの。だから頻繁にアリシアを抱きしめるしキスもするわ。私が寂しくて死んでしまわないように、可能な限り私のそばにいなさい。いいわね」
「はい。かしこまりました、お嬢様。んっ」
アリシアが言い終えると同時に、抱きしめ貪るようにキスをした。アリシアに対して、だいぶ我慢したのか、いつもより激しい。これがディープなやつかー。
アリシアもされるがままにはならず、きちんと舌で応えてくれる。さすがプロ。シェリーやリリちゃんとは違うわね!
1分ほどの長いキスを終え、ようやく内なる欲望が満足したらしい。ちょっと息苦しかったけど、とっても幸せな気持ちね。
「それと追加ね。朝起きたら必ずすること。いいわね」
「はい。かしこまりました……」
顔を紅潮させ、呼吸も荒いがメイドらしい仕草で一礼する。……プロだなぁ。もう1回したくなってきちゃった。
私の従者なんだもの、遠慮はしなくていいのよね! もう一度アリシアにキスをした。
「キス、上手いわね。もう私のだと分かるけど、今までの主人に嫉妬しちゃうわ」
「ご安心下さい。娼婦としてのスキルは、今まで練習以外では1度も使ったことはありません」
「え、そうなの?」
「はい、私の身体は将来の主人に捧げたモノでしたので。お嬢様が初めてでございます」
リップサービスかまだ判断はできないが……嬉しかったのでもう1度キスした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アリシアとエンドレスにキスしていたらワークスさんがやってきて、契約の話になった。ワークスさんは私とアリシアの状況に見て見ぬふりをするらしい。この人もプロね。
アリシアはメイドとして、ソファに腰掛ける私の後ろに立とうとするも、寂しさをアピールすると笑顔で隣に座ってくれた。彼女を抱きしめつつ話を聞く。
……これ、内なる欲望だけの行動じゃないわね。私自身が、アリシアに甘えてる?
高級娼婦の技術ってそれつまり、人を虜にする事に長けているということ。ならば心地よさを演出することが出来るし、人を安心させることも可能。アリシアってエルフなのに意外と胸が大きくて包容力あるし、エルフだからかアロマを焚いているような、気持ちが安らぐ匂いもする。
うーん、離れたくない。離れられない。真冬のコタツ並みに、人間をダメにするメイドだわ……!
「まずは無期限契約おめでとうございます。シラユキ様、そしてアリシア君。お2人の出会いに神々の祝福がありますように」
「ワークス殿、今までお世話になりました。これからはお嬢様と共に過ごします」
「ワークスさん、ありがとう。この子はもう私の家族よ。ずっと大事にするわ」
「ははは、2人共幸せそうで何よりです。それにアリシア君がここまで気を許すとは、シェリー君が認めるのも納得でありますな」
「あら、そこでシェリーの名前が出てくるのね」
やっぱりメアじゃないんだ。ギルドマスターより副ギルドマスターの方が権限を持ってるように周りからも感じ取れてるってことよね。まぁシェリーなら悪さはしないから、いいんだけど。
「ええ、この街の冒険者ギルドから紹介をもらえるということは、堅物で有名な副ギルド長から認められたも同然。行方知れずだった副ギルド長にシラユキ様の現れた時期。彼女が認めるということは先日の事件、あれもシラユキ様が関わっているのではありませんか?」
「ふふっ、どうかしら」
隠すつもりはないが、こういう会話も楽しい。
「おっと、長く引き止めるわけにもいきませんな。シラユキ様、これを」
そういってワークスさんは1枚の書類を出してくる。
「コレは彼女が奴隷ではない事を証明する物です。エルフは、奴隷として扱うことは王国法により犯罪です。しかし彼女は、従者として貴女様に仕える事を止めることはないでしょう。王都に行かれるなら、コレがきっとお役に立ちます」
「耳が早いのね」
受け取るために名残惜しくもアリシアを手放し、書類をマジックバッグに納める。王都に行く事を告げたのは、オークの集落から出たあとだけだ。まぁ特に内緒にはしていなかったとしても情報通なのね。
「この商売、情報は武器であり生き残るための必需品ですから」
「なるほどね。それで、それも売ってくれるという事で良いのかしら?」
「ええ、信頼できる方に限られますが。それで、どういったものをお求めで?」
「そうねぇ……、この近辺でテラーコングが出たって情報は入っているかしら?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
完全な奴隷契約ではないため、書類と簡単な説明、あとは料金の支払いなどで手続きは完了した。アリシアは荷物は自前のマジックバッグに収納しているためすぐに商店を出れるという。
店を出ると、アリシアが真剣な顔をしていた。真面目な顔も可愛いわね。
「……お嬢様、もし王都へ向かう最中、テラーコングが現れるようなことがあれば、全力でお守りいたします。ただ、番いで現れると、私でも長くは持ちません。可能な限り道は逸れていくべきかと」
なんだ、そんな事を考えていたのね。……アリシアはずっと一緒にいるし、今のうちに説明しておきましょうか。
「テラーコング程度、遊び相手にもならないわ。だから心配は無用よ」
「えっ……?」
「そうね、ここじゃ人目も多いし、こっちにいらっしゃい」
そういって彼女を連れて、路地裏へと進む。おてて柔らかい……。
袋小路にたどり着き、周囲に人の気配がない事を確認し、スキルを実行する。
「『隠蔽解除』」
「えっ!?」
「アリシアなら、今の意味がわかるわよね」
アリシアはNPCの中では非常に優秀だった。それは能力値だけでなく、初期加入時点で最低限の職業やスキルを修めているという点だ。それは『観察』もあれば『隠蔽』も覚えているし、『解体』などの変わり種もあれば、長年の努力により『範囲攻撃魔法』ですら習得している。
そして私の行動は、「『観察』で視ても良いよ」ということだ。
「は、はい。ですが、宜しいのですか?」
「言ったでしょう、貴女は私の家族よ。家族に内緒にするような事は……ほんの些細なことだけよ」
シラユキには隠しても筒抜けだと思うけど。
「かしこまりました。では私も『隠蔽解除』『観察』」
アリシアの前に半透明なプレートが現れ、私のステータスが表示されている。私の補正他職業の部分が多すぎて、非常に縦長になっていた。枠内に収まらなければ改行されていく物なのだが、何せその数が膨大だ。
プレートは基本目の高さに現れるのに、それが見下ろさなければならない程に下へと伸びていた。こうして自分のステータスを改めて見ると、何だか笑えてくるわね。
アリシアにとって、その余りにも非常識な長さと、総戦闘力、にもかかわらず低いレベル。全てが衝撃だったのだろう。プレートを見つめたまま固まってしまっている。
セクハラチャンス? いやいや、頼んだらいくらでもさせてくれそうだし、今は彼女を視ましょうか。
『観察』
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名前:アリシア
職業:ローグ
Lv:45
補正他職業:剣士、格闘家、魔法使い、狩人、シーフ、武闘家、魔剣士、魔術士、レンジャー、暗殺者
総戦闘力:3876
**********
うん、想像通りに強いわね。補正数10個……優秀だわ。
このくらいなら確かに、テラーコング相手なら、倒す事は難しくても相手取る事は可能かしら。番いで出たら負けるけど。
それにゲーム時代の謎が解けたわ。この見た目から若い人族にしか見えないのに、周りと比べて隔絶した強さを持っている事が不思議でならなかったけれど、長寿のエルフなら納得の強さね。それにアリシアは努力家だもの。NPCの半端な知識という足枷がある状態で、よくここまで育てたものだわ。たしか、ローグ以外の補正枠は、全部50にしてるんだったっけ。
それを思うと、アリシアって何才なのかしら?
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金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。
3人しかいない教室。
百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。
がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。
無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。
百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。
女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
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2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
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"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
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