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第1章:港町ポルト編
第002話 『その日、職業を得た』
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沈んでいた意識が覚醒し、目が覚める。まず視界に入るのは見慣れた大きな2つの月。しかし妙にリアルで、こんなに生々しかっただろうか……と寝ぼけた頭で考えた。
ゆっくりと起き上がると、寝転んでいた場所が先ほどまでいた『精霊の森』ではなく、とても広大な草原であることに気付く。近くには森があり、やや遠目には見覚えのある街の外壁。
妙にディティールに深みがあったり、風が運ぶ土の匂いに味わいがあったり、草の柔らかさを感じられる事に、違和感を感じる。
「……ここは、どこだ? 見覚えはあるはずなのに、何か変だ。それに俺……いや、この声はシラユキか? なら、んんっ!」
思考を切り替える。私は……シラユキ。最高にカワイくて最強にカワイイシラユキよ! よし。
「……私は死んだはず。よね? それも中身もろとも」
なにかがおかしい。いつも見て知っているはずの情報と比べると、様々な事柄の存在感が強い。今まではもっと希薄だったような気がする。
キョロキョロしていると、普段は感じられない重みを肩に感じた。視線を下にやると、いつの間にか着ていた革の装備一式。そしてその革を難なく押し上げる2つの膨らみ。そう、胸だ。
「大きい……」
この形にこの大きさ、シラユキの物で間違いない。毎日見ていたんだから間違いようがない。そんなシラユキの抜群のプロポーションが、革の装備程度の圧迫に屈さず、呼吸により上下し激しく主張していた。
こいつ、動くぞ!
……思わず手が伸びた。
「……ひゃん!」
勢いあまって鷲掴むと、未経験の感覚が襲った。そしてカワイらしい声が出た。
「えっ? えっ? 何、今の感覚! 快感とくすぐったさが混ぜ合わさったような……、そしてあのカワイイ声は」
いや、普段のシラユキの声のようだったけど、こんなに透き通っていただろうか。それにしてもカワイイ声だった。
ヤバイヤバイ、混乱する! いったいどうなってるんだ!
「……そう、そうよ。私はシラユキなんだから声がカワイイのは当たり前!」
落ち着いて声に出すと、納得できた。……も、もう1回出してみようかな? 混乱が解けたと思えば、次はコレである。欲望には忠実だなと我ながら思う。
いや、声が聞きたいのであって胸を触りたいわけでは……って誰に言い訳をしているのよ。
しかも自分の胸だし……あ、いや。これはシラユキの胸だった。……うん、シラユキの胸なら触りたいな。嘘はよくない。
しばらく、おっかなびっくり楽しんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ふぅ」
しばらく胸と声を堪能し大満足したころに、ようやく現状を考え始める。
「……やっぱり夢じゃなさそうね? 夢にしては感覚が強すぎる。つねれば痛みもするし、き、気持ちいいし……。それにゲームなら常に表示されているはずのステータスが無ければ、ログアウトも出来そうにない。空気に味を感じるし、草の柔らかさも感じられる。いくらリアリティ溢れるフルダイブでもここまでではなかった。鼻腔をくすぐる甘い匂いも……あ、これはシラユキの匂いに違いない。それに何よりシラユキがこんなおかしな行動を取るはずがない。私が、自分の意志で動かしてる」
夢でもなければゲーム内でもない。私はそう結論付けた。
「……私、シラユキに、なれたの?」
自分にとってはついさっきの出来事であるが、お別れをした仲間たちに思いをはせる。
「私、シラユキになれたみたい。みんな、一緒に居られなくてごめんね」
ふと、風になびく銀の髪が目に映る。適当に束をつかんでクンクンする。やっぱりいい匂いがした。
「……ああ、この匂いはイメージしていたシラユキにそっくり。それにしてもさすがね、初期装備の革装備一式。胸がぱっつんぱっつんじゃない。きっとお尻なんて凄いことに……」
いくらシラユキの身体が柔らかくても、いくら体を曲げてもお尻の状態は見れない。想像して顔がほころぶ。是非とも小一時間くらい眺めたい。先ほどまでの感情は、シラユキへの愛で吹き飛んだ。ごめん皆!
「手持ちに鏡さえあれば……あっ、そうだ所持品!」
先ほど周囲を見た際、傍に落ちていたマジックバッグを手に取った。 マジックバッグは『錬金術』のスキルを使用し作るアイテムで、見た目以上にアイテムが入る優れもの。
バッグそのもののサイズや品質、作成の素材によって入る量が大幅に変わっていく冒険の必需品だ。
どうやら目の前にあるのはその中でも1番小さいマジックバッグ【小】のようだが……まずは中身を確認する。
**********
下級回復ポーション10個
魔除けの陣1個
魔導テント1個
銀貨3枚
始まりの剣1個
**********
「あ、これ完全にゲームスタート時の所持品じゃん。うわぁ、なつかしい……」
何も考えずに無意識で『始まりの剣』を取り出し腰に下げる。マジックバッグ【小】も腰のベルトに取り付けた。
街についたら姿見のある宿屋に泊まろうと強く決意した。
次に確認するのは『今の職業』である。
初期の職業が前衛でも後衛でも『始まりの剣』が初期装備なので、場合によっては苦労するからだ。
教会でお布施をすれば職業変更も可能であるが、最低でも銀貨5枚はかかる上に、生産職が最初に作れるアイテムは雀の涙ほどの価値しかない。下手すると生活費すらままならない。
「……よし、ステータスチェック!」
**********
職業:グランドマスター
レベル:0
職業が解放されていないため、他の項目は確認不可能です。
**********
「なにこの職業。知らない子なんですけど……」
全ての職業を制覇した私ですら、知らない職業名に愕然とする。そして同時に焦りが生まれる。
『WoE』の職業は少し面倒なシステムを採用している。初期に選べる職業は8個あるのだが、そこから成長させ一定までレベルを上げることで上級職が解放されていく。
しかし、解放された職業に転職をすれば、すぐにその職業が使えるかと思えばそうではないのだ。
職業を一定のレベルにまで成長させ転職するというのは序の口に過ぎず、職業毎に課せられた『課題』をクリアしなければどれだけ経験値を稼いでもレベルが1以上にならない。
『課題』は簡単な『敵を倒す』から『NPC/プレイヤー問わず100人回復魔法で助ける』という曖昧なもの。『三国の聖書を最初から最後まで音読する』という苦行のようなものまで多種多様にある。
しかも『音読系』と分類される、決められた物を読み上げる物の場合、途中で噛んだり別の言葉を発すると失敗になるという嫌らしい要素がある。その為、聖書を音読する事が条件の『教皇(男性専用)』『聖女(女性専用)』の取得は、最難関の一つとされていた。その分専用衣装はカワイかった。
更に面倒なのがヒントはどこにもなく『課題クリア後のレベル1になる事で読めるフレーバーテキスト』にしか正解が記されていないという点が嫌らしい。
既に発見されている職業ならまだしも、新規の職業は正に地獄。
なかなか骨が折れるのである。ただ、その『課題』は基本的にその職業名に沿ったものであると思える物ばかりのため、それをどれだけ正確に予想が出来るかも『課題』の醍醐味であると考えている。
「グランドマスター……意味で考えると『最高位、最高位の指導者』よね。分けて考えてもグランドが『偉大な、気高い、大きい』とかで、マスターが『主人、達人、意のままにできる人』よね。それを考えると……まずは全職業の解放条件の音読から、やってみようかしら」
まずは初期職業の8種を頭に浮かべる。職業は剣士、格闘家、魔法使い、狩人、槍使い、シーフ、遊び人、調合師。
「敵1体を剣で倒す。敵1体を拳で倒す。敵1体を魔法で倒す。敵1体を遠距離から倒す。敵1体を槍で倒す。敵1体を背後から倒す。敵1体にお金をぶつける。敵1体に薬品をぶつける」
『ピコン!』
よし!
思わずガッツポーズをする。小さな効果音が頭に流れたので、どうやら一発正解したらしい。
でも悲しいかな。『音読系』のため声に出して喜べない。続けて残りの職業を読み上げることにした。
次は順番にハイランクの職業13種……正解。
エクストラの職業15種……正解。
ハイエンドの職業8種……正解。
レジェンドの職業4種……正解!
『解放条件を満たしました。経験値を獲得してください』
「良かった、成功した! これであとは敵を倒せば職業解放ね。あぁ、全職業のアビリティ読み上げとかじゃなくて本当に助かった。言えないこともないけど、さすがにそれは疲れるわ……」
経験値と言えば魔物。魔物と言えば森。草原にもいないことはないけれど、エンカウント率があまりよろしくない。ウキウキ気分で意外と近かった森にたどり着く。
すると森の木陰から、薄汚れた腰巻を身に着けた緑色の小人が現れた。
醜悪な顔にガリガリの身体、生まれて一度も風呂に入っていないようなすえた臭(にお)い。手には棍棒。
どうみてもファンタジーのお約束。その名は……
「出たわね、薄い本常連! ……じゃなくって、ゴブリン!」
「ギギャ? ギヒヒァ!」
天から舞い降りたような私というカワイイの化身。それを見て驚いたゴブリンは、下品な顔で笑い、棍棒を振りかぶり襲い掛かってきた。
カワイイ私は、二次作品でも頻繁に取り扱われた。人気の女性NPCとの友愛物、百合物、正統派の男性NPCとの恋愛物。はたまたゴブリンを代表する醜悪な魔物たちからの×××まで。その節は大変お世話になりました。
このゴブリンもその棍棒で昏倒させた後私をどうするつもりなのだろうか。ここはゲームではなくリアルな現実みたいだし、やっぱり薄い本のような展開が……!
心なしかゴブリンの下半身も盛り上がっている気がする……! ああ、涙目でくっ殺な私……! 絶対カワイイっ……!
『ぽすッ』
「……うん?」
悦に浸っていると腹部に軽い接触を感じた。よくよく見ると、そこには革の装備に阻まれた棍棒があった。
そうだ、戦闘中だった。……にしてはダメージなくない?
「ギギィ! ギギィ!」
一心不乱にゴブリンは棍棒を振り回しているみたいだけど、目で追えるくらい遅いし、痛みもない。
あっ、頭はちょっと痛かった。無性にイラッとした。
……反撃しなきゃ。
ほとんど無意識に『始まりの剣』を持ち上げ、横に薙ぐ。
剣は羽根のように軽く、ゴブリンの身体をたやすく切り裂く。血が噴き出す前にその場を離れた。
流石にゴブリンの血は嫌なので避ける。……いや、血染めの私もきっとカワイイかもしれない。
で、でもお風呂はまだ先かもしれないし、ゴブリンの血だしきっとクサイ。今は自重しよう。うん、今は。
『レベルが1になりました。ステータスが解放されました。スキルが解放されました』
ゴブリンの右耳を切り取り、マジックバッグに収めて火の魔法で死骸を焼き払う。
『炎魔法のスキルが0.3アップ!』
スキル上昇の通知が流れ、『ハッ』となった。今、何も考えずに討伐後の作業をしてしまったが、無意識って怖い。
大事な事なのでもう一度言う。
「無意識って怖っ!」
魔物と言えど人型の生物の命を刈り取ることにも、素材として確保することも、燃やすことすらも何ら躊躇いも忌避感もなかった。
本来の私なら躊躇しただろうか? いえ、その考えは不要ね。私は今シラユキの姿なんだ。シラユキなら躊躇しないだろう。だからこそ私は、躊躇するべきではない。
首をブンブン振って自分を納得させた。
それに火の魔法も何の感慨もなく使ってしまった。……使えてしまった。やっぱり使えるんだ、魔法!
「死んだと思ったらシラユキの身体で、恐らく『WoE』の世界で、魔法も使える……ふふっ、楽しくなりそう!」
『……ああ、一喜一憂する私、カワイイ』
ゆっくりと起き上がると、寝転んでいた場所が先ほどまでいた『精霊の森』ではなく、とても広大な草原であることに気付く。近くには森があり、やや遠目には見覚えのある街の外壁。
妙にディティールに深みがあったり、風が運ぶ土の匂いに味わいがあったり、草の柔らかさを感じられる事に、違和感を感じる。
「……ここは、どこだ? 見覚えはあるはずなのに、何か変だ。それに俺……いや、この声はシラユキか? なら、んんっ!」
思考を切り替える。私は……シラユキ。最高にカワイくて最強にカワイイシラユキよ! よし。
「……私は死んだはず。よね? それも中身もろとも」
なにかがおかしい。いつも見て知っているはずの情報と比べると、様々な事柄の存在感が強い。今まではもっと希薄だったような気がする。
キョロキョロしていると、普段は感じられない重みを肩に感じた。視線を下にやると、いつの間にか着ていた革の装備一式。そしてその革を難なく押し上げる2つの膨らみ。そう、胸だ。
「大きい……」
この形にこの大きさ、シラユキの物で間違いない。毎日見ていたんだから間違いようがない。そんなシラユキの抜群のプロポーションが、革の装備程度の圧迫に屈さず、呼吸により上下し激しく主張していた。
こいつ、動くぞ!
……思わず手が伸びた。
「……ひゃん!」
勢いあまって鷲掴むと、未経験の感覚が襲った。そしてカワイらしい声が出た。
「えっ? えっ? 何、今の感覚! 快感とくすぐったさが混ぜ合わさったような……、そしてあのカワイイ声は」
いや、普段のシラユキの声のようだったけど、こんなに透き通っていただろうか。それにしてもカワイイ声だった。
ヤバイヤバイ、混乱する! いったいどうなってるんだ!
「……そう、そうよ。私はシラユキなんだから声がカワイイのは当たり前!」
落ち着いて声に出すと、納得できた。……も、もう1回出してみようかな? 混乱が解けたと思えば、次はコレである。欲望には忠実だなと我ながら思う。
いや、声が聞きたいのであって胸を触りたいわけでは……って誰に言い訳をしているのよ。
しかも自分の胸だし……あ、いや。これはシラユキの胸だった。……うん、シラユキの胸なら触りたいな。嘘はよくない。
しばらく、おっかなびっくり楽しんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ふぅ」
しばらく胸と声を堪能し大満足したころに、ようやく現状を考え始める。
「……やっぱり夢じゃなさそうね? 夢にしては感覚が強すぎる。つねれば痛みもするし、き、気持ちいいし……。それにゲームなら常に表示されているはずのステータスが無ければ、ログアウトも出来そうにない。空気に味を感じるし、草の柔らかさも感じられる。いくらリアリティ溢れるフルダイブでもここまでではなかった。鼻腔をくすぐる甘い匂いも……あ、これはシラユキの匂いに違いない。それに何よりシラユキがこんなおかしな行動を取るはずがない。私が、自分の意志で動かしてる」
夢でもなければゲーム内でもない。私はそう結論付けた。
「……私、シラユキに、なれたの?」
自分にとってはついさっきの出来事であるが、お別れをした仲間たちに思いをはせる。
「私、シラユキになれたみたい。みんな、一緒に居られなくてごめんね」
ふと、風になびく銀の髪が目に映る。適当に束をつかんでクンクンする。やっぱりいい匂いがした。
「……ああ、この匂いはイメージしていたシラユキにそっくり。それにしてもさすがね、初期装備の革装備一式。胸がぱっつんぱっつんじゃない。きっとお尻なんて凄いことに……」
いくらシラユキの身体が柔らかくても、いくら体を曲げてもお尻の状態は見れない。想像して顔がほころぶ。是非とも小一時間くらい眺めたい。先ほどまでの感情は、シラユキへの愛で吹き飛んだ。ごめん皆!
「手持ちに鏡さえあれば……あっ、そうだ所持品!」
先ほど周囲を見た際、傍に落ちていたマジックバッグを手に取った。 マジックバッグは『錬金術』のスキルを使用し作るアイテムで、見た目以上にアイテムが入る優れもの。
バッグそのもののサイズや品質、作成の素材によって入る量が大幅に変わっていく冒険の必需品だ。
どうやら目の前にあるのはその中でも1番小さいマジックバッグ【小】のようだが……まずは中身を確認する。
**********
下級回復ポーション10個
魔除けの陣1個
魔導テント1個
銀貨3枚
始まりの剣1個
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「あ、これ完全にゲームスタート時の所持品じゃん。うわぁ、なつかしい……」
何も考えずに無意識で『始まりの剣』を取り出し腰に下げる。マジックバッグ【小】も腰のベルトに取り付けた。
街についたら姿見のある宿屋に泊まろうと強く決意した。
次に確認するのは『今の職業』である。
初期の職業が前衛でも後衛でも『始まりの剣』が初期装備なので、場合によっては苦労するからだ。
教会でお布施をすれば職業変更も可能であるが、最低でも銀貨5枚はかかる上に、生産職が最初に作れるアイテムは雀の涙ほどの価値しかない。下手すると生活費すらままならない。
「……よし、ステータスチェック!」
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職業:グランドマスター
レベル:0
職業が解放されていないため、他の項目は確認不可能です。
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「なにこの職業。知らない子なんですけど……」
全ての職業を制覇した私ですら、知らない職業名に愕然とする。そして同時に焦りが生まれる。
『WoE』の職業は少し面倒なシステムを採用している。初期に選べる職業は8個あるのだが、そこから成長させ一定までレベルを上げることで上級職が解放されていく。
しかし、解放された職業に転職をすれば、すぐにその職業が使えるかと思えばそうではないのだ。
職業を一定のレベルにまで成長させ転職するというのは序の口に過ぎず、職業毎に課せられた『課題』をクリアしなければどれだけ経験値を稼いでもレベルが1以上にならない。
『課題』は簡単な『敵を倒す』から『NPC/プレイヤー問わず100人回復魔法で助ける』という曖昧なもの。『三国の聖書を最初から最後まで音読する』という苦行のようなものまで多種多様にある。
しかも『音読系』と分類される、決められた物を読み上げる物の場合、途中で噛んだり別の言葉を発すると失敗になるという嫌らしい要素がある。その為、聖書を音読する事が条件の『教皇(男性専用)』『聖女(女性専用)』の取得は、最難関の一つとされていた。その分専用衣装はカワイかった。
更に面倒なのがヒントはどこにもなく『課題クリア後のレベル1になる事で読めるフレーバーテキスト』にしか正解が記されていないという点が嫌らしい。
既に発見されている職業ならまだしも、新規の職業は正に地獄。
なかなか骨が折れるのである。ただ、その『課題』は基本的にその職業名に沿ったものであると思える物ばかりのため、それをどれだけ正確に予想が出来るかも『課題』の醍醐味であると考えている。
「グランドマスター……意味で考えると『最高位、最高位の指導者』よね。分けて考えてもグランドが『偉大な、気高い、大きい』とかで、マスターが『主人、達人、意のままにできる人』よね。それを考えると……まずは全職業の解放条件の音読から、やってみようかしら」
まずは初期職業の8種を頭に浮かべる。職業は剣士、格闘家、魔法使い、狩人、槍使い、シーフ、遊び人、調合師。
「敵1体を剣で倒す。敵1体を拳で倒す。敵1体を魔法で倒す。敵1体を遠距離から倒す。敵1体を槍で倒す。敵1体を背後から倒す。敵1体にお金をぶつける。敵1体に薬品をぶつける」
『ピコン!』
よし!
思わずガッツポーズをする。小さな効果音が頭に流れたので、どうやら一発正解したらしい。
でも悲しいかな。『音読系』のため声に出して喜べない。続けて残りの職業を読み上げることにした。
次は順番にハイランクの職業13種……正解。
エクストラの職業15種……正解。
ハイエンドの職業8種……正解。
レジェンドの職業4種……正解!
『解放条件を満たしました。経験値を獲得してください』
「良かった、成功した! これであとは敵を倒せば職業解放ね。あぁ、全職業のアビリティ読み上げとかじゃなくて本当に助かった。言えないこともないけど、さすがにそれは疲れるわ……」
経験値と言えば魔物。魔物と言えば森。草原にもいないことはないけれど、エンカウント率があまりよろしくない。ウキウキ気分で意外と近かった森にたどり着く。
すると森の木陰から、薄汚れた腰巻を身に着けた緑色の小人が現れた。
醜悪な顔にガリガリの身体、生まれて一度も風呂に入っていないようなすえた臭(にお)い。手には棍棒。
どうみてもファンタジーのお約束。その名は……
「出たわね、薄い本常連! ……じゃなくって、ゴブリン!」
「ギギャ? ギヒヒァ!」
天から舞い降りたような私というカワイイの化身。それを見て驚いたゴブリンは、下品な顔で笑い、棍棒を振りかぶり襲い掛かってきた。
カワイイ私は、二次作品でも頻繁に取り扱われた。人気の女性NPCとの友愛物、百合物、正統派の男性NPCとの恋愛物。はたまたゴブリンを代表する醜悪な魔物たちからの×××まで。その節は大変お世話になりました。
このゴブリンもその棍棒で昏倒させた後私をどうするつもりなのだろうか。ここはゲームではなくリアルな現実みたいだし、やっぱり薄い本のような展開が……!
心なしかゴブリンの下半身も盛り上がっている気がする……! ああ、涙目でくっ殺な私……! 絶対カワイイっ……!
『ぽすッ』
「……うん?」
悦に浸っていると腹部に軽い接触を感じた。よくよく見ると、そこには革の装備に阻まれた棍棒があった。
そうだ、戦闘中だった。……にしてはダメージなくない?
「ギギィ! ギギィ!」
一心不乱にゴブリンは棍棒を振り回しているみたいだけど、目で追えるくらい遅いし、痛みもない。
あっ、頭はちょっと痛かった。無性にイラッとした。
……反撃しなきゃ。
ほとんど無意識に『始まりの剣』を持ち上げ、横に薙ぐ。
剣は羽根のように軽く、ゴブリンの身体をたやすく切り裂く。血が噴き出す前にその場を離れた。
流石にゴブリンの血は嫌なので避ける。……いや、血染めの私もきっとカワイイかもしれない。
で、でもお風呂はまだ先かもしれないし、ゴブリンの血だしきっとクサイ。今は自重しよう。うん、今は。
『レベルが1になりました。ステータスが解放されました。スキルが解放されました』
ゴブリンの右耳を切り取り、マジックバッグに収めて火の魔法で死骸を焼き払う。
『炎魔法のスキルが0.3アップ!』
スキル上昇の通知が流れ、『ハッ』となった。今、何も考えずに討伐後の作業をしてしまったが、無意識って怖い。
大事な事なのでもう一度言う。
「無意識って怖っ!」
魔物と言えど人型の生物の命を刈り取ることにも、素材として確保することも、燃やすことすらも何ら躊躇いも忌避感もなかった。
本来の私なら躊躇しただろうか? いえ、その考えは不要ね。私は今シラユキの姿なんだ。シラユキなら躊躇しないだろう。だからこそ私は、躊躇するべきではない。
首をブンブン振って自分を納得させた。
それに火の魔法も何の感慨もなく使ってしまった。……使えてしまった。やっぱり使えるんだ、魔法!
「死んだと思ったらシラユキの身体で、恐らく『WoE』の世界で、魔法も使える……ふふっ、楽しくなりそう!」
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