1 / 35
第一章 烏と塵
烏と塵 1
しおりを挟む
[塵…ちり,ほこり,細かいくず,小さなごみ]
外を歩けば いつも湿った鬱陶しい空気。
家へ帰れば刺すような冷たい空気。
家といえる場所じゃないか…
居場所なんて、もともと無い。
何処か遠くに行けば
違った空気を感じれるはず。
本気で夢見たのは空。
飛びたいと願っていた。
わりと大きくなるまで。
翼が欲しいわけじゃなかった。
風のように…風と一緒に…
時には低くても、自由に、
誰も届かない空で舞いたかった。
人が当たり前に受けている愛情。
僕は貰えないのが当たり前。
妬み?そんな事思わない。
僕は愛されないのが当たり前。
騙してた?騙せてた?
…嘘と真実の間には何も無い?
愛してた?愛されてた?
知ってどうする?地獄で懺悔?
天国に行けばわかるかな?
それなら僕は
死んでも答えが出ないまま。
「薇 碩冠(ウェイ ソクワン)君、キミは家族がいないよね?」
「はい!」
警察学校の会議室。
僕はどうにか普通の大人になる為、冷たさしか感じない薄汚れた孤児院から出て寮生活を送り、勉強もそこそこで運動も得意、まぁまぁ順調に警察学校の訓練を受けていた。
「…なぜ警察官になろうと?」
「守るものといったら僕を育ててくれた国であります!国の為にと考えております!」
敬礼しながら大嘘をつく。
ただ偉そうに街をウロつく警察官に僕もなれたら少し楽しそうと思っただけだ。
誰からも必要とされない事は知っている。
小さい頃から当たり前の愛情が貰えなくても、僕は僕の為に生きているプライド、ホコリを持っていた。
誰に知られなくても、僕が僕を見守って、最後は自分に頑張ったね、で人生の終わりを迎える事が出来れば。
…誰からも必要とされなくても
…愛されなくても
…風のようになれればこの人生は満足。
ちっぽけなホコリは風で舞えるはず。
目の前にいる本部から来た偉い奴に呼び出され、何故か一対一の面接が始まっていた。
「………じゃあ、もう訓練は必要無い。キミがここにいた経歴は消す。心配する家族はいないだろうしね?
これから国の為に、別の人間になって貰う。今すぐ荷物をまとめてここに…」
住所のメモと男の写真が机の上に置かれ、僕に受け取れと偉そうにしてる。
内容が気になって素直に受け取りはしたものの、質問だらけになりそうだ。
「…僕はこれから何になるんですか?」
「警察官だよ。ある意味、試験合格だ。けどこれは私とキミしか知らない。
…私が追ってるマフィアに潜入して中で何をしてるか探って欲しい。
大体…麻薬関係の取引を阻止出来ればいいし、いろんな証拠を見つけてマフィアのボスをずっと刑務所に入れられるくらいになったら、キミは正式に警部補ってとこだろう。」
「僕とあなただけ…この人がマフィアのボスなんですか?」
「ああ、キミも容姿端麗だけどそいつもなかなかだろう?頭もキレてね…
大きな会社のように世間と関わってるけど法に触れる事、人殺しでさえやってる会社だ。」
「…そこへ潜入……僕がこいつの部下に?採用されますかね…」
「…ああ、合格点だからキミに頼んでる。たぶん……絶対…手下になれるはず。」
採用されてもある程度身近な存在にならないと潜入の意味は無いはず。
ボスの秘密までも知り得るような身近に。
あっという間に鞄と身1つの自分。
後部席から降りた道路はゴミが散乱している。
すぐさま逃げる様に走り出すタクシーからは黒い排気が出て咳込みながら空を見上げた。
こんなに地上は汚い空気。
麻雀、カジノ。デリヘル、風俗店が立ち並ぶ。
見上げた空はビルの隙間で狭く、淀んでる。
…誰も近づきたくない場所。
汚れた大人、ふざけた若者が集まる場所。
そして世界で何本かの指に入る、大金が動き集まる場所。
ここが先日貰ったメモの住所。
あのクソ警官、僕の唯一の上司は潜入の為に用意を何もしていなかったし、自分でも用意してこなかった。
拳銃も何も渡されず、逆に身分証明書は取り上げられ、偽りの運転免許証、パスポートを持たされた。
偽りだけど僕の名前はそのままで…僕はここで生きていけと言われてるみたいだ。
こちらからは連絡が取れない。
緊急性も必要性も薄いポケットベルも待たされ、鳴った時は公衆電話からかけるようにと決まり事も。
やれるだけやるしかない。
会社に就職するよりも裏の仕事をやらせて貰った方が手っ取り早い。
どんな悪事で楽しんでいるのか……
警官の僕が体感して…世のため人のため。
コンクリートでシンプルかつオシャレな4階建ビルの出入り口。
周辺に落ちているゴミがここだけ無く綺麗。
ポストには'KIMU Office'。
…Officeか……
「……ここ、立ち止まるような場所じゃないよ?」
5.6人のチンピラの群れから澄んだ少し高めの声が聞こえた。
チンピラ達は大体僕よりも背が低いが体格は良く、毎日喧嘩していそうな風格。
更にチンピラ達の間から顔を覗かせた男は裏社会とは別の世界の人間に見えた。
声からも笑顔からも人の良さしか伝わって来ない。
「うちに何か用?この子達が相手したら秒持たないと思うけど?見物なら消えて?」
いや……笑顔の奥から垣間見える冷たさ。
そのくらいじゃないと。純粋な良い人間なんているわけないんだから。
「……あ、見物というか…仕事を探していて…真っ当な人間じゃないから真っ当な仕事じゃなくて…
とりあえず食べていけるだけの…用心棒なり、運転手なり…」
「真っ当な人間じゃないの?なんで?」
「…それなりの事をして何年かムショに…」
「へーー……
で、僕達の所に来たら真っ当な仕事じゃない誰でも出来るクソみたいな仕事があるんじゃないか?って?」
笑いながら話す彼の周り、自分の事をバカにされたと思ったのか集団で僕への威嚇が始まった。失敗した。
「……」
「ごめんごめん。お兄さんみたいな人にここの仕事、似合わない気がしたから。
この子達は街で喧嘩や犯罪ギリギリを繰り返してた子達。仲良く出来るなら付いて来て。」
そう言うと彼はチンピラの先頭を切り建物へと入る。
付いて行きたくてもチンピラ達は僕の前でまだ威嚇してる。
「…すみません、仲…良く…仕事、出来れば……」
まずはチンピラ…の下っ端か。
KIMU…写真の男はいつ拝めるか……
2日間、チンピラと街をうろついた。
集金しているんだろうけど、ほんと喧嘩が好きらしい。
僕もそれなりに力はあるから加勢した。
こういう事を繰り返して信用されるのかな。
脅して相手に怪我をさせ骨まで折り…血が飛ぶのは当たり前。
腕っぷしで1番ビックリしたのはチンピラの中心人物、姫的存在かと思ったら彼は1番の強者だった。
黄 智艶(コウ ジイェン)。
細い身体からは想像のつかない脚力。重力を感じない身のこなしで息を呑むスピード。何人もの頭を蹴り飛ばしては、何人も意識を飛ばしていた。
「…ジイェンさん、俺店の外でタバコ吸って来ます。」
彼がKIMU Officeのおっさん達と麻雀を勤しむ中、耳打ちして伝える。
手で払う動きをされ…勝手に行ってろ、ってとこだろう。
確かに店内はタバコの煙が蔓延していて何処で吸おうが関係ない。
それでも少し、自分だけのタバコと空気を味わいたくて。
2日間…食べる物、寝床…チンピラと全て共にし胃もたれしていた。
麻雀店の隣には薄汚れた心療内科の看板。
こんな処でどんな心療が受けれるのか。
どんな奴が病気なのか。
ただ麻雀を待つより、病院通いしてる奴の顔の方が面白そうなのでここで時間を潰す事にした。
「……患者ですか?それともただの麻雀客?」
「……後者。あんたは?患者?
もしかして心療内科とか言って人の弱みに漬け込むだけのヤブ医者?」
病院の出入り口に座っていた為、僕が邪魔だっただけで掛けてきたであろう声にどちらにしても傷つけるような言葉を発した。
なのに無表情な顔が何故か笑う。
すると一気に目元が下がり無邪気な顔に。
小柄で痩せっぽっちで神経質に見える男は笑いながら話す。
「ヤブ医者か…
これでも各方面から信用されてるからこうして仕事出来てるんだけど。」
「…あっそう。
心療内科なんて、金持ちじゃなきゃ通えないし金持ちが何悩んでるんだって思ってたから…誰でも…悩みはあるのにね。」
患者じゃなく、ヤブ医者の顔が拝めたから立ち上がる。
「あなたは…タダで診てあげますよ?」
「……悩み、無いけど。」
こんな奴に相談して何になる。
「……気が向いたら来てみて?」
「暇で、気が向いたら…」
適当に返事をして麻雀店に戻ると店の雰囲気は一転していた。
「こいつが耳打ちしてからジイェンのイカサマが始まった。」
おっさん達が僕を指差し鼻息を荒くする。
「イヤだな~。
僕がイカサマしたみたいな言い方~。
ただ負けるんじゃ恥ずかしいですか?
この彼?おととい仲間になった下っ端もいいとこですよ?」
「下っ端?こいつが?
……こいつが一晩 俺達の相手してくれたらイカサマ見逃してやってもいいよ。どうする?ジイェンちゃんよ。」
「意味がわからない。
別に僕イカサマ認めてませんし。
………イカサマの話は置いといて…この下っ端君、まだボスに顔見せしてないんですけど…貴方方のお望みならボスに確認してみます。」
上質そうなスーツの内ポケットから手早くケータイを手に取り、耳にあてる。
おっさん達はジイェンさんと僕を交互に見てはニヤつき出した。
「あ、ナムシェイさん、お疲れ様です。
今よろしいですか?
・・・はい。はい。あ、それとは別件で…僕、
1人仲間を増やしたって話したじゃないですか?
その彼の事を Officeの方々が気に入ったみたいで・・・はい。
今晩・・・はい。わかりました。」
電話が切られるなりすぐに確認するおっさん達。
「社長なんだって?いいだろ?下っ端なんだし。」
「はい。いいそうです。
今晩、 Officeの4階をお使い下さい。」
多分…僕が一晩、おっさん達の相手をする話…身体で相手をする…?で正解だと思う。
おっさん達は'後で'と金歯を見せながら気持ち悪い笑顔で帰っていった。
くたびれたスーツの後ろ姿を見ては吐き気さえ催す。
ヒソヒソとこっちを見て話すチンピラ達に何故か怒りをぶつけそうになる僕は睨むだけ睨んで我慢する。
「下っ端君。…いやソクワンさん。」
麻雀台に1人座り、牌を転がしながらこちらを見て話すジウェイさんをそのまま睨んでしまう。
「僕、ソクワンさんより3つ下です。
そしてボスは僕の1つ上。
あなたが食べていくのに…ここでやってきます?
今晩、あなたは先程のおじさん達の…多分 性処理に使われる。あなた次第。
逃げるなら今。……逃げなければ、これからは多分ここにいる仲間の中で僕の次にいい食事が出来る。」
「……ボスに会えます?
あと、あのおっさん達のいいなりにならなくてもいいんですよね?殴って阻止してもいいですか?」
「ゔーーん……
それをあの人達楽しんでくれるかな。
あ、けどボスなら許してくれるかも…保証は出来ないけど、ボスに気に入られれば何でもあり。ボスよりいい食事がとれるようになるかもね。
面白そう。試してみれば?あ、軽く言っちゃったけど、失敗したらあなたの身体、どうなるかわからない。命までは取らないでってお願いしとく。」
膝が少し震えて来た。
軽く命も取られるような世界…
性処理か…
愛し愛される行為をして来なかった。
当然だ。
愛し愛される事なんて無かったしこの先も無いはず。
自分の見た目がそれなりなのは自覚している。
変な目で近寄ってくる男が何人かいたから。
今になって上司の言葉、"合格点""絶対手下になれる"が腑に落ちた。
「……もしかして、ボスは男を抱く人ですか?」
「えー?いい感してるね。
やっぱり僕、あなたの事好きだなー。
けど…僕がそれ答えると思うー?
まぁ、今日頑張ってくれるって言うなら…」
こっちは仕事で来てる。
この潜入がパアになって、警察官になれる保証は無い。特にやりたい仕事も無い。
ジイェンさんを変わらず睨んでいたら彼が顎をあげ、伏し目がちで口元は緩みながらゆっくり近づいてくる足取り。
近く顔……耳元で囁かれる。
「『を』じゃなくて『も』」
ボスは男『も』抱く人…か。
少し潜入の先が見えたけれど、震える膝と胃のもたれは激しくなった。
外を歩けば いつも湿った鬱陶しい空気。
家へ帰れば刺すような冷たい空気。
家といえる場所じゃないか…
居場所なんて、もともと無い。
何処か遠くに行けば
違った空気を感じれるはず。
本気で夢見たのは空。
飛びたいと願っていた。
わりと大きくなるまで。
翼が欲しいわけじゃなかった。
風のように…風と一緒に…
時には低くても、自由に、
誰も届かない空で舞いたかった。
人が当たり前に受けている愛情。
僕は貰えないのが当たり前。
妬み?そんな事思わない。
僕は愛されないのが当たり前。
騙してた?騙せてた?
…嘘と真実の間には何も無い?
愛してた?愛されてた?
知ってどうする?地獄で懺悔?
天国に行けばわかるかな?
それなら僕は
死んでも答えが出ないまま。
「薇 碩冠(ウェイ ソクワン)君、キミは家族がいないよね?」
「はい!」
警察学校の会議室。
僕はどうにか普通の大人になる為、冷たさしか感じない薄汚れた孤児院から出て寮生活を送り、勉強もそこそこで運動も得意、まぁまぁ順調に警察学校の訓練を受けていた。
「…なぜ警察官になろうと?」
「守るものといったら僕を育ててくれた国であります!国の為にと考えております!」
敬礼しながら大嘘をつく。
ただ偉そうに街をウロつく警察官に僕もなれたら少し楽しそうと思っただけだ。
誰からも必要とされない事は知っている。
小さい頃から当たり前の愛情が貰えなくても、僕は僕の為に生きているプライド、ホコリを持っていた。
誰に知られなくても、僕が僕を見守って、最後は自分に頑張ったね、で人生の終わりを迎える事が出来れば。
…誰からも必要とされなくても
…愛されなくても
…風のようになれればこの人生は満足。
ちっぽけなホコリは風で舞えるはず。
目の前にいる本部から来た偉い奴に呼び出され、何故か一対一の面接が始まっていた。
「………じゃあ、もう訓練は必要無い。キミがここにいた経歴は消す。心配する家族はいないだろうしね?
これから国の為に、別の人間になって貰う。今すぐ荷物をまとめてここに…」
住所のメモと男の写真が机の上に置かれ、僕に受け取れと偉そうにしてる。
内容が気になって素直に受け取りはしたものの、質問だらけになりそうだ。
「…僕はこれから何になるんですか?」
「警察官だよ。ある意味、試験合格だ。けどこれは私とキミしか知らない。
…私が追ってるマフィアに潜入して中で何をしてるか探って欲しい。
大体…麻薬関係の取引を阻止出来ればいいし、いろんな証拠を見つけてマフィアのボスをずっと刑務所に入れられるくらいになったら、キミは正式に警部補ってとこだろう。」
「僕とあなただけ…この人がマフィアのボスなんですか?」
「ああ、キミも容姿端麗だけどそいつもなかなかだろう?頭もキレてね…
大きな会社のように世間と関わってるけど法に触れる事、人殺しでさえやってる会社だ。」
「…そこへ潜入……僕がこいつの部下に?採用されますかね…」
「…ああ、合格点だからキミに頼んでる。たぶん……絶対…手下になれるはず。」
採用されてもある程度身近な存在にならないと潜入の意味は無いはず。
ボスの秘密までも知り得るような身近に。
あっという間に鞄と身1つの自分。
後部席から降りた道路はゴミが散乱している。
すぐさま逃げる様に走り出すタクシーからは黒い排気が出て咳込みながら空を見上げた。
こんなに地上は汚い空気。
麻雀、カジノ。デリヘル、風俗店が立ち並ぶ。
見上げた空はビルの隙間で狭く、淀んでる。
…誰も近づきたくない場所。
汚れた大人、ふざけた若者が集まる場所。
そして世界で何本かの指に入る、大金が動き集まる場所。
ここが先日貰ったメモの住所。
あのクソ警官、僕の唯一の上司は潜入の為に用意を何もしていなかったし、自分でも用意してこなかった。
拳銃も何も渡されず、逆に身分証明書は取り上げられ、偽りの運転免許証、パスポートを持たされた。
偽りだけど僕の名前はそのままで…僕はここで生きていけと言われてるみたいだ。
こちらからは連絡が取れない。
緊急性も必要性も薄いポケットベルも待たされ、鳴った時は公衆電話からかけるようにと決まり事も。
やれるだけやるしかない。
会社に就職するよりも裏の仕事をやらせて貰った方が手っ取り早い。
どんな悪事で楽しんでいるのか……
警官の僕が体感して…世のため人のため。
コンクリートでシンプルかつオシャレな4階建ビルの出入り口。
周辺に落ちているゴミがここだけ無く綺麗。
ポストには'KIMU Office'。
…Officeか……
「……ここ、立ち止まるような場所じゃないよ?」
5.6人のチンピラの群れから澄んだ少し高めの声が聞こえた。
チンピラ達は大体僕よりも背が低いが体格は良く、毎日喧嘩していそうな風格。
更にチンピラ達の間から顔を覗かせた男は裏社会とは別の世界の人間に見えた。
声からも笑顔からも人の良さしか伝わって来ない。
「うちに何か用?この子達が相手したら秒持たないと思うけど?見物なら消えて?」
いや……笑顔の奥から垣間見える冷たさ。
そのくらいじゃないと。純粋な良い人間なんているわけないんだから。
「……あ、見物というか…仕事を探していて…真っ当な人間じゃないから真っ当な仕事じゃなくて…
とりあえず食べていけるだけの…用心棒なり、運転手なり…」
「真っ当な人間じゃないの?なんで?」
「…それなりの事をして何年かムショに…」
「へーー……
で、僕達の所に来たら真っ当な仕事じゃない誰でも出来るクソみたいな仕事があるんじゃないか?って?」
笑いながら話す彼の周り、自分の事をバカにされたと思ったのか集団で僕への威嚇が始まった。失敗した。
「……」
「ごめんごめん。お兄さんみたいな人にここの仕事、似合わない気がしたから。
この子達は街で喧嘩や犯罪ギリギリを繰り返してた子達。仲良く出来るなら付いて来て。」
そう言うと彼はチンピラの先頭を切り建物へと入る。
付いて行きたくてもチンピラ達は僕の前でまだ威嚇してる。
「…すみません、仲…良く…仕事、出来れば……」
まずはチンピラ…の下っ端か。
KIMU…写真の男はいつ拝めるか……
2日間、チンピラと街をうろついた。
集金しているんだろうけど、ほんと喧嘩が好きらしい。
僕もそれなりに力はあるから加勢した。
こういう事を繰り返して信用されるのかな。
脅して相手に怪我をさせ骨まで折り…血が飛ぶのは当たり前。
腕っぷしで1番ビックリしたのはチンピラの中心人物、姫的存在かと思ったら彼は1番の強者だった。
黄 智艶(コウ ジイェン)。
細い身体からは想像のつかない脚力。重力を感じない身のこなしで息を呑むスピード。何人もの頭を蹴り飛ばしては、何人も意識を飛ばしていた。
「…ジイェンさん、俺店の外でタバコ吸って来ます。」
彼がKIMU Officeのおっさん達と麻雀を勤しむ中、耳打ちして伝える。
手で払う動きをされ…勝手に行ってろ、ってとこだろう。
確かに店内はタバコの煙が蔓延していて何処で吸おうが関係ない。
それでも少し、自分だけのタバコと空気を味わいたくて。
2日間…食べる物、寝床…チンピラと全て共にし胃もたれしていた。
麻雀店の隣には薄汚れた心療内科の看板。
こんな処でどんな心療が受けれるのか。
どんな奴が病気なのか。
ただ麻雀を待つより、病院通いしてる奴の顔の方が面白そうなのでここで時間を潰す事にした。
「……患者ですか?それともただの麻雀客?」
「……後者。あんたは?患者?
もしかして心療内科とか言って人の弱みに漬け込むだけのヤブ医者?」
病院の出入り口に座っていた為、僕が邪魔だっただけで掛けてきたであろう声にどちらにしても傷つけるような言葉を発した。
なのに無表情な顔が何故か笑う。
すると一気に目元が下がり無邪気な顔に。
小柄で痩せっぽっちで神経質に見える男は笑いながら話す。
「ヤブ医者か…
これでも各方面から信用されてるからこうして仕事出来てるんだけど。」
「…あっそう。
心療内科なんて、金持ちじゃなきゃ通えないし金持ちが何悩んでるんだって思ってたから…誰でも…悩みはあるのにね。」
患者じゃなく、ヤブ医者の顔が拝めたから立ち上がる。
「あなたは…タダで診てあげますよ?」
「……悩み、無いけど。」
こんな奴に相談して何になる。
「……気が向いたら来てみて?」
「暇で、気が向いたら…」
適当に返事をして麻雀店に戻ると店の雰囲気は一転していた。
「こいつが耳打ちしてからジイェンのイカサマが始まった。」
おっさん達が僕を指差し鼻息を荒くする。
「イヤだな~。
僕がイカサマしたみたいな言い方~。
ただ負けるんじゃ恥ずかしいですか?
この彼?おととい仲間になった下っ端もいいとこですよ?」
「下っ端?こいつが?
……こいつが一晩 俺達の相手してくれたらイカサマ見逃してやってもいいよ。どうする?ジイェンちゃんよ。」
「意味がわからない。
別に僕イカサマ認めてませんし。
………イカサマの話は置いといて…この下っ端君、まだボスに顔見せしてないんですけど…貴方方のお望みならボスに確認してみます。」
上質そうなスーツの内ポケットから手早くケータイを手に取り、耳にあてる。
おっさん達はジイェンさんと僕を交互に見てはニヤつき出した。
「あ、ナムシェイさん、お疲れ様です。
今よろしいですか?
・・・はい。はい。あ、それとは別件で…僕、
1人仲間を増やしたって話したじゃないですか?
その彼の事を Officeの方々が気に入ったみたいで・・・はい。
今晩・・・はい。わかりました。」
電話が切られるなりすぐに確認するおっさん達。
「社長なんだって?いいだろ?下っ端なんだし。」
「はい。いいそうです。
今晩、 Officeの4階をお使い下さい。」
多分…僕が一晩、おっさん達の相手をする話…身体で相手をする…?で正解だと思う。
おっさん達は'後で'と金歯を見せながら気持ち悪い笑顔で帰っていった。
くたびれたスーツの後ろ姿を見ては吐き気さえ催す。
ヒソヒソとこっちを見て話すチンピラ達に何故か怒りをぶつけそうになる僕は睨むだけ睨んで我慢する。
「下っ端君。…いやソクワンさん。」
麻雀台に1人座り、牌を転がしながらこちらを見て話すジウェイさんをそのまま睨んでしまう。
「僕、ソクワンさんより3つ下です。
そしてボスは僕の1つ上。
あなたが食べていくのに…ここでやってきます?
今晩、あなたは先程のおじさん達の…多分 性処理に使われる。あなた次第。
逃げるなら今。……逃げなければ、これからは多分ここにいる仲間の中で僕の次にいい食事が出来る。」
「……ボスに会えます?
あと、あのおっさん達のいいなりにならなくてもいいんですよね?殴って阻止してもいいですか?」
「ゔーーん……
それをあの人達楽しんでくれるかな。
あ、けどボスなら許してくれるかも…保証は出来ないけど、ボスに気に入られれば何でもあり。ボスよりいい食事がとれるようになるかもね。
面白そう。試してみれば?あ、軽く言っちゃったけど、失敗したらあなたの身体、どうなるかわからない。命までは取らないでってお願いしとく。」
膝が少し震えて来た。
軽く命も取られるような世界…
性処理か…
愛し愛される行為をして来なかった。
当然だ。
愛し愛される事なんて無かったしこの先も無いはず。
自分の見た目がそれなりなのは自覚している。
変な目で近寄ってくる男が何人かいたから。
今になって上司の言葉、"合格点""絶対手下になれる"が腑に落ちた。
「……もしかして、ボスは男を抱く人ですか?」
「えー?いい感してるね。
やっぱり僕、あなたの事好きだなー。
けど…僕がそれ答えると思うー?
まぁ、今日頑張ってくれるって言うなら…」
こっちは仕事で来てる。
この潜入がパアになって、警察官になれる保証は無い。特にやりたい仕事も無い。
ジイェンさんを変わらず睨んでいたら彼が顎をあげ、伏し目がちで口元は緩みながらゆっくり近づいてくる足取り。
近く顔……耳元で囁かれる。
「『を』じゃなくて『も』」
ボスは男『も』抱く人…か。
少し潜入の先が見えたけれど、震える膝と胃のもたれは激しくなった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
開発されに通院中
浅上秀
BL
医者×サラリーマン
体の不調を訴えて病院を訪れたサラリーマンの近藤猛。
そこで医者の真壁健太に患部を触られ感じてしまう。
さらなる快楽を求めて通院する近藤は日に日に真壁に調教されていく…。
開発し開発される二人の変化する関係の行く末はいかに?
本編完結
番外編あり
…
連載 BL
なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
※入院編に関して。
大腸検査は消化器科ですがフィクション上のご都合主義ということで大目に見ながらご覧ください。
…………
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ある宅配便のお兄さんの話
てんつぶ
BL
宅配便のお兄さん(モブ)×淫乱平凡DKのNTR。
ひたすらえっちなことだけしているお話です。
諸々タグ御確認の上、お好きな方どうぞ~。
※こちらを原作としたシチュエーション&BLドラマボイスを公開しています。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる