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月で逢おうよ 4
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「ってーな、パワハラ! あのね、そうゆう古臭い日本人的発想が、若い連中の自由な意識の邪魔をしてんの。わかる?」
橋爪を睨みながら検見崎が喚く。
「わかった風なことを。ああ、もう、いいから帰れ。入稿、終わったんだろ」
勝浩は、この「the あにまる」という雑誌の、動物の真実を、動物の目線から見て伝えようという主旨が気に入っていて、検見崎からバイトに誘われたときすぐに承諾した。
仕事も面白くなってきている。
「俺は、勝浩くんを待ってんの」
検見崎がぶーたれているうちに、勝浩はファイルを保存し、パソコンの電源を落とす。
「お待たせしました」
「おう、帰ろ、帰ろ、とっとと帰ろ」
たったか小走りに編集部を出ると、検見崎はエレベーターの下りボタンを押した。
「髭面のくせに、ガキみたいなんだから」
検見崎の車のサイドシートにおさまってから、勝浩はボソリと呟いた。
「ちゃー、勝浩に言われちゃ、おしまいだぁ」
「俺のどこがガキなんです?」
光榮社のある神楽坂から車は早稲田通りに入る。
そこから目白台の勝浩の部屋までたいしてかからない。
「だって彼女とディズニーランド行って、お泊りしてないっしょ?」
「だから、彼女じゃありませんてば」
検見崎は煙草をくわえ、ふーん、と疑わしそうに勝浩を見る。
「ほんとに彼女、いないの?」
「いません」
「じゃあ、明後日の飲み会来るよな?」
「ええ? やですよ」
即答する勝浩に、尚も検見崎が詰め寄った。
「どうして?」
「さっき編集部の人たちと話してたやつでしょ? お断りします」
そう言い合っている間に、車は勝浩が借りている部屋の前に停まった。
「たまには、融通を利かせようよ」
「ユウの散歩があるから、ダメ。じゃあ、どうもありがとうございました」
にこやかに車から降りる勝浩を見送って、検見崎は大きくため息をつく。
「こりゃほんと、一筋縄じゃ、いかねーわ。可愛い顔してるくせに」
煙草を灰皿に押しつぶすと、ハンドルをきって、検見崎は大通りへと車を走らせた。
キャンパスを囲む常緑樹がうっそうと連なるその傍らを通り抜け、勝浩は足早に図書館裏へと向かっていた。
目指す先には古びたクラブハウスがぽつねんと建っている。
『動物愛護研究会』と殴り書きされたプレートがかかるドアの前には、毛並みのよさそうなゴールデンレトリバーと後ろの方にはハスキーが一匹気だるげに寝そべっていた。
木立が直射日光を遮り、ちょうど緩い風も吹いている。
「勝浩くん、今日の当番、一人だっけ? ロクたちの散歩、大変じゃない?」
振り返ると美利が足早に近づいてくる。
「うん、昨日よりは涼しいから、よかったよ。美利ちゃん、図書館とか? レポート?」
「うん、まあ」
オレンジのキャミソールにジーンズの美利はカラーリングした髪を複雑に編みこんでいる。
可愛くてキュートな、勝浩より一年下の文学部一年生だ。
入った当初は猫が苦手そうだったが、今では猫といえば美利にお呼びがかかる。
「あれ、鍵、開いてる。誰かいるのかな?」
窓は網戸になっているが、灯りはついていない。
「鍵閉めるの、忘れて帰っちゃったんじゃない?」
鍵は代表の垪和が一本持ち、当番用にはドア横の柱に引っ掛けてある。
外にいるゴールデンのロクやハスキーのビッグは、この柱と大きな銀杏の木とに張られたロープにリードでつながれ、ある程度自由に動くことができるようになっているが、暑い時は木陰から動こうともしない。
「盗られるようなものはないからいいけど」
「だって、外にはロクやビッグがいるし、中にはヨークたちがいるもんね」
ゴールデンとハスキー、二匹の大型犬の他に、中にはヨークシャーのヨーク、柴系の雑種のポチ、それにシェトランドのチェリーと、犬の檻のような部屋にわざわざ忍び込もうなどという変わり者は確かにいないだろう。
勝浩が電気のスイッチを入れて中に入ると、美利も続いて入ってきて、大きめのトートバッグを肩から降ろしてソファに置いた。
「あたしも手伝う」
美利は部屋の真ん中にどんと大きく陣取るテーブルの上で猫たちの食事を用意を始めた勝浩の横にきて、キャットフードの袋を取った。
「ありがとう」
築何十年だかわからないようなこのクラブハウスは、五年ほど前、『動物愛護研究会』の手に渡るまでに様々なサークルに使われていた、かなりな年代ものらしい。
木造で、二十畳あるかないか。
隙間だらけの窓や踏み抜きそうな床板、雨漏りする屋根を自分たちで修理をし、とりあえず雨風しのげるくらいにはだましだまし使っている。
ソファや簡易ベッドの類は、みんなで粗大ゴミから失敬してきたものに、カバーをかけた。
冷蔵庫や洗濯機も拾ってきたものだ。
シンクはかろうじて引いてある水道管を利用して自分たちで造りつけた。
電気ポットがあるので、お茶やカップ麺くらいならOKなため、当然、しょっちゅう宴会場にもなるわけだ。
猫たちのためには外に通じる開閉自在の猫用ドアや、天井に近い場所にちょうど猫が走れる程度のキャットウォークやハウスをDIYし、、狭い空間をフルに活用しているのだが、人間が五人も入れば、真夏などその不快指数は一気に上がる。
橋爪を睨みながら検見崎が喚く。
「わかった風なことを。ああ、もう、いいから帰れ。入稿、終わったんだろ」
勝浩は、この「the あにまる」という雑誌の、動物の真実を、動物の目線から見て伝えようという主旨が気に入っていて、検見崎からバイトに誘われたときすぐに承諾した。
仕事も面白くなってきている。
「俺は、勝浩くんを待ってんの」
検見崎がぶーたれているうちに、勝浩はファイルを保存し、パソコンの電源を落とす。
「お待たせしました」
「おう、帰ろ、帰ろ、とっとと帰ろ」
たったか小走りに編集部を出ると、検見崎はエレベーターの下りボタンを押した。
「髭面のくせに、ガキみたいなんだから」
検見崎の車のサイドシートにおさまってから、勝浩はボソリと呟いた。
「ちゃー、勝浩に言われちゃ、おしまいだぁ」
「俺のどこがガキなんです?」
光榮社のある神楽坂から車は早稲田通りに入る。
そこから目白台の勝浩の部屋までたいしてかからない。
「だって彼女とディズニーランド行って、お泊りしてないっしょ?」
「だから、彼女じゃありませんてば」
検見崎は煙草をくわえ、ふーん、と疑わしそうに勝浩を見る。
「ほんとに彼女、いないの?」
「いません」
「じゃあ、明後日の飲み会来るよな?」
「ええ? やですよ」
即答する勝浩に、尚も検見崎が詰め寄った。
「どうして?」
「さっき編集部の人たちと話してたやつでしょ? お断りします」
そう言い合っている間に、車は勝浩が借りている部屋の前に停まった。
「たまには、融通を利かせようよ」
「ユウの散歩があるから、ダメ。じゃあ、どうもありがとうございました」
にこやかに車から降りる勝浩を見送って、検見崎は大きくため息をつく。
「こりゃほんと、一筋縄じゃ、いかねーわ。可愛い顔してるくせに」
煙草を灰皿に押しつぶすと、ハンドルをきって、検見崎は大通りへと車を走らせた。
キャンパスを囲む常緑樹がうっそうと連なるその傍らを通り抜け、勝浩は足早に図書館裏へと向かっていた。
目指す先には古びたクラブハウスがぽつねんと建っている。
『動物愛護研究会』と殴り書きされたプレートがかかるドアの前には、毛並みのよさそうなゴールデンレトリバーと後ろの方にはハスキーが一匹気だるげに寝そべっていた。
木立が直射日光を遮り、ちょうど緩い風も吹いている。
「勝浩くん、今日の当番、一人だっけ? ロクたちの散歩、大変じゃない?」
振り返ると美利が足早に近づいてくる。
「うん、昨日よりは涼しいから、よかったよ。美利ちゃん、図書館とか? レポート?」
「うん、まあ」
オレンジのキャミソールにジーンズの美利はカラーリングした髪を複雑に編みこんでいる。
可愛くてキュートな、勝浩より一年下の文学部一年生だ。
入った当初は猫が苦手そうだったが、今では猫といえば美利にお呼びがかかる。
「あれ、鍵、開いてる。誰かいるのかな?」
窓は網戸になっているが、灯りはついていない。
「鍵閉めるの、忘れて帰っちゃったんじゃない?」
鍵は代表の垪和が一本持ち、当番用にはドア横の柱に引っ掛けてある。
外にいるゴールデンのロクやハスキーのビッグは、この柱と大きな銀杏の木とに張られたロープにリードでつながれ、ある程度自由に動くことができるようになっているが、暑い時は木陰から動こうともしない。
「盗られるようなものはないからいいけど」
「だって、外にはロクやビッグがいるし、中にはヨークたちがいるもんね」
ゴールデンとハスキー、二匹の大型犬の他に、中にはヨークシャーのヨーク、柴系の雑種のポチ、それにシェトランドのチェリーと、犬の檻のような部屋にわざわざ忍び込もうなどという変わり者は確かにいないだろう。
勝浩が電気のスイッチを入れて中に入ると、美利も続いて入ってきて、大きめのトートバッグを肩から降ろしてソファに置いた。
「あたしも手伝う」
美利は部屋の真ん中にどんと大きく陣取るテーブルの上で猫たちの食事を用意を始めた勝浩の横にきて、キャットフードの袋を取った。
「ありがとう」
築何十年だかわからないようなこのクラブハウスは、五年ほど前、『動物愛護研究会』の手に渡るまでに様々なサークルに使われていた、かなりな年代ものらしい。
木造で、二十畳あるかないか。
隙間だらけの窓や踏み抜きそうな床板、雨漏りする屋根を自分たちで修理をし、とりあえず雨風しのげるくらいにはだましだまし使っている。
ソファや簡易ベッドの類は、みんなで粗大ゴミから失敬してきたものに、カバーをかけた。
冷蔵庫や洗濯機も拾ってきたものだ。
シンクはかろうじて引いてある水道管を利用して自分たちで造りつけた。
電気ポットがあるので、お茶やカップ麺くらいならOKなため、当然、しょっちゅう宴会場にもなるわけだ。
猫たちのためには外に通じる開閉自在の猫用ドアや、天井に近い場所にちょうど猫が走れる程度のキャットウォークやハウスをDIYし、、狭い空間をフルに活用しているのだが、人間が五人も入れば、真夏などその不快指数は一気に上がる。
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