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風そよぐ 49
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「俺がいようといまいと関係ないですよ、あの人は……あ、じゃ、また子供たちに集まってもらいますね、追加で撮影されるんですよね?」
今回のCMのために、良太は下柳のつてで児童劇団の子供たちに撮影の協力を依頼したのだが、何の演出もない屈託のない笑顔を見せる子供たちは見ているだけで楽しかった。
「あの子たち、ええ表情しとったもんなぁ」
佐々木も良太と同じようなことを考えたのだろう。
佐々木と藤堂のスケジュールを合わせ、撮影スタッフに問い合わせてから、撮影日をもう一日設定しなくてはならない。
一番町の佐々木オフィスの前で佐々木を降ろし、良太はプラグインのある青山へと車を回す。
「何だか運転手させちゃったね、良太ちゃん」
「いえいえ、どうせこの後ヤギさんとこに行くので」
「何かあった?」
「え?」
「そういう雰囲気だけど」
藤堂は侮れない。
人の感情の機微まで読み取ってしまうから、油断がならない。
「何だかあれこれ忙しくて、ちょっと気が休まらない感じなんですよ」
「ふーん。まあ、何か俺で役に立つこともないこともないから、いつでも話を聞くよ」
良太は適当にごまかしたが、藤堂はまた紛らわしい言い回しで笑った。
「ありがとうございます。じゃ、撮影日、連絡します」
プラグインの前で藤堂を降ろすと、良太はゆっくりハンドルを切った。
スタジオに寄って部屋に戻ってきたのは午後十時を回った頃だった。
それでも今日中には帰ってこられたし、とにかくシャワーを浴びたかった。
上着を脱いで手に抱え、シャツは腕まくりしているが、この夏最高にじっとりと湿度が高い。
作業中に取って食べたピザが何だか胃に重い。
夏バテに疲労、いろいろ重なっていそうだ。
部屋は最近、二十八度に設定しているが、それでも猫には寒すぎる時もあるらしく、猫ベッドで二つダンゴになっていることもある。
帰るなり、わらわらと猫たちが駆け寄ってきて、しばし癒しのひと時だ。
「うう、お前らのお陰で俺は何とかやれてるんだ~」
二つの猫を交互に撫でてやると、まずごはんと水だ。
それからトイレをきれいにしてやって、ようやく良太はシャワーを浴びにいった。
「撮影日は決まったし。いい絵が撮れればいいんだけど」
コックを止めてから、良太は独り言ちた。
下柳が作業をしているスタジオで、良太は児童劇団に連絡を取り、藤堂や佐々木、スタッフとスケジュールが合う日を決めて、またそれぞれに連絡を入れた。
「月曜日、朝十時、児童劇団の前の公園です。午後か翌日から雨みたいで、何とかお天気ももってくれるといいんですが」
前回もそうだったが、藤堂は児童劇団に出向く時は必ず、サンタのようにお菓子をたくさん入れた袋を持参する。
袋だと何が出てくるかわからないのが、子供たちの興味をそそるようだ。
「藤堂さんて、ほんと、面白い人だよな」
藤堂、佐々木との仕事は何だか楽しい。
東洋商事の仕事も気は抜けないが、きっといいものになるような気がしている
七月に入ればまたこのメンバーでアディノのCM撮影だ。
良太は一応、沢村に押し付けられた代理人という立場なのだが、立ち会えるのはこちらはこちらで別の楽しみがある。
アスリートの撮影というのは初めてだった。
例え被写体が沢村でも、やはり何か期待感が否めない。
そんなことを考えながら、冷蔵庫から出した缶ビールのプルトップを開けた時、携帯が鳴った。
誰だろうと思いながら、テーブルの上の携帯を取ると、宇都宮の名前が出ている。
「お世話様です。何か、ありましたか?」
良太が何かトラブルでもあったのかと気色ばんで出ると、電話の向こうで宇都宮が笑った。
「いや、何事もなく順調だから。明日の夜って、あいてる?」
「は?」
いきなり聞かれて、良太は頭の中でスケジュールを思い浮かべた。
「いや特にはないですけど」
明日の土曜日は久々何も仕事は入っておらず、一応会社も休日ということにはなっているが、保留にしているデスクワークをやってしまおうと思っていた。
「じゃ、飲みに行かない? 俺、ちょっとオフもらったからさ」
「え………」
飲みに誘われてるだけだとは思うのだが、先日アスカに脅されたことが頭をよぎり、どうしたものかと良太は迷う。
確かに怪しげ、と思わないでもない時もあったのだが、だからといって宇都宮が自分をそんな目で見ているというのが、どうにも考えづらい。
けれども、もし仮にそういう意図をもって良太に近づいてきているとしたら、ここでホイホイいいですよ、と言ってしまっていいものかとも思ってしまう。
「何かあるんなら無理にとは言わないよ」
「あ、ああ、何か土曜日は親が電話くれることがあって、最近、話してないから」
「そうなんだ、じゃあ、日を改めた方がいいかな」
「あ、いえ、大丈夫ですけど、明後日早朝ロケがあるんで」
「じゃあ、シンデレラは十一時にお返しすることにしよう」
良太は笑った。
八時に西麻布のペパミントという店で待ち合わせることにした。
西麻布なら会社に近いでしょ、という配慮にも、おかしな疑いをかけて申し訳ない気がした。
今回のCMのために、良太は下柳のつてで児童劇団の子供たちに撮影の協力を依頼したのだが、何の演出もない屈託のない笑顔を見せる子供たちは見ているだけで楽しかった。
「あの子たち、ええ表情しとったもんなぁ」
佐々木も良太と同じようなことを考えたのだろう。
佐々木と藤堂のスケジュールを合わせ、撮影スタッフに問い合わせてから、撮影日をもう一日設定しなくてはならない。
一番町の佐々木オフィスの前で佐々木を降ろし、良太はプラグインのある青山へと車を回す。
「何だか運転手させちゃったね、良太ちゃん」
「いえいえ、どうせこの後ヤギさんとこに行くので」
「何かあった?」
「え?」
「そういう雰囲気だけど」
藤堂は侮れない。
人の感情の機微まで読み取ってしまうから、油断がならない。
「何だかあれこれ忙しくて、ちょっと気が休まらない感じなんですよ」
「ふーん。まあ、何か俺で役に立つこともないこともないから、いつでも話を聞くよ」
良太は適当にごまかしたが、藤堂はまた紛らわしい言い回しで笑った。
「ありがとうございます。じゃ、撮影日、連絡します」
プラグインの前で藤堂を降ろすと、良太はゆっくりハンドルを切った。
スタジオに寄って部屋に戻ってきたのは午後十時を回った頃だった。
それでも今日中には帰ってこられたし、とにかくシャワーを浴びたかった。
上着を脱いで手に抱え、シャツは腕まくりしているが、この夏最高にじっとりと湿度が高い。
作業中に取って食べたピザが何だか胃に重い。
夏バテに疲労、いろいろ重なっていそうだ。
部屋は最近、二十八度に設定しているが、それでも猫には寒すぎる時もあるらしく、猫ベッドで二つダンゴになっていることもある。
帰るなり、わらわらと猫たちが駆け寄ってきて、しばし癒しのひと時だ。
「うう、お前らのお陰で俺は何とかやれてるんだ~」
二つの猫を交互に撫でてやると、まずごはんと水だ。
それからトイレをきれいにしてやって、ようやく良太はシャワーを浴びにいった。
「撮影日は決まったし。いい絵が撮れればいいんだけど」
コックを止めてから、良太は独り言ちた。
下柳が作業をしているスタジオで、良太は児童劇団に連絡を取り、藤堂や佐々木、スタッフとスケジュールが合う日を決めて、またそれぞれに連絡を入れた。
「月曜日、朝十時、児童劇団の前の公園です。午後か翌日から雨みたいで、何とかお天気ももってくれるといいんですが」
前回もそうだったが、藤堂は児童劇団に出向く時は必ず、サンタのようにお菓子をたくさん入れた袋を持参する。
袋だと何が出てくるかわからないのが、子供たちの興味をそそるようだ。
「藤堂さんて、ほんと、面白い人だよな」
藤堂、佐々木との仕事は何だか楽しい。
東洋商事の仕事も気は抜けないが、きっといいものになるような気がしている
七月に入ればまたこのメンバーでアディノのCM撮影だ。
良太は一応、沢村に押し付けられた代理人という立場なのだが、立ち会えるのはこちらはこちらで別の楽しみがある。
アスリートの撮影というのは初めてだった。
例え被写体が沢村でも、やはり何か期待感が否めない。
そんなことを考えながら、冷蔵庫から出した缶ビールのプルトップを開けた時、携帯が鳴った。
誰だろうと思いながら、テーブルの上の携帯を取ると、宇都宮の名前が出ている。
「お世話様です。何か、ありましたか?」
良太が何かトラブルでもあったのかと気色ばんで出ると、電話の向こうで宇都宮が笑った。
「いや、何事もなく順調だから。明日の夜って、あいてる?」
「は?」
いきなり聞かれて、良太は頭の中でスケジュールを思い浮かべた。
「いや特にはないですけど」
明日の土曜日は久々何も仕事は入っておらず、一応会社も休日ということにはなっているが、保留にしているデスクワークをやってしまおうと思っていた。
「じゃ、飲みに行かない? 俺、ちょっとオフもらったからさ」
「え………」
飲みに誘われてるだけだとは思うのだが、先日アスカに脅されたことが頭をよぎり、どうしたものかと良太は迷う。
確かに怪しげ、と思わないでもない時もあったのだが、だからといって宇都宮が自分をそんな目で見ているというのが、どうにも考えづらい。
けれども、もし仮にそういう意図をもって良太に近づいてきているとしたら、ここでホイホイいいですよ、と言ってしまっていいものかとも思ってしまう。
「何かあるんなら無理にとは言わないよ」
「あ、ああ、何か土曜日は親が電話くれることがあって、最近、話してないから」
「そうなんだ、じゃあ、日を改めた方がいいかな」
「あ、いえ、大丈夫ですけど、明後日早朝ロケがあるんで」
「じゃあ、シンデレラは十一時にお返しすることにしよう」
良太は笑った。
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