そんなお前が好きだった

chatetlune

文字の大きさ
上 下
24 / 67

そんなお前が好きだった 24

しおりを挟む
 料理が運ばれると、から揚げ、串揚げ、サラダ、カツオのたたき、天ぷら、じゃがバターなど、手際よくそれぞれの皿に取り分け、大皿を重ねると、井原は早速から揚げに齧りつく。
「まあ、親と一緒だとできないこともあるしな?」
 元気がちょっと茶々を入れる。
 すると井原は眉根を寄せる。
「何が言いたいのかな?」
「ほら、彼女連れ込むにもさ、不都合があったり」
「ああ、荒川先生とか?」
 元気の揶揄に、じゃがバターをつついていた東ものっかる。
「だったら彼女の部屋に行けばいんじゃね? わざわざ部屋借りるとか金ももったいないし」
 当然、こんな会話になるだろう科白を、響も口にしてみる。
 なるほどそういうことか、と響も井原が部屋を借りたがっている理由に納得した。
 大人になればそれもごく普通にあり、だよな。
「ちがいますってば! 響さんまでやめてくださいよ。荒川先生とは何でもないんすから!」
 井原は響に向き直って懸命に否定する。
「今更? あれだけラブビーム向けられてるのに」
 勢い響はつい口にしてしまう。
「まあ、女の子にしたら親と一緒に住んでる男なんかちょっとキモイだろうし。東も家出れば、彼女できるんじゃないか?」
 響は東に矛先を向けた。
「ううう! それ言われると…………。俺、金ないから無理っすよ」
 東はふうとため息をつく。
「でも、何年目? 講師と教室やってるし、貯めてんじゃないの?」
 響に聞かれて東は首を横に振った。
「年一回、銀座か下北沢で個展やってるし、その費用と画材代でかなり消えるし、とても部屋借りて家賃払いながらとか、無理っす」
「まあ、絵の一枚も売れればな」
 元気が隣から口を挟む。
「るせ! 売れてりゃジャケットの一枚も買ってるわ」
「ああ、万年ジャケット?」
「実は人気ミュージシャンとか言うやつに言われたかない!」
「けど、東んちって、旧家で裕福なんだろ?」
 東と元気のやり取りを笑いつつ、響が尋ねた。
「売れない絵描きを養うような金はないって宣言されてるし。一応、食費は入れてますよ」
 唐揚げに手を伸ばしながら東が答える。
「それ、同病相憐れむってやつだな。うちの親父に、音大なんか行ってまともな職につけるわけがないとかって言われたし、有名大学出て銀行の頭取まで務めたみたいのがまともだってわけ」
「うわ、俺なんかも響の親父さんにしたら、そんなの仕事じゃないって言われそうっすね」
 東と響は共感して頷く。
「ま、親父なんかのことはどうでもいいけど」
 響は面白くもなさそうに言った。
「そういえば、この中でまともなのは正教員の井原だけ?」
 元気が思い当たるように口にする。
「何だよそれ、正教員とか。まともっていや元気なんか親父さんの後を継いで一国一城の主だろうがよ」
「自営業者の苦労を知らねえやつは言いたいことを言うさ」
 フンと鼻で笑う元気はジョッキのビールを飲み干した。
「とか何とか、GENKIの曲提供して、印税入ってるだろう」
 東が訳知り顔で言った。
「あんなの、みっちゃんが勝手に振り込んでくるだけだろ」
 元気が反論とも言えない反論をする。
「俺も勝手に誰か振り込んでくれねーかな! そしたら部屋借りて、自信もって女の子ゲットに全力を尽くす!」
 東が拳を上げて宣言した。
「お前のアーティスト魂はちっせえんじゃないの?」
 元気はスタッフを呼んで、生ビールを追加した。
「俺、じゃあ、久保田の大吟醸にしよ! それと刺し盛り、牛すじ煮込み」
 井原に続いて東が、「生ビールと餃子、たこわさ」とオーダーした。
「響さん、どうします? サワーとかにします?」
 響がさほど酒が強くないことを、井原はすぐ察したようだ。
「ああ、じゃ、梅サワー」
「アサリの酒蒸しとか美味そうですよ。あ、あとこれじゃないっすか? ジャーマンポテト」
 井原がスタッフにてきぱきとオーダーを告げる。
「ジャーマンポテトって何が出てくるんだ?」
 スタッフが行ってから、響がボソリと言った。
「こういう居酒屋のチェーン店では名前だけっすよ、じゃがバターとそう変わらない」
 井原がにっこり笑う。
「悪かったなチェーン店で。いつも行く店、今夜は貸し切りなんだってよ」
 元気が悪びれずに口を挟む。
 駅に近くてタクシーが捕まえやすいのだけはマシかも知れないが。
「じゃあ、そこ次の飲みな」
 井原が念を押した。
「わかったよ」
「そういや、そんなリッチな元気なのに、なんで実家住まい?」
 井原がさっきの続きに戻って聞いた。
「母親一人だし。リュウがいるし、店、近いんだよ」
「リュウって?」
「マメシバ」
「ワンコいるんだよ。可愛いぞ」
 響が笑顔を見せる。
 すると元気が携帯を取り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】記憶のカケラ

樺純
BL
あらすじ とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。 そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。 キイチが忘れてしまった記憶とは? タカラの抱える過去の傷痕とは? 散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。 キイチ(男) 中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。 タカラ(男) 過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。 ノイル(男) キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。 ミズキ(男) 幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。 ユウリ(女) 幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。 ヒノハ(女) 幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。 リヒト(男) 幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。 謎の男性 街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

俺が勝手に好きな幼なじみに好きって十回言うゲームやらされて抱えてたクソでか感情が暴発した挙げ句、十一回目の好きが不発したクソな件。

かたらぎヨシノリ
BL
幼なじみにクソでか感情を抱く三人のアオハル劇場。 ──────────────── ──────────────── 幼なじみ、美形×平凡、年上×年下、兄の親友×弟←兄、近親相姦、創作BL、オリジナルBL、複数攻3P、三角関係、愛撫 ※以上の要素と軽度の性描写があります。 受 門脇かのん。もうすぐ16歳。高校生。黒髪平凡顔。ちびなのが気になる。短気で口悪い。最近情緒が乱高下気味ですぐ泣く。兄の親友の三好礼二に激重感情拗らせ10年。 攻 三好礼二。17歳。高校生。かのん弄りたのしい俺様王様三好様。顔がいい。目が死んでる。幼なじみ、しのぶの親友。 門脇しのぶ。17歳。高校生。かのん兄。チャラいイケメン。ブラコン。三好の親友。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

処理中です...