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花びらながれ 7
しおりを挟むACT 3
工藤は帰ってきたが、良太が有吉のことを相談しようかどうしようか迷っているうちに、落ち着く間もなく、最近関わっているアイドル主演のドラマの撮影現場へと向かった。
アイドルというのは今人気上昇中の某有名プロダクション所属タレント本谷和正のことだ。
イケメンだ何だと騒がれ、人気が先走りしただけで事務所にいきなり主役を張らされたわけで、工藤に言わせれば芝居のしの字も知らないようなド素人だ。
リテイクに業を煮やしている工藤の顔が目に浮かぶようで、はっきり言って良太は今の工藤には関わり合いたくはないというのが本音だ。
「本谷和正か」
鬼に怒鳴られまくっているようすを想像してご愁傷様と心の中で呟いた良太は、今夜は久しぶりに早く部屋に上がってネコに癒されたいのだ。
早く帰っても何も、既に十時になりかけているのだが。
そんな願いもむなしく、良太のデスクに置いてあった携帯が鳴った。
「…………沢村…………」
画面に出ている名前を見て何か面倒ごとな予感がした良太は、しばらく鳴らしておいたがしつこくなかなか切れない。
仕方なく良太は電話に出た。
「何だよ、いったい」
「佐々木さんが電話、取ってくれないんだ」
俺は全国共通ダイヤルお悩み相談所かよ。
「お前何をやらかしたんだ?」
「お前ンとこ行っていいか?」
「断る、俺は今、限りなく忙しい……」
「実はもう来てる」
電話の声とともに、オフィスのドアが開いて、沢村が入ってきた。
「で、何をやらかしたんだ? お前」
ソファに腰を降ろして、ふう、とため息を吐く人間はこれで何人目だっけ?
「佐々木さんが土地を売るって聞いて、即刻俺がその不動産屋からその土地を買ったんだ」
「はあ?」
この話は、今までの話とはまた角度が違う内容だということは、辛うじて良太も理解した。
スーパーでキャベツを買うのとはわけが違う。
佐々木が土地を売るといえば、あの東京の一等地だ、売値がちょっとやそっとじゃないことはわかるし、それを簡単に買うやつがいるとは普通思えない。
だが、目の前にいるこの男なら確かに頷けないことはない。
「だから、佐々木さん、何でまた土地を売るってことに?」
沢村はそれからかいつまんで事情を話し始めた。
「佐々木さんがこないだ、父親から相続して以来何とか維持してきた土地だが、固定資産税が半端ないから雑木林の半分を売るって言うんだ、もう馴染みの不動産屋に任せてあるって」
「ああ、なるほど税金すごいよな、きっと」
「それでその不動産屋に行って、佐々木さんには内緒で、俺その土地買い取ったんだ。もともと定宿にしているホテルをやめてマンションでも購入しようと思っていた矢先だし、他人に買い取らせるより、行く行くは佐々木家の景観を損なわないように、そこにちょっとした部屋を作りたいって思ってさ」
常々、ホテルから脱却したいが、どこに住めばいいかわからないと言ったようなことを沢村は言っていた。
ことあるごとに資産家の御曹司のように言われるが、沢村自身は実家とは折り合いが悪く縁を切っている、というのも良太は再三聞いている。
「それが不動産屋から佐々木さんにそのことがバレて、以来、携帯も切られた」
「ってか何で、そもそも佐々木さんに内緒でやったんだよ?」
良太はじろっと沢村を睨む。
「んなもん、話したら絶対反対するに決まってるからだ、佐々木さん」
「じゃあ、佐々木さんが反対するのわかっててやったお前が悪いんだろ」
そう言ってから、かなりしょげているようすの沢村が少しばかりかわいそうになり、良太は聞いてみた。
「でも、佐々木さん、何でお前が土地を買うことに反対なわけ?」
沢村は少し間を置いて、重い口を開いた。
「多分、俺がさ、もしそこに家でも建てようものなら、半永久的に佐々木さんと離れないって宣言することだろ? けど、佐々木さんは俺との関係をそこまでもたせようとは考えていない。どころか、そのうちに清算するつもりもあるんじゃないかと思ってる」
確かに、もし家を建ててから二人が別れたら、また面倒なことになるだろう。
「俺はさ、佐々木さんと、この先ずっと離れたくないって思ってるからな」
それは沢村の本音なんだろう。
良太は沢村の思いも佐々木の思いも何となくわかる気がした。
未来永劫なんてあるかどうかわからない。
自分だって、この先工藤とどうなるかなんて、皆目見当もつかないのだ。
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