花びらながれ

chatetlune

文字の大きさ
上 下
7 / 15

花びらながれ 7

しおりを挟む




    ACT 3


 工藤は帰ってきたが、良太が有吉のことを相談しようかどうしようか迷っているうちに、落ち着く間もなく、最近関わっているアイドル主演のドラマの撮影現場へと向かった。
 アイドルというのは今人気上昇中の某有名プロダクション所属タレント本谷和正のことだ。
 イケメンだ何だと騒がれ、人気が先走りしただけで事務所にいきなり主役を張らされたわけで、工藤に言わせれば芝居のしの字も知らないようなド素人だ。
 リテイクに業を煮やしている工藤の顔が目に浮かぶようで、はっきり言って良太は今の工藤には関わり合いたくはないというのが本音だ。
「本谷和正か」
 鬼に怒鳴られまくっているようすを想像してご愁傷様と心の中で呟いた良太は、今夜は久しぶりに早く部屋に上がってネコに癒されたいのだ。
 早く帰っても何も、既に十時になりかけているのだが。
 そんな願いもむなしく、良太のデスクに置いてあった携帯が鳴った。
「…………沢村…………」
 画面に出ている名前を見て何か面倒ごとな予感がした良太は、しばらく鳴らしておいたがしつこくなかなか切れない。
 仕方なく良太は電話に出た。
「何だよ、いったい」
「佐々木さんが電話、取ってくれないんだ」
 俺は全国共通ダイヤルお悩み相談所かよ。
「お前何をやらかしたんだ?」
「お前ンとこ行っていいか?」
「断る、俺は今、限りなく忙しい……」
「実はもう来てる」
 電話の声とともに、オフィスのドアが開いて、沢村が入ってきた。
「で、何をやらかしたんだ? お前」
 ソファに腰を降ろして、ふう、とため息を吐く人間はこれで何人目だっけ?
「佐々木さんが土地を売るって聞いて、即刻俺がその不動産屋からその土地を買ったんだ」
「はあ?」
 この話は、今までの話とはまた角度が違う内容だということは、辛うじて良太も理解した。
 スーパーでキャベツを買うのとはわけが違う。
 佐々木が土地を売るといえば、あの東京の一等地だ、売値がちょっとやそっとじゃないことはわかるし、それを簡単に買うやつがいるとは普通思えない。
 だが、目の前にいるこの男なら確かに頷けないことはない。
「だから、佐々木さん、何でまた土地を売るってことに?」
 沢村はそれからかいつまんで事情を話し始めた。
「佐々木さんがこないだ、父親から相続して以来何とか維持してきた土地だが、固定資産税が半端ないから雑木林の半分を売るって言うんだ、もう馴染みの不動産屋に任せてあるって」
「ああ、なるほど税金すごいよな、きっと」
「それでその不動産屋に行って、佐々木さんには内緒で、俺その土地買い取ったんだ。もともと定宿にしているホテルをやめてマンションでも購入しようと思っていた矢先だし、他人に買い取らせるより、行く行くは佐々木家の景観を損なわないように、そこにちょっとした部屋を作りたいって思ってさ」
 常々、ホテルから脱却したいが、どこに住めばいいかわからないと言ったようなことを沢村は言っていた。
 ことあるごとに資産家の御曹司のように言われるが、沢村自身は実家とは折り合いが悪く縁を切っている、というのも良太は再三聞いている。
「それが不動産屋から佐々木さんにそのことがバレて、以来、携帯も切られた」
「ってか何で、そもそも佐々木さんに内緒でやったんだよ?」
 良太はじろっと沢村を睨む。
「んなもん、話したら絶対反対するに決まってるからだ、佐々木さん」
「じゃあ、佐々木さんが反対するのわかっててやったお前が悪いんだろ」
 そう言ってから、かなりしょげているようすの沢村が少しばかりかわいそうになり、良太は聞いてみた。
「でも、佐々木さん、何でお前が土地を買うことに反対なわけ?」
 沢村は少し間を置いて、重い口を開いた。
「多分、俺がさ、もしそこに家でも建てようものなら、半永久的に佐々木さんと離れないって宣言することだろ? けど、佐々木さんは俺との関係をそこまでもたせようとは考えていない。どころか、そのうちに清算するつもりもあるんじゃないかと思ってる」
 確かに、もし家を建ててから二人が別れたら、また面倒なことになるだろう。
「俺はさ、佐々木さんと、この先ずっと離れたくないって思ってるからな」
 それは沢村の本音なんだろう。
 良太は沢村の思いも佐々木の思いも何となくわかる気がした。
 未来永劫なんてあるかどうかわからない。
 自分だって、この先工藤とどうなるかなんて、皆目見当もつかないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

風そよぐ

chatetlune
BL
工藤と良太、「花を追い」のあとになります。 ようやく『田園』の撮影も始まったが、『大いなる旅人』の映画化も決まり、今度は京都がメイン舞台だが、工藤は相変わらずあちこち飛び回っているし、良太もドラマの立ち合いや、ドキュメンタリー番組制作の立ち合いや打ち合わせの手配などで忙しい。そこにまた、小林千雪のドラマが秋に放映予定ということになり、打ち合わせに現れた千雪も良太も疲労困憊状態で………。

逢いたい

chatetlune
BL
工藤×良太、いつかそんな夜が明けても、の後エピソードです。 厳寒の二月の小樽へ撮影に同行してきていた良太に、工藤から急遽札幌に来るという連絡を受ける。撮影が思いのほか早く終わり、時間が空いたため、準主役の青山プロダクション所属俳優志村とマネージャー小杉が温泉へ行く算段をしている横で、良太は札幌に行こうかどうしようか迷っていた。猫の面倒を見てくれている鈴木さんに土産を買った良太は、意を決して札幌に行こうとJRに乗った。

夢のつづき

chatetlune
BL
工藤×良太 月の光が静かにそそぐ の後エピソードです。 ただでさえ仕事中毒のように国内国外飛び回っている工藤が、ここのところ一段と忙しない。その上、山野辺がまた妙に工藤に絡むのだが、どうも様子が普通ではないし、工藤もこそこそ誰かに会っている。不穏な空気を感じて良太は心配が絶えないのだが………

たまにはクリスマスを

chatetlune
BL
クリスマス話です。京助×千雪 毎年年の瀬は、京助も千雪も忙しい。クリスマスなんてものは彼らには何の関係もないキーワードだ。ところが12月の半ば頃、京助がいきなり、来週末空けとけよ、と命令口調でのたまった。千雪は怪訝な顔で何を企んでいるんだ、と京助を見やったのだが…… 工藤×良太ともリンクしています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

処理中です...