Tea Time

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Tea Time 4

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「んじゃ、俺が呼び出してやるよ、勝っちゃん」
 やおらポケットから携帯を取り出して、ボタンを押す武人から、「やめろって」と携帯を取り上げ、幸也はふうっと大きく息を吐く。
「……だから、俺は勝浩の気持ちを尊重したいんだよ」
 幸也はカウンターに武人の携帯を置き、「無理強いはしたくねんだ」と言って舌打ちする。
「だが、何か……あれ以来、避けられてるような気がしてだな」
「はあ?」
 訝しげに武人は眉をひそめる。
「河岸を変えるぞ」
 唐突に立ち上がると、幸也は秀さんに目で挨拶してから清算を済ませ、店を出た。
 だが、他の店に行くという気分でもなく、ぶつくさ言いながら連れ立って歩く武人とともに、幸也は歩いて十分ほどの自分の部屋に向かう。
「だから、あれから、ドライブ行ったり、飲みに誘ったりしたが、大抵十一時も過ぎる頃になると、ユウが待ってるから帰るって言い出すんだ、ったくシンデレラかっての。一緒にご飯食べようとかって電話くれたから、いそいそと勝浩の部屋に行ってみると大家のババアが陣取ってて、三人で焼肉パーティだ。大家はどうせ一人だからってたまに勝浩にメシ作ってくれたりするらしんだが……」
 手持ち無沙汰で、つい指が煙草に伸びる。
「さっさと出てけばいいものを、ババア、ずっと居座りやがって、もう十一時になるしお開きにしましょうかね、とか言いやがって、勝浩がゼミ合宿で発表があるからレジュメ作らなけりゃとか聞けば、こっちはじゃあまた電話するとかなんとかって帰るっきゃないだろーが!」
 早口で言い切った幸也を一瞬ぽかんと見ていた武人はやがてぷっと吹き出し、挙句にゲラゲラ笑い出す。
「お前、それ、中坊のしかもオクテヤロウじゃあるまいし、大の男が、さんざ老若男女泣かせてきた長谷川幸也様の言うことかよ」
「るせーな! 俺は真面目に……」
「待てよ、勝っちゃんって二年だろ? ゼミって」
 ふと武人は首を傾げる
「研究室に入り浸ってるうちに、ちょっと書いたレポートが教授の目にとまって、ちゃんとした論文にしてアメリカ送ったら、高評価だったらしい。んで、もうゼミに特別参加してるんだと」
 それを聞いた時にはさすが勝浩、と幸也も喜んだものだが。
「ほえ~、さっすが、勝っちゃん、動物好きが高じてもう動物学者かあ。ま、それは置いといてもよ、お前って何でも卒なくこなしそうなくせに、大事にしたい相手にはてんで二の足踏み過ぎンだよ。志央のことだって、何で鳶にあぶらげさらわれる前にモノにしちまわなかったよ? 勝っちゃんのこともお前が車を交換条件に見張っとけなんて言い出したときは何の気まぐれかとも思ったし、勝っちゃんを知れば知るほど、お前が勝っちゃんを志央の身代わりにしたいんなら許せねぇってだな」
「だからマジだっつってっだろ!」
 むきになる幸也をドウドウと押さえながら、武人はにやにや笑う。
「要は、つまり、山小屋以来ひょっとしてヤラせてもらえてないってわけ?」
 肯定するのも面白くない幸也は、くわえた煙草を無闇にふかす。
「あっ、お前、山小屋でとんでもないキチクなマネしたんだろ?!」
「するかっ!」
「てことは、そうだな、まあ勝っちゃん次第ってことだな」
「……………………勝浩次第ね」
 ふうっと大きく煙とため息を一緒に吐いて、幸也は呟いた。
「せいぜい勝っちゃんに嫌われないようにがんばりたまえ」
 幸也のマンションの前までくると、武人はぽんぽんと幸也の肩を叩く。
「チクショ、面白がってんな、てめ!」
 停めたタクシーに乗り込む前に武人は笑いながら幸也を振り返り、「まあ、七ちゃんに気持ちが動いてるってことは、ないと思うけどね、俺は」と言い残して去った。
 幸也はそれに応えることもなく、エントランスからエレベーターホールに歩いて自分の部屋へ向かう。
 数年前に建てられたマンションは外国人入居者が多く、そのほとんどが企業の借り上げだ。
 その空間の広さや、地下鉄表参道駅にも近くて大学に通うにも便がいいことは、幸也も気に入っている。
 大学の合格祝いという名目で、兄が結婚して新しい家族が増えたのを機に父親が幸也に買い与えたのは留学するちょっと前のことだ。
 メゾネット式3LDKのいわゆる超豪華億ションであるが、留学してほとんどボストンに暮らしていた幸也がこの部屋に落ち着いたのはつい最近のことだ。
 元外相である祖父の二人の息子たちは、よくある二世議員の道を選ばなかった。
 長男は旧家の出である母親から遺産だけでなく、その実家が経営していた貿易会社を引き継ぎ、傾きかけたところを盛り返して、今や財界では押しも押されもせぬ商社社長である。
 次男は大手出版社社長の娘と結婚し、今はその社長を務めている。
 長男が幸也の父であり、次男は武人の父だ。
 ここでどうやら政治の世界に手腕を見出されたのが、元外相には孫にあたる幸也の兄である。
 祖父の秘書を務め、いわゆる三世議員などと揶揄されながらも近年若手衆議院議員として活躍している。
 父が経営する商社でバリバリ才覚を表したのは政界にも財界にも全く興味のない作家の夫を持つ幸也の姉で、若くして取締役に名を連ねている。
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