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空は遠く 62
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「見りゃわかるだろ、デートだよ、デート」
「わかるかよ!」
「フン、とっとと若宮とより戻せよ。人の邪魔してないで」
坂本の台詞が佑人の心を揺らす。
「こいつさ、若宮がでけぇ犬が嫌だっつったからって、別れたんだと。バッカじゃね?」
坂本はククククっと力を笑う。
「ったりまえだろーが。別れるも何も第一つき合う以前だ」
力の方は全く冗談ではないといった顔だ。
偶然にもこうして顔を合わせたことで、佑人はまた啓太や東山と話すようになった。
以前のように構えることもなく、自然に言葉を交わしていることに気づいて、佑人は知らず笑みを浮かべた。
力とは相変わらずうまく会話すらできないけれど、それでもこんな風に一緒にいられるのもあと僅かだと思うと、その時間を大事にしたいと思った。
クラスが変わったら、ずっとつるんでいるみんなはまたここで屯しているかもしれないが、自分にわざわざ声をかけるとは思えなかった。
授業中、力の背中を見ていられるのもあと少しだと、見つめていたらいつの間にか視界が滲んできて、佑人は顔を伏せた。
零れそうな涙を必死で堪えながら、ああ、やっぱり、力が好きなのだと、佑人は思った。
「いいか、てめぇ、俺が獣医志望とか、軽々しく口にすんな! 坂本とか啓太や東にもだ、わかったか!」
練や佑人に対して力が言い放った、多分あの時、佑人はまた力が好きになった。
若宮とは本当に別れたようで、彼女は教室にも顔を見せなくなった。だから力がきっとまた啓太たちと一緒にマックに行ったりするだろうことが佑人は嬉しかった。
若宮には悪いけど。
上谷に触れられた時はぞっとしたが、もしあれが力だったら自分はどうしただろう。心の中で呟いてみて、慌ててそんなことを考えた自分を頭から追い払う。
心の奥底で実はそんなあり得ないことを望んでいるかも知れない自分が嫌で、また滑稽だった。
バッカじゃないの、俺。
どうせまた、すぐに次の相手ができるに決まってるし。
とりあえず、三年になってクラスが変われば、女の子がべたついている力を目の当たりにすることもないだろう。
こんな希薄な繋がりは時間が経てばすぐに消滅する。
そうして卒業すれば、彼らの中では、ああ、そんなやついたっけ、くらいで存在も忘れ去られていくのだ。
佑人は顔を上げた。
力の学ランの広い背中は、そのまま力という人間の大きさを物語っているようだった。
獣医か。
意外だけれど、わかる気がした。
きっと河喜多先生みたいに、口は悪くても面倒見のいい獣医になるだろう。
好きだよ、山本……力……
絶対口にはできないけど、今だけなら、こうして山本の背中に言うことができる。
好きなんだ………。
「わかるかよ!」
「フン、とっとと若宮とより戻せよ。人の邪魔してないで」
坂本の台詞が佑人の心を揺らす。
「こいつさ、若宮がでけぇ犬が嫌だっつったからって、別れたんだと。バッカじゃね?」
坂本はククククっと力を笑う。
「ったりまえだろーが。別れるも何も第一つき合う以前だ」
力の方は全く冗談ではないといった顔だ。
偶然にもこうして顔を合わせたことで、佑人はまた啓太や東山と話すようになった。
以前のように構えることもなく、自然に言葉を交わしていることに気づいて、佑人は知らず笑みを浮かべた。
力とは相変わらずうまく会話すらできないけれど、それでもこんな風に一緒にいられるのもあと僅かだと思うと、その時間を大事にしたいと思った。
クラスが変わったら、ずっとつるんでいるみんなはまたここで屯しているかもしれないが、自分にわざわざ声をかけるとは思えなかった。
授業中、力の背中を見ていられるのもあと少しだと、見つめていたらいつの間にか視界が滲んできて、佑人は顔を伏せた。
零れそうな涙を必死で堪えながら、ああ、やっぱり、力が好きなのだと、佑人は思った。
「いいか、てめぇ、俺が獣医志望とか、軽々しく口にすんな! 坂本とか啓太や東にもだ、わかったか!」
練や佑人に対して力が言い放った、多分あの時、佑人はまた力が好きになった。
若宮とは本当に別れたようで、彼女は教室にも顔を見せなくなった。だから力がきっとまた啓太たちと一緒にマックに行ったりするだろうことが佑人は嬉しかった。
若宮には悪いけど。
上谷に触れられた時はぞっとしたが、もしあれが力だったら自分はどうしただろう。心の中で呟いてみて、慌ててそんなことを考えた自分を頭から追い払う。
心の奥底で実はそんなあり得ないことを望んでいるかも知れない自分が嫌で、また滑稽だった。
バッカじゃないの、俺。
どうせまた、すぐに次の相手ができるに決まってるし。
とりあえず、三年になってクラスが変われば、女の子がべたついている力を目の当たりにすることもないだろう。
こんな希薄な繋がりは時間が経てばすぐに消滅する。
そうして卒業すれば、彼らの中では、ああ、そんなやついたっけ、くらいで存在も忘れ去られていくのだ。
佑人は顔を上げた。
力の学ランの広い背中は、そのまま力という人間の大きさを物語っているようだった。
獣医か。
意外だけれど、わかる気がした。
きっと河喜多先生みたいに、口は悪くても面倒見のいい獣医になるだろう。
好きだよ、山本……力……
絶対口にはできないけど、今だけなら、こうして山本の背中に言うことができる。
好きなんだ………。
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