乾燥したガラクタ

デラシネ

文字の大きさ
上 下
18 / 25
旅路

前へ

しおりを挟む
関係者席に座ると、5000人の観客が蠢いているのが見える。
もうタカハシを気にする客なんかいない。

ミズタニはタカハシに付いている訳にはいかない。やはり方々へ挨拶に回っている。
関係者席には有名なバンドマンやシンガーが増えた。
またもやタカハシだけが場違いだ。

大きな空間に大きなざわめきと笑い声が響く。
小日向 陽 が半年振りに歌うのだ。
観客にも期待と不安、緊張が入り混じっている。

チケットは即完だと聞いた。
なんだか、自分だけ良い席で見るのは悪い気がするな。






暗転し、入場SEが流れる。



幕が上がると、アコギを抱えたハルが歌い出す。

想いが過ぎる。過ぎっては蒸発するように消えてゆく。
ブランクなんて微塵も感じさせない。
やはり、この子は天才なんだろう。

遠い。

どうしようもなく遠く感じる。

さっきまで話していたのは一体誰なんだ?

眩しい。

このまま太陽を直視すれば、目が灼けるだろう。

ハルの光でタカハシの影が一層濃くなる。







鳴り止まないアンコールに応えてハルが再びステージに現れる。

「あ・・・・」

ハルがこちらを見て微笑んだ。
一呼吸置くとイントロを弾き始める。

(げ、本当にやるのか・・・・なんか恥ずかしいな)

タカハシの曲だった。
大した曲ではなかったが、ハルにかかればどんな曲も良い曲になる。
元々ギターを適当に弾いて出来た曲だからだろう、ハルの弾き語りスタイルにもマッチしている。

静寂の中にハルの声とギターだけが響く。

オーロラのように神々しく、虹のように儚げだ。

只々、美しかった。





ダブルアンコールは起こらなかった。
みんな同じ気持ちなのだろう。
泣いている観客が多い。




「終わったー!!」

関係者に挨拶を済ませると、タカハシが知っているハルに戻る。

「お疲れ様でした。凄く良かったですよ」

「ありがとうございます。あのー・・・・・」

ミズタニに目をやる。

「わかってるよ。しっかりな」

ミズタニが退室する。その前にタカハシの肩をポンと叩く。





「ナツさん」

「はい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

処理中です...