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ホットコーヒーの彼女
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「いらっしゃいませ~。あ、いつもの席どうぞ。すぐに用意しますね!」
「ありがとう」
六花さんは毎週水曜日の午後2時頃にやって来る常連さん。私よりも5歳年上で、最初は少し怖かった。けれど、今ではたまに閉店後にお茶をしたりするほど親しくしている。
「お待たせいたしました、ショートケーキとホットコーヒーです。イメチェンですか?短いのも似合ってますよ」
「ありがとう。この前の日曜日に自分で切ったんだけど、やっぱりうまくいかなくて。結局、同僚に仕上げてもらったの。すごく綺麗でしょ?美容師なら同じ髪型に飽きたり、好きな人の好みに合わせたかったり…失恋したりしても自分で切れるから最高だよ」
私は「それはいいですね」と愛想笑いを浮かべて適当に答えた。「失恋したんですか?」なんて絶対に口にしない。そんなことは聞かなくても分かるし、彼女が好きだった人が誰なのかも知っている。六花さんの高校の同級生で、六花さんよりも背が低くて、今の六花さんと同じくらい髪が短くて、六花さんと違って既婚者の『ちひろ』さん。彼女が、六花さんの好きな人。
六花さんがちひろさんよりも先に私に出会っていたら?
六花さんが私のことを好きになってくれていたら?
私がどんなに想っても、振り向いてはもらえない。それでも、考えてしまう。自分なら幸せに出来たかもしれないなんて。そんな私の傲慢さを知らない六花さんは物憂げな表情を浮かべたまま言葉を続ける。
「高校生の頃からずっと好きでも、もう親になってる人にいつまでも恋できないよね。あー、双葉ちゃんはまだ若いし、こんな経験したことないか」
「そうですね~。そろそろ戻らないと怒られちゃうので、失礼します」
「うん。頑張ってね」
そう言って柔らかく微笑んだ笑顔が胸に突き刺さり、涙が溢れそうになる。会えて嬉しいと思ってるのは私だけなこと。好きな人は私じゃないこと。私は、恋愛対象に入っていないこと。そんなこと全部全部分かってることなのに。どうしようもないことなのに。辛い恋だとは分かってた。可能性がないことも分かってた。分かった上でも止まらなくて。
(六花さんじゃなければ…よかったのに)
胸が締め付けられるような瞳で携帯画面を見つめている彼女は、カウンター越しの私の視線には気付かない。その瞳に写っているのは…六花さんにこんな顔をさせられるのは…ひとりしかいない。
私は六花さんを見つめながらぼんやりと考える。この想いはコーヒーに似ている、と。
そのままでは苦くて、砂糖を入れないと飲めない。そしてミルクを入れることや、カフェラテ、オレなどの様々な飲み方を知っていって。けれど、何をしてもコーヒーは紅茶にはならないし、カクテルにもならない。
初めは緊張して、二人では全く話せなかったのに。会話を重ねる度にミルクティーが好きだったことや、好きな人がいたこと、失恋したことなど六花さんの様々な一面を知っていって。けれど、何をしても六花さんの気持ちは変わらないし、私の気持ちも変わらない。
「ありがとう」
六花さんは毎週水曜日の午後2時頃にやって来る常連さん。私よりも5歳年上で、最初は少し怖かった。けれど、今ではたまに閉店後にお茶をしたりするほど親しくしている。
「お待たせいたしました、ショートケーキとホットコーヒーです。イメチェンですか?短いのも似合ってますよ」
「ありがとう。この前の日曜日に自分で切ったんだけど、やっぱりうまくいかなくて。結局、同僚に仕上げてもらったの。すごく綺麗でしょ?美容師なら同じ髪型に飽きたり、好きな人の好みに合わせたかったり…失恋したりしても自分で切れるから最高だよ」
私は「それはいいですね」と愛想笑いを浮かべて適当に答えた。「失恋したんですか?」なんて絶対に口にしない。そんなことは聞かなくても分かるし、彼女が好きだった人が誰なのかも知っている。六花さんの高校の同級生で、六花さんよりも背が低くて、今の六花さんと同じくらい髪が短くて、六花さんと違って既婚者の『ちひろ』さん。彼女が、六花さんの好きな人。
六花さんがちひろさんよりも先に私に出会っていたら?
六花さんが私のことを好きになってくれていたら?
私がどんなに想っても、振り向いてはもらえない。それでも、考えてしまう。自分なら幸せに出来たかもしれないなんて。そんな私の傲慢さを知らない六花さんは物憂げな表情を浮かべたまま言葉を続ける。
「高校生の頃からずっと好きでも、もう親になってる人にいつまでも恋できないよね。あー、双葉ちゃんはまだ若いし、こんな経験したことないか」
「そうですね~。そろそろ戻らないと怒られちゃうので、失礼します」
「うん。頑張ってね」
そう言って柔らかく微笑んだ笑顔が胸に突き刺さり、涙が溢れそうになる。会えて嬉しいと思ってるのは私だけなこと。好きな人は私じゃないこと。私は、恋愛対象に入っていないこと。そんなこと全部全部分かってることなのに。どうしようもないことなのに。辛い恋だとは分かってた。可能性がないことも分かってた。分かった上でも止まらなくて。
(六花さんじゃなければ…よかったのに)
胸が締め付けられるような瞳で携帯画面を見つめている彼女は、カウンター越しの私の視線には気付かない。その瞳に写っているのは…六花さんにこんな顔をさせられるのは…ひとりしかいない。
私は六花さんを見つめながらぼんやりと考える。この想いはコーヒーに似ている、と。
そのままでは苦くて、砂糖を入れないと飲めない。そしてミルクを入れることや、カフェラテ、オレなどの様々な飲み方を知っていって。けれど、何をしてもコーヒーは紅茶にはならないし、カクテルにもならない。
初めは緊張して、二人では全く話せなかったのに。会話を重ねる度にミルクティーが好きだったことや、好きな人がいたこと、失恋したことなど六花さんの様々な一面を知っていって。けれど、何をしても六花さんの気持ちは変わらないし、私の気持ちも変わらない。
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