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第一章

前世はモグラでした。

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 これはだれにも言っていないことだけど、ぼくには生まれる前の古い記憶がある。

 どうやらモグラと呼ばれる小動物で、一生のほとんどを土の中で生活する生き物だったらしい。自分の部屋で休憩したり、聴覚を頼りにエサを探したり、避難所で大きな捕食者をやり過ごしたり崩れた通路を直したりしながら、暗くひんやりとした土の中で生活をしていたけど、あるときふと光を見た。地上だ。

 視力は退化していたので何も見えなかったけど、目蓋の裏にたしかに光を感じたんだ。あったかくて、やわらかくて、たくさんの音といい匂いがする。

 この光の中で生活したい!──強くそう願ったぼくは、穴から出ていそいそと歩き回った。

 「うわぁモグラだ」「きもちわりい」と大きな生物たちがはやし立てたけど、でも地上にいるってだけで満足だった。なんてあったかいんだろう。このままずっとここにいたい。あちこちを旅したい。

 だけどぼくは忘れていた。

 モグラはエネルギー消費のはげしい大食漢だ。胃の中に数時間食べ物がないと死んでしまう。
 だけど地上では音が多すぎてエサを見つけられない。

 腹ペコのまま数時間さまよい続けたぼくは、餓死した。


 ああ神様。

 今度生まれ変わったら明るい日差しの下で生活したい。できれば餓死も捕食もされたくない。ただ平穏に過ごすこれができればそれで────。


 神様はぼくの願いを叶えてくれた。


 地上を歩き回っても平気で、水さえあれば二週間くらい生きられるくらい丈夫で、色も形もこの目でちゃんと見ることができる、「人間」という生き物にしてくれた。

 ただ、ちょっと意地悪だなぁと思うのは、人間に生まれ変わったのにまた【モグラ】と呼ばれていることだ。

 【モグラ】──とはつまり、地下深くで魔法鉱石の採掘に従事している採掘師のことだ。
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