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騎士団見学2
しおりを挟む何せどちらもシナリオ本編で描かれていた行事である。
(マスター試験はその名の通りだけど……魔闘祭典は、たしか一週間くらい続くんじゃなかったっけ? ザ、お祭りって感じの賑やかなイベントのイメージだけど)
そして魔闘祭典の一番の目玉は、闘技場で開催されるデュエルだ。
要は魔法や剣の心得がある人たちが競い合う帝国公式試合で、国民はもちろん諸外国からも多くの観戦者がやってくる。
ルザークの話によると、マイスターであるクリストファーが魔闘祭典に出席すれば箔が付くし、盛り上がるらしい。
(そういう、ちょっと見世物っぽいこと、やらなそー…)
それどころか興味があるのかすら謎である。
というか、クリストファーが自分から進んで出席しないとわかっているからこそ、リューカスさんがわざわざ来たのかもしれない。
(来年の春だと、だいたい3ヶ月後くらいか……私、どうなってるんだろう)
そもそもの話、クリストファーが悪魔と契約を結んでしまえば私の未来はかなり狭まってしまう。
クリストファーも錬金術にのめり込んでお祭りどころじゃないだろうし。
マスター試験も魔闘祭典も興味はすごくあるけれど、まずは目先のことを解決しなければ。
「到着いたしました」
ふう、と息を吐いたと同時に、副団長ラオが振り返り知らせてくれた。
目の前には、厚い石の壁に覆われた建物がそびえ立っている。
正面にはグランツフィル騎士団の団旗が揺れ動いており、風に靡いて存在感を主張していた。
「わあ……」
まるで小さな要塞をそのまま公爵邸の敷地内に収めたような造りの外観に、私は圧倒されていた。
「全員、整列!」
副団長ラオの声掛けと同時に、広場付近にいた騎士たちが一斉に集まってくる。
前もって私たちの見学が伝えられていたようで、外周担当以外は集合しているみたいだった。
(わあー……みんな動きが揃ってた。ビシッとしててかっこいい)
前世で騎士といえば、中世ヨーロッパや『リデルの歌声』のようにゲームや物語上で出てくるイメージだ。
(制服は真っ黒なんだ。これだけ揃うと圧巻だな~)
本物の騎士を大勢目の前にして、なかなか興奮が収まらない。
ぎゅっとサルヴァドールを抱きしめながらまじまじと見つめていれば、一歩後ろに控えていたジェイドがクスッと笑う。
「いかがですが、グランツフィルの騎士たちは」
「ヴォルフ?」
「あちらをご覧ください。団旗に動物を模した絵が描かれたいるでしょう」
「本当、おおかみ!」
白地の団旗には孤高の黒狼が君臨している。
そして狼の周りには、黄金の光を散りばめたように模様が添えられていた。
「オオカミの騎士なんてかっこいい! すごいねジェイド!」
早朝挨拶で遠目に騎士の姿を見ていたとはいえ、やっぱり間近だと迫力が違う。
何よりも一人一人の顔がはっきりと窺えて、より実感が湧いていた。
「お嬢様がこんなにも喜ばれるのなら、もっと早くにお連れすればよかったですね」
「ううん、いいの。お父様が行ってもいいって言ってくれたから来れたんだもん。アリア、それも嬉しかったんだ~」
「……そうでしたか」
ジェイドは少し面食らったあとで、微笑ましそうにした。
(あれ、なんか圧を感じるような……)
横からひしひしと伝わってくる視線に顔をそちらに向けると、
(いけない。整列しているのに夢中になってジェイドと話してたっ)
たった今整列したばかりの騎士たちから一斉に見つめられていることに気がついた。
「楽しそうだねぇ、アリアちゃん」
隣にいるルザークも生暖かい目を向けてくる。似たような眼差しを騎士たちからも感じて、なんだか恥ずかしくなってしまった。
整列をかけてくれたラオを見上げて「もう大丈夫です」と合図を送る。
ラオは口元に笑みを浮かべると、軽く頷いて正面を向いた。
「我らが主君――公爵閣下がご息女アリア・グランツフィル様並びに、ロザリン侯爵がご令弟ルザーク・ロザリン様に敬礼!」
ラオが声を張り上げると、騎士たちは私とルザークに向けて敬礼をとる。
思わず両手を叩きそうになったところをぐっと堪え、心の中で拍手を送った。
「アリアお嬢様」
呑気に心の手でぱちぱちしていると、不意にラオが振り返る。
「なに?」
「皆に声をかけて頂いてもよろしいでしょうか」
「え」
まさかの申し出に口端が引き攣りそうになった。
どうしていいかわからずジェイドに助け舟を求めると、耳元でコソッと囁かれる。
「主君である公爵様に代わって、なにかご挨拶をお願いいたします」
「お父様、に、代わって?」
「お客人のルザーク様がいらっしゃいますからね。公爵様もそれを見越して許可されたのですよ」
さも当然というように言われて、私はさらに困惑した。
(私が代わりって、ただの見学じゃなかったの? たしかにルザークはお客さんだけど、公爵の代わりって……!)
それってつまり、私の言葉一つで面目を潰しかねないということなのでは。それを5歳児の私に任せるなんて。
(まあ、面目とかそこまで考えているわけじゃないかもしれないけど……)
躊躇ってもじもじとしてしまっては格好がつかないので、表では平静を装って前に出る。
サルヴァドールを抱きしめたままなのは、ご愛嬌ということにしてもらおう。
「……いつも大変なお仕事、ごくろうさまです。みなさん、今日はよろしくお願いします」
大勢の人の前に立つと頭が真っ白になる。
気の利いた言葉が何も出てこなくて、無難にそれだけしか言えなかったけれど。
なんとか場に釣り合った笑みを作ることができた。
思いのほかざわっとしたのは、気のせいじゃなかった。
……あ、5歳児が労いの言葉とか、ご苦労さまって、ちょっと違和感だったかも。
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