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つばき町

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 アオイを見送ったあと、私は急いで目的地まで走る電車に乗った。

 これから私が住む場所の名前は、つばき町。
 お母さんの弟、三国叔父さんの家でお世話になることになっているの。

 三国っていうのは名前で、有沢三国(ありさわみくに)っていうんだけど、少しめずらしい名前かも。
 三国叔父さんはいま、知り合いから譲り受けたという家で管理人として住んでいるんだって。

 そこは昔、学生さんの下宿場所として使われていたみたいでかなり広いんだとか。
 その広い家に私と叔父さん、あと四人の子がこれから一緒に住むことになっていた。

「ああ……なんか緊張してきた」

 もうすぐで椿町についちゃう。
 小さいころから住んでいた町を離れて、新しい町に。
 シェアハウス……って言っていたっけ?
 同じ建物に住むけど部屋はそれぞれべつにあって、リビングやお風呂、トイレが共同になっているのをそう言うみたい。

「ふう……」

 どんな子たちなんだろう。私みたいに家を離れて暮らすということは、それぞれ同じような理由があったりするのかな。
 同い年の女の子たちでも、やっぱり緊張しちゃう。
 最初はうまくいかないこともあるかもしれないけれど、少しづつ慣れていけたらいいな。

「うまくいきますように」

 いろいろな感情でふくれあがる鼓動をしずめるように、私はゆっくりと息を吐いた。



 ***



 それからすぐに目的の駅である『つばき駅』にたどりついた。

 つばき駅に、つばき町……なんだか覚えやすい名前にクスッとしながら、私は駅を出て右を進んだ。
 静かで落ちついた雰囲気だけど、おしゃれなカフェがいくつもある、つばき商店街。
 私は車をよけながら、きょろきょろと周りを見わたして歩いた。

「うーん?」

 たしかまっすぐ進むと公園があるって聞いたんだけど。
 そこからは三国叔父さんがむかえにきてくれることになっている。

「この辺かな……」

 見慣れない町並みにどきどきと胸を高鳴らせながら、公園を探していく。

「あった!」

 黄色くて、丸いドームの遊び場が目印のつばき公園。またまた「つばき」が名前に入ってるんだ。

「あれ、きみ……もしかしてハナちゃん!?」
「三国叔父さん!」

 公園の入り口には、白いシャツを着た背の高い男の人が立っていた。
 名前を呼ばれてびっくりしたけれど、三国叔父さんだとわかって急いで近づく。

「わあ、ハナちゃん、大きくなったねぇ。電話ごしじゃまったくわからなかったけど、もう中学二年生なんだもんな」
「叔父さんは……あれ、なんか、変わってない?」
「え、そうかい? 今年でもう三十になるんだけど」

 三十……うそ、どう見ても二十代にみえるけど。
 幼いころは三国叔父さんのことを年が少し離れたお兄ちゃんだと思っていたくらいだ。

「ちょっとショックだなぁ。これでも頑張って大人の魅力を出しているつもりなんだ」
「あはは、そうだったの。ごめんなさい」

 わざとらしく胸をおさえて傷ついたふりをする叔父さん。
 面白くて、つい笑っちゃった。

 だけどよかった。
 引っ越しが決まったときに軽く電話で挨拶をしてはいたけれど、直接会うのとでは違うから。
 久しぶりに会った叔父さんは、私の記憶にある優しい人のまま。

 世界中を旅して周っていたという叔父さんとは、小学校にあがってからあまり会えなかったけれど。これからの生活を考えると、とても心強かった。

「そうそう。ハナちゃんの荷物ね、さっき届いたんだ。とりあえず全部部屋に運んでおいたからね」
「わぁ、ありがとう!」

 ゆるい坂道を叔父さんのとなりに並んで歩く。
 春の日差しが、植えられた木の葉っぱの間を通って体にあたる。
 すずしい風と合わさって、心地がよかった。

「アオイくんは、義兄(にい)さんが通っていた中学に入ったんだろう?」

 義兄さん……お父さんのことだ。

「そうだよ。今日が入寮日で、さっき別れたばっかり。まだバスの中じゃないかな」
「……そうか」

 ふと、三国叔父さんは眉をさげる。
 歩きながら私の顔をのぞき込んで、やさしい顔で聞いてきた。

「姉さんも急に海外に移動になったし、アオイくんともべつべつに暮らすことになって、ハナちゃんはさびしくない?」

 まるで小さい子に話しかける口調で、叔父さんは言った。
 心配そうな顔をしながらこっちを見てくるので、私はにこっと笑う。

「私なら大丈夫だよ。それに、私が弱音を言ったら、きっとお母さんもアオイも行きづらくなっていたと思うから。これでいいの」

 そう言うと、三国叔父さんはだまり込んでしまった。
 どうしたんだろう?
 なにか変なこと言っちゃった……?

「ハナちゃんは、えらいね。困ったことがあったら、なんでも僕に言うんだよ」

 けれど叔父さんはすぐに会話を再開させた。

「うん、ありがとう! 三国叔父さん」

 私はほっとして、叔父さんの頼りになる言葉にうなずいたのだった。
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