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第二章 躍動の5年間 初等部編

第22話 進級試験・準備 初等部5年生

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 バイエルさんの訪問から月日が流れ、5年の夏休みが来た。
 初等部最終学年ということで、進級試験が始まる。
 初等部の進級試験はダンジョンの攻略である。
 ダンジョンと言っても、俺の目標とするダンジョンマスターになるための特別級ダンジョンではなく、子どもでもクリアできる、下級ダンジョンでもよい。
 つまり、どんなダンジョンでもクリアしたという証があればよいのである。
 ダンジョンにはフロアボスと呼ばれるボスがいて、そのボスのドロップアイテムを持ち替えれば合格となる。
 しかし、進級試験とは名ばかりで、全員を安全に合格させることを目的としているため、多くの生徒が近くの市場でドロップアイテムを購入してくる。
 また、クリアするにしても助っ人を依頼することも可能であるため、一種の卒業旅行のような雰囲気となっている。
 しかし、伝説の主席でえるアネモネは1人で中級ダンジョンをクリアしてしまっている。
 彼女は、本来高等部で学習する魔闘法を1人だけすでに使えるようになっていたので、可能であったらしい。

 ということで、しっかりパーティを組んで、上級に挑んでみることにした。
 パーティメンバーは、前衛タンクに俺、前衛アタッカーにフォール君、中衛にオリビア、後衛にアネモネである。
 アネモネは助っ人という立ち位置だが、自身の進級試験も兼ねている。
 中等部はダンジョン攻略にその際のレポートが必要とされている。
 中級部も安全に配慮するために、本来であれば、下級のクリアとレポートでいいのだが、「上級へ行く」と言えば、即答で「アタシも行く」とのことであった。
 何にせよ、俺とアネモネは特級術師、魔術も攻防バランスの取れた配分としている。
 滅多なことがない限り、楽勝でクリアのはずである。
 心配なのは、オリビアとフォールの2人であったが、どうやら、俺が大学でトレーニングしている間のトレーニングで、オリビアは中級術師として、フォールは上級術師として、魔闘法をマスターしていたようだ。実戦においても、ラースと組み手をすることで、鍛えたり、フォールの血統魔術である「冰剣」が、かなり強力らしい。
 冰剣は魔術で杖の周りに強固な氷の剣を作り出し、それで戦闘するスタイルのことだ。
 ここで重要なのは、この冰剣はオーラを纏えることにある。
 市販の武器であれば、オーラを極めた俺にとってはオーラを纏わせることができるが、かなりのマナを消費する。
 マナを無駄に消費し続ければ、周囲のマナ枯渇や、自身の疲労に繋がるので、回避したい。
 しかし、この、冰剣は実は誰にでも作ることができた。
 ただし、上級以上の魔力が必要だが。
 そして、冰剣を作る術式を杖に付与した状態でないと使えない。
 杖一本で剣を持ち歩けると考えるとかなりお得である。
 是非とも付与すべく、アネモネ師匠に相談していた。

「できないことはないけど、杖の容量が心配だね。アタシだったら、大抵の魔術を付与できるけど、ライの杖には16節までの術式しか付与できないからギリギリね」

 そう、杖には容量が決まっていて、その容量までしか付与できない。全て埋めてしまうと、消すには時間が5分程度かかり、戦闘中にはできない。
 俺の杖は16節までで、すでに、ラージファイア8節とライトヒール4節を付与しており、短剣程度の冰剣3節を追加付与するともうほとんど何も入らない。
 今回のダンジョン攻略には、土の大魔術と火の下級魔術と水の小魔術と、ミドルヒールは欲しい。
 欲を言えば、氷大魔術やラージヒールもあれば安心だろう
 氷魔術もオーラにできるが、水の上位版というだけでマナ変換効率が悪く魔闘法としては通常使わない。
 ちなみに、風の上位属性に雷が存在するが、身体能力が上がりすぎてコントロールが難しいとされている。
 それは、他の魔術においても同様のことが言える。
 そこで、前述の魔術構成にした場合、土大で8節、火下で2節、水小で2節、中級治癒で4節、大氷なら12節、大治癒なら8節、の容量が必要となる。
 最低でも16節、最大で36節必要である。
 杖は普通、2.4.8.16.32.64…と増えるので、36節入れるためには、64節の超高級な杖が必要となる。
 中古相場でも10万丸はする。
 新品だと最低でも15万丸というところだ。
 これで、中級ダンジョンクリアメンバーの装備というところだ。
 しかし俺の杖はピエトロ工房の3万の杖。
 拡張機能がついている。
 杖の柄にある触媒を高級な素材と交換することで、容量アップができる。触媒の値段は3万で32節5万で64節だ。
 まぁ、今の手持ちにそんな大金はないが…。
 ちなみにフォールは血統魔術で、術式は血に付与されているため、冰剣を作るだけなら杖はいらないので、容量には若干の余裕があるそうだ。
 オリビアは中級魔術くらいまでが、実用に耐えるレベルらしく、ライトヒールと、中土魔術アースアタックだけを入れていくそうだ。

「そうなんだよね。それに、俺今回はタンクでしょ?だから、土剣を作るか、土盾を作るかにしようかと思ってるんだ」

「なるほどね。土なら、土オーラとの相性も良いものね。わかった。それじゃ、バイトして、杖を買いましょう?」

「バイト?なんかあるの?」

「ええ、とっておきのバイトだよ!」

「わかった。やってみようか」

 俺たちはバイトをすることになった。
 フォールも呼んできたら効率があがるらしい。
 オリビアだけ仲間外れ…。かわいそう。
 多めに働いたら、一緒に買ってやろう。

「ついたよ」

「ここって…」

 マナ抽出所じゃ?

「マナ抽出所?」
 フォールが尋ねる。

「そうだよ。今の時期、暑いからマナがいくらあっても足りないんだってさ。だから、ここは上級術師を常に求めてるのさ。困っている人を助けて、お金をたっぷり稼ぐ。かんぺきだろ?」

 そういって、ズイズイと中へ入っていった。
 市役所のような雰囲気のロビーに雑多な人種がひしめき合っている。
 裕福そうなドワーフに、屈強なエルフ、3mはありそうな幼い顔の巨人、子どものような身長で無精髭を生やした小人。全員同じ目的である。
 国の重要拠点、竜脈に集まった労働者である。
 その全員が3箇所に分かれて集まっている。
 オープンと同時にダッシュが始まった。
 おそらく、本日の職場争奪戦なのだろう。
 ここにパパンも入っているのかもしれない。
 俺たちは、焦ることなく、VIPルームだ。
 上級は人数が少ないため、焦る必要はない。
 むしろ、優遇される。
 担当に案内されて、優雅に現着する。
 仕事と言ってもやることは簡単、2本のレバーを持ち、左のレバーで竜脈からマナを吸い上げ、右のレバーにマナを送るだけの仕事。
 魔闘法を極めた俺たちには造作もないことだった。

「ライ、わかってると思うけど、自重しなさい?機械を壊すとややこしいことになるよ?」

「オッケー。どのマナを注げばいいかな?」

俺もアネモネも魔力が成長するので、陽も隠も1000を超えている。

「ライはもともと陽なんだから、火と風を1000mpと光を500mpにすればいいよ。手元のメーターを見ればわかるでしょ?」

 そんなやりとりをしながら、午前中の4時間で俺たちは60万mpものマナを抽出した。
 同じくフォールは34万抽出した。

 そして、俺は6万丸という大金を得た。
 1mp0.1丸という換算にはびっくりした。
 しかしながら、びっくりするほど退屈な仕事だった。
 マナさえ送ればおしゃべりし放題。
 両手が塞がるので他には何もできないが。
 アネモネはどうやら、ちょくちょくバイトをして、小遣いを貯めていたらしい。
 およそ、子どもが持ってていい金額ではないが、さっそく、5万の触媒を買う。
 どうやら、珍しい鉱石らしい。
 触媒には、珍しい鉱石や、魔物の一部を用いる。
 そう、魔物が存在するのである。
 ダンジョンというところは、使われていない竜脈のことらしい。
 そこに生物が年単位で長時間棲息すると、魔物と化すそうだ。
 そして、現在使われている竜脈はヒトがダンジョンを踏破し、使えるようにしたものも含まれている。
 この国ジンパッグは特にダンジョンの多い国として知られており、世界中から冒険者が訪れている。
 その結果、人種のるつぼと化し、先ほどの多種多様な人種構造となったとされている。

「さて、触媒も手に入ったことだし、付与しちゃうね?何がいい?」

「そうだなー。4種の大魔術と大治癒は欲しいかな。闇魔術は何か付与できる?例えば重力魔術とか!」

「うーん…」
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