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第二章 躍動の5年間 初等部編

第14話 神の使徒アリエル 初等部1年生

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 天使アリエル。
 絶世の美貌と知性を兼ね備えた神に近い存在。
 翼があるわけではないが、ヒトならざるものであることは一目見た瞬間からわかる。
 存在感が違う。
 美貌が違う。
 声音が違う。
 所作が違う。
 ヒトと同じようなシルエットの中に、神性が凝縮された生物であることが分かる。

 その存在がそこにいた。
 前回のように時を止めるのではなく。
 アネモネもその存在を認知した。
 もちろん、その存在感から、ただものでは無いことをも認知している。
 すると、

「こんにちは。ヒトの子よ」
  
 アリエルの声だ。
 思わず聞き惚れてしまう。
 優しく包み込んでくれる声は、いつまでも聴いていたい。
 って、

「誰だ?お前?」

「あれ?こんなノリでやってみたかったんだけど、ダメだった?」

「そりゃー、そうだろ?前に会ってからかなり時間はたったけど、ずっと待ってたんだぜ?」

 アネモネが困惑した顔を向けてくる。
 
「あぁ、ごめんごめん。コイツ、俺の知り合いなんだよ。天使なんだってさ。昔、世話になったことがあって、助けてもらったんだよ。さっき言った、マナ暴走を止めてくれたのはコイツなんだよ」

「えーっと、その、天使…様?が助けてくれたのね?本当に天使様なんだったら、もっと丁寧に話したほうがいいんじゃないかな?」

「はじめまして、アネモネ・アフロディーテさん。私は気にしないよ。なんなら、フレンドリーにしてくれた方がうれしいかな。」

「アタシの名前知ってるんですね」

「まぁ、こんなでも天使なのでね。世の中の大抵のことは知ってるよ。何でも知ってるわけではないけどね。私はアリエル、天使アリエルよ。仲良くしてね」

 どこかの猫のようなセリフを言いながら、アリエルはおどけて見せた。

「そうなのね。よろしく。それで、今日はどのようなご用件ですか?」

「あぁ、それそれ、緊急案件よ!それも、あなたたち2人に関係のある」

「え?アタシも?」

「ええ、そうよ。ライの転生の正体がわかったのよ」

「ん?ん?ん?ライが転生?」

「あれ?聞いてない?ライは転生者なのよ?あれ?言ったらまずかった?」

 まずいですね。
 あんまり前世のことは話したくなかったし、俺もアネモネが好きだと公言している。
 ロリコンと言われてしまう。
 なんなら、アネモネが6歳の時から好きだと言っている。
 完全にアウトだ。
 アリエルさんよ、なんてことをしてくれんだよ…。
 だからと言って…

「いえ、まずくはないですが、後々困ります」
 最大限譲歩した。

「あらら?やらかしちゃったね?ごめーん。ライ君!」

「もういいよ。どう説明するかは後で考えるから。それで、緊急案件ってなんなの?」

「そうそう、それでね、ライ君の転生の原因がアネモネちゃんのご両親だったことがわかったのよ。だから、2人がいてて助かったよ。でも、キミって、私が探してるときに都合よく大魔法ぶちかます子だね。おかげで毎回助かるけどね。ってか、隠の魔力で魔法は禁止って言ったよね?」

「あぁ、ごめん。でも、これって、魔法じゃなくてオーラだから大丈夫じゃないの?確か前回は術式を通さないで魔法を発動したからダメだったんだよね?…あっ」

「語るに落ちたね。そう、広い意味では、マナをオーラに変換するのも魔法なんだよ。術式を通さないからね。厳密には、魔闘士なんかは全員魔法使いになるんだよ。だから、本来は子どもには教えないんだけど、大きな魔力を持った子どもには逆に推奨してるんだ。ゲートの扱いが上手くなるからね。実際、キミも今の数分でマスターしたみたいだしね。まぁ、いい師匠に出会えたようで何よりさ。各国では上級以上の魔力を持ってるヒトにオーラの教育を施してるんだよ?」

「あ、アタシはそれパスしたんだ。特級であることを、隠すために。パパとママに相談して、パスできるようにしてもらったんだ」
 アネモネは、最近、パパ、ママと呼ぶようになった。
 本当の家族になれたみたいで嬉しい。

「あー、それで、パパはやたらと教授のことを警戒してたのか」
 納得した。
 やたらと無口だからどうしたのか心配してたんだよな。

「さて、色々わかったとこで、本題ね。ライ君が元々住んでた惑星は地球というんだ。その惑星がある宇宙の担当天使であるアルターイがライ君を転生させようとしたのよ。そのために、この惑星に住む大学教授のミハエル・ハインリッヒをそそのかして、ゼルエル・アフロディーテとシエン・アフロディーテに召喚転生術式を発動させたのよ。それで、召喚転生したのがライ君ってわけ」
 
「っ!お父さんとお母さんを?そそのかして?どうしてそんなことを?」

「ごめんね。ご両親を巻き込んでしまったね。理由は、私の暗殺のためらしいんだ。色々と未確定なことが多いから、明確には言えないけど、ライ君の召喚転生が私を殺すことに繋がるのよ。隣の宇宙のアルターイはちょっとワケありでね。天使というか、『自称天使』なのよ。本当は10人しかいないのに、11人目を名乗って、宇宙まで作ってしまったの」

「びっくり展開すぎるけど、御伽話で聞いたことがあるような?そこまでできるなら、もう天使でいいんじゃないの?」

「そう、私達10人の天使や神でさえも認めているのに、彼は10人にこだわりたいらしいのよ。ジェラシーってやつ?」

「何がジェラシーよ!?そんなものの為にアタシのお父さんとお母さんは死んでしまったの?」

「そうだよね。私は狙われてる側だけど、巻き込んだことには悪いと思ってるのよ?ごめんなさい。でも、やっぱり、ご両親が亡くなっていることは、知ってたのね?」

「そりゃ、そうでしょうよ?もう5年も行方不明なんだから!流石に子どものアタシでも気づくよ!」
 そんなこと考えてたんだな。
 言ってくれりゃいっしょに悩んだのに。
 まぁ、でも、亡くなったと認めたくはないから、言えないか。
 力になれなくて情けない。

「気づいてあげられなくて、ごめん」

「ライはいいの。悪くないんだから。逆に、あなたと出会わせてくれた両親に感謝もしてる。でも、アルターイは殺す」
 明確な殺意を感じる。
 アネモネは続ける。
「今までアタシは勉強のためや、ライの世界一って夢のついでに強くなってきたけど、目標ができた。アルターイを殺す」
 アネモネは、見たことがない冷たい表情をしていた。

「わかった。止めはしないよ。キミ達にはその権利も資格もある。そう、資格もあるの。」
 意味深に切るアリエル。
 シリアスも美しい。
 見惚れてる場合ではない。

「資格?」
 呟くアネモネ

「そう、あなた達は神殺しになれる素質があるの」

「神、殺し?」

「ええ、文字通り、神を殺せるわ。具体的には、魔力が1万を超えた者のことを指すわ。」

「アタシ、9500だよ?」

「ええ、生まれた時の数値でしょ?神殺しは魔力が成長するのよ。ライ君、心当たりない?」

「あ、俺の陽は中級だったのに、この前測ったら上級になってた」

「そう、神殺しは成長できるのよ?」

「でも、アタシが神殺しとは決まってないのでは?」

「あなたの父ゼルエルも母シエルも特級術師だったのよ。特級術師がどれくらいの確率で生まれるか知ってる?」

「1億分の1って学校で習いました」

「そう、それが2人で結婚したのよ?世界で80人しかいない超人がよ?生まれてくる子どもがどんな運命を背負うのかなんて説明がいる?」

「っ!!そうですね。少し考えればわかることでした。それなら、好都合です。アルターイはどこにいるんですか?」

「地球、ライ君の故郷よ。ヒトのふりをして紛れ込んでるわ。おかげで探すのに時間がかかっちゃったけどね」

「そっか。ずっと探してくれてたんだな。アリエル、サンキュな。アネモネが戦うなら俺も戦うよ。もう、ただの同居人じゃないんだ。アネモネは家族なんだ」

「分かったわ。邪魔はしない。でも、手伝えないの」

「なんで!?あなたも命を狙われているのでしょう?」
 アネモネが吠えた。

「そう。でも、さっきも言ったようにアルターイは天使として神も認めているの。つまり、神はアルターイを殺す気が無いのよ。私達天使は神意の執行者、使徒よ。神の考えには背けないの。自分の命が危なくても。もちろん自衛はするわ。だからあなた達に話したのよ。でも、積極的には手伝えないの。ごめんなさい」

「事情はわかりました。それじゃあ、助言をください。」

「ええ。そうね。そのために来たのだから。まず、あなたたちは世界一の魔術師になりなさい。ライ君の目標でもあったわね?」

「おう!言われなくてもなってやるよ」
 力強く肯定した。

「それじゃ、以前教えたように、魔闘士大会優勝、魔術師大会優勝、ダンジョンクリアランキング1位は最低条件ね。それから、色々と複雑な魔術も学んで魔法をマスターしてもらうわ。最終的には魔法を使って地球へ行き、アルターイを、殺す」

「壮大な計画だな!でも、やりがいがありそうだ」
 完全に魔力の効果で気持ちが大きくなってるな。

「アタシもやりとげる!」
 アネモネも闘志を燃やしている。
 復讐がきっかけだが、アネモネと共に世界一を目指せるのはうれしい。
 
「アネモネ、全てが終わったら結婚してくれ」
 あ、コレ、フラグじゃね?
 やべっ、やらかした…。

「もちろん、アタシもそのつもりよ」
 無事、成就させてくれ、神様!

「あっ、アネモネ、ライ君の中身は42歳のおっさんだから気をつけてね。エッチなことされてない?」
 あ、速攻でフラグ回収された…俺、死んだな。

 こうして、アリエルと念話ができる魔術を教えてもらい、解散となった。
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