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第二章 躍動の5年間 初等部編

第9話 俺の魔術構成 初等部1年生

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 杖は手に入った。
 術式付与のメドはたった。
 あとは、構成を考えて付与するのみ。
 しかし、無数にある魔術の組み合わせは無限と言っても過言では無い。しかし…

「ライは初心者なんだから、小規模の2つだけにしておいた方がいいよ?また、いつでも付与はしてあげるから、使いこなせるようになったら、また、おいで」

 そこで、アネモネに相談すると即決で決まってしまった。
 というか、俺の魔術の技能だと初心者用の最小限の魔術じゃないと、マナ暴走した時に危険なんだそうだ。
 と言うことで、俺は陽の魔力であるため、小火弾ファイアショットと小風弾ウインドショットの2つを付与してもらった。
 使いこなせるようになれば、どんどん追加で付与してくれるらしい。

 魔術は、各属性に四種の基本魔術がある。
 違いは体積だけで、威力は込めたマナの量に依存する。
 基本魔術はショット、アタック、ラージ、ヒュージと分かれており、全て球状をしている。
 若干の形態変化はできるが、大幅な変更は別の術式が必要となる。
 詠唱と使用マナは以下の通りである。

 火属性
 小火弾ファイアショット 2節 10mp
 火弾ファイアアタック 4節 20mp
 大火弾ラージファイア 8節 40mp
 巨大火弾ヒュージファイア 16節 80mp
 ※水ウォーター、風ウインド、土アース

 そこで気になるのがマナ暴走という現象だが、どうやら、大規模魔術を使用するときに起こりやすいらしい。
 イメージとしては、自分の体を門(ゲート)として扱うらしいのだか、そこから自然界のマナを吸い上げ、ゲートを通す。
 そして、術式というフィルターに通すことで、魔術ができあがるらしい。
 マナを通しすぎるとゲートが閉まらなくなり、すい続けてしまった結果、マナ暴走が起こり、周囲で大きな被害が起こる。
 どうやら、赤ちゃんの時にやらかしたのは、これをとんでもない規模でやらかしたから、国家が転覆するほどの規模だったのだと予想できた。
 ほんと、なにやってんだか…。
 知らなかったんだし許されるよね?

 四属性が基本で、闇と光があるが、この二つは概念マナとなるため、オリジナル魔術を作る必要がある。
 光は精霊召喚や、治癒、バフ魔術が得意。
 闇は重力や、悪魔召喚、デバフ魔術が得意。

 中でも生活に影響があることから、治癒魔術の研究は進んでいるため、既存の術式が唯一ある。
 しかし、まだまだ研究途上で何でも治癒できるわけでは無い。
 自然治癒力を高める魔術がメインで、部位欠損などは既存魔術として確立されていない。

「ライは陽の中級だったよね?それじゃあ、小魔術もすぐに使えるようになるから大丈夫だよ。アタシは1日でできるようになったよ。でも、出力よりブレーキの方を意識した方がいいかな。より大きな魔術を使うには、ブレーキの方が重要だよ。失敗するとマナ暴走するからね。吸い込んだマナが多ければ多いほど暴走の被害は大きくなるしね。」

 ちょっと先輩っぽく振る舞うアネモネもかわいい。

「はーい。それじゃ、俺も1日でマスターするよ!だって、世界一の魔術師になる男だからね!」

「はいはい。アタシは応援してるけど、ヘタな上級術者が聞いたら怒り出すからそのへんにしときなよ?まぁ、でも、世界一を目指すなら具体的なイメージ力を磨くことね。それじゃアタシは行くね」

「ありがとう。マスターしたら付与よろしくねー」

 アネモネは手をひらひらさせながら去っていった。
 具体的なイメージか。
 実は水魔法を使った時に化学的なアプローチが有効であることは体験済みなのである。
 どうやら、マナ工学が発展しすぎているこの惑星では科学はあまり発達していない。
 中学の理科程度の知識しかない。かなり初歩的なところでとまっている。
 困ってないからいいんだろうけどね。
 実際に生活水準は地球と比べても、そこまで差がないし、料理も美味しい。
 まぁ、とにかく実験だ。
 やってみよう。

 俺は学校の魔術練習場にいった。
 早速購入した杖を使って小火弾(ファイアショット)から試してみた。
 予想では燃焼ガスを生み出してそれに着火し、酸素と結合するイメージだ。
 大きさは直径10センチをイメージ。
 空気中からマナを吸い取り、必要量が溜まったところで、手の上に射出。

「できた」

 やはり、チョロい。
 予想通りだ。

 次に小風弾。
 台風は気圧が関係することがわかるが、小さな風の玉なんて、自然界に存在しない。
 よって、これは、具体的な完成イメージだけで仕上げなければならない。
 同じく10センチの球、風は伝説の忍者が使いそうな螺旋をイメージしよう。

「…螺◯丸!…できた」

 冗談みたいに簡単だ。

「ライ、あなた天才じゃない?さすが、私が惚れた男ね」

 どこからともなくアネモネが現れた。

「アネモネ?ずっと見てたの?」

「えぇ、だって心配だったんだもの。でも、1人で成し遂げてほしかったからこっそり見てたの」

「そっか、ありがとう」

 やっぱり、いい女だなぁ。
 その後、俺はニヤっとしながら次の実験を進めた。
 そう、実験はまだ、続きがある。
 そっと右手の球と左手の球を融合させた。

「えっ?」

 アネモネが呟く。
 火と螺旋状の風を合わせたらどうなるのか?
 熱せられた風が上昇気流となり、螺旋状の柱となる。
 火炎柱(ファイアピラー)の完成だ。

「えっ?えっ?何が起こったの?アタシは2つしか杖に付与してないよね?まさか、複合魔術?いえ、それも付与してないからできないはず。まほう…?」

 どうやら混乱させてしまったようだ。
 おそらく、混合後の知識がないと、失敗に終わるのだろう。
 俺の前世は教員だ。
 専門知識こそ少ないが、国立大学を卒業できる学力はある。

「いや、混合魔術だよ。熱せられた空気が上昇することを知っていたから具体的なイメージができたのかもしれないね」

「えっ?あっ、そうなんだ。初めての魔術で混合させるなんて、ムチャクチャね」

「アネモネもやってみなよ?」

「そ、そうね。やってみるね」

 そういうと、俺と同じ工程でやってみたが、うまくできなかった。
 どうやら風小弾の風の螺旋が弱いから柱状にならずに散ってしまうのだろう。
 教えてあげてもいいけど、アネモネのプライドを傷つけそうだったから、そっとしておいた。
 その後、帰宅すると夕飯時だった。
 パパンも帰っていたので、杖を見せると驚いていた。

「これって、型落ちはするけど、ピエトロ工房の杖だろ?3万丸はするんじゃないか?」

「えっ?私は1万丸しか渡して無いわよ?アネモネがついていってくれたんでしょ?」

「はい。ライのために少し値切ってみたら、買えちゃった」

 年月とともにアネモネはパパンとママンとの距離を少しずつ埋めてきている。よきかな。

「そうだよー。アネモネがんばったんだよー」

 俺は両親との距離感になやんでいた。
 オッサンが1年生キャラとか、痛すぎる…。
 名探偵は高校生なのに、俺はオッサンだ。

「その杖を使って早速練習したんだけど、ライったらすごいのよ!?2つも魔術を一発で成功させるし、混合魔術まで使えるのよ!?しかも、その混合魔術は術式付与してないものなの。あんなフレイムピラー初めてみたわ!」

 そう、通常、術式から混合する場合は、「混合ロス」と呼ばれる分のマナを消費する。それは、合成する魔術の、合計マナの半分が混合ロスとして必要になる。
 今回は魔術を2つ生み出し、それを無理矢理合成させたので、混合ロスは発生しない。この方法はお得に見えるが失敗した時の効果が予測不能のため、行わないのが慣例となっている。
 人によって成功したり、失敗したりするので、再現性が低く、明確な方法が確立されていないようだ。

「きゃー!!すごーーい!やっぱり私の子ども!天才!アースもすごいけど、ライもすごーい!これからもがんばってね!それに、アネモネも杖の値切りありがとう!練習まで付き合ってくれたのね!大好き!」
 やはり、ママンは喜びすぎるとキャラ崩壊する。

「混合魔術は失敗時が危険だからなぁ。あまり褒められたものじゃないぞ?」

 ママンは大喜びで、パパンは慎重派。

「なので、学校の練習場でしたよ。何かあっても助けてもらえるしね。それに、まだ小火弾と小風弾の2つしか使ってないから大丈夫だよ」

「そうか、それならいいが、危ないことはしてはいけないぞ?」

「はーい。わかりましたー!」

 こうして、魔術でデビューの日は終わっていった。
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