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幼馴染のアルバート

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「ようこそ、ステラ様。玄関からではなく、バルコニーからということは、また王におこられたんですか?」

 私を迎えたのは幼馴染のアルバート・ホーリー。2歳年下の侯爵家の長男。お父様とホーリー侯爵が学友であったことが縁で、小さいころからよく一緒に遊んでいるかわいい弟のような存在。肩にかかるほどの柔らかなサラサラの銀髪に目の色は綺麗なエメラルドグリーン。肌は白く、体の線が細いため女性と間違えてもおかしくはない容姿をしていて、かっこよくもあり、綺麗でもある。私から見てもちょっとうらやましくなるくらい美人さん。

「アル! 聞いてよ、お父様ったらね」
「話の前に、まずは部屋に入ってください。今紅茶を淹れますから」

 アルの部屋にはお父様から叱られるたびに毎回のように来てしまう。アルは聞き上手でちゃんと私の話を聞いてくれるし、間違っていることはちゃんと指摘してくれる、年下なのに本当にしっかりしていい子。

 さすがに王女の私が一侯爵家に入り浸っているとなると対外的な目があるのでよくないことはわかっている。だから、こっそりバレない様にベランダから直接お邪魔しているのだ。アルも最初は驚いていたけれど、なんだかんだ受け入れてくれ今では待っていましたとばかりに受け入れてくれている、と思う。

 そんなアルが私のことを見るなり眉を顰め、私の右頬に手を当てる。

「また何かやらかしましたか? 少しケガしています」

「ホント? 全然気づかなかったわ。もしかしたらここに来る最中に葉っぱとぶつかっちゃったから、その時かしら」

 少し前までは私の方が身長が高かったのに、今ではちょうど目線が正面で合う。アルも成長したなぁと密かに感慨深くなる。

「ちゃんと気を付けないとダメですよ。今治しますから」

 少し呆れたような顔で笑い、同時に頬に当てていたアルの手が明るくじんわりと温かくなった。

 スキル「回復」
 アルは比較的珍しい回復スキル持ちで、昔から私がケガをするたびに、どんな小さな傷であってもスキルを使って治してくれる。

 いろいろ遊んでケガをしやすい私にとってはもはや歩く救急箱のよう。

「うん、大丈夫。傷は残っていませんよ」
「もう、このくらい自然に治るのに。アルは心配性なのよ」
「ステラ様は王女なんです。ステラ様が傷ついたとあればみんな心配しますよ。だから大切にされてくださいね。それで? 今日はどうしました?」

 淹れたての紅茶のカップをテーブルに置くとアルが問いかけてくる。

「そう、聞いてよ! 今日もまた縁談の申し込みがあったの。もちろんお断りしたわよ。だって相手はあのカーゾン公爵家の長男よ。二の腕とかぷよぷよじゃない!」
「ぷよぷよは言い過ぎです。あのくらいが一般男性の平均かと。むしろ文官家系のわりにはよく鍛えられているなと思います。まぁステラ様好みの筋肉までは程遠いですけど」
「とにかく、お父様が持ってくる縁談って全然私好みじゃないのよ。……どこかにいないかしら、私好みの筋肉を持った強い人」
「前から思っていましたがステラ様はなぜそんなに筋肉にこだわるのですか?」

 筋肉と強い人にこだわるのは理由がある。
 私は一応王女なので小さいころからたくさん絵本を読んできた。それらの絵本では決まって主人公の女の子がピンチの時にヒーローが颯爽と現れ悪者を退治したあと、恐怖で立てなくなった女の子をお姫様抱っこして甘いセリフで女の子をメロメロにさせるのだ。

 私だって男性から守られてみたいし、お姫様抱っこもしてほしい。しかし、現実はうまくいかない。私の持つスキル「パワーアップ」のせいでその辺の男性よりだいぶ強くなってしまったのだ。地方への視察に向かう途中、馬車が山賊に襲われたが、護衛の兵士よりも早く気が付き一人であっという間に倒してしまった。

 そこで私は思った。私より強い人だったら私が倒す前に敵を倒してくれるのにと。

「意外と乙女なのですね」
「なによ、いいでしょ。ねぇ、アルは知らない? そういう強い人」
「そうですね、心当たりはあります。ただ……事情があり今すぐにというのは難しいので少々お時間いただきたいです」
「ホントに? さすがアルだわ、ありがとう。いつになってもいいから是非紹介して!」

 私の力をよく知るアルが言うならきっと間違いない。こんなチャンス絶対に逃せないから、明日すぐにでもお父様に伝えようかしら。良い人が見つかりそうだって。





 そう思っていたのに。


「ステラよ、結婚相手が決まったぞ。いつまでたっても縁談を断るからわしが決めてやった。これは王命だ。よいな」


 ちょっと待って、どういうこと――?

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