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魔王国編 第4章 その国を守る者

シュファニーの両親

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 ハルベルトによる僕を暗殺計画の当日。僕はシュファニーの両親、つまり上流貴族フェリエール家の当主クレイとその妻ルアと向かい合っていた。

 場所はフェリエール寮にある彼らの自宅の一室だ。領を統治する機関もそこに集中しているため王宮ほどでないにしろかなりの広さだ。

 僕がわざわざ半日も馬車を走らせた理由は二つある。

 まずは彼らからシュファニーについて話したいことがあると手紙が届いたことだ。シュファニーは死んだことになっており、僕も現在それを否定していない。彼女の平穏を守るためには、彼女を貴族に戻すことはできないのだ。
 しかし、フェリエール家の2人にはそのことを話すべきだと思い直した僕は、彼らに会うことに決めた。

 そして二つ目が最も大切な理由だ。
 この面会を取り持ったのが、第一王子アルエフだということだ。
それはつまり彼はこのフェリエール家内で僕を暗殺するつもりだということを意味する。

 アルエフ等の動きは把握しているが、この案は確かに効果覿面だ。
 僕が最も大切にする、いや、彼らからすれば大切にしていたシュファニーの両親に危害が及ぶ可能性がある中で、僕は全力を出すことができない。

 まあ実際は、どうであれ彼らは勝利を確信していることだろう。

 しかし、ここで一つ気になることがあった。

 シュファニーの両親は、この計画に加担しているか否かである。

 アルエフがフェリエール家に手紙を送ったことはわかっている。しかしその返事の内容は把握していないのだ。
 
 もし計画に加担している場合はいい。その場合はアルエフ達がフェリエール家の面々を傷つけることはないだろう。
 また、僕も2人を責めるつもりもない。彼らからしたらシュファニーは僕が殺したようなものなのだ。大切なモノを傷つけられた人々は、皆等しく復讐する権利を持っているから、彼らを僕が恨むのは筋違いというものだ。

だから問題はアルエフの申し出を断っていた場合だ。その場合アルエフは国を裏切ったなどとして、フェリエール家の人々も見境なしに僕もろとも殺しにくるかもしれない。
 そうなれば、僕は何百人とフェリエール家の関係者を守りぬかなくてはならない。それは簡単なことではないだろう。

 果たして、どちらだ?

 
 思考を巡らせていると、長机を挟んで座るシュファニーの父親、クレイは重苦しそうに口を開いた。

「・・・シュレイ様。私は貴方様に謝罪しなくてはなりません。忠義よりも憎しみが勝ったことを、どうかお許しください」

 良かった。
 どうやら前者らしい。

 僕は優しく微笑みながら答える。

「許すさ。それが「魔呼人」に向けられた憎悪でないのなら、いくらでも」

 そこで突然大きな音を出して四方の壁が壊された。何らかの魔法で粉々にされた破片があちこちに飛び散る。
 そして何百という武装した兵士が乱入して来る。

「シュレイ!貴様はここで殺す!」

ハルベルトの叫び声が聞こえた。

「まさかここまで用意周到だとはね。後者だったら厳しかったよ」

僕はこちらを睨むハルベルトに向かってさらに言い放つ。

「でもね、君の負けだよ。ハルベルト」



 

 
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