56 / 64
魔王国編 第3章 復讐の方法
独裁者
しおりを挟む
誰もが、耳を疑った。
3年ぶりに現れた少年が、突然王になると言い出したのだ。
もちろんシュレイは王族であり、王位継承権は所有している。
しかし、だ。
彼はまだ10歳。現実的に王が務まるはずがない。
いや。
それ以前に、彼は「魔呼人」なのだ。そんな厄災の象徴が王なっていいわけがなかった。
だが、それを知った上で少年は言い放つ。
「最初に言っておくけど、反対するやつは牢屋行きだから」
みな愕然とする。
急に何を言い出すのだと笑いだすこともできない。それほど、目に見えない恐怖が、シュレイからは放たれていた。
少しして。
状況を理解した第一王子アルエフは、声を荒らげて言った。
「馬鹿言うな!突然現れて何を言いやがる!厄災の象徴が!お前など魔に食われて無残に死んでればいいんだよ!」
その言葉に、復讐者が、怒りを覚えることはなかった。
すでに彼は、そのような段階にいなかったのだ。
だから、彼はたった5文字の言葉を発した。
それだけで、こと足りた。
「・・・ガブロディア」
突然。
空間が歪み、巨大な純白の虎が現れた。
複数の悲鳴が上がる。王族や貴族たちは腰を抜かして倒れこみ、護衛たちは膝をガクガクと震わせながら立ち尽くしている。まともに相対しようとしているのは数人だ。
その虎は咆哮をあげながら会議室内を歩きまわり、威圧を放っている。
「デュースと約束しちゃったし、殺しはしないけどさぁ、まあ、やろうと思えばできるってことがわかってもらえればいいのか」
王宮魔術師団服師団長ハルベルトは、戦慄する。
「まさか!あの時の、反逆者は!」
「うん僕だよ。まあそれはそれとして、つまりさ、今からやろうとしているのは、僕の独裁ってわけ。この国は僕のものだって言っているの。分かる?で、戦力的に君らに拒否権はなし」
「そんなこと。国民が許すわけがない!」
シュレイは、静かに言う。当たり前のことを、子供に教えるように。
「だから、別にそんなことどうでもいいんだよね、許すとか許さないとか。僕がやりたいからやる。それだけのことだよ。あぁ、あと、許されないとしてもそれは僕じゃないんだよね」
「はぁ?」
ハルベルトは思わず聞き返してしまう。
「だって前国王は、まだ死んでないよね。これからも形だけはアイツが王だということにしてしまえば、全部あのクソ親父の責任。だから国民の非難を浴びるのは僕じゃないってこと」
誰もが、あまりの非道に言葉を失う。
最悪の独裁者でありながら矢面には立たない。
しかしそれは、彼の矛盾の現れでもあった。
彼には、どうしても守りたいものがある。復讐者であろうと誓ってなお、守りたいものが。
シュファニーという、1人の少女だ。
シュレイが「魔呼人」であり、かつ国をあらぬ方向に導いている張本人だと知れれば、彼の味方をするシュファニーまで非難されてしまうかもしれない。
だから彼は、前王に罪をかぶってもらうことにしたのだ。
それは、決して弱さなどではなかった。
しかし、それに気付けない少年は、それでもこう言うしかなかった。
「そうだよ。僕は復讐者であり独裁者であり災厄そのものだけれど、自分の日常は失いたくない、ただの弱い子供なんだ」
3年ぶりに現れた少年が、突然王になると言い出したのだ。
もちろんシュレイは王族であり、王位継承権は所有している。
しかし、だ。
彼はまだ10歳。現実的に王が務まるはずがない。
いや。
それ以前に、彼は「魔呼人」なのだ。そんな厄災の象徴が王なっていいわけがなかった。
だが、それを知った上で少年は言い放つ。
「最初に言っておくけど、反対するやつは牢屋行きだから」
みな愕然とする。
急に何を言い出すのだと笑いだすこともできない。それほど、目に見えない恐怖が、シュレイからは放たれていた。
少しして。
状況を理解した第一王子アルエフは、声を荒らげて言った。
「馬鹿言うな!突然現れて何を言いやがる!厄災の象徴が!お前など魔に食われて無残に死んでればいいんだよ!」
その言葉に、復讐者が、怒りを覚えることはなかった。
すでに彼は、そのような段階にいなかったのだ。
だから、彼はたった5文字の言葉を発した。
それだけで、こと足りた。
「・・・ガブロディア」
突然。
空間が歪み、巨大な純白の虎が現れた。
複数の悲鳴が上がる。王族や貴族たちは腰を抜かして倒れこみ、護衛たちは膝をガクガクと震わせながら立ち尽くしている。まともに相対しようとしているのは数人だ。
その虎は咆哮をあげながら会議室内を歩きまわり、威圧を放っている。
「デュースと約束しちゃったし、殺しはしないけどさぁ、まあ、やろうと思えばできるってことがわかってもらえればいいのか」
王宮魔術師団服師団長ハルベルトは、戦慄する。
「まさか!あの時の、反逆者は!」
「うん僕だよ。まあそれはそれとして、つまりさ、今からやろうとしているのは、僕の独裁ってわけ。この国は僕のものだって言っているの。分かる?で、戦力的に君らに拒否権はなし」
「そんなこと。国民が許すわけがない!」
シュレイは、静かに言う。当たり前のことを、子供に教えるように。
「だから、別にそんなことどうでもいいんだよね、許すとか許さないとか。僕がやりたいからやる。それだけのことだよ。あぁ、あと、許されないとしてもそれは僕じゃないんだよね」
「はぁ?」
ハルベルトは思わず聞き返してしまう。
「だって前国王は、まだ死んでないよね。これからも形だけはアイツが王だということにしてしまえば、全部あのクソ親父の責任。だから国民の非難を浴びるのは僕じゃないってこと」
誰もが、あまりの非道に言葉を失う。
最悪の独裁者でありながら矢面には立たない。
しかしそれは、彼の矛盾の現れでもあった。
彼には、どうしても守りたいものがある。復讐者であろうと誓ってなお、守りたいものが。
シュファニーという、1人の少女だ。
シュレイが「魔呼人」であり、かつ国をあらぬ方向に導いている張本人だと知れれば、彼の味方をするシュファニーまで非難されてしまうかもしれない。
だから彼は、前王に罪をかぶってもらうことにしたのだ。
それは、決して弱さなどではなかった。
しかし、それに気付けない少年は、それでもこう言うしかなかった。
「そうだよ。僕は復讐者であり独裁者であり災厄そのものだけれど、自分の日常は失いたくない、ただの弱い子供なんだ」
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています
永江寧々
恋愛
結婚生活ニ十周年を迎える今年、アステリア王国の王であるトリスタンが妻であるユーフェミアから告げられたのは『離婚してください」という衝撃の告白。
愛を囁くのを忘れた日もない。セックスレスになった事もない。それなのに何故だと焦るトリスタンが聞かされたのは『愛人が四人もいるから』ということ。
愛している夫に四人も愛人がいる事が嫌で、愛人を減らしてほしいと何度も頼んできたユーフェミアだが、
減るどころか増えたことで離婚を決めた。
幼子のように離婚はしたくない、嫌だと駄々をこねる夫とそれでも離婚を考える妻。
愛しているが、愛しているからこそ、このままではいられない。
夫からの愛は絶えず感じているのにお願いを聞いてくれないのは何故なのかわからないユーフェミアはどうすればいいのかわからず困っていた。
だが、夫には夫の事情があって……
夫に問題ありなのでご注意ください。
誤字脱字報告ありがとうございます!
9月24日、本日が最終話のアップとなりました。
4ヶ月、お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました!
※番外編は番外編とも言えないものではありますが、小話程度にお読みいただければと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます!
確認しているつもりなのですが、もし発見されましたらお手数ですが教えていただけると助かります。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる