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魔王国編 第3章 復讐の方法

独裁者

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 誰もが、耳を疑った。
 
 3年ぶりに現れた少年が、突然王になると言い出したのだ。
 もちろんシュレイは王族であり、王位継承権は所有している。

 しかし、だ。

 彼はまだ10歳。現実的に王が務まるはずがない。
 
 いや。

 それ以前に、彼は「魔呼人」なのだ。そんな厄災の象徴が王なっていいわけがなかった。

 だが、それを知った上で少年は言い放つ。

「最初に言っておくけど、反対するやつは牢屋行きだから」

みな愕然とする。
急に何を言い出すのだと笑いだすこともできない。それほど、目に見えない恐怖が、シュレイからは放たれていた。

 少しして。

 状況を理解した第一王子アルエフは、声を荒らげて言った。

「馬鹿言うな!突然現れて何を言いやがる!厄災の象徴が!お前など魔に食われて無残に死んでればいいんだよ!」

 その言葉に、復讐者が、怒りを覚えることはなかった。
 すでに彼は、そのような段階にいなかったのだ。

 だから、彼はたった5文字の言葉を発した。
 それだけで、こと足りた。

「・・・ガブロディア」

 突然。
 空間が歪み、巨大な純白の虎が現れた。
 複数の悲鳴が上がる。王族や貴族たちは腰を抜かして倒れこみ、護衛たちは膝をガクガクと震わせながら立ち尽くしている。まともに相対しようとしているのは数人だ。
 その虎は咆哮をあげながら会議室内を歩きまわり、威圧を放っている。

「デュースと約束しちゃったし、殺しはしないけどさぁ、まあ、ってことがわかってもらえればいいのか」

 王宮魔術師団服師団長ハルベルトは、戦慄する。

「まさか!あの時の、反逆者は!」

「うん僕だよ。まあそれはそれとして、つまりさ、今からやろうとしているのは、僕のってわけ。この国は僕のものだって言っているの。分かる?で、戦力的に君らに拒否権はなし」

「そんなこと。国民が許すわけがない!」

シュレイは、静かに言う。当たり前のことを、子供に教えるように。

「だから、別にそんなことどうでもいいんだよね、許すとか許さないとか。僕がやりたいからやる。それだけのことだよ。あぁ、あと、許されないとしてもそれは僕じゃないんだよね」

「はぁ?」

ハルベルトは思わず聞き返してしまう。

「だって前国王は、まだ死んでないよね。これからも形だけはアイツが王だということにしてしまえば、全部あのクソ親父の責任。だから国民の非難を浴びるのは僕じゃないってこと」

誰もが、あまりの非道に言葉を失う。
最悪の独裁者でありながら矢面には立たない。

 しかしそれは、彼の矛盾の現れでもあった。
 彼には、どうしても守りたいものがある。復讐者であろうと誓ってなお、守りたいものが。

 シュファニーという、1人の少女だ。

 シュレイが「魔呼人」であり、かつ国をあらぬ方向に導いている張本人だと知れれば、彼の味方をするシュファニーまで非難されてしまうかもしれない。
 だから彼は、前王に罪をかぶってもらうことにしたのだ。

 それは、決して弱さなどではなかった。
 
 しかし、それに気付けない少年は、それでもこう言うしかなかった。

「そうだよ。僕は復讐者であり独裁者であり災厄そのものだけれど、自分の日常は失いたくない、ただの弱い子供なんだ」

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