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善良なマッチョ達と自己紹介をして良好な関係を築きつつ、恐らく会うことは今後あまりないだろうなと内心思う。しかしここで出逢えたのも何かの縁だ、袖振り合うも多生の縁と言うし。


愛想良くしておくに越したことはないだろう。情報収集という面で興味深い話を聞けた。国から国を渡り歩いている冒険者たちは、どの道に盗賊が多いやら、どの国の治安が悪いやら生きた情報の宝庫だった。教えてくれた事にスマイルゼロ円でお礼を述べる。


礼儀正しさが最高の生存戦略らしいからね。



「鑑定終わりましたよー!」



筋肉の壁の向こうから男の娘の声がする。椅子から立ち上がり、周りに断りを入れながら通してもらう。筋肉の壁が割れる瞬間に男の娘がマッチョ達を親の仇を見るような目で見ていた。何故だろうか。


カウンター前に移動すると、男の娘は私ににっこりと笑いかけてきた。こちらもつられて笑みを返す。



「今回の採取物の買取は品薄になっていた薬草類が多く含まれていましたので、合計で金貨1枚になります」



男の娘はどの薬草がいくらで、という内訳もしっかり教えてくれた。自身で鑑定した情報とほぼ同じ価格だったので頷いてかえしておく。幾つかは価格に色をつけられていたので本当に品薄だったのだろう。


金貨1枚では街中での換金に困りそうだったので、銀貨での支払いを希望する。この世界の金貨は10万円くらいのイメージ。7枚は大銀貨、残りは小銀貨で頼んだ。大銀貨が1万円、小銀貨が1000円札くらいの価格価値。銅貨は100円、大銅貨は500円。


そういえば財布を持ってなかった。ひとまず採取袋に一時避難させる。男の娘からギルドカードも受け取って、ついでにおすすめの宿なんかも聞いてみた。今日はもう夕方近くなっているし、1泊してから出発という事にしたい。魔石を回収してから買い物かな。


おすすめの宿は、ギルドの連携店の”猫のしっぽ亭”が良いと聞いた。お礼を言って別れようとすると、次回からも自分のカウンターに来てね、と念押しされた。受付係は捌いた人数で給料が変わったりするんだろうか。また寄ることがあればお願いする、と伝えてギルドを出た。


外へ出ると太陽が西に傾き、空が茜色に染まり始めていた。これは急いだ方がいいだろう。先に宿に荷物を置いて、魔石回収かな。


教えてもらった道順の通りに進む。大通りを西に真っ直ぐ、箒の看板を掲げた雑貨屋を右折して、小道に入る。小道もゴミは落ちておらず、衛生的だ。しばらく進んでいくと、伸びをしている茶トラ猫の看板が見えてきた。ここだ。


扉を開けて入ると、受付に座っていた壮年の女性がにっこり笑いかけてきた。



「いらっしゃい!食事かい、それとも宿泊かい?」

「宿泊でお願いします」

「あいよ!冒険者ならギルドカードを見せとくれ。素泊まりは1泊小銀貨6枚、食事付きなら朝食と夕食がついて大銀貨1枚だ」

「…では、食事付きで1泊お願いします」



ギルドカードとお金を渡す。宿は先払いシステムだと鑑定していた。


手入れの行き届いた木造の内装。1階は食堂兼酒場としているのか、テーブルと椅子が並んでいる。奥の厨房らしき場所から作業する音が聞こえるので、夕食作りの真っ最中なのだろう。


チェックイン用のリストに、女将さんはギルドカードから名前を写し書いた。文字が書けない冒険者も多いそうで、店側が名前を書いてくれることが多いのだそうだ。夕食の時間、朝食の時間を聞き、外出時のルールやチェックアウトの事など説明を受けて部屋の鍵を受け取った。


2階と3階が宿になっており、私に振り分けられたのは3階の部屋だった。


受付横の階段を上り、305と書かれた部屋へ向かう。しっかりとしたダークブラウンの扉に、緑色に白字で305と書かれた木の板がかかっていた。色味が可愛らしい。


扉を開けて中へはいる。こじんまりしたワンルームと言ったところ。6畳程度の部屋に、清潔なシーツがかけられたシングルベッドにサイドテーブル、荷物掛けが置かれていた。部屋の扉が北側で、扉の向かいである南側に大きめの窓が1つ。


レースの白いカーテンが夕焼け色に染っている。この窓のおかげで狭い部屋ながらも圧迫感がない。綺麗に整えられた良い部屋だ。ギルドの受付の子は本当にいい宿を教えてくれた。
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