穴

穴

私は指に穴が空いている。

いつからだったかは忘れたが、指の腹に穴が空いてしまった。

それは中指の時もあれば、親指の時もある。5本全部に空いている時もある。

穴が空く指は日によって違う。だから朝起きた時に確認する。

学校でうっかり昼寝をすると、起きた時に変わってしまっていることもある。

私は穴に色々な物を入れて遊ぶ。鉛筆をさしてみたり、消しゴムのカスを詰めたりする。この間給食のトウモロコシを入れたら消えてしまった。面白くなって何粒も入れたら先生に怒られた。

お父さんも私の穴で遊ぶ。色んなものを入れては穴の中に消えていく。お父さんが遊ぶと、私はお腹が痛くなる。

お母さんはいつも泣いている。昨日、お母さんは泣きながら、私をそこに入れてと言った。私は泣いて嫌がったけど、お母さんは無理やり私の手を引っ張って穴の中に入って行った。いくら手を振っても穴を覗き込んでもお母さんは出てこなかった。

私も穴に入りたいけど、私は穴には入れない。私の他に穴を持った人は居ないから。もうすぐお父さんが帰ってくる。私は、お父さんに穴が空いていますようにと、穴の空いていない方の手で祈った。