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第七話:彰子
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箪笥の中に縛られた状態で転がっている少女を前に、俺たちはしばらくの間思考停止状態に陥っていた。手足を縛られ、口にガムテープが貼ってあるため喋れない少女は、じたばたと体を左右に動かしながら(おそらく)助けを求めていた。
常識ある一般市民なら当然今すぐ彼女を解放し、わけを聞いて警察にでも連れていく場面なのだろうが、知っての通りここにいるのは善良な一般市民ではなく、不道徳な犯罪者である。俺らは示し合わせたわけでもないのに、一斉に箪笥の戸を閉め、彼女を放置したままリビングに戻っていった。
リビングに戻り席に着いた途端、誰からともなく呟きが漏れてきた。
「……これは、すごくまずい状況じゃないんでしょうか。目隠しはされていないようでしたし、顔を覚えられたかもしれません。私なんて思いっきり目が合ってしまいました」
「……いや、多分大丈夫じゃないですか。一瞬しか見られていないと思いますし。そ、それに僕は皆さんの一番後ろにいたので、もしかしたら認識さえされてないかも」
「……それよりどうしてあんなとこに人が入っていたのかってことが重要でしょ。まあ、でもあれね、もしこの先あの死体を見られることになったら、なんにしてもただでは帰せないわね。まあ私のほうに視線はむけてこなかったし、覚えられてはいないだろうから最悪放置しておいてもよさそうね」
「……つうかあんなとこにいたってことは、あいつが犯人じゃねぇの。まあ俺は日暮の後ろにいたから顔はほとんど見られてねぇはずだ。仮にあいつが犯人だったとしても今回は見なかったことにしておくわ」
「……いや、彼女が犯人ってことはないでしょ。あんなに縛られてるんだし。被害者の振りをするためにあんな状態にするくらいなら逃げたほうが絶対楽だし安全だから。それと、俺はもうガッツリ彼女に見られてたと思うから、あのまま彼女を放置することなんてできないな。放置するくらいなら……」
全員、席に着きうなだれた状態での発言である。どれが誰の発言なのかは多分分かると思う。とりあえず俺が最後の発言者であり、現在最も過激な想像を思い浮かべている悪人である。
このなんだかよく分からない淀んだ空気を払拭しようと、最初に発言したのは、以外にも水谷であった。
「あの、とりあえず彼女の口に貼ってあるガムテープをとって、話を聞いてみるのはどうでしょうか? もしかしたら犯人の姿を見てて、一発で真犯人が分かるかもしれませんよ」
水谷の言葉に対し、藤宮がけだるそうに返す。
「馬鹿でしょあなた。彼女が犯人だっていうなら万事解決だけど、日暮が言ってた通り、十中八九彼女は犯人じゃないでしょう。犯人じゃない以上、あの死体を見た途端に警察を呼べっていうでしょうし、私たちと金光の関係も聞かれるわ。下手な作り話を考えてもいいけど、もし嘘だってばれたら、警察が来た際に一気に私たちの立場が危うくなるわ」
「もう全部放り出して逃げたほうがいいんじゃねぇか。さすがに殺すわけにもいかねぇし、顔に関しては一部を除いてたいして見られてないんだからな」
その一部である俺と涼森はこの言葉を聞き、話し合いに加わる知性を取り戻した。
「いえ、こうなった以上絶対に、絶対に逃げるわけにはいきません! 何とか彼女にはうまくこの状況をごまかして、素早く犯人を捕まえ、警察を呼んでこの山荘から解放してもらいましょう」
涼森の超希望的な未来予想図を聞き、いかに彼女がテンパっているかを感じ取ることで完全に冷静さを取り戻した俺は、再び水谷の意見に戻すことにした。
「まずは水谷が言っていたように、彼女の口から何があったか聞いてみるのが一番だな。じゃあ行ってきます」
俺は唐突にそう告げると、いまだ俺の言葉を理解しきれていない奴らを尻目に、素早く金光の部屋に行った。箪笥を開け、縛られた少女を有無を言わさずに担ぎ上げ(少女はかなり軽かった)、金光の死体を踏まないように注意しつつリビングに持ってきた。少女は死体の横を通った際に激しく暴れたが、何とか落とすことなくリビングに持ってこれた。
俺はリビングに少女を持ってくると、何とか席に座らせ、口のガムテープをはがしてやった。ガムテープがはがされ自由に喋れるようになった少女は、さっそく大声を上げて問い詰めてきた。
「あなた達いったい何者なの! 私を何の目的で誘拐したの! それにさっきの部屋で倒れてたのって権蔵叔父さんよね? 何で倒れたままにしてるの。早く助けてきなさいよ! いや、それよりまずは私を縛っている縄をほどきなさい!」
俺は次から次に飛び出す質問および命令に慌てながら、とりあえず一番気になったことを質問し返した。
「ちょっと待って、今権蔵叔父さんって言った? もしかして金光……さんの知り合いとか、親族だったりするの?」
少女はなぜか胸を張って(縛られたままだから妙な格好になっているが)堂々と答える。
「そうよ、権蔵叔父さんは私のパパの弟で、私、金光彰子にとってのズバリ叔父にあたる人よ」
俺のとった行動にいまだ唖然としたままの人も、この発言にはショックを受けたようだ(もちろん俺も)。
彼女、金光彰子は叔父であるというあの金光に全く似ていなかったからだ。知っての通り、あの金光は人間とは思えないようなキメラ人間である。対して彰子はきれいな長髪の黒髪に、まるで日本人形のような顔。縛られていて立ち姿はまだ見ていないが、スタイルもとてもいいように見え、はっきり言ってとても美人な女の子だ。
今日何度目の沈黙となるかわからないが、とにかく再び訪れた奇妙な静寂を破ったのは涼森だった。
「金光さん、いえ、彰子さんと言ったほうが私たちにとってはよさそうですね。とにかく、彰子さんをここに連れてきてしまった以上、ここで何があったのかを説明して、私たちに協力してもらうしかありませんね」
「そうよ、さっさと何があったのか説明しなさい。それと早く私を縛っている縄をほどきなさい!」
縛られているにもかかわらず、彰子さんはなぜかとても強気です。金光一族は皆強気で自分勝手な性格の人が多いのでしょうか? という俺の疑問はともかく、涼森の発言に飯島が答えた。
「説明するってどこからどこまで説明すんだよ。俺たちと金光の関係も説明しないと、どうして俺らがあんな状態になっていたのか説明できないだろ。せめて、その彰子って女がこの場にいなければ、何らかの設定を作る余地はあったのによ」
最後は俺に対する文句になっており、睨み付けられもしたが、気づかないふりをしてやり過ごした。ちなみに飯島が喋っているときにも彰子は何か文句を言い続けていたが、皆で無視した。
俺は気を取り直して全員に相談する。
「とにかく、俺が自分でやったことだけど、こうして彰子さんがリビングに来た以上、もう隠し事なしに、この山荘に来た経緯から全部話していくしかないんじゃないかな。その上で俺たちの行動に協力してくれるかどうか聞いてみて、その返答次第で今後の方針をまた考えようよ。まあ、彼女が犯人を見ていてくれればそれで解決だったんだけど、今の態度を見てるとそれもなさそうかな。とりあえず、今から彰子さんにここでのことを説明したいんだけど、反対の人はいる?」
藤宮が敵意を含んだ視線を俺に向ける。
「別に反対はしないけど、さっきからずっとあなたにペースを持っていかれ続けてる気がするのよね……。まあ好きにしなさい。最終決定の段階になるまでは別にどうでもいいわ」
「それじゃあ好きにさせてもらいますよ」
俺はそう言うと彰子に視線を戻した。彰子は俺たちが彼女の発言を無視していたせいか、すごくむくれており、俺と視線が合った瞬間思いっきり睨み付けられた。
そんなこんなで、俺は彼女に今までの出来事を話すことになった。
常識ある一般市民なら当然今すぐ彼女を解放し、わけを聞いて警察にでも連れていく場面なのだろうが、知っての通りここにいるのは善良な一般市民ではなく、不道徳な犯罪者である。俺らは示し合わせたわけでもないのに、一斉に箪笥の戸を閉め、彼女を放置したままリビングに戻っていった。
リビングに戻り席に着いた途端、誰からともなく呟きが漏れてきた。
「……これは、すごくまずい状況じゃないんでしょうか。目隠しはされていないようでしたし、顔を覚えられたかもしれません。私なんて思いっきり目が合ってしまいました」
「……いや、多分大丈夫じゃないですか。一瞬しか見られていないと思いますし。そ、それに僕は皆さんの一番後ろにいたので、もしかしたら認識さえされてないかも」
「……それよりどうしてあんなとこに人が入っていたのかってことが重要でしょ。まあ、でもあれね、もしこの先あの死体を見られることになったら、なんにしてもただでは帰せないわね。まあ私のほうに視線はむけてこなかったし、覚えられてはいないだろうから最悪放置しておいてもよさそうね」
「……つうかあんなとこにいたってことは、あいつが犯人じゃねぇの。まあ俺は日暮の後ろにいたから顔はほとんど見られてねぇはずだ。仮にあいつが犯人だったとしても今回は見なかったことにしておくわ」
「……いや、彼女が犯人ってことはないでしょ。あんなに縛られてるんだし。被害者の振りをするためにあんな状態にするくらいなら逃げたほうが絶対楽だし安全だから。それと、俺はもうガッツリ彼女に見られてたと思うから、あのまま彼女を放置することなんてできないな。放置するくらいなら……」
全員、席に着きうなだれた状態での発言である。どれが誰の発言なのかは多分分かると思う。とりあえず俺が最後の発言者であり、現在最も過激な想像を思い浮かべている悪人である。
このなんだかよく分からない淀んだ空気を払拭しようと、最初に発言したのは、以外にも水谷であった。
「あの、とりあえず彼女の口に貼ってあるガムテープをとって、話を聞いてみるのはどうでしょうか? もしかしたら犯人の姿を見てて、一発で真犯人が分かるかもしれませんよ」
水谷の言葉に対し、藤宮がけだるそうに返す。
「馬鹿でしょあなた。彼女が犯人だっていうなら万事解決だけど、日暮が言ってた通り、十中八九彼女は犯人じゃないでしょう。犯人じゃない以上、あの死体を見た途端に警察を呼べっていうでしょうし、私たちと金光の関係も聞かれるわ。下手な作り話を考えてもいいけど、もし嘘だってばれたら、警察が来た際に一気に私たちの立場が危うくなるわ」
「もう全部放り出して逃げたほうがいいんじゃねぇか。さすがに殺すわけにもいかねぇし、顔に関しては一部を除いてたいして見られてないんだからな」
その一部である俺と涼森はこの言葉を聞き、話し合いに加わる知性を取り戻した。
「いえ、こうなった以上絶対に、絶対に逃げるわけにはいきません! 何とか彼女にはうまくこの状況をごまかして、素早く犯人を捕まえ、警察を呼んでこの山荘から解放してもらいましょう」
涼森の超希望的な未来予想図を聞き、いかに彼女がテンパっているかを感じ取ることで完全に冷静さを取り戻した俺は、再び水谷の意見に戻すことにした。
「まずは水谷が言っていたように、彼女の口から何があったか聞いてみるのが一番だな。じゃあ行ってきます」
俺は唐突にそう告げると、いまだ俺の言葉を理解しきれていない奴らを尻目に、素早く金光の部屋に行った。箪笥を開け、縛られた少女を有無を言わさずに担ぎ上げ(少女はかなり軽かった)、金光の死体を踏まないように注意しつつリビングに持ってきた。少女は死体の横を通った際に激しく暴れたが、何とか落とすことなくリビングに持ってこれた。
俺はリビングに少女を持ってくると、何とか席に座らせ、口のガムテープをはがしてやった。ガムテープがはがされ自由に喋れるようになった少女は、さっそく大声を上げて問い詰めてきた。
「あなた達いったい何者なの! 私を何の目的で誘拐したの! それにさっきの部屋で倒れてたのって権蔵叔父さんよね? 何で倒れたままにしてるの。早く助けてきなさいよ! いや、それよりまずは私を縛っている縄をほどきなさい!」
俺は次から次に飛び出す質問および命令に慌てながら、とりあえず一番気になったことを質問し返した。
「ちょっと待って、今権蔵叔父さんって言った? もしかして金光……さんの知り合いとか、親族だったりするの?」
少女はなぜか胸を張って(縛られたままだから妙な格好になっているが)堂々と答える。
「そうよ、権蔵叔父さんは私のパパの弟で、私、金光彰子にとってのズバリ叔父にあたる人よ」
俺のとった行動にいまだ唖然としたままの人も、この発言にはショックを受けたようだ(もちろん俺も)。
彼女、金光彰子は叔父であるというあの金光に全く似ていなかったからだ。知っての通り、あの金光は人間とは思えないようなキメラ人間である。対して彰子はきれいな長髪の黒髪に、まるで日本人形のような顔。縛られていて立ち姿はまだ見ていないが、スタイルもとてもいいように見え、はっきり言ってとても美人な女の子だ。
今日何度目の沈黙となるかわからないが、とにかく再び訪れた奇妙な静寂を破ったのは涼森だった。
「金光さん、いえ、彰子さんと言ったほうが私たちにとってはよさそうですね。とにかく、彰子さんをここに連れてきてしまった以上、ここで何があったのかを説明して、私たちに協力してもらうしかありませんね」
「そうよ、さっさと何があったのか説明しなさい。それと早く私を縛っている縄をほどきなさい!」
縛られているにもかかわらず、彰子さんはなぜかとても強気です。金光一族は皆強気で自分勝手な性格の人が多いのでしょうか? という俺の疑問はともかく、涼森の発言に飯島が答えた。
「説明するってどこからどこまで説明すんだよ。俺たちと金光の関係も説明しないと、どうして俺らがあんな状態になっていたのか説明できないだろ。せめて、その彰子って女がこの場にいなければ、何らかの設定を作る余地はあったのによ」
最後は俺に対する文句になっており、睨み付けられもしたが、気づかないふりをしてやり過ごした。ちなみに飯島が喋っているときにも彰子は何か文句を言い続けていたが、皆で無視した。
俺は気を取り直して全員に相談する。
「とにかく、俺が自分でやったことだけど、こうして彰子さんがリビングに来た以上、もう隠し事なしに、この山荘に来た経緯から全部話していくしかないんじゃないかな。その上で俺たちの行動に協力してくれるかどうか聞いてみて、その返答次第で今後の方針をまた考えようよ。まあ、彼女が犯人を見ていてくれればそれで解決だったんだけど、今の態度を見てるとそれもなさそうかな。とりあえず、今から彰子さんにここでのことを説明したいんだけど、反対の人はいる?」
藤宮が敵意を含んだ視線を俺に向ける。
「別に反対はしないけど、さっきからずっとあなたにペースを持っていかれ続けてる気がするのよね……。まあ好きにしなさい。最終決定の段階になるまでは別にどうでもいいわ」
「それじゃあ好きにさせてもらいますよ」
俺はそう言うと彰子に視線を戻した。彰子は俺たちが彼女の発言を無視していたせいか、すごくむくれており、俺と視線が合った瞬間思いっきり睨み付けられた。
そんなこんなで、俺は彼女に今までの出来事を話すことになった。
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