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偽りのお祓い

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木間神社に到着すると何かを察知したようにミケが本殿から出てきた。しかし、歓迎してくれているようでは無い。俺たちを見るなりグルルと喉を鳴らしながら出会った頃のような重低音な声音で話しかけてくる。

「おい、蜘蛛男、何故夏彦を縛っている?そこの禍々しい気配はなんだ?」

ミケ!助けてくれ!

そう思いからだによじりながら夏彦はもがく。

「そんなに暴れたらロープの後が付いちゃうよー?」

相も変わらずクモはケラケラと笑っている。

「クモ、夏彦をよこしてくれ。」

「はいよ!」

俺は今度はヘビに担がれ、ミケが睨む拝殿へ向かっていく。ミケは警戒しながらもゆっくり近づいてくる俺を抱えたヘビをずっと睨みつけている。
そして遂にミケの前に到着する。俺から見れば2人はまさに一触即発という感じだ。俺はこれから何をされるのか、そして何が起きてしまうのかという心配と多分自分ではこの後何が起きようと何も出来ないだろうという諦めたような考えを抱いていた。

「夏彦を私に渡せ、さもなくばお前をまた八つ裂きにしてやる…!」

「ああ、言われなくとも、だがその前に…」

ヘビはミケの耳元に口を近づけボソッと一言呟く。俺は何を言ったのか聞き取れなかったが、その言葉にミケの顔は少し動揺していた。

「そ、それはどういう…」

ミケが何か言いだげだがそんなことはお構いなく、ミケの足元に俺をゆっくり横たわらせるように置く。

「とにかく、そこで大人しくしておけ」

それだけ言い残すとヘビは平野さんたちの元へ戻って行った。



「あの、それで私は何をすればいいのでしょうか…?」

平野さんは恐る恐る自分の元へ戻ってきたヘビに聞いてみる。

「そうだな、ではまず…」

そういうとヘビは平野さんを神社の拝殿手前の参道に連れていく。ある程度中間の当たり、狛犬の手前らへんまでやってくるとヘビはくるりと振り向き、平野さんに告げる。

「これからお祓いを開始する。だが、その前に約束して欲しいことがある。」

「は、はい!なんでしょうか?」

夜の神社の不気味さも相まって緊張と少しばかりの恐怖におののいている平野さんにヘビはしっかりと目を見て言う。

「約束して欲しいことその1。何があろうと逃げないこと、逃げるとお祓いは失敗し、貴方は一生7人ミサキからは逃げられなくなるだろう」

「はい…!」

平野さんはブンブンと頭を縦に振る。

「その2。平常心でいることとミサキに何を言われても取り乱さないこと。取り乱すとミサキの思う壷だ」

「それはどう言う…?」

「霊というのは弱い心に漬け込みがちだ、脅すようなことを言ってきてその1の『逃げないこと』という約束が守れなくするかもしれない」

「それにそんな怯えた心じゃ何にも集中出来ずにここの神様が味方してくれたとしてもお告げが聞き取れないかもだしね!あはは!」

付け加えるようにクモが両手を頭の後ろに組みながらヘラヘラ喋る。

「そうなんですね、わかりました」

「…そして最後の約束だが」

ヘビは平野さんのか細い両肩をがっしりと掴み、自分より背の低い平野さんの身長に合わせ、かがみ気味でまたじっと目を見つめる。

「な、なんでしょうか…?」

平野さんがやや眉間に皺を寄せヘビを見つめ返す。

「これは約束と言うより確認なんだが…俺達を絶対に最後まで信用できるか?」

「…………」

平野さんは黙りこくってしまった。1分程目を伏せていた平野さんはゆっくりと目を開き、震えた唇を動かす。

「わ、私…私…今日貴方々に出会ったばっかりで…信頼関係とか正直あまり無いかもしれない…です…お祓いとかよく分からないし、何が起こるか不安でいっぱいで……」

「…………ああ、そうだな」

今度はヘビが目を伏せる。

「でも……でも私……」

平野さんはギュッと力を入れて拳を握る。

「私は!貴方を…貴方々を絶対に信じます…!信じてみせます!」

平野さんは大声で宣言した。その言葉と声の大きさに少し驚いたようにヘビは目を開けたが、すぐにいつもの冷静な顔つきに戻り、平野さんから手を離す。

「そうか。それならいいんだ…では…」

ヘビはクモの方にすぐさま顔を向け、神妙な顔つきでこくりと頷く。するとクモも頷き、平野さんの横につく。

「それじゃっ、早速こっち来て!」

「……っはい!」

クモに手を引かれ、平野さんは配置に着く。
ヘビは少し離れたところでその様子を見つめている。

『上手く行きそうだな』

ミサキはいつの間にかヘビの足元で胡座をかいて座っていた。どうやら今のヘビと平野さんの会話を聞いていたようだ。

『あの女を我々が襲いやすいように逃げ出さないよう変な約束をさせたのだろう?』

「ああ、その通りだ」

『くくっ、有難い。これで我々もやっとのこと救われるというものだ』

ミサキは不気味に笑う。当然だ。神格を取り戻せるチャンスがすぐそこにあるのだ。

「ではクモが平野さんの気を引いているうちに次はお前と話がある。作戦会議だ。」

『ああ、良いだろう。』

ヘビはクモ達からもう少し離れた参道の外れにミサキを呼んだ。



先程、平野さんとヘビ達は何を話していたんだろうか。未だに拘束されたままの俺を何も為す術なく拝殿に居るミケの元で転がっている。

ミケ!早く縄を解いてくれ!平野さんが危ないんだ!

身を捩り、「うーうー」と声を上げながらその意志を伝えようとする。しかし、ミケは俺を見つめたまま神妙な顔つきである。

「夏彦……私はどうしたいいのか……。だがあやつの言葉を信じるならば……いや、しかし……」

ミケなとても混乱しているかのようだったが、少し考えた末になにか答えにたどり着いたのか否か寝っ転がる俺の前に膝をつき、自分の体に引き寄せた。

「すまんな夏彦……私にはまだこうしてやることしかできない……」

ミケは心苦しそうに答え、俺の体を抱える。

謝らないでくれ、ミケ。そもそも俺が力不足なばっかりに……。

そう、元はと言えば俺がお参りに行きさえしなければこんなことにはならなかった。平野さんだってこんな目に会うこともなく、もしかしたらほかの解決の道があったかもしれない。もしかしたら時間が経てばなんとかなったかもしれない。
頭の中で色んな可能性を考え、改めて自分の非力さ、責任の無さに深く反省をする。

「ヘビー!準備万端だよー!」

少し遠くからクモが蛇を呼ぶ声が聞こえた。平野さんは参道の真ん中で胸に手を当てて深呼吸しているように見える。

遂に名ばかりの……いや、偽りのお祓いが始まってしまう……。
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