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5. 腐女子、修羅場に立たされる
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こんにちは、ハーレム要員……じゃなかった、友達申請いつでも受付中。腐女子です。
俺としてはフレンド枠はまだまだ余裕がありすぎるくらい空いているのだが、初日にスピード申請で二枠埋まった以降、何故か全く申請が来ない。というか、こちらから申請しても華麗にスルーされてしまう。
……まあ、実際のところ、俺としても申請が受理されない心当たりは十分すぎるほどある。何しろ先に埋まった二枠のキャラがやたら濃いからだ。天使はともかく、ツンデレの元ヤンはリアルでは受けが悪い。嫌がらせを受けなかった者でも、ずっと目の当たりにはしてきただろうから怖いのは当然だ。まして現在進行形で今までの被害者一人一人訪ねての謝罪行脚中となれば、尚更関わりたくないだろう。
しかし当初難航を予想していた謝罪行脚は意外にもすんなりと受け入れられることが多く、俺たちは着々とノルマを達成しつつあった。恐らく初日で発生した俺たちの出逢いイベントが広く知れ渡っていたことが原因だ。夕食時でほぼ満杯だった食堂にて公然と繰り広げられたのだから、むしろ知らないほうがおかしい。おかげで俺は猛獣使いとして、見習い候補たちの片隅で一躍有名人である。
ちなみに太鼓持ちだった二人もこの謝罪行脚に同行させ、きちんと被害者に頭を下げて反省の念を示したことにより、少しずつだが周りとも打ち解けられるようになってきたようだ。リアムとの関係も改善されつつあると、本人たちから時折報告を受けている。
しかしどういうわけか、彼らは俺の舎弟になったと認識しているらしく、友達として改めようとしても受け入れない。面倒なので放っておいたが、これも俺のフレンド枠が埋まらない原因の一つにはなっている気がする。
結局のところ、この謝罪行脚は一日平均三人程度のペースで被害者に会いに行っていたのだが、最後の一人を終えるまでにはほぼ一ヶ月を要した。というのも、加害者側の認識だけでは足りないので、被害者に謝罪すると同時に他の被害者について聞き取りをし、結果次から次へと俺の知らない悪行が明るみになっていったからだ。
例えば加害者にとっては覚えてもいなければ認識すらしていないような小さな出来事でも、被害者や周りの者にとっては不愉快な記憶が残る大きな出来事というのは、殊の外多い。最終的に名簿を作ってほとんどの見習い候補に謝罪することになったので、特に話に上がらなかった者にも会いに行き、エリア内全ての人間へとご挨拶に伺った。
こちらが覚えていないような不始末がないか尋ね、もしあれば謝罪を。なかった場合でも、今まで不愉快に感じる場面に遭遇してこなかったはずはないので、そこをお詫びし、今後の見守りをお願いする。おかげで、普通に過ごしていたら挨拶すらせずにこの館を出ていたかもしれない人とも顔見知りになった。
それ故、現時点において俺の友人は二人、舎弟が二人、館の見習い候補八十七人とは知り合いだ。実際のところ、見習い候補の総勢はもっと数えきれないほどたくさんいるのだが、少なくとも館にいる者だけでも階層ごとにレベルや専攻が分かれていて、リアムたちの主な活動範囲は俺のいる最下層、いわゆる基礎レベル習得コース内のみだったので、これ以上の被害拡大はせずにすんだようだ。
食堂は共有だが、使用時間や場所が大まかながら分かれていて、混雑しすぎないよう配慮されていたのも功を奏した。まあ、だからこそリアムも食堂なんかで騒ぎを起こす気になったのだろうが。
八十七人の知り合いから友人に昇格しそうな者は今のところ見当たらないが、取り敢えず俺が相談窓口としての役割を引き受けたこともあり、かつての被害者たちとも良好な関係を保っている。最初のころは何件か相談事を持ち込まれたこともあったが、新たな被害報告というより取り扱いの説明指南を請われるといった内容だったので、俺もそれほど心配はしていなかった。多少気がかりではあるが、受ける授業が違うので四六時中一緒にいるわけにもいかないのだ。
ちなみにお貴族様専用の有料コースは、好きな専攻授業を五つ選択して受ける形式になっている。例えばリアムたち三人は笛の奏者、歌い手、詩人、絵描き、そして己が種族、闇の民の授業だ。俺のような大多数の無料コースでは、館入りの際に登録した専攻授業と、己が種族の授業のみだ。俺の場合は歌い手と、水の民の授業になる。カノンは竪琴の奏者と、光の民の授業だ。
ただし、音楽関係の専攻をしている場合、たまに合同授業というものが行われる。異なる楽器同士でのセッションや、歌い手を交えての演奏などをするためだ。必然的に人数も多くなるので、講堂での授業となる。他の教室より遠いので移動時間はかかるが、広いし、何より音の響きがいい。大抵の場合、担当の伝導師がそれぞれのクラスから適当にペアを決め、演奏する曲などは二人で相談して簡単に練習し、授業の後半にみんなの前で披露するといった流れだ。
じっくりと擦り合わせをする時間はないので、ほぼほぼ即興に近い形での共演になる。技量や実力だけでなく、演奏可能な曲目が多い者のほうが有利だし、相手とのコミュニケーション能力、ミスなどの予測不能な事態に際して臨機応変に動けるかどうかも重要だ。最下層、いわゆる基礎レベル習得コースといいながら、求められていることはかなりハードな内容になっている。
さて、約一ヶ月の謝罪行脚も終え、相談事も受けることがなくなり、ようやく俺が己の授業のみに専念できるようになったころ、歌い手と竪琴の奏者の合同授業が行われた。リアムたち三人は歌い手も専攻しているが、この時間は笛の奏者の授業に出ていたので、俺とカノンの二人が珍しく同じ授業を受けていた。といっても共演するペアは違ったので、授業中に言葉を交わすことはない。
授業の後半にみんなの前で歌うのは本当に嫌で仕方ないが、カノンの演奏が聴けるのは嬉しかった。相部屋なので頼めば大抵いつでも弾いてくれるのだが、人前で少し緊張しながらも素晴らしい演奏をしてしまうカノンはやはり特別だ。最初は俺と同じ訳あり無料コースだったかもしれないが、今では英才教育をちゃんと己のものにした、才気あふれる演奏家といえよう。ヒトカラ専門のオタクとは、まず基礎からして違うのだ。ひいき目ではなくとも、他の奏者と比べてカノンは頭一つ抜けている。
合同授業を何とか終え、ペアの奏者と(主に俺の)反省会を少ししたあと、俺はカノンを探して講堂を見回した。と、カノンがペアだった歌い手の女の子と隅で何か話しているのを発見し、俺は遠くから様子を窺った。最初は俺たちのように反省会をしているのかと思ったが、それにしてはカノンの表情が暗い。声をかけるか迷っていると、カノンが俺に気づき、安堵したような困ったような顔になった。
「シルヴァ!」
手招きされるままに俺が近寄ると、カノンは不安そうな何とも言えない面持ちで隣の女の子を見やった。……う~ん、確か名前はネスタ、だったか。俺と同じ水の民で、専攻も歌い手だから、いつも授業で一緒になる子だ。年も多分そう変わらない。一見おとなしそうで、顔はまあ可愛いほうだろう。暑いのか、こちらに向いた顔が少し赤い。
「あのね、シルヴァ。何か、リアムのことで相談があるんだって」
「リアムのこと?」
俺がネスタに目をやると、彼女は緊張した面持ちで小さく頷いた。
「ネスタ、だよね。前に聞いたときは、特に嫌がらせはされなかったって言ってた気がしたけど。何かあった?」
俺が優しく尋ねると、ネスタは少し驚いたように目を見開き、さらに頬を染めた。
「お……覚えていてくれたんだ。あたしのこと」
……まあ、一応リアムに関係することだからね。そうじゃなきゃ、多分名前も覚えてない。訪問者数が予定より遥かに増えたのは俺のせいとはいえ、あの謝罪行脚は予想以上に大変だった。
だが手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったものだ。今のリアムは、俺にとってもただの2.5次元ではない存在へと昇格したからな。というか初日以降、時雨さんの演技指導すらしてないな。謝罪行脚が忙しすぎたのもあるが。
取り敢えず曖昧に微笑み、俺は言った。
「相談って何?」
ネスタはハッとしたように両手を握り締めると、下を向いてたどたどしくそれを口にした。
「あ、の……さっき、この授業が始まる前、廊下でリアムとすれ違って……」
「うん」
「それで……インクを、服に、飛ばされて……」
ネスタが羽織っていた薄手のカーディガンのボタンを外すと、確かに白いチュニックに黒いインクが飛び散っていた。時間もそれほど経っていないようだ。
「……ふぅん……。それで、リアムは何か言ってた?」
「何かっていうか……わ、笑ってた。すごく、嫌な感じに」
「それはつまり……わざとインクを飛ばして、君を笑いものにしたってこと?」
「そ……そうよ」
「他には近くに誰もいなかった?」
「い……いなかったと思う」
「リアムとすれ違ったのは、この近くの廊下?」
「ええ」
「それでそのまま、真っすぐここに来たの?」
「授業が始まりそうだったし、部屋に戻って着替える時間はなかったから」
「……ふぅ~ん……そっか、なるほどねぇ」
俺の薄い反応が気に入らなかったのか、ネスタは少し怒ったように口を尖らせた。
「ちょっと! こんな酷い目に遭わされたのよ! もっとちゃんと聞いてよ!」
俺は思案するように首を傾げ、それから心配そうな顔をしているカノンに目をやった。
「……なあ、カノンはどう思う?」
俺に意見を求められるとは思ってなかったのか、カノンはびっくりしたように瞬きし、それから慎重に口を開いた。
「ぼ……僕は、その、何かの間違いだったらいいなって、思ってる」
「なっ……!」
食って掛かろうとしたネスタに気づくと、カノンは慌ててなだめるように言った。
「あ、あのね、君のことを信じてないわけじゃないんだ。でも一ヶ月ちょっとの間だけど、同じ時間を過ごして、リアムも本当は悪い奴じゃないんだなって思うようになったから……」
「それは、シルヴァが一緒にいるからでしょ!」
「シルヴァが一緒じゃなくても、僕と二人でいるときも変わらないよ。だから……」
「それじゃあ、あたしが嘘ついてるって言うの? あたしの言うことより、あんな奴のことを信じるの? カノンだってずっと嫌がらせされてたんでしょ?」
「それは、でも……」
たじたじと後ずさったカノンを庇うように、俺はネスタの前に立ちふさがった。
「ハイハイ、ちょっと落ち着いて」
そして俺はネスタの火照った顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「っ…………!」
ふむ……やはり彼女の動機はこれだろうな。自分で言うのもナンだが、俺も罪作りな男だ。とはいえ、申し訳ないことにその想いには応えられないんだが。
俺は首を傾げ、如何にも不思議そうに瞬きを一つした。
「何か顔が赤いね。ちょっと暑いんじゃない? カーディガンは脱いだら?」
「えっと……そうね。でも、今はインクの染みが見えちゃうから……」
「そっか。気づかなくてごめん。カーディガンがあってよかったね。でも、今日は暑いよね。もう光の季節だし。よくカーディガンなんて着てたね」
「そ、れは……たまたま……」
動揺しているネスタに、俺はここぞとばかりに追い打ちをかけた。そう、それは小学生バージョンの某名探偵を彷彿とさせる、凶器的な無邪気さで、だ。
「あれ? でもインクを飛ばされたときは、カーディガンは着てなかったはずだよね。だってカーディガンにはインクが全くついてない。こんなに暑いのに、わざわざカーディガンを教室に持ってきてたの?」
「な、何となく……」
「そっか」
俺はにっこり微笑んだ。
「あのさ、もう気づいていると思うけど、今なら正直に話してくれれば俺も怒らないよ。だから言ってくれないかな。本当のことを」
「えっ……? どういうこと? 本当のことって?」
おお、完璧なリアクションだ、さすがカノン! グッジョブ!
内心親指を立てながら、俺は高校生バージョンの某名探偵のように余裕の笑みを浮かべてみせた。まあ、こんなのは冷静になれば誰でも見破れる程度の嘘なんだが。
「簡単なことだよ。ネスタは本当のことを言ってない。だろ?」
ネスタは泣き出しそうな顔で唇を結んだけれど、意地になったように言い張った。
「う……嘘じゃないもん! どうして二人ともあたしよりあんな奴のほうを信じるのよ! カノンなら絶対、あたしのこと信じてくれるって思ってたのに!」
……なるほどねぇ……。そしてカノンを味方に引き込めば、俺も簡単に丸め込めると思ったわけか。目の付け所は悪くない。けど、浅はかだな。やり口のことではない。それをこのタイミングで俺に悟らせてしまったことが、だ。ネスタがカノンを利用しようとしたことは、どのみち俺も遠からず気づいただろう。が、こんな形でさえなければ、俺もここまで不快にはならなかっただろうに。
すっと俺が目を眇めると、ネスタは怯えたようにびくりと身を震わせた。残念だ。こんな幼女の空言に本気で怒ってしまうとは。まだまだだね、この俺も。
俺はネスタに微笑みかけると、優しく、けれど冷ややかに口を開いた。
「そうか、では説明しよう。君の服にインクを飛ばしたのは君自身だ。最初からリアムに濡れ衣を着せるつもりでやったのか、偶然インクが飛んでしまったときに思いついたのかはわからない。だが、インクで服が汚れたのは恐らく自分の部屋に一人でいるときだろう。だからインクの染みが見えないように、この暑いのにカーディガンを上に羽織って隠した。嘘を広めて大事にはしたくなかったんだろうな。そもそも君の目的はリアムじゃなく、この俺だからね」
「っ…………!」
ネスタは真っ赤になった顔を両手で覆ったけれど、その下からぽろぽろと涙がこぼれるのが見えた。
「えっ……ちょっ……シルヴァ!」
カノンがおろおろしつつも非難の声を上げたのを耳にし、俺は静かに嘆息した。……ああ、やれやれ。やはりカノンは俺の天使だな。俺の大人げない暴走をちゃんと止めてくれた。本当に感謝だ。
もう一度ゆっくりと息を吐きだし、俺はネスタに声をかけた。
「……ごめんね。君を泣かせるつもりはなかった。でも、君も自分のしたことをちゃんと知るべきだ。俺はリアムを大切な友人だと思っている。そしてカノンもね。俺の大切な人を傷つけようとすることは、俺自身を傷つけようとするのと同じことだ」
ネスタはハッとしたように顔を上げると、新たな涙を溢れさせながらそれを口にした。
「ご……めん、なさい…っ、あ、あたし……っ」
しゃくり上げるネスタにハンカチを差し出し、俺は苦笑した。
「ほら、もう怒ってないよ。涙を拭いて。このハンカチは君にあげる」
「で、でも……」
受け取るのを躊躇っているネスタに、俺は言った。
「……う~ん、じゃあね、こうしよう。君がもっと素敵な女の子になったら、それを俺に返しに来てくれる? それまでは、お守りとして君が持っていて。今日のことを忘れないように。ね?」
「…………ん、わかった」
おずおずとハンカチを受け取ると、ネスタは一滴の涙とともにそっと微笑んだ。
「じゃあ、俺たちはもう行くね」
軽く手を振って俺とカノンがその場から立ち去ろうとしたとき、ハンカチをぎゅっと握りしめたネスタが言った。
「あ……あのっ」
「ん?」
「……あ……ありが、とう。……シルヴァ。それにカノンも」
「おう。また授業でな」
「……ん、またね」
ネスタに向かってにっと笑い返し、俺たちは大切な友人の待つ食堂へと昼食を取りに向かったのだった。
*
「はあぁあっ? 何だ、そりゃ? つまり俺に嫌がらせされたって、嘘の相談をしに来たってのか? くそっ、許せねえ! 文句言ってやる! そいつは今どこにいる? 教えろ、シルヴァ!」
先に食堂に着いていたリアムと合流し、ビュッフェ形式で食べたいものを皿に乗せ、空いている席に揃って座ると、俺とカノンは先程の件を本人に報告した。当然のことながら、危うく濡れ衣を着せられるところだったリアムは怒りをあらわにしたが、俺はそれを軽くいなした。
「まあまあ、そう怒るな。お前の分はもう十分に俺が怒ってやったから」
「そうだよ! さっきのシルヴァ、静かで優しそうに見えたけど、すごく怖かった。多分、最初にリアムと会ったときより、ずっと怒ってたよ!」
カノンの言葉を聞くと、リアムは驚いたように瞬きをし、俺の顔をまじまじと見つめた。
「……そう、なのか?」
無言で肩を竦めてみせた俺の横で、珍しくカノンが熱く語る。
「リアムは大切な友達だからって、そう言ってたよ! ね、シルヴァ!」
「ま、そうだな」
確かに事実その通りなんだが、カノンもあまり力説しないでほしい。何だか照れてしまうではないか。できるだけ涼しい顔で通したかったのだが、無駄に正直な性質のせいで表情に出てしまっているのもわかっていた。カノンはにこにこして俺を見るし、立ち上がりかけていたリアムもそれを目にすると、満更でもない面持ちになって腰を下ろした。
「……まあ、お前らがそう言うなら、取り敢えず今はおとなしくしといてやるけどよ」
「そうそう、ちゃんと反省しているみたいだったし、俺に免じて許してやってくれ」
「けど、そいつは何でわざわざそんな嘘の相談をしたんだよ? 俺が言うのもアレだけど、そいつには酷いことしてなかったんだよな?」
「あ、それは僕も思った! でも、シルヴァにはわかってるみたいだったよね。目的はリアムじゃなくて自分だって言ってたし。それってどういうこと?」
ええっ? それ、聞いちゃう? 俺に聞いちゃうの? っていうか、カノンはその場にいたよね? あの子の様子を見れば一目瞭然だったじゃん! リアルのショタって、みんなこんなもん? それともカノンが鈍いだけ?
思わずリアムに目をやると、こちらはカノンの言葉でいろいろと察したのか、冷やかすような笑みをにやにやと浮かべてみせた。
「へえぇ……なるほどねぇ。お前も隅に置けないな。……ん? ってことは、これはアレじゃね? 今回の件はお前が原因で、俺がとばっちりを受けたっていうことに……」
リアムが最後まで口にする前に、俺は素早く鋭い眼差しを投げた。
「そうだな。俺の大切な友達の素行が悪くなければ、そもそもこんなことは起こらなかったよなぁあ? そうは思わないか? リアム」
「そ……そう、だな。確かに」
軽く咳払いをして誤魔化すと、リアムはおとなしく中断していた食事を再開した。
「……えっ? えっ? どういうこと? わからないの、僕だけ?」
が、カノンが焦ったように俺とリアムの様子を見比べているのに気づくと、リアムは面白がっているように言った。
「ほらほら、ちゃんと教えてやれよ。仲間外れは良くないぞ」
俺はリアムを睨んだが、当然のことながら今度は効き目がなかった。リアムはにやにやし、カノンはぷりぷりして俺を見つめた。
「シルヴァ! 僕にもちゃんとわかるように説明して!」
「あ~、う~……つまりだな」
言葉を探すように視線を泳がせたあと、俺は可能な限りさらっとそれを口にした。
「彼女は俺と仲良くなりたかったんだけど、リアムが怖かったから近寄れなかった。だから、俺がリアムを嫌うように仕向けたかったんだよ」
「それって……」
カノンは大きな瞬きを一つし、それからようやく全てを理解したように頬を染めた。
「それってつまり、あの子はシルヴァのことが好……!」
俺は慌ててカノンの口を手で封じると、純真な眼差しできょとんとしているカノンにそっと言い聞かせた。
「いいかい、そういうことはあまり大きな声で言うもんじゃない。わかったね? あの子に迷惑をかけてしまうし、傷つけてしまうかもしれないからね」
コクコクとカノンが神妙に頷いたので、俺は封じていた手を慎重に離した。……ああ、やれやれ。無邪気ってホント怖い。いや、マジで。
カノンはまだ少しびっくりしているようにパチパチと音がしそうな瞬きを繰り返していたが、しばらくして落ち着きを取り戻したのか、小さく息をついた。
「……そっかぁ。誰かに嫌がらせをしたり、嘘をついたりするのにも、いろんな理由があるんだね」
リアムが食べ物を喉に詰まらせて噎せているのを横目で見ながら、俺はもう一度しみじみと思った。いや、ホント無邪気って怖い。カノン最強だな。
そんな思いなどつゆ知らず、カノンは新たな疑問を見つけたように首を傾げた。
「でも、シルヴァはよく嘘だって気づいたね。僕は全然わからなかった。カーディガンのこととかも、シルヴァに言われるまで不思議に思わなかったし」
「それな!」
ケホケホ咳き込みながらも、リアムが口を挟んだ。
「はっきり言って、今が光の季節じゃなかったら、俺の無実は証明されなかったんじゃ……って思うと、マジで怖いんだけど」
俺は瞬きを一つし、そして言った。
「……いやいやいや。何言ってんだ。普通にわかるだろ。カーディガン自体は証拠でも何でもないけど、一番簡単にあの子を動揺させられると思ったから指摘しただけで、リアムが何もしていないことは最初から明白だったし」
「どこら辺がだよ?」
「だって、リアムは笛の奏者の授業に出てただろ? 俺たちとは教室の場所が全然違う。それなのにあの子は、授業が始まる少し前に講堂の近くでリアムとすれ違ったと言った。もし本当ならリアムは授業に遅刻してしまうが、そんなことをするわけがない。俺が来る前のことは話でしか知らないが、リアムも授業だけは今と変わらずちゃんと受けていたと聞いてたしな。第一、同じ授業を受けていた者に尋ねれば、リアムのアリバイはすぐ確かめられる。冤罪はあり得ないというわけだ」
「あ~……ハイハイ。授業だけは、確かに前からちゃんと受けてましたけど」
不貞腐れたように口を挟んだリアムに、俺は続けた。
「それにどんな理由であれ、リアムについて嘘の相談が持ち込まれる可能性は最初から考えていたからな。想定内というヤツだ。何より……」
テーブルを挟んだ状態で目の前のリアムを真っすぐ見つめ、俺は微笑んだ。
「俺はちゃんとお前を見ていたからな。お前が二度とそんな馬鹿なことはしないと信じて……いや、知っていた。だからこれからどんなにお前に不利なことが起こっても、俺はお前の無実を証明しよう」
「っ…………!」
リアムが頬を染めたのを見届けてから、俺はあっさりと付け加えた。
「……ま、俺の可能な範囲で、だけど」
「いやいやいや! そこは必ずって断言しろよ!」
「そうしたいのはやまやまだが、俺もそんなに頭がいいわけではないからな」
肩を竦めてみせた俺の横で、今度はカノンが熱っぽく言った。
「そんなことないよ! だって初めて会ったばかりなのに、リアムが僕に嫌がらせしてたことにも気づいたし。どうしてわかったのか、ずっと不思議だったんだ」
「ああ……それは俺も思ってた。俺、カノンのことはまだ何も言ってなかったはずなんだよ。近づくな、とかさ。そういうことは全然口にしてなかったはず、だろ?」
「いや……あれは何というか、ただカマをかけただけというか……」
「それは確信がなかっただけで、疑いはあったわけだろ? その根拠は何だったのかってこと」
理路整然と言葉を並べるリアムを見ながら、俺は改めて思った。こいつ、基本的に頭は悪くないんだよな。冷静なときなら察しもいいし。メンタルをもう少し鍛えれば、将来有望株なのでは?
「う~ん、根拠ね……」
しばし思案し、それから俺は言った。
「まずはカノンだよね。こんないい子なのに友達ができないとか、絶対おかしいだろ! っていう」
「ふえっ? いや、でも、シルヴァに初めて会ったとき、僕、すごーく嫌な態度だったのに……」
わたわたと顔を赤らめて慌てるカノンの可愛さに、俺は思わず口元を緩めた。と同時にリアムから注がれる冷ややかな眼差しに気づき、軽く身震いした。咳払いをし、何とか誤魔化す。
「それと、アレだな。リアムはカノンに関しても暴言を吐いていたのに、俺がカノンをあの場から遠ざけようとするのを止めなかった。普通ならまとめて苛めるはずだ。そこを敢えてカノンだけ見逃したのは、直接危害を加えたくないからだろう。で、最初の違和感と関連付ければ一つの仮説に行きつくってわけ。そもそも俺に難癖をつけたのは、カノンのそばにいたからだ。散々嫌な思いをさせたあと、カノンに近づくなと脅せば、大抵の者はそうするだろう。カノンは孤立し、間接的に嫌がらせをすることができる。カノンが導きの館で伝導師たちと暮らしていたことは聞いていたからな。動機も概ね見当がついた」
「へえー……そんなことでわかっちゃったんだ。シルヴァってすごいね!」
「まあ、あれは本当にたまたま正解だったってだけだよ。あと、リアムが意外と正直だったからってのもあるかな」
仏頂面のリアムを前に俺が肩を竦めていると、カノンがふと思い出したように言った。
「あ、でもそういえば、アレやってないよね。最初に何かやってたヤツ……そう、ほら、アレだ! 『お前を殺すのはこの俺だ』ってヤツ! アレはもうやんないの?」
カノンがびしっと指を突き付け、それを受けたリアムがぎくりと身を引いた。その様子を横目で眺めつつ、俺は苦笑いを浮かべた。まあ、そうだよね。普通に嫌だよな。俺もあの時はちょっとテンションがおかしかった自覚が、今はある。時雨さんのリアル2.5次元だって完全に浮かれまくってたからなぁ……。
あのオタク特有の異常なテンションのおかげで、ケンカもしたことのない俺がヤンキーのオラオラ系リアムにぐいぐい迫る勢いが得られたのだから、結果的には良かったはずだ。が、こうして時間が経ち、素面のときにかつての醜態を指摘されると、精神的にえぐいほどダメージを受けるな。ホント無邪気って怖い。
俺はカノンに向かって、何とか引きつった微笑みを浮かべてみせた。
「あ……アレはもういいよ」
「そうなの?」
カノンはきょとんとした顔をし、その陰でリアムがほっと胸を撫で下ろしているのを、俺は申し訳ない気持ちで眺めた。
「う、うん。もう十分だ」
力強く肯定し、それからあの時の謝罪も込め、俺はこれ以上ないほど真剣な眼差しでリアムを見つめた。
「俺は気づいたんだ。やっぱリアムは今のほうがいい。俺にもカノンにも優しいし、意外と真面目で頭もいいし。ちょっとドジなところがあるのも、可愛げがあって俺は好きだな。だからあんな演技やセリフで身を偽る必要はない。リアムはリアムとして、俺のそばにいてほしい」
「シルヴァ……」
ちょっと感動したように目を見開いたリアムに、俺は改めて心から伝えた。
「お前がまた道を踏み外したり、今日みたいに助けが必要になったら俺が必ず駆けつける。だから反対に俺が道を踏み外したり、助けが必要になったらお前が来てくれ。俺はお前を信じて待っている」
「……わかっ……もがっ」
と、不意にカノンが自分の皿にあった肉をリアムの口に突っ込み、リアムは目を白黒させた。
「……な、何を、いきなり……!」
突っ込まれた肉を咀嚼しつつ文句を言おうとしているリアムに、カノンはぷりぷりして言った。
「何か二人ともずるい! よくわかんないけどずるい!」
カノンの可愛いやきもちに内心キュンキュンしながらも、俺は敢えてからかい気味にリアムに言った。
「そうだぞ。カノンにあ~んしてもらうなんて、リアムはずるい!」
「いやいやいや! そんな可愛いモンじゃなかっただろーが! いきなり肉を口に突っ込まれたんだぞ!」
「でも、ほら、肉はリアムの好物だし。そういうところカノンは優しいよね~」
「てめえ……いくら何でも論点のずらし方がわざとらしすぎるんだよ! ホント甘々だな!」
正論を叩きつけたリアムに、俺は真面目な顔で返した。
「言っとくが、傍から見たら俺はリアムにも十分すぎるほど甘々だと思うぞ。実際、俺は好きな奴には溺愛してしまう悪い癖があるからな……」
俺としては心底本音だったのだが、リアムは真っ赤な顔で仰け反ると、喚いた。
「す、好きって……どこがだ! そんな……そんな適当なことで、俺は誤魔化されたりしないからな!」
と、不意に横から匙に乗った木の実の甘煮が差し出され、俺はカノンのほうを向いた。
「……ん?」
「……あ~ん、して?」
……お……おかわわわわわっ……!!! 何じゃ、この可愛すぎる生き物はっ!!! 好き!!!
ちなみにカノンが俺に差し出した木の実の甘煮は、俺の好物だ。本当はカノンの好物でもあるのに、優しいぃぃい。カノンはやっぱ天使だな。しかもこれって間接キスじゃあないか。ここは天国かよ。
ご好意に甘えてカノンからのあ~んを享受し、俺がいろいろな意味で甘々の木の実を堪能していると、リアムがぶすっとした面持ちで口を挟んだ。
「お前、ほんっとカノンのこと好きだよな。女には興味ねーのかよ?」
「女の子、かぁ……」
カノンがリアムに余計なことを言うなと睨んでいるのを横目で眺めつつも、俺は改めて思案した。
一応かつては腐っても女子だったので、美少年アバターを装着している今も、視点は当時とそれほど変わっていない。外見より中身の可愛さに目が行くし、女子ならではの体調不良には本当に心の底から気遣う所存だ。経験者としてその辛さは身に染みて知っているし、現在はその苦行を免除された感謝もあるから、できる限りのサポートはしたいとも思っている。
美少年アバターを持ちながら、しかも女子の立場で的確な優しさをさりげなく発揮することができるので、確かに俺はこの館に来てからも秘かにモテモテだ。リアムのことがなければ、もっと大々的にモテていた可能性はある。少なくとも先程のネスタのように、リアムが俺のそばにいるのが邪魔だと思っている女の子は他にもいるだろう。
だが、百合か……。俺が女の子と恋愛をするということは、見た目はノーマル、俺的には百合である。割と雑食性なので、百合も別に嫌いではない。女の子はみんな可愛いよね、というチャラ男のようなセリフもかなり本気で口にできる自信はある。が、それはかつての腐っても女子目線が残っているからであって、恋愛感情に発展するかはまた別問題だ。
ちなみにこの世界にも男色は存在する。この館の隣にある宮殿では、むしろ男色が正義だ。現在の光の巫子様は男性なので、基本的に宮殿は女人禁制になっている。かつて俺がいた世界でも聖職者の妻帯が禁じられていたことがあるように、この世界でもそのような制約があるらしい。もちろん巫子様が女性ならば、その宮殿は男子禁制の百合の園となる。巫子見習いは男女ともにいるが、生活圏は全く別々で顔を合わせることもないと聞いた。
もちろん世間一般ではやはり男女の恋愛が主流だし、俺の生家があるような田舎の村では男色や百合はあまり歓迎されていないのも事実だ。しかしこれは偏見というより、純粋に繁殖的な必要性によるものだろう。都会では意外と同性婚も多いらしい。お貴族様などは両刀遣いがほとんどだというし、俺も今から自分の選択肢を狭めることはないのだが、取り敢えず現時点での正直な気持ちを口にした。
「女の子には興味ないかな、今のところは。カノンやリアムと一緒にいるほうが楽しいし」
「僕も! 僕もシルヴァと一緒にいるほうが好き!」
「俺は入ってないのかよ……」
カノンがはしゃいで立ち上がり、リアムが呆れたようにぼやいたその時。
「ちょっと! 少し気を付けるの! スープがこぼれちゃったじゃないの!」
「あ……ご、ごめんなさい……」
どうやらカノンが突然動いたせいで、後ろの通路を歩いていた女の子にぶつかってしまったらしい。これから食事を始めるところだったようで、トレイの上にある皿には料理がいろいろと盛り付けられていたが、彼女が言った通りスープがこぼれて全て台無しになってしまっていた。
「っ…………!」
……と、いうか! その声にその見た目、もはや完璧に、とある異世界のレティさんでは? 幼女にしてもミニマムなその身の丈、こまっしゃくれた表情、そして身悶えしてしまうほど愛らしい古井さんの声!!! 何よりその美しい緑の瞳に、燃えるような赤い髪!!! ツインテールにしたら、まさにそのものではないか!!! まさかここにきて、新たな2.5次元を発掘してしまうとは!!!
「か……可愛い!!!」
思わずその言葉が俺の口をついて出た瞬間、ただでさえカノンと彼女のトラブルで不穏にざわめいていた食堂が、今度は一気に静まり返った。その尋常ではない雰囲気は、はっきり言って一ヶ月ほど前にリアムが騒動を起こした夕食時の比ではない。
「……ん? あれ? どうかした……?」
周囲の凍り付くような空気に俺が目を瞬いていると、不意にカノンが引き結んだ唇を戦慄かせ、涙ながらに叫んだ。
「……シルヴァの嘘つき! バカ! もう知らない!!!」
そして脱兎のごとく、カノンはその場から走り去った。
「えっ? ちょっ……カノン!」
何が何だかさっぱりわからないまま、俺は修羅場の当事者として公衆の面前で取り残され、呆然と立ち尽くした。だが、いつまでもこのままでいるわけにもいくまい。とにかく今はカノンのせいでスープまみれになってしまった食事の後始末をしよう。カノンのことは、それからだ。
気を取り直し、俺はレティさん(仮)のほうを振り返った。
「えっと……俺の友達がごめんね。火傷とかしてない? 服は大丈夫? これは俺が片付けるよ。悪いけど、もう一度新しいのを取りに行こう。俺も手伝うから」
俺なりに誠心誠意、申し訳ない気持ちを込めて言葉を紡いだつもりだ。
が。
レティさん(仮)はそのミニマムな身の丈にも関わらず、幼女とは思えぬ迫力で俺を睨みつけた。
「……お前、何様のつもりなの? この私に喧嘩を売るとはいい度胸なの。そんなに竜の御許に還りたいのなら、今すぐ私の炎で送ってあげるの!」
……何その喋り方、可愛い!!! 語尾が統一されてるとか!!! 今まで気づかなかったけど、この世界にも方言とかあるの? それともそういうキャラ設定? レティさん(公式)も独特な語尾だったし、嫌いじゃない!!! というか、オタク心をくすぐられるから好きだ!!!
デレデレしてしまうと怒られてしまいそうだったので、俺的には自重したはずだったが、どうやら正直すぎて駄々洩れだったらしい。レティさん(仮)はお怒りの様子で、スープまみれのトレイを近くのテーブルに叩きつけるように置いた。
「私の炎にかけて、その霞がかった頭を焼き尽くしてあげるの! 今すぐ中庭に出るの!」
「え……俺はもう食べ終わってるからいいけど、君はまだお腹が空いてるんじゃ……」
俺の言葉を耳にするとレティさん(仮)は今すぐにも発火現象を起こしそうな形相になり、それを遮るように突然リアムが声を上げた。
「わ~かった! よし! 取り敢えず中庭に行こう! な!」
「うん? あ~……じゃあ、先に食器を片付けるから、ちょっと待っ……」
俺が言い終わるより早く、リアムが隣の席の者に勢いよく頭を下げた。
「本当に悪い! ここにある食器を、俺たちの代わりに片付けてくれないか?」
「ちょっ……リアム! そんな必要は……」
「この埋め合わせは必ずする! 確かアルトだったよな? 他にも手伝ってくれた奴は後で一緒に声をかけてくれ。この瞳にかけて、ちゃんと礼をする」
リアムは真面目な顔で俺の言葉を封じると、付け加えた。
「シルヴァも一緒にな。それならいいだろ?」
「……まあ、そうだな。本当にすまないが……」
不運にも俺たちの隣に座っていたアルトに申し訳ない顔を向けると、むしろアルトは強張った面持ちでリアムに強く同意するように頷いた。
「気にするな。というか、本当に早く行ったほうがいい」
「……そうか、ありがとう。では、後で」
何やら腑に落ちないが、どうも俺は傍から見ても極めてひっ迫した状況にいるらしい。
「早くするの」
改めてレティさん(仮)にも促され、俺は静まり返った食堂を歩き出した。その時、俺はふとあることに気づき、念のため近くのテーブルから素早くあるものを入手した。それからその場にいる見習い候補たちの視線を独り占めしつつ、俺はレティさん(仮)の後ろについて中庭に向かったのだった。
俺としてはフレンド枠はまだまだ余裕がありすぎるくらい空いているのだが、初日にスピード申請で二枠埋まった以降、何故か全く申請が来ない。というか、こちらから申請しても華麗にスルーされてしまう。
……まあ、実際のところ、俺としても申請が受理されない心当たりは十分すぎるほどある。何しろ先に埋まった二枠のキャラがやたら濃いからだ。天使はともかく、ツンデレの元ヤンはリアルでは受けが悪い。嫌がらせを受けなかった者でも、ずっと目の当たりにはしてきただろうから怖いのは当然だ。まして現在進行形で今までの被害者一人一人訪ねての謝罪行脚中となれば、尚更関わりたくないだろう。
しかし当初難航を予想していた謝罪行脚は意外にもすんなりと受け入れられることが多く、俺たちは着々とノルマを達成しつつあった。恐らく初日で発生した俺たちの出逢いイベントが広く知れ渡っていたことが原因だ。夕食時でほぼ満杯だった食堂にて公然と繰り広げられたのだから、むしろ知らないほうがおかしい。おかげで俺は猛獣使いとして、見習い候補たちの片隅で一躍有名人である。
ちなみに太鼓持ちだった二人もこの謝罪行脚に同行させ、きちんと被害者に頭を下げて反省の念を示したことにより、少しずつだが周りとも打ち解けられるようになってきたようだ。リアムとの関係も改善されつつあると、本人たちから時折報告を受けている。
しかしどういうわけか、彼らは俺の舎弟になったと認識しているらしく、友達として改めようとしても受け入れない。面倒なので放っておいたが、これも俺のフレンド枠が埋まらない原因の一つにはなっている気がする。
結局のところ、この謝罪行脚は一日平均三人程度のペースで被害者に会いに行っていたのだが、最後の一人を終えるまでにはほぼ一ヶ月を要した。というのも、加害者側の認識だけでは足りないので、被害者に謝罪すると同時に他の被害者について聞き取りをし、結果次から次へと俺の知らない悪行が明るみになっていったからだ。
例えば加害者にとっては覚えてもいなければ認識すらしていないような小さな出来事でも、被害者や周りの者にとっては不愉快な記憶が残る大きな出来事というのは、殊の外多い。最終的に名簿を作ってほとんどの見習い候補に謝罪することになったので、特に話に上がらなかった者にも会いに行き、エリア内全ての人間へとご挨拶に伺った。
こちらが覚えていないような不始末がないか尋ね、もしあれば謝罪を。なかった場合でも、今まで不愉快に感じる場面に遭遇してこなかったはずはないので、そこをお詫びし、今後の見守りをお願いする。おかげで、普通に過ごしていたら挨拶すらせずにこの館を出ていたかもしれない人とも顔見知りになった。
それ故、現時点において俺の友人は二人、舎弟が二人、館の見習い候補八十七人とは知り合いだ。実際のところ、見習い候補の総勢はもっと数えきれないほどたくさんいるのだが、少なくとも館にいる者だけでも階層ごとにレベルや専攻が分かれていて、リアムたちの主な活動範囲は俺のいる最下層、いわゆる基礎レベル習得コース内のみだったので、これ以上の被害拡大はせずにすんだようだ。
食堂は共有だが、使用時間や場所が大まかながら分かれていて、混雑しすぎないよう配慮されていたのも功を奏した。まあ、だからこそリアムも食堂なんかで騒ぎを起こす気になったのだろうが。
八十七人の知り合いから友人に昇格しそうな者は今のところ見当たらないが、取り敢えず俺が相談窓口としての役割を引き受けたこともあり、かつての被害者たちとも良好な関係を保っている。最初のころは何件か相談事を持ち込まれたこともあったが、新たな被害報告というより取り扱いの説明指南を請われるといった内容だったので、俺もそれほど心配はしていなかった。多少気がかりではあるが、受ける授業が違うので四六時中一緒にいるわけにもいかないのだ。
ちなみにお貴族様専用の有料コースは、好きな専攻授業を五つ選択して受ける形式になっている。例えばリアムたち三人は笛の奏者、歌い手、詩人、絵描き、そして己が種族、闇の民の授業だ。俺のような大多数の無料コースでは、館入りの際に登録した専攻授業と、己が種族の授業のみだ。俺の場合は歌い手と、水の民の授業になる。カノンは竪琴の奏者と、光の民の授業だ。
ただし、音楽関係の専攻をしている場合、たまに合同授業というものが行われる。異なる楽器同士でのセッションや、歌い手を交えての演奏などをするためだ。必然的に人数も多くなるので、講堂での授業となる。他の教室より遠いので移動時間はかかるが、広いし、何より音の響きがいい。大抵の場合、担当の伝導師がそれぞれのクラスから適当にペアを決め、演奏する曲などは二人で相談して簡単に練習し、授業の後半にみんなの前で披露するといった流れだ。
じっくりと擦り合わせをする時間はないので、ほぼほぼ即興に近い形での共演になる。技量や実力だけでなく、演奏可能な曲目が多い者のほうが有利だし、相手とのコミュニケーション能力、ミスなどの予測不能な事態に際して臨機応変に動けるかどうかも重要だ。最下層、いわゆる基礎レベル習得コースといいながら、求められていることはかなりハードな内容になっている。
さて、約一ヶ月の謝罪行脚も終え、相談事も受けることがなくなり、ようやく俺が己の授業のみに専念できるようになったころ、歌い手と竪琴の奏者の合同授業が行われた。リアムたち三人は歌い手も専攻しているが、この時間は笛の奏者の授業に出ていたので、俺とカノンの二人が珍しく同じ授業を受けていた。といっても共演するペアは違ったので、授業中に言葉を交わすことはない。
授業の後半にみんなの前で歌うのは本当に嫌で仕方ないが、カノンの演奏が聴けるのは嬉しかった。相部屋なので頼めば大抵いつでも弾いてくれるのだが、人前で少し緊張しながらも素晴らしい演奏をしてしまうカノンはやはり特別だ。最初は俺と同じ訳あり無料コースだったかもしれないが、今では英才教育をちゃんと己のものにした、才気あふれる演奏家といえよう。ヒトカラ専門のオタクとは、まず基礎からして違うのだ。ひいき目ではなくとも、他の奏者と比べてカノンは頭一つ抜けている。
合同授業を何とか終え、ペアの奏者と(主に俺の)反省会を少ししたあと、俺はカノンを探して講堂を見回した。と、カノンがペアだった歌い手の女の子と隅で何か話しているのを発見し、俺は遠くから様子を窺った。最初は俺たちのように反省会をしているのかと思ったが、それにしてはカノンの表情が暗い。声をかけるか迷っていると、カノンが俺に気づき、安堵したような困ったような顔になった。
「シルヴァ!」
手招きされるままに俺が近寄ると、カノンは不安そうな何とも言えない面持ちで隣の女の子を見やった。……う~ん、確か名前はネスタ、だったか。俺と同じ水の民で、専攻も歌い手だから、いつも授業で一緒になる子だ。年も多分そう変わらない。一見おとなしそうで、顔はまあ可愛いほうだろう。暑いのか、こちらに向いた顔が少し赤い。
「あのね、シルヴァ。何か、リアムのことで相談があるんだって」
「リアムのこと?」
俺がネスタに目をやると、彼女は緊張した面持ちで小さく頷いた。
「ネスタ、だよね。前に聞いたときは、特に嫌がらせはされなかったって言ってた気がしたけど。何かあった?」
俺が優しく尋ねると、ネスタは少し驚いたように目を見開き、さらに頬を染めた。
「お……覚えていてくれたんだ。あたしのこと」
……まあ、一応リアムに関係することだからね。そうじゃなきゃ、多分名前も覚えてない。訪問者数が予定より遥かに増えたのは俺のせいとはいえ、あの謝罪行脚は予想以上に大変だった。
だが手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったものだ。今のリアムは、俺にとってもただの2.5次元ではない存在へと昇格したからな。というか初日以降、時雨さんの演技指導すらしてないな。謝罪行脚が忙しすぎたのもあるが。
取り敢えず曖昧に微笑み、俺は言った。
「相談って何?」
ネスタはハッとしたように両手を握り締めると、下を向いてたどたどしくそれを口にした。
「あ、の……さっき、この授業が始まる前、廊下でリアムとすれ違って……」
「うん」
「それで……インクを、服に、飛ばされて……」
ネスタが羽織っていた薄手のカーディガンのボタンを外すと、確かに白いチュニックに黒いインクが飛び散っていた。時間もそれほど経っていないようだ。
「……ふぅん……。それで、リアムは何か言ってた?」
「何かっていうか……わ、笑ってた。すごく、嫌な感じに」
「それはつまり……わざとインクを飛ばして、君を笑いものにしたってこと?」
「そ……そうよ」
「他には近くに誰もいなかった?」
「い……いなかったと思う」
「リアムとすれ違ったのは、この近くの廊下?」
「ええ」
「それでそのまま、真っすぐここに来たの?」
「授業が始まりそうだったし、部屋に戻って着替える時間はなかったから」
「……ふぅ~ん……そっか、なるほどねぇ」
俺の薄い反応が気に入らなかったのか、ネスタは少し怒ったように口を尖らせた。
「ちょっと! こんな酷い目に遭わされたのよ! もっとちゃんと聞いてよ!」
俺は思案するように首を傾げ、それから心配そうな顔をしているカノンに目をやった。
「……なあ、カノンはどう思う?」
俺に意見を求められるとは思ってなかったのか、カノンはびっくりしたように瞬きし、それから慎重に口を開いた。
「ぼ……僕は、その、何かの間違いだったらいいなって、思ってる」
「なっ……!」
食って掛かろうとしたネスタに気づくと、カノンは慌ててなだめるように言った。
「あ、あのね、君のことを信じてないわけじゃないんだ。でも一ヶ月ちょっとの間だけど、同じ時間を過ごして、リアムも本当は悪い奴じゃないんだなって思うようになったから……」
「それは、シルヴァが一緒にいるからでしょ!」
「シルヴァが一緒じゃなくても、僕と二人でいるときも変わらないよ。だから……」
「それじゃあ、あたしが嘘ついてるって言うの? あたしの言うことより、あんな奴のことを信じるの? カノンだってずっと嫌がらせされてたんでしょ?」
「それは、でも……」
たじたじと後ずさったカノンを庇うように、俺はネスタの前に立ちふさがった。
「ハイハイ、ちょっと落ち着いて」
そして俺はネスタの火照った顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「っ…………!」
ふむ……やはり彼女の動機はこれだろうな。自分で言うのもナンだが、俺も罪作りな男だ。とはいえ、申し訳ないことにその想いには応えられないんだが。
俺は首を傾げ、如何にも不思議そうに瞬きを一つした。
「何か顔が赤いね。ちょっと暑いんじゃない? カーディガンは脱いだら?」
「えっと……そうね。でも、今はインクの染みが見えちゃうから……」
「そっか。気づかなくてごめん。カーディガンがあってよかったね。でも、今日は暑いよね。もう光の季節だし。よくカーディガンなんて着てたね」
「そ、れは……たまたま……」
動揺しているネスタに、俺はここぞとばかりに追い打ちをかけた。そう、それは小学生バージョンの某名探偵を彷彿とさせる、凶器的な無邪気さで、だ。
「あれ? でもインクを飛ばされたときは、カーディガンは着てなかったはずだよね。だってカーディガンにはインクが全くついてない。こんなに暑いのに、わざわざカーディガンを教室に持ってきてたの?」
「な、何となく……」
「そっか」
俺はにっこり微笑んだ。
「あのさ、もう気づいていると思うけど、今なら正直に話してくれれば俺も怒らないよ。だから言ってくれないかな。本当のことを」
「えっ……? どういうこと? 本当のことって?」
おお、完璧なリアクションだ、さすがカノン! グッジョブ!
内心親指を立てながら、俺は高校生バージョンの某名探偵のように余裕の笑みを浮かべてみせた。まあ、こんなのは冷静になれば誰でも見破れる程度の嘘なんだが。
「簡単なことだよ。ネスタは本当のことを言ってない。だろ?」
ネスタは泣き出しそうな顔で唇を結んだけれど、意地になったように言い張った。
「う……嘘じゃないもん! どうして二人ともあたしよりあんな奴のほうを信じるのよ! カノンなら絶対、あたしのこと信じてくれるって思ってたのに!」
……なるほどねぇ……。そしてカノンを味方に引き込めば、俺も簡単に丸め込めると思ったわけか。目の付け所は悪くない。けど、浅はかだな。やり口のことではない。それをこのタイミングで俺に悟らせてしまったことが、だ。ネスタがカノンを利用しようとしたことは、どのみち俺も遠からず気づいただろう。が、こんな形でさえなければ、俺もここまで不快にはならなかっただろうに。
すっと俺が目を眇めると、ネスタは怯えたようにびくりと身を震わせた。残念だ。こんな幼女の空言に本気で怒ってしまうとは。まだまだだね、この俺も。
俺はネスタに微笑みかけると、優しく、けれど冷ややかに口を開いた。
「そうか、では説明しよう。君の服にインクを飛ばしたのは君自身だ。最初からリアムに濡れ衣を着せるつもりでやったのか、偶然インクが飛んでしまったときに思いついたのかはわからない。だが、インクで服が汚れたのは恐らく自分の部屋に一人でいるときだろう。だからインクの染みが見えないように、この暑いのにカーディガンを上に羽織って隠した。嘘を広めて大事にはしたくなかったんだろうな。そもそも君の目的はリアムじゃなく、この俺だからね」
「っ…………!」
ネスタは真っ赤になった顔を両手で覆ったけれど、その下からぽろぽろと涙がこぼれるのが見えた。
「えっ……ちょっ……シルヴァ!」
カノンがおろおろしつつも非難の声を上げたのを耳にし、俺は静かに嘆息した。……ああ、やれやれ。やはりカノンは俺の天使だな。俺の大人げない暴走をちゃんと止めてくれた。本当に感謝だ。
もう一度ゆっくりと息を吐きだし、俺はネスタに声をかけた。
「……ごめんね。君を泣かせるつもりはなかった。でも、君も自分のしたことをちゃんと知るべきだ。俺はリアムを大切な友人だと思っている。そしてカノンもね。俺の大切な人を傷つけようとすることは、俺自身を傷つけようとするのと同じことだ」
ネスタはハッとしたように顔を上げると、新たな涙を溢れさせながらそれを口にした。
「ご……めん、なさい…っ、あ、あたし……っ」
しゃくり上げるネスタにハンカチを差し出し、俺は苦笑した。
「ほら、もう怒ってないよ。涙を拭いて。このハンカチは君にあげる」
「で、でも……」
受け取るのを躊躇っているネスタに、俺は言った。
「……う~ん、じゃあね、こうしよう。君がもっと素敵な女の子になったら、それを俺に返しに来てくれる? それまでは、お守りとして君が持っていて。今日のことを忘れないように。ね?」
「…………ん、わかった」
おずおずとハンカチを受け取ると、ネスタは一滴の涙とともにそっと微笑んだ。
「じゃあ、俺たちはもう行くね」
軽く手を振って俺とカノンがその場から立ち去ろうとしたとき、ハンカチをぎゅっと握りしめたネスタが言った。
「あ……あのっ」
「ん?」
「……あ……ありが、とう。……シルヴァ。それにカノンも」
「おう。また授業でな」
「……ん、またね」
ネスタに向かってにっと笑い返し、俺たちは大切な友人の待つ食堂へと昼食を取りに向かったのだった。
*
「はあぁあっ? 何だ、そりゃ? つまり俺に嫌がらせされたって、嘘の相談をしに来たってのか? くそっ、許せねえ! 文句言ってやる! そいつは今どこにいる? 教えろ、シルヴァ!」
先に食堂に着いていたリアムと合流し、ビュッフェ形式で食べたいものを皿に乗せ、空いている席に揃って座ると、俺とカノンは先程の件を本人に報告した。当然のことながら、危うく濡れ衣を着せられるところだったリアムは怒りをあらわにしたが、俺はそれを軽くいなした。
「まあまあ、そう怒るな。お前の分はもう十分に俺が怒ってやったから」
「そうだよ! さっきのシルヴァ、静かで優しそうに見えたけど、すごく怖かった。多分、最初にリアムと会ったときより、ずっと怒ってたよ!」
カノンの言葉を聞くと、リアムは驚いたように瞬きをし、俺の顔をまじまじと見つめた。
「……そう、なのか?」
無言で肩を竦めてみせた俺の横で、珍しくカノンが熱く語る。
「リアムは大切な友達だからって、そう言ってたよ! ね、シルヴァ!」
「ま、そうだな」
確かに事実その通りなんだが、カノンもあまり力説しないでほしい。何だか照れてしまうではないか。できるだけ涼しい顔で通したかったのだが、無駄に正直な性質のせいで表情に出てしまっているのもわかっていた。カノンはにこにこして俺を見るし、立ち上がりかけていたリアムもそれを目にすると、満更でもない面持ちになって腰を下ろした。
「……まあ、お前らがそう言うなら、取り敢えず今はおとなしくしといてやるけどよ」
「そうそう、ちゃんと反省しているみたいだったし、俺に免じて許してやってくれ」
「けど、そいつは何でわざわざそんな嘘の相談をしたんだよ? 俺が言うのもアレだけど、そいつには酷いことしてなかったんだよな?」
「あ、それは僕も思った! でも、シルヴァにはわかってるみたいだったよね。目的はリアムじゃなくて自分だって言ってたし。それってどういうこと?」
ええっ? それ、聞いちゃう? 俺に聞いちゃうの? っていうか、カノンはその場にいたよね? あの子の様子を見れば一目瞭然だったじゃん! リアルのショタって、みんなこんなもん? それともカノンが鈍いだけ?
思わずリアムに目をやると、こちらはカノンの言葉でいろいろと察したのか、冷やかすような笑みをにやにやと浮かべてみせた。
「へえぇ……なるほどねぇ。お前も隅に置けないな。……ん? ってことは、これはアレじゃね? 今回の件はお前が原因で、俺がとばっちりを受けたっていうことに……」
リアムが最後まで口にする前に、俺は素早く鋭い眼差しを投げた。
「そうだな。俺の大切な友達の素行が悪くなければ、そもそもこんなことは起こらなかったよなぁあ? そうは思わないか? リアム」
「そ……そう、だな。確かに」
軽く咳払いをして誤魔化すと、リアムはおとなしく中断していた食事を再開した。
「……えっ? えっ? どういうこと? わからないの、僕だけ?」
が、カノンが焦ったように俺とリアムの様子を見比べているのに気づくと、リアムは面白がっているように言った。
「ほらほら、ちゃんと教えてやれよ。仲間外れは良くないぞ」
俺はリアムを睨んだが、当然のことながら今度は効き目がなかった。リアムはにやにやし、カノンはぷりぷりして俺を見つめた。
「シルヴァ! 僕にもちゃんとわかるように説明して!」
「あ~、う~……つまりだな」
言葉を探すように視線を泳がせたあと、俺は可能な限りさらっとそれを口にした。
「彼女は俺と仲良くなりたかったんだけど、リアムが怖かったから近寄れなかった。だから、俺がリアムを嫌うように仕向けたかったんだよ」
「それって……」
カノンは大きな瞬きを一つし、それからようやく全てを理解したように頬を染めた。
「それってつまり、あの子はシルヴァのことが好……!」
俺は慌ててカノンの口を手で封じると、純真な眼差しできょとんとしているカノンにそっと言い聞かせた。
「いいかい、そういうことはあまり大きな声で言うもんじゃない。わかったね? あの子に迷惑をかけてしまうし、傷つけてしまうかもしれないからね」
コクコクとカノンが神妙に頷いたので、俺は封じていた手を慎重に離した。……ああ、やれやれ。無邪気ってホント怖い。いや、マジで。
カノンはまだ少しびっくりしているようにパチパチと音がしそうな瞬きを繰り返していたが、しばらくして落ち着きを取り戻したのか、小さく息をついた。
「……そっかぁ。誰かに嫌がらせをしたり、嘘をついたりするのにも、いろんな理由があるんだね」
リアムが食べ物を喉に詰まらせて噎せているのを横目で見ながら、俺はもう一度しみじみと思った。いや、ホント無邪気って怖い。カノン最強だな。
そんな思いなどつゆ知らず、カノンは新たな疑問を見つけたように首を傾げた。
「でも、シルヴァはよく嘘だって気づいたね。僕は全然わからなかった。カーディガンのこととかも、シルヴァに言われるまで不思議に思わなかったし」
「それな!」
ケホケホ咳き込みながらも、リアムが口を挟んだ。
「はっきり言って、今が光の季節じゃなかったら、俺の無実は証明されなかったんじゃ……って思うと、マジで怖いんだけど」
俺は瞬きを一つし、そして言った。
「……いやいやいや。何言ってんだ。普通にわかるだろ。カーディガン自体は証拠でも何でもないけど、一番簡単にあの子を動揺させられると思ったから指摘しただけで、リアムが何もしていないことは最初から明白だったし」
「どこら辺がだよ?」
「だって、リアムは笛の奏者の授業に出てただろ? 俺たちとは教室の場所が全然違う。それなのにあの子は、授業が始まる少し前に講堂の近くでリアムとすれ違ったと言った。もし本当ならリアムは授業に遅刻してしまうが、そんなことをするわけがない。俺が来る前のことは話でしか知らないが、リアムも授業だけは今と変わらずちゃんと受けていたと聞いてたしな。第一、同じ授業を受けていた者に尋ねれば、リアムのアリバイはすぐ確かめられる。冤罪はあり得ないというわけだ」
「あ~……ハイハイ。授業だけは、確かに前からちゃんと受けてましたけど」
不貞腐れたように口を挟んだリアムに、俺は続けた。
「それにどんな理由であれ、リアムについて嘘の相談が持ち込まれる可能性は最初から考えていたからな。想定内というヤツだ。何より……」
テーブルを挟んだ状態で目の前のリアムを真っすぐ見つめ、俺は微笑んだ。
「俺はちゃんとお前を見ていたからな。お前が二度とそんな馬鹿なことはしないと信じて……いや、知っていた。だからこれからどんなにお前に不利なことが起こっても、俺はお前の無実を証明しよう」
「っ…………!」
リアムが頬を染めたのを見届けてから、俺はあっさりと付け加えた。
「……ま、俺の可能な範囲で、だけど」
「いやいやいや! そこは必ずって断言しろよ!」
「そうしたいのはやまやまだが、俺もそんなに頭がいいわけではないからな」
肩を竦めてみせた俺の横で、今度はカノンが熱っぽく言った。
「そんなことないよ! だって初めて会ったばかりなのに、リアムが僕に嫌がらせしてたことにも気づいたし。どうしてわかったのか、ずっと不思議だったんだ」
「ああ……それは俺も思ってた。俺、カノンのことはまだ何も言ってなかったはずなんだよ。近づくな、とかさ。そういうことは全然口にしてなかったはず、だろ?」
「いや……あれは何というか、ただカマをかけただけというか……」
「それは確信がなかっただけで、疑いはあったわけだろ? その根拠は何だったのかってこと」
理路整然と言葉を並べるリアムを見ながら、俺は改めて思った。こいつ、基本的に頭は悪くないんだよな。冷静なときなら察しもいいし。メンタルをもう少し鍛えれば、将来有望株なのでは?
「う~ん、根拠ね……」
しばし思案し、それから俺は言った。
「まずはカノンだよね。こんないい子なのに友達ができないとか、絶対おかしいだろ! っていう」
「ふえっ? いや、でも、シルヴァに初めて会ったとき、僕、すごーく嫌な態度だったのに……」
わたわたと顔を赤らめて慌てるカノンの可愛さに、俺は思わず口元を緩めた。と同時にリアムから注がれる冷ややかな眼差しに気づき、軽く身震いした。咳払いをし、何とか誤魔化す。
「それと、アレだな。リアムはカノンに関しても暴言を吐いていたのに、俺がカノンをあの場から遠ざけようとするのを止めなかった。普通ならまとめて苛めるはずだ。そこを敢えてカノンだけ見逃したのは、直接危害を加えたくないからだろう。で、最初の違和感と関連付ければ一つの仮説に行きつくってわけ。そもそも俺に難癖をつけたのは、カノンのそばにいたからだ。散々嫌な思いをさせたあと、カノンに近づくなと脅せば、大抵の者はそうするだろう。カノンは孤立し、間接的に嫌がらせをすることができる。カノンが導きの館で伝導師たちと暮らしていたことは聞いていたからな。動機も概ね見当がついた」
「へえー……そんなことでわかっちゃったんだ。シルヴァってすごいね!」
「まあ、あれは本当にたまたま正解だったってだけだよ。あと、リアムが意外と正直だったからってのもあるかな」
仏頂面のリアムを前に俺が肩を竦めていると、カノンがふと思い出したように言った。
「あ、でもそういえば、アレやってないよね。最初に何かやってたヤツ……そう、ほら、アレだ! 『お前を殺すのはこの俺だ』ってヤツ! アレはもうやんないの?」
カノンがびしっと指を突き付け、それを受けたリアムがぎくりと身を引いた。その様子を横目で眺めつつ、俺は苦笑いを浮かべた。まあ、そうだよね。普通に嫌だよな。俺もあの時はちょっとテンションがおかしかった自覚が、今はある。時雨さんのリアル2.5次元だって完全に浮かれまくってたからなぁ……。
あのオタク特有の異常なテンションのおかげで、ケンカもしたことのない俺がヤンキーのオラオラ系リアムにぐいぐい迫る勢いが得られたのだから、結果的には良かったはずだ。が、こうして時間が経ち、素面のときにかつての醜態を指摘されると、精神的にえぐいほどダメージを受けるな。ホント無邪気って怖い。
俺はカノンに向かって、何とか引きつった微笑みを浮かべてみせた。
「あ……アレはもういいよ」
「そうなの?」
カノンはきょとんとした顔をし、その陰でリアムがほっと胸を撫で下ろしているのを、俺は申し訳ない気持ちで眺めた。
「う、うん。もう十分だ」
力強く肯定し、それからあの時の謝罪も込め、俺はこれ以上ないほど真剣な眼差しでリアムを見つめた。
「俺は気づいたんだ。やっぱリアムは今のほうがいい。俺にもカノンにも優しいし、意外と真面目で頭もいいし。ちょっとドジなところがあるのも、可愛げがあって俺は好きだな。だからあんな演技やセリフで身を偽る必要はない。リアムはリアムとして、俺のそばにいてほしい」
「シルヴァ……」
ちょっと感動したように目を見開いたリアムに、俺は改めて心から伝えた。
「お前がまた道を踏み外したり、今日みたいに助けが必要になったら俺が必ず駆けつける。だから反対に俺が道を踏み外したり、助けが必要になったらお前が来てくれ。俺はお前を信じて待っている」
「……わかっ……もがっ」
と、不意にカノンが自分の皿にあった肉をリアムの口に突っ込み、リアムは目を白黒させた。
「……な、何を、いきなり……!」
突っ込まれた肉を咀嚼しつつ文句を言おうとしているリアムに、カノンはぷりぷりして言った。
「何か二人ともずるい! よくわかんないけどずるい!」
カノンの可愛いやきもちに内心キュンキュンしながらも、俺は敢えてからかい気味にリアムに言った。
「そうだぞ。カノンにあ~んしてもらうなんて、リアムはずるい!」
「いやいやいや! そんな可愛いモンじゃなかっただろーが! いきなり肉を口に突っ込まれたんだぞ!」
「でも、ほら、肉はリアムの好物だし。そういうところカノンは優しいよね~」
「てめえ……いくら何でも論点のずらし方がわざとらしすぎるんだよ! ホント甘々だな!」
正論を叩きつけたリアムに、俺は真面目な顔で返した。
「言っとくが、傍から見たら俺はリアムにも十分すぎるほど甘々だと思うぞ。実際、俺は好きな奴には溺愛してしまう悪い癖があるからな……」
俺としては心底本音だったのだが、リアムは真っ赤な顔で仰け反ると、喚いた。
「す、好きって……どこがだ! そんな……そんな適当なことで、俺は誤魔化されたりしないからな!」
と、不意に横から匙に乗った木の実の甘煮が差し出され、俺はカノンのほうを向いた。
「……ん?」
「……あ~ん、して?」
……お……おかわわわわわっ……!!! 何じゃ、この可愛すぎる生き物はっ!!! 好き!!!
ちなみにカノンが俺に差し出した木の実の甘煮は、俺の好物だ。本当はカノンの好物でもあるのに、優しいぃぃい。カノンはやっぱ天使だな。しかもこれって間接キスじゃあないか。ここは天国かよ。
ご好意に甘えてカノンからのあ~んを享受し、俺がいろいろな意味で甘々の木の実を堪能していると、リアムがぶすっとした面持ちで口を挟んだ。
「お前、ほんっとカノンのこと好きだよな。女には興味ねーのかよ?」
「女の子、かぁ……」
カノンがリアムに余計なことを言うなと睨んでいるのを横目で眺めつつも、俺は改めて思案した。
一応かつては腐っても女子だったので、美少年アバターを装着している今も、視点は当時とそれほど変わっていない。外見より中身の可愛さに目が行くし、女子ならではの体調不良には本当に心の底から気遣う所存だ。経験者としてその辛さは身に染みて知っているし、現在はその苦行を免除された感謝もあるから、できる限りのサポートはしたいとも思っている。
美少年アバターを持ちながら、しかも女子の立場で的確な優しさをさりげなく発揮することができるので、確かに俺はこの館に来てからも秘かにモテモテだ。リアムのことがなければ、もっと大々的にモテていた可能性はある。少なくとも先程のネスタのように、リアムが俺のそばにいるのが邪魔だと思っている女の子は他にもいるだろう。
だが、百合か……。俺が女の子と恋愛をするということは、見た目はノーマル、俺的には百合である。割と雑食性なので、百合も別に嫌いではない。女の子はみんな可愛いよね、というチャラ男のようなセリフもかなり本気で口にできる自信はある。が、それはかつての腐っても女子目線が残っているからであって、恋愛感情に発展するかはまた別問題だ。
ちなみにこの世界にも男色は存在する。この館の隣にある宮殿では、むしろ男色が正義だ。現在の光の巫子様は男性なので、基本的に宮殿は女人禁制になっている。かつて俺がいた世界でも聖職者の妻帯が禁じられていたことがあるように、この世界でもそのような制約があるらしい。もちろん巫子様が女性ならば、その宮殿は男子禁制の百合の園となる。巫子見習いは男女ともにいるが、生活圏は全く別々で顔を合わせることもないと聞いた。
もちろん世間一般ではやはり男女の恋愛が主流だし、俺の生家があるような田舎の村では男色や百合はあまり歓迎されていないのも事実だ。しかしこれは偏見というより、純粋に繁殖的な必要性によるものだろう。都会では意外と同性婚も多いらしい。お貴族様などは両刀遣いがほとんどだというし、俺も今から自分の選択肢を狭めることはないのだが、取り敢えず現時点での正直な気持ちを口にした。
「女の子には興味ないかな、今のところは。カノンやリアムと一緒にいるほうが楽しいし」
「僕も! 僕もシルヴァと一緒にいるほうが好き!」
「俺は入ってないのかよ……」
カノンがはしゃいで立ち上がり、リアムが呆れたようにぼやいたその時。
「ちょっと! 少し気を付けるの! スープがこぼれちゃったじゃないの!」
「あ……ご、ごめんなさい……」
どうやらカノンが突然動いたせいで、後ろの通路を歩いていた女の子にぶつかってしまったらしい。これから食事を始めるところだったようで、トレイの上にある皿には料理がいろいろと盛り付けられていたが、彼女が言った通りスープがこぼれて全て台無しになってしまっていた。
「っ…………!」
……と、いうか! その声にその見た目、もはや完璧に、とある異世界のレティさんでは? 幼女にしてもミニマムなその身の丈、こまっしゃくれた表情、そして身悶えしてしまうほど愛らしい古井さんの声!!! 何よりその美しい緑の瞳に、燃えるような赤い髪!!! ツインテールにしたら、まさにそのものではないか!!! まさかここにきて、新たな2.5次元を発掘してしまうとは!!!
「か……可愛い!!!」
思わずその言葉が俺の口をついて出た瞬間、ただでさえカノンと彼女のトラブルで不穏にざわめいていた食堂が、今度は一気に静まり返った。その尋常ではない雰囲気は、はっきり言って一ヶ月ほど前にリアムが騒動を起こした夕食時の比ではない。
「……ん? あれ? どうかした……?」
周囲の凍り付くような空気に俺が目を瞬いていると、不意にカノンが引き結んだ唇を戦慄かせ、涙ながらに叫んだ。
「……シルヴァの嘘つき! バカ! もう知らない!!!」
そして脱兎のごとく、カノンはその場から走り去った。
「えっ? ちょっ……カノン!」
何が何だかさっぱりわからないまま、俺は修羅場の当事者として公衆の面前で取り残され、呆然と立ち尽くした。だが、いつまでもこのままでいるわけにもいくまい。とにかく今はカノンのせいでスープまみれになってしまった食事の後始末をしよう。カノンのことは、それからだ。
気を取り直し、俺はレティさん(仮)のほうを振り返った。
「えっと……俺の友達がごめんね。火傷とかしてない? 服は大丈夫? これは俺が片付けるよ。悪いけど、もう一度新しいのを取りに行こう。俺も手伝うから」
俺なりに誠心誠意、申し訳ない気持ちを込めて言葉を紡いだつもりだ。
が。
レティさん(仮)はそのミニマムな身の丈にも関わらず、幼女とは思えぬ迫力で俺を睨みつけた。
「……お前、何様のつもりなの? この私に喧嘩を売るとはいい度胸なの。そんなに竜の御許に還りたいのなら、今すぐ私の炎で送ってあげるの!」
……何その喋り方、可愛い!!! 語尾が統一されてるとか!!! 今まで気づかなかったけど、この世界にも方言とかあるの? それともそういうキャラ設定? レティさん(公式)も独特な語尾だったし、嫌いじゃない!!! というか、オタク心をくすぐられるから好きだ!!!
デレデレしてしまうと怒られてしまいそうだったので、俺的には自重したはずだったが、どうやら正直すぎて駄々洩れだったらしい。レティさん(仮)はお怒りの様子で、スープまみれのトレイを近くのテーブルに叩きつけるように置いた。
「私の炎にかけて、その霞がかった頭を焼き尽くしてあげるの! 今すぐ中庭に出るの!」
「え……俺はもう食べ終わってるからいいけど、君はまだお腹が空いてるんじゃ……」
俺の言葉を耳にするとレティさん(仮)は今すぐにも発火現象を起こしそうな形相になり、それを遮るように突然リアムが声を上げた。
「わ~かった! よし! 取り敢えず中庭に行こう! な!」
「うん? あ~……じゃあ、先に食器を片付けるから、ちょっと待っ……」
俺が言い終わるより早く、リアムが隣の席の者に勢いよく頭を下げた。
「本当に悪い! ここにある食器を、俺たちの代わりに片付けてくれないか?」
「ちょっ……リアム! そんな必要は……」
「この埋め合わせは必ずする! 確かアルトだったよな? 他にも手伝ってくれた奴は後で一緒に声をかけてくれ。この瞳にかけて、ちゃんと礼をする」
リアムは真面目な顔で俺の言葉を封じると、付け加えた。
「シルヴァも一緒にな。それならいいだろ?」
「……まあ、そうだな。本当にすまないが……」
不運にも俺たちの隣に座っていたアルトに申し訳ない顔を向けると、むしろアルトは強張った面持ちでリアムに強く同意するように頷いた。
「気にするな。というか、本当に早く行ったほうがいい」
「……そうか、ありがとう。では、後で」
何やら腑に落ちないが、どうも俺は傍から見ても極めてひっ迫した状況にいるらしい。
「早くするの」
改めてレティさん(仮)にも促され、俺は静まり返った食堂を歩き出した。その時、俺はふとあることに気づき、念のため近くのテーブルから素早くあるものを入手した。それからその場にいる見習い候補たちの視線を独り占めしつつ、俺はレティさん(仮)の後ろについて中庭に向かったのだった。
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