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おじさんと猫3

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トラブルはあったものの、買い物を終え,家の手前まで帰ってこれた。時刻はもうすでに午後の二時近くまで過ぎていた。一般の人からすると少し遅い昼食だが、一般人の常識は魔術師のそれとは異なり、彼らの仕事柄、いつも決まった時間に食事や睡眠を取れないことはよくあることらしい。

そういった魔術師は名を知られ、たくさんの人に仕事を依頼されて多忙な場合か、もしくは時間など忘れ自分の趣味である研究や実験などに没頭する者達だろうか。だが、俺達みたいな始めたばかりの新米はただ自分の好きな時にご飯を食べ、好きな時に就寝するような生活を送ってはいるが、もし自分が何かの功績を残し、有名になっとすれば、今みたいな生活を送ることはできないだろう。

魔術を生業とする時から分かってはいたが、自分の名が上がると同時に依頼の量や難度も上がる。危険も増え、大変だと思うが、それを仕事している魔術師にとっては、自分の名を上げるのはとても名誉あることで魔術師の尊厳の一つでもある。だから俺も自分が無理をしない程度には己の名を上げることにあまり苦にならないでいる。目立ちたくはないが。

家がある所まで、だんだんと近づくと視界に自宅が映った、俺の家から市場までは結構距離があり、往復するだけでも中々の労力がいる。ふうっと俺が息をついた直後、その自宅の前に誰かが立っていることに気付いた。それが見知った人物だとわかり、声をかけた。

「ステラさん?こんな所で何してるんですか?」

「あぁっ、モトツグさん!お持ちしてたんですよ!」

彼女はステラ。

ミルファスで宿を営む旦那さんの嫁で、昔は俺もお世話になり、よく彼女の子供達の相手をしていた。何度か街中で会うとその場で会話したりしているのだが、こうして俺の自宅を訪れるのは珍しい。表情はどこか険しくただ,
雑談をしに来た様子ではないこと感じた。

「とりあえず、家の中に入ってください。話はその後に聞きます」

扉のドアノブに手を置き、鍵開けの魔術をかけると、ロックが解除され、扉を開けステラさんを家の中へと招いた。ステラさんは椅子に腰かけ、シャ-ロットはソファの所に座り、俺は客人に出すお茶を沸かした。

「市場で買った安物ですけど、これでよろしいですか。」

「全然気にしないでください!、突然訪ねてきたのは私の方ですから」

ステラさんは害もなく、出された物に不満を言わなかった。正直、あまりこういった家を訪ねてくるお客さんにもてなすような経験が乏しい俺は何か言われるんじゃないかと思い、内心でホっとした。

「それで、今日はどのようなご用件で?いつも街中で会話していましたから、こうして自宅で話すということはそれほど重要な話なんでしょう?」

不安な要素が中から消えたことを皮切りに、本題へと入った。問われたステラさんは下に俯き、静かに口を開き話の内容を語ってくれた。

「・・・二週間前の出来事なんですが、私の子供達がいつものように外に遊んでて、あの子たちが町の外に遊びに行くときは必ず、遠くに行かず、晩御飯前に帰ってきてって、注意してるんですが、その日は門限をとっくに超えてて、夜遅くは凶暴な魔物も出るから、なんで私の約束を守れないんだって、つい、カッとなってあの子たちに怒ってしまったんです。そこから、喧嘩になって、最終的にうちの子達は家を飛び出してしまったんです」

「その子達は、いまどこへ」

「家にいます。今もなお、寝たっきりですが、家を出ていった後、私と夫はすぐにその後を追ったんです。ですが家の外に出た時はすでに子供達の姿はなく、必至になって街の隅々まで探したんです。何時間も探していて、、とうとう街の外までも探し回って、外の奥に行ったときには、やつとその場倒れこむ子供達を見つけんです」

内容は不穏だったものの、最後の話の部分を聞いて安心した。だが、事の顛末を語ってくれたステラさんの顔は曇りかがったままだった。

「私はいけない事をしたんです。いつも親である私たちに構ってもらえないことに。あの子達は、きっと寂しい思いをしていたはずなのに、・・・私たちをそれを自分の仕事が忙しい事を言い訳にして見てみぬふりをしてきたんです」

悲痛なその思いに、俺はかける言葉が見つからなかった。
ステラさんの子供逹は、自分が親と一緒に遊びたくても遊んでもらえず、そこから溢れる寂しさにを振り払うかのように、門限を超えてまで、いつ襲われてもおかしくない街外の奥まで行って、遊んだのだ。
大分前に、俺が買い物をしてる途中にステラさん逹が忙しい中、代わりに俺が子供の遊び相手をしたことが、何度もあった。ステラさんの子供は男女の二人いて、その時の子供逹のの顔は笑ってもいても、時々、宿の方を向いては、寂しい表情をしていたのだ。


だが、そんな子供でもいつしか大人になれば、自由な時間は失われていくものだ。
その子供逹の親である妻のステラさんと宿主で夫であるエイギルさんはこのミルファスの街で、中々人気のある宿屋でもあり、1日でも宿に泊まる人が集中すれば、その仕事の多忙さは他の宿屋とは比べ物にならないだろう。
しかし、例えどんなに忙しくても彼らはめげずに頑張るだろう。自分逹の宿に泊まってくれるお客様の為、
ーーーそして他でもない、子供逹の生活の為にも。

「・・・ステラさん。顔を上げてください」

心の中を吐露して、俯いてた婦人は声をかけられたら事に気づき、顔を上げてくれた。

「あなたの気持ちは良くわかりました。どんな依頼でも受けます。ですから、僕はどうすればいいか、教えてください。微力ながらも自分の出来る限りを尽くします」

その言葉を聞いたステラさんは今まで、曇りかがっていた、表情が晴れやかに変わった。

「・・・ありがとう、ありがとうございます」
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