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絆編
力を合わせてクロノ死す
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クロノと愉快な仲間たちは、北の森でキャッキャウフフしていたら、空から赤龍がこんにちは。シータと呼ぶにはあまりに凶悪なそいつと戦えるはずもなく、仲間を逃がすために自分が囮になる提案をした。皆が。
「早く逃げろよ。1秒だって無駄に出来ないんだぞ」
「おふたりには荷が重い。僕が気を引きますって」
「ガード舐めるなよ。ここは俺に任せろ!」
凄くわちゃわちゃしている。即席パーティーの弱さが土壇場で出てしまっている。しかも互いに譲る気がないのだから泥沼であった。
「はぁ、仕方ないですね。僕が残る理由を教えましょう。僕は、王都のBランク冒険者です。今まで騙しててすみませんね。そんなわけで、足手まといは消えてください」
「んなこと言ったら、俺はガードで最強の男だぜ」
「それお前しかガード居ないからだろ。俺なんて本当は正式にギルド職員だぞ。黙って従えよこの下っ端どもが」
クソみたいな暴露展開が始まった。結構、大事な話も含まれていると思うが、何が真実で何が嘘なのか。即席パーティーが判断できるはずもなし!
「だから! 僕が残るって言ってるじゃないですか!」
「いやいやいや、それガードに対する侮辱だから。キッチリ戦うし、キッチリ守る。俺が証明してやるって!」
「相手は俺を狙ってるんだぞ? 俺が残るのが合理的だろうが。粘るからさっさと助けを呼んでこいって言ってんだよ!」
「仮にブサクロノさんがギルド職員なら、戻って討伐隊を編成してくださいよ。職務怠慢ですよ!!」
「確かに。クロノは帰れ。ついでにファウストも帰れ!!」
言われてみれば、ギルドは閉まっている。有事の際に、防衛の責任者は、アルバ側はガイルさんで、ギルド側は消去法で俺になるのか。つまり……?
「やっべぇ! ハゲもギルド長も居ねぇよ!?」
「ちょっ、なんてこと言うんですかこの人は! 龍は人の言葉を理解する。常識でしょう!?」
「知ってるけど……そ、そんなに賢いの!?」
「一度使ったスキルは、読まれるぜ」
まじかぁ。ひょっとしなくても、俺がやらかしちゃったか。ギルド長とハゲはアルバの最終兵器。揃って不在だとバラしてしまったら、アルバはどうなってしまうのか……。
今は心配している場合じゃない。今の状況を、町に伝えなければ!
出番だぞ、レスキューバードことカラスくん。普段は俺の肩に止まって梟と喧嘩しているが、冒険中は後方に潜ませている。ひねくれ者なりのリスク分散である。
純粋なレスキューバードと違って、イレギュラーなカラスくんは、腐っても魔物だ。戦いにこそ参加させないが、自分の身を守る最低限の身体能力は備えていると判断した。
赤龍に遭遇してちょっと時間が経過したわけだし、そろそろ安全に離脱して凶報を町に届けてくれている……はずが、まだ居るじゃん。木々の隙間から震えているカラス居るじゃん!?
チキンハートか! 羽の下はバード肌か!? でも頑張って!?
さっさと行けと目線で合図しているが、まるで飛び立つ気配がない。いくら赤龍が怖いとはいえ、臆病すぎるのでは……そうか。
上位の魔物は、弱い生物の行動を封じる【威圧】を持っている。あの日、森で出会った俺が動けなかったように、カラスもまた動けなかったのだ。あたしってほんとバカ。
「カラス! ガイルさんに伝えろ!! 北の森に赤龍出現!!」
「カーッ!!」
厄介な【威圧】も、万能ではない。攻撃を受ければ硬直は解けるし、誰かが別のことで驚かせるだけでもいい。だから、出せる限りの大声で指示を飛ばせば、カラスは動けるようになる。同時に、レスキューバードの存在が敵に知られてしまう。
――行かせるかァァァァッ!!
飛び上がるカラスに、赤龍が大口を開ける。喉の奥で、赤い炎が揺らめいている……!
「行かせるに決まってんだろ。カラス、お前のデビュー戦だ。振り返るな。派手に飛べっ!」
絶対に行かせない赤龍VS絶対にイかせる俺。男として、この勝負は負けるわけにはいかないのだ。
「【ウィスパー】【バリア】【バリア】」
出す場所はカラスの背後……カラスを焼くはずの炎は、バリアによって二手に別れ、木々を燃やす。その煙がカラスの姿を隠した。
「敗 北 を 知 り た い」
赤龍がカラスを追わないように、俺が注意を引くしかない。だから、この煽りは仕方ない。ちなみに、もう半分は趣味である!
――おのれェェェッ! どこまでも忌々しいオークめ!
赤龍ってこんなに喋るのか。ちょっとどもってる感じはあるけど、普通に喋れている。だったら、説得できるのでは?
「俺は恨みを買うようなことをした覚えがない。人違いじゃないか?」
――ふん、恨みなどない。これは母に与えられた試練。人の言葉を話す、肌色の珍妙なオークの首を持ち帰る。そして我は成龍となる!
成龍って何だろう。ジャ○キー・チェンじゃないだろうし。話の流れから察するに、試練を達成することで大人の龍として認められる感じか。
――仲違いで楽に達成できるかと見ておれば、余計なことを。まぁよい。どうせ父を狩った人間も食らうのだ。まずはお前たちから消し炭にしてくれる!
首を持ち帰るんじゃねーのかよ。消し炭になったら間違い探しになるぞ。この感じだと、頭は特別良いわけではなさそうだ。
まぁ、頭が悪いのはここに残っている俺たちも同じである。やべーやつを前に、喧嘩ばっかしているのだから。
「救援要請は出せたが、討伐隊が到着するまで2時間はかかる。残ったやつは、確実に死ぬな」
「……はぁ、ブサクロノさんはバカですか。さっきの話、聞いてました? 敵に情報を与えてどうするんですか」
聞いているさ。時間など適当に言っただけだ。長すぎず、短すぎず。赤龍が程よく油断してくれるのではないか? 淡い望みが込もったハッタリだ。
効果があろうがなかろうが、ハッタリは常に織り交ぜていく。それが、弱いやつなりの戦い方だから。
「赤龍からは逃げられない。どうせ死ぬなら、隠しても同じことだろ……ところで赤龍さん。ちょっと提案がございます」
――気安い豚め。調子に乗るな。
「まぁまぁ、そう仰らずに。自分、あなた様の母親に会ったことがございまして、なかなか興味深い話を聞いちゃったんですよぉ」
――なにィ? 殺す前に話せ。
「俺たちの話が終わるまで、もうちょっとだけ待ってくれたら、お礼に教えます」
――フゥゥゥムゥ……早くしろ。嘘だったら殺す。
どのみち殺す癖にぃ。とにかく、時間は稼いだ。相手がバカで助かった。さて、お仲間である人間様たちは、さぞ賢い……と、思いたい。
「で、これからどうするか話してもいい?」
「まぁ、いいですよ。僕が残ります」
「分かった。俺が残る! 任せとけって!!」
「ライオネルさんも話を聞いてましたか? Cランクは引っ込んでてくださいよ!」
「後衛こそ引っ込んでろよ。ガード舐めすぎだろ。2時間だっけ、それくらいなんとかするさ」
こいつら仲が良いのか悪いのか……。この空間、バカしかいねぇな。
「もう3人で食い止めるか」
「おっ、いいじゃん。そうしようぜ」
「バカも大概にしてください。あなたたち、死にますよ。僕は死にませんけど」
「嫌なら帰れ。お子様を諭してる余裕はねぇんだよ」
「おぉ、そうだ! 帰れ帰れ! ついでに助けを呼んできてくれ」
「冷静になってくださいよ。この中で一番強いのは、僕です。Bランクの僕だけなら、応援が来るまで凌げます」
「本当にBランクならな。悪いが俺は信じてない」
「同感だぜ。俺も少年がBランクだとは思えない。セオリーを無視してんだよ」
セオリーとかあるのか。俺はそういうの疎いんだよな。ちゃんとしたパーティーを組むのって、これで2回目だし。死ぬ前に聞いておこう。
「パーティーで一番生き残る力があるのがタンク。最初に死ぬのもタンク。それがパーティー崩壊の目安で、撤退が決まるわけ。それを先に逃げろなんて言われて、頷くタンクがどこに居るんだよ」
たとえタンクになれずとも、ガードを名乗り、盾役を公言しているライオネル。これは意地……いや、信念か。
「ガードとタンクは違います。平和なアルバなら通用したかもしれませんが、相手は赤龍です。生き残るという一点において、僕はライオネルさんを信用できません」
あー、もうぐちゃぐちゃだよ。赤龍の影響で、魔物は逃げ去っている。この即席パーティーは一度も戦闘をしていない。だから仲間の未知数の実力を当てにしない。そして、この場に居る誰もが、『自分だけなら生き残れる』と思っている。
うん、ダメだこりゃ。どれだけ話しても答えは出ない。バカな赤龍だって、そろそろ我慢の限界だろう。ここは年長者の俺が答えを出すべきだ。
「もう知らん。俺は残る。Bランクのお強いファウスト様に守って貰う」
話にならないなら、話をしなければいいじゃない。アントワネット会話術が炸裂した。
「へぇ、いいね。だったら俺も残るぜ。危ないから、俺の前に出るなよ?」
柔軟な発想を手に入れているライオネルは、俺の提案に同調する。これで反対するのはファウストのみ。民主主義、バンザイ!!
「おふたりとも、人格に問題がありますね。せいぜい僕の足を引っ張らないでくださいよ」
向かい合っていた俺たちは、皆で赤龍に向き直る。面と向かって見ると、やっぱ怖いな……。
――話はまとまったか。して、母が言っていた面白い話とは?
「そんなもんねぇよ。分かってたんだろ? でも『ひょっとして』とか思っちゃったのかな!?」
見え見えの時間稼ぎと、安い挑発に引っかかるやつはそう居ないだろう。だが、『安すぎる挑発』まで低次元にすれば、腹が立って仕方がない。周囲を飛ぶ蚊の如く。これぞ煽りの真髄よ!!
――貴様ら……まとめて……消し炭にしてくれるわァァァァァッ!!
怒りの咆哮が体の自由を奪う。耳を抑えることすら許されない。この感覚は……【威圧】だ。【闇の喜び】で恐怖を打ち消す……っ!
「くくっ、クククッ……ハーッハッハッ……は?」
俺がバカな高笑いをしている最中、赤龍が一瞬だけ動いた気がした。身構えた直後、ライオネルが何かに吹き飛ばされ、視界から消えた。
「おい! ライオネルが死んだぞ……?」
「くそっ、だから言ったのに……っ! ブサクロノさんは早く逃げてください。お願いします、僕を信じて!」
タンクの死は、パーティー崩壊を意味する。その場合、速やかに撤退するのがセオリーだったか……?
こりゃ、逃げた方が良さそうだな……。
「早く逃げろよ。1秒だって無駄に出来ないんだぞ」
「おふたりには荷が重い。僕が気を引きますって」
「ガード舐めるなよ。ここは俺に任せろ!」
凄くわちゃわちゃしている。即席パーティーの弱さが土壇場で出てしまっている。しかも互いに譲る気がないのだから泥沼であった。
「はぁ、仕方ないですね。僕が残る理由を教えましょう。僕は、王都のBランク冒険者です。今まで騙しててすみませんね。そんなわけで、足手まといは消えてください」
「んなこと言ったら、俺はガードで最強の男だぜ」
「それお前しかガード居ないからだろ。俺なんて本当は正式にギルド職員だぞ。黙って従えよこの下っ端どもが」
クソみたいな暴露展開が始まった。結構、大事な話も含まれていると思うが、何が真実で何が嘘なのか。即席パーティーが判断できるはずもなし!
「だから! 僕が残るって言ってるじゃないですか!」
「いやいやいや、それガードに対する侮辱だから。キッチリ戦うし、キッチリ守る。俺が証明してやるって!」
「相手は俺を狙ってるんだぞ? 俺が残るのが合理的だろうが。粘るからさっさと助けを呼んでこいって言ってんだよ!」
「仮にブサクロノさんがギルド職員なら、戻って討伐隊を編成してくださいよ。職務怠慢ですよ!!」
「確かに。クロノは帰れ。ついでにファウストも帰れ!!」
言われてみれば、ギルドは閉まっている。有事の際に、防衛の責任者は、アルバ側はガイルさんで、ギルド側は消去法で俺になるのか。つまり……?
「やっべぇ! ハゲもギルド長も居ねぇよ!?」
「ちょっ、なんてこと言うんですかこの人は! 龍は人の言葉を理解する。常識でしょう!?」
「知ってるけど……そ、そんなに賢いの!?」
「一度使ったスキルは、読まれるぜ」
まじかぁ。ひょっとしなくても、俺がやらかしちゃったか。ギルド長とハゲはアルバの最終兵器。揃って不在だとバラしてしまったら、アルバはどうなってしまうのか……。
今は心配している場合じゃない。今の状況を、町に伝えなければ!
出番だぞ、レスキューバードことカラスくん。普段は俺の肩に止まって梟と喧嘩しているが、冒険中は後方に潜ませている。ひねくれ者なりのリスク分散である。
純粋なレスキューバードと違って、イレギュラーなカラスくんは、腐っても魔物だ。戦いにこそ参加させないが、自分の身を守る最低限の身体能力は備えていると判断した。
赤龍に遭遇してちょっと時間が経過したわけだし、そろそろ安全に離脱して凶報を町に届けてくれている……はずが、まだ居るじゃん。木々の隙間から震えているカラス居るじゃん!?
チキンハートか! 羽の下はバード肌か!? でも頑張って!?
さっさと行けと目線で合図しているが、まるで飛び立つ気配がない。いくら赤龍が怖いとはいえ、臆病すぎるのでは……そうか。
上位の魔物は、弱い生物の行動を封じる【威圧】を持っている。あの日、森で出会った俺が動けなかったように、カラスもまた動けなかったのだ。あたしってほんとバカ。
「カラス! ガイルさんに伝えろ!! 北の森に赤龍出現!!」
「カーッ!!」
厄介な【威圧】も、万能ではない。攻撃を受ければ硬直は解けるし、誰かが別のことで驚かせるだけでもいい。だから、出せる限りの大声で指示を飛ばせば、カラスは動けるようになる。同時に、レスキューバードの存在が敵に知られてしまう。
――行かせるかァァァァッ!!
飛び上がるカラスに、赤龍が大口を開ける。喉の奥で、赤い炎が揺らめいている……!
「行かせるに決まってんだろ。カラス、お前のデビュー戦だ。振り返るな。派手に飛べっ!」
絶対に行かせない赤龍VS絶対にイかせる俺。男として、この勝負は負けるわけにはいかないのだ。
「【ウィスパー】【バリア】【バリア】」
出す場所はカラスの背後……カラスを焼くはずの炎は、バリアによって二手に別れ、木々を燃やす。その煙がカラスの姿を隠した。
「敗 北 を 知 り た い」
赤龍がカラスを追わないように、俺が注意を引くしかない。だから、この煽りは仕方ない。ちなみに、もう半分は趣味である!
――おのれェェェッ! どこまでも忌々しいオークめ!
赤龍ってこんなに喋るのか。ちょっとどもってる感じはあるけど、普通に喋れている。だったら、説得できるのでは?
「俺は恨みを買うようなことをした覚えがない。人違いじゃないか?」
――ふん、恨みなどない。これは母に与えられた試練。人の言葉を話す、肌色の珍妙なオークの首を持ち帰る。そして我は成龍となる!
成龍って何だろう。ジャ○キー・チェンじゃないだろうし。話の流れから察するに、試練を達成することで大人の龍として認められる感じか。
――仲違いで楽に達成できるかと見ておれば、余計なことを。まぁよい。どうせ父を狩った人間も食らうのだ。まずはお前たちから消し炭にしてくれる!
首を持ち帰るんじゃねーのかよ。消し炭になったら間違い探しになるぞ。この感じだと、頭は特別良いわけではなさそうだ。
まぁ、頭が悪いのはここに残っている俺たちも同じである。やべーやつを前に、喧嘩ばっかしているのだから。
「救援要請は出せたが、討伐隊が到着するまで2時間はかかる。残ったやつは、確実に死ぬな」
「……はぁ、ブサクロノさんはバカですか。さっきの話、聞いてました? 敵に情報を与えてどうするんですか」
聞いているさ。時間など適当に言っただけだ。長すぎず、短すぎず。赤龍が程よく油断してくれるのではないか? 淡い望みが込もったハッタリだ。
効果があろうがなかろうが、ハッタリは常に織り交ぜていく。それが、弱いやつなりの戦い方だから。
「赤龍からは逃げられない。どうせ死ぬなら、隠しても同じことだろ……ところで赤龍さん。ちょっと提案がございます」
――気安い豚め。調子に乗るな。
「まぁまぁ、そう仰らずに。自分、あなた様の母親に会ったことがございまして、なかなか興味深い話を聞いちゃったんですよぉ」
――なにィ? 殺す前に話せ。
「俺たちの話が終わるまで、もうちょっとだけ待ってくれたら、お礼に教えます」
――フゥゥゥムゥ……早くしろ。嘘だったら殺す。
どのみち殺す癖にぃ。とにかく、時間は稼いだ。相手がバカで助かった。さて、お仲間である人間様たちは、さぞ賢い……と、思いたい。
「で、これからどうするか話してもいい?」
「まぁ、いいですよ。僕が残ります」
「分かった。俺が残る! 任せとけって!!」
「ライオネルさんも話を聞いてましたか? Cランクは引っ込んでてくださいよ!」
「後衛こそ引っ込んでろよ。ガード舐めすぎだろ。2時間だっけ、それくらいなんとかするさ」
こいつら仲が良いのか悪いのか……。この空間、バカしかいねぇな。
「もう3人で食い止めるか」
「おっ、いいじゃん。そうしようぜ」
「バカも大概にしてください。あなたたち、死にますよ。僕は死にませんけど」
「嫌なら帰れ。お子様を諭してる余裕はねぇんだよ」
「おぉ、そうだ! 帰れ帰れ! ついでに助けを呼んできてくれ」
「冷静になってくださいよ。この中で一番強いのは、僕です。Bランクの僕だけなら、応援が来るまで凌げます」
「本当にBランクならな。悪いが俺は信じてない」
「同感だぜ。俺も少年がBランクだとは思えない。セオリーを無視してんだよ」
セオリーとかあるのか。俺はそういうの疎いんだよな。ちゃんとしたパーティーを組むのって、これで2回目だし。死ぬ前に聞いておこう。
「パーティーで一番生き残る力があるのがタンク。最初に死ぬのもタンク。それがパーティー崩壊の目安で、撤退が決まるわけ。それを先に逃げろなんて言われて、頷くタンクがどこに居るんだよ」
たとえタンクになれずとも、ガードを名乗り、盾役を公言しているライオネル。これは意地……いや、信念か。
「ガードとタンクは違います。平和なアルバなら通用したかもしれませんが、相手は赤龍です。生き残るという一点において、僕はライオネルさんを信用できません」
あー、もうぐちゃぐちゃだよ。赤龍の影響で、魔物は逃げ去っている。この即席パーティーは一度も戦闘をしていない。だから仲間の未知数の実力を当てにしない。そして、この場に居る誰もが、『自分だけなら生き残れる』と思っている。
うん、ダメだこりゃ。どれだけ話しても答えは出ない。バカな赤龍だって、そろそろ我慢の限界だろう。ここは年長者の俺が答えを出すべきだ。
「もう知らん。俺は残る。Bランクのお強いファウスト様に守って貰う」
話にならないなら、話をしなければいいじゃない。アントワネット会話術が炸裂した。
「へぇ、いいね。だったら俺も残るぜ。危ないから、俺の前に出るなよ?」
柔軟な発想を手に入れているライオネルは、俺の提案に同調する。これで反対するのはファウストのみ。民主主義、バンザイ!!
「おふたりとも、人格に問題がありますね。せいぜい僕の足を引っ張らないでくださいよ」
向かい合っていた俺たちは、皆で赤龍に向き直る。面と向かって見ると、やっぱ怖いな……。
――話はまとまったか。して、母が言っていた面白い話とは?
「そんなもんねぇよ。分かってたんだろ? でも『ひょっとして』とか思っちゃったのかな!?」
見え見えの時間稼ぎと、安い挑発に引っかかるやつはそう居ないだろう。だが、『安すぎる挑発』まで低次元にすれば、腹が立って仕方がない。周囲を飛ぶ蚊の如く。これぞ煽りの真髄よ!!
――貴様ら……まとめて……消し炭にしてくれるわァァァァァッ!!
怒りの咆哮が体の自由を奪う。耳を抑えることすら許されない。この感覚は……【威圧】だ。【闇の喜び】で恐怖を打ち消す……っ!
「くくっ、クククッ……ハーッハッハッ……は?」
俺がバカな高笑いをしている最中、赤龍が一瞬だけ動いた気がした。身構えた直後、ライオネルが何かに吹き飛ばされ、視界から消えた。
「おい! ライオネルが死んだぞ……?」
「くそっ、だから言ったのに……っ! ブサクロノさんは早く逃げてください。お願いします、僕を信じて!」
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