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自称天使レア

守護天使・降臨

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 静かな森に響く地鳴り。
 遠くから木々をなぎ倒しながら、オークとゴブリンの群れが迫っている。


「ちょっっっ、何あれ!? 大群なんだけど!?」
「ココン!? 魔物大発生スタンピード!?」
「いや、誰か居るぞ!?」


 群れの先頭を走るのは、男だった。
 オークたちの巣をつついた無謀な冒険者が、逃げ出したまではいいが、そのまま追われてこの騒ぎとなったのだろう。


「おーい、そこのお嬢さんたち、助けてくれ!!」


 しかしリサ、当然ながらこれをスルー。
 ちょっと数が多すぎる。たった三人でどうにかなるはずもない。


「おいおい、冷たいじゃねーか。まっ、お前らの許可はいらねぇけどな」


 男はニヤリと笑い、まっすぐリサたちに向かってくる。
 あからさまな、なすけだ。


 オークの群れが、リサたちに気づいた。
 鼻を鳴らし、獲物を男からリサたちへと変えた。
 リサとコン。【上質なマナ】の匂いを嗅ぎ取ったのだ。


「げぇ~ひゃっひゃっひゃっ! ちょっとぶたどもの相手してくれや。100人斬り伝説は、語り継いでやるからよぉ!! あばよ、異種姦いしゅかんビッチども」


 横にれた男が、森に消えていった。
 残ったオークたちの群れは、すぐにもリサたちを飲み込むだろう。

 小規模な群れならともかく、興奮状態こうふんじょうたいの大集団では、交渉セックスアピールもなしに襲われる。
 かなり真面目にピンチだ。


「あの男!! ぜってー殺す!!」
「今は群れの対処たいしょだ。数が多すぎる」
「コンは戦う。オークなんかに負けない」
「俺はコンちゃんを抱えて逃げる。レア、時間稼ぎよろしくね♡」
「ちょぉぉぉっ!? 一人であの数を!?」


 このまま戦闘になれば、コンはオークに種付けプレスされてママになってしまう。
 いかにすけべなリサでも、コンの身の安全を優先するのは当たり前だった。


 リサはコンを小脇こわきかかえ、一目散いちもくさんに逃げ出した!!


「リサ、放して!! コンは戦う!!」
「あれはちょっと無理だよ。この歳でママになりたいの?」
「ぐぬぬ、じゃあコンだけで助けを呼ぶから、レアを――」
「それも無理なんだよねぇ。やれば分かるよ」


 リサに降ろされ、地に足が付いたコンは、避難しようと走り出した。


「コンは足が早い……ココーン!?」


 コンは派手にすっ転んだ!!


「ほらね、言ったでしょ」


 オークたちの大群が迫っている衝撃しょうげきで、地面が揺れている。
 尻尾しっぽ毛並けなみはもちろん、体幹たいかんもふわっふわのコンは足を取られて動けない。


「ひとまず森の外に運ぶから。そしたら、別行動ね」
「ココン……分かった。ごめんなさい」
「大丈夫だって。レアは強いから、こんなことじゃ死なないよ♡」


 リサとコンは、レアを信じて森の外を目指した……。



 置き去りにされたレアは、オークの群れに囲まれていた。
 その数、100を超える。


「ここは通さん!! ふっ、やぁっ!!」


 持ち前の剣技けんぎと、防具の性能をうまく使って応戦おうせんしたレアだが、多勢たぜい無勢ぶぜい
 新品の鎧は傷だらけになり、肌にもたくさんの傷が浮かんでいる。


「くっ、こうも数が多くてはっ」


 倒してもきりがない。退路たいろも塞がれている。
 絶体絶命のピンチでも、騎士の心は折れなかった。


「たとえここで死ぬとしても!! 一匹でも多く、道連れにしてくれる!! 後ろへは、決して、行かせんぞぉぉぉ!!」


 次々とオークを斬り伏せるレアだったが、返り血が目に入ってしまった。


「しまった……ぐぅっ」


 オークのこんぼうを直撃したレアが、がくりと膝を付く。
 それでもすぐに立ち上がり、お返しに致命傷ちめいしょうを与えた。


「はぁっはぁ……リサたちは、無事に逃げられただろうか……」


 レアの手から剣が滑り落ちた。


「天よ……ラピス様……志半こころざしなかばで倒れることをお許しください」


 体力を使い果たしたレアは、両膝りょうひざをついてくもそらを見上げた。
 遠い故郷に思いをせながら、最後のときを迎えようとしたとき――。

 分厚ぶあつい雲を引き裂き、落雷らくらいがレアに直撃した。


「こ、これは……天はまだ私を見守っていてくださるのかっ!!」


 レアに降り注いだ雷は、天界に封印された天使の力。
 魔剣チャームを解放し、罪人として追放されたときに失ったレアの力だった。


使命しめいを果たせ、と。そうおっしゃるのですね……」


 使い果たした力が戻ってきた。
 剣を握り直すと、前よりも調子がいいくらいだ。


守護天使しゅごてんしレア……まいるっ!!」


 純白じゅんぱくの翼を広げ、守護天使しゅごてんしレアが悪に向かって吠えた……。



 コンを送り届けたリサは、レアの元に向かっていた。
 ようやく駆けつけたとき、戦いは終わっていた。


「レア……?」


 オークとゴブリンの死体の山のいただきに、天使の姿をしたレアが立っていた。
 おびただしい返り血を浴びながらも、純白じゅんぱくの翼にけがれはない。
 空をおお暗雲あんうんも、レアの周りだけ晴れ渡っていて、神々しい姿を照らし出していた……。


「リサ。無事だったか」
「レアこそ大丈夫だいじょうぶ? 遅くなってごめんね。もうすぐ応援がくると思うけど、いらなかったみたいだね」
「いや、いいんだ。リサたちが無事でよかった」


 それっきり、レアは空を見上げたままだった……。


 リサは面白くなかった。
 天界とやらがレアを助けたのは感謝している。
 しかし、そのせいで、レアがまた天界への想いをつのらせた。


(レアは渡さないよ。今度こそ、本気でレアをとりこにしてやるんだから♡)


 リサのよこしまな気配を感じ取ったスライムも、静かに震えた……。
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