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07. 俺と、婚約者①
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「リーチよ!」
青髪のメイドが牌を曲げ、1000点棒を置いた。南四局、誰も三万点に届いていない、接戦のオーラスである。あがればトップになるのだろう。それは同時に、彼女に振り込んだ者が四位に転落することも意味している。もっと言うと、その最終順位によって、彼女たちの自由に使えるお小遣いが大きく変わるのである。だから全員、いつも真剣だ。
追いかける残り三人のメイドたちは、震える手で牌をツモり、切る。青髪メイドは一発ツモならず、三人のほっとした息の音が、俺のところまで聞こえてくるかのようだ。
そして次の巡目。
「カン!」
暗槓(アンカン)が入った! ドラ表示牌は……4ピン! これは熱いぞ……!
そんなとき、勝負に水を差すようなベルの音が館に響いた。なんとタイミングの悪い訪問者か。
「今、手が離せないわ!」「誰か出て!」「シャノン様!」「ご主人様、よろしく!」
全員卓上に釘付けである。
いや、まあ、絶対そう言うと思ってたけど、やっぱり館のご主人様たる俺が行くのかよ!
「俺以外にも、手の空いてるメイドが周りにいるようだが……」
ちなみに我が館には住み込みのメイドさんが十人以上いるので、人出は大いに足りている。しかし、どのメイドたちも、この一局を見届けたいらしく、来客のことなど知らんぷりである。
「この勝負は見逃すわけにはいきませんので」「ご主人様が一番暇でしょ」「仕事しろ」「ちょっとは働いてくださいよ」
俺の扱い、ひどくない……?
まあいいや。いつものことだからな。
俺は部屋を出て階段を降り、エントランスへ。
迷惑な来訪者は、ドアベルを鳴らすだけに飽き足らず、ドアをドンドン叩いている。
まったく、こんなときに誰だよ……。
「どなたですか」
「マリアベルよ!」
いや、誰だよ。だけどドアの向こうでやかましく喚くものだから、仕方なく開けてやった。
「遅いわ! って、あれ……?」
そこにいたのは、薄い金髪と、深いエメラルド色の瞳を持った少女だった。
え? めっちゃ可愛いんですが?
髪に付けた花の飾りは、いかにも手の込んだ職人の一品であり、服装もパーティーにでも行くのかと思うほど立派なドレスだった。どこからどう見ても、金持ちの貴族のお嬢様。だけど趣味がいいのと、彼女のまとっている上品な雰囲気のおかげで、まったく鼻に付かない。
「使用人がいっぱいいると思ってたのに、シャノン様だけ?」
お嬢様はちょっと納得いかないというふうに、少しだけ首をかしげた。その仕草が子供っぽくて、また可愛かった。
っていうか、この女、マジで誰だ?
「あー、ごほん。確かに俺はこの館の主、シャノンだが、何の用だ?」
明らかに貴族としての格では俺のほうが下なのだが、舐められないように、大人の男性の風格を装って尋ねた。
「そうだったわ。用事と言えば……シャノン様、私と結婚しましょう!」
「オジョウサン、何イッテルノ?」
「私はシャノン様を愛しています! 結婚式は明日でいいですか?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! さすがに急すぎて話が見えねえ!」
「じゃあ来週でもいいですわ」
「なんなの君!? 誰かとすぐ結婚しないと死ぬ病気なの?」
「はい♡ シャノン様と出会ったあの日から、私は愛という病に侵されてしまいました……」
頬を染めて恥じらう乙女。
こ、こいつ、マジで重症だ……。何を言ってるか、さっぱり分からねえぜ……。
「何してんのよー。次、あんたが卓に入る番でしょー?」
ぶらりとやってきたメイドさん。お客がそこにいると気付いて、ハッと居住まいを正す。
「し、失礼しました! ようこそいらっしゃいました! そこにいる冴えない男が、この館の主人であるシャノン様でございます!」
まあ、このお嬢様のオーラを前にしたら、うちのメイドですら、背筋を伸ばさざるを得ないわな。
それにしても、なんだよ、今の紹介の仕方は……。
「存じてますわ。愛する者の顔を忘れるわけがありません」
「愛する者……?」
ほら、そういうこと言うから、うちのメイドがフリーズしたじゃないか。
「あー、ごほん。そういうわけで、俺は忙しい。じゃあな」
バタン、とドアを閉めたところ、ドアの向こうで喚き声が響いた。
「シャノン様!? 私のことを忘れたのですか? ひどいです! あまりにひどいです!」
「なになに?」「若い女だ」「なんか揉めてる?」「強盗ですか?」「なんか面白そう」
対局が終わったらしく、メイドたちがぞろぞろとやってきた。こいつらが、あらぬ誤解をすると面倒だな。
「ちょっとお前たち、あっちで掃除でもしててくれるか? それにあんたも、俺の家の前で喚くのはやめてくれ」
しかし、なおもお嬢様はドアの向こうで喚き続けるし、メイドたちは面白がって集まってくる。
「私、マリアベルは今日で十六歳になったのですよ! あの日から今まで、私の気持ちは少しも変わりませんでした! 誓い合ったじゃないですか!? 思い出してください!」
マリアベル? 十六歳? 誓い合った?
「本当に忘れちゃったんですか!? 嘘ですよね!? あの日の出会いは、私にとって、雷に打たれるようでした!」
あの日の出会い……? 俺、人生でモテたことあったっけ?
何か思い出せそうだ。マリアベル? うーん……。
「もしかして……あのマリアなのか……!?」
「そうですとも! あのマリアです! あの日、結婚を誓い合ったマリアなのです!」
「結婚?」「誰?」「愛人?」「修羅場?」「うちのご主人様に限って、人違いでは?」
メイドたちがざわめき立つ。
昔のことですっかり忘れていたけれど……いろいろ思い出してきた。
あれは十年くらい前か?
どっかの貴族のパーティーで、名前も知らん迷子の幼女に懐かれて、帰り際、「結婚して」とか何とか言われた。当然ながら断ったが、幼女が俺のズボンをつかんで離さないものだから、仕方なく、大人になっても今日の気持ちがずっと変わらなかったら結婚してやる、とか何とか言ったのだ。その幼女が確か、マリアちゃんと呼ばれていたっけ……?
「マジかよ……」
あの幼女が、この美少女!?
俺はもう一度この美少女の顔をよく見て確かめようと思って、ドアを開けた。その瞬間、マリアベルが飛びついてきて、俺は勢いで押し倒された。
「思い出してくれたんですね!? 会いたかったですシャノン様! シャノン様はあの日と変わらず素敵です!」
「い、いや、確かにそれっぽいことは言った気がするが、十年も――ん゛ッ!?」
俺はマリアベルに口を塞がれた。マリアベルの唇で。
「もう大人のキスだって……できるんですから!」
「っ!?」
マリアベルの舌が入ってきて、俺の舌に絡みつく。えっちな水音が脳内に直接響いてくるようで、頭がぼんやりするし、混乱していて、マリアベルにされるがままだった。唇が柔らかくて最高だ。いい香りもする。なんか柔らかいものも当たってるし。なんだか、すげえ幸せな気分だ……。
エントランスに集合していたメイドたちが、ぽかんとした顔で俺たちを見下ろしていた。
* * *
リサは客間と廊下の間のドアに耳を付けて、中の会話をなんとか聞き取ろうとしていた。同じようにドアに貼り付いているメイドが五名。
というのも、数分前にこの部屋に、館の主であるシャノンと、突然現れた謎の美少女――マリアベルが二人だけで入っていったのである。
「絶対にドアを開けるな」とシャノンに命令されただけでも珍しいことだが、内側からカギまでかけられている。よほど聞かれたくない話をしているのだろう。
「何を話してるのかしら?」「よく聞こえないわ」「ちょっと、押さないでよ」「しゃべるな、聞こえない」
メイドたちは必死である。一方で、あまり興味が無さそうに、掃除や洗濯をしているメイドもいる。
さっきから聞こえるのは、「結婚」とか「この館」とか「売る」といった断片的な言葉だけである。
「やっぱりあれ、婚約者だったのよ」「あんなキモいご主人様に婚約者なんているわけないじゃん」「でもラブラブだったよ?」「シャノン様は困ってた」
「結婚詐欺かも」
エマが呟いた言葉に、「それだ!」とメイドたちがハモった。
「でもうち、お金あるの?」「さあ」「ブドウ畑がある」「それにこの館もあるじゃない」「畑も館も、あの女に盗られちゃうの?」「ていうか、私たちも売られるかもよ」「それは……ないでしょ」
シャノンとマリアベルの話し合いは、一時間以上に及んだ。
結局、決定的な情報は得られないまま、ドアが開かれた。
「おい、お前たち、なんで集まってんだ」
「集まってないわ、掃除してるだけよ」「そうです、掃除中です」「メイドを疑うなんて主人の恥」
「よく分からんが、お客様がお帰りだ。誰か玄関まで案内してやってくれ」
しかしメイドたちは主人の命令を無視して、それぞれ持ち場に散っていった。
「おいおい。なんなんだよ……」
「ここのメイドたちは変わってるわね。うちの館では、命令を無視するなんて絶対にありえないのに」
マリアベルが不思議そうにメイドの背中を見送る。
シャノンはため息を吐いて、廊下を歩きだす。
「どうせ嫉妬でもしてるんだろ」
「メイドが主人に嫉妬?」
「そうだ」
「不思議。シャノン様ってやっぱり他の人とは違うわ。そこが素敵」
マリアベルがシャノンの腕に抱き着く。
「そりゃ、どうも」
誉められ慣れていないシャノンは、少々照れたように言って、そのまま歩く。
一方、散っていったメイドたちは、こっそりと三々五々に集まって、密会を始めていた。
「やっぱりあの女、怪しい」「なにあのイチャラブは?」「やっぱ詐欺師」「シャノン様が騙されて、館を乗っ取られたら大変です」
メイドたちが見下ろす窓の向こう、庭を横切って、門を出ていくマリアベル。門前で待機していた馬車に乗り込み、帰っていく。
「……調査する必要があるわね」
「ええ」
「ご主人様を詐欺師から守るために」
「そして我々の雇用を守るために」
シャノンが主人になって以来、初めてメイドたちが団結した瞬間だった。
青髪のメイドが牌を曲げ、1000点棒を置いた。南四局、誰も三万点に届いていない、接戦のオーラスである。あがればトップになるのだろう。それは同時に、彼女に振り込んだ者が四位に転落することも意味している。もっと言うと、その最終順位によって、彼女たちの自由に使えるお小遣いが大きく変わるのである。だから全員、いつも真剣だ。
追いかける残り三人のメイドたちは、震える手で牌をツモり、切る。青髪メイドは一発ツモならず、三人のほっとした息の音が、俺のところまで聞こえてくるかのようだ。
そして次の巡目。
「カン!」
暗槓(アンカン)が入った! ドラ表示牌は……4ピン! これは熱いぞ……!
そんなとき、勝負に水を差すようなベルの音が館に響いた。なんとタイミングの悪い訪問者か。
「今、手が離せないわ!」「誰か出て!」「シャノン様!」「ご主人様、よろしく!」
全員卓上に釘付けである。
いや、まあ、絶対そう言うと思ってたけど、やっぱり館のご主人様たる俺が行くのかよ!
「俺以外にも、手の空いてるメイドが周りにいるようだが……」
ちなみに我が館には住み込みのメイドさんが十人以上いるので、人出は大いに足りている。しかし、どのメイドたちも、この一局を見届けたいらしく、来客のことなど知らんぷりである。
「この勝負は見逃すわけにはいきませんので」「ご主人様が一番暇でしょ」「仕事しろ」「ちょっとは働いてくださいよ」
俺の扱い、ひどくない……?
まあいいや。いつものことだからな。
俺は部屋を出て階段を降り、エントランスへ。
迷惑な来訪者は、ドアベルを鳴らすだけに飽き足らず、ドアをドンドン叩いている。
まったく、こんなときに誰だよ……。
「どなたですか」
「マリアベルよ!」
いや、誰だよ。だけどドアの向こうでやかましく喚くものだから、仕方なく開けてやった。
「遅いわ! って、あれ……?」
そこにいたのは、薄い金髪と、深いエメラルド色の瞳を持った少女だった。
え? めっちゃ可愛いんですが?
髪に付けた花の飾りは、いかにも手の込んだ職人の一品であり、服装もパーティーにでも行くのかと思うほど立派なドレスだった。どこからどう見ても、金持ちの貴族のお嬢様。だけど趣味がいいのと、彼女のまとっている上品な雰囲気のおかげで、まったく鼻に付かない。
「使用人がいっぱいいると思ってたのに、シャノン様だけ?」
お嬢様はちょっと納得いかないというふうに、少しだけ首をかしげた。その仕草が子供っぽくて、また可愛かった。
っていうか、この女、マジで誰だ?
「あー、ごほん。確かに俺はこの館の主、シャノンだが、何の用だ?」
明らかに貴族としての格では俺のほうが下なのだが、舐められないように、大人の男性の風格を装って尋ねた。
「そうだったわ。用事と言えば……シャノン様、私と結婚しましょう!」
「オジョウサン、何イッテルノ?」
「私はシャノン様を愛しています! 結婚式は明日でいいですか?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! さすがに急すぎて話が見えねえ!」
「じゃあ来週でもいいですわ」
「なんなの君!? 誰かとすぐ結婚しないと死ぬ病気なの?」
「はい♡ シャノン様と出会ったあの日から、私は愛という病に侵されてしまいました……」
頬を染めて恥じらう乙女。
こ、こいつ、マジで重症だ……。何を言ってるか、さっぱり分からねえぜ……。
「何してんのよー。次、あんたが卓に入る番でしょー?」
ぶらりとやってきたメイドさん。お客がそこにいると気付いて、ハッと居住まいを正す。
「し、失礼しました! ようこそいらっしゃいました! そこにいる冴えない男が、この館の主人であるシャノン様でございます!」
まあ、このお嬢様のオーラを前にしたら、うちのメイドですら、背筋を伸ばさざるを得ないわな。
それにしても、なんだよ、今の紹介の仕方は……。
「存じてますわ。愛する者の顔を忘れるわけがありません」
「愛する者……?」
ほら、そういうこと言うから、うちのメイドがフリーズしたじゃないか。
「あー、ごほん。そういうわけで、俺は忙しい。じゃあな」
バタン、とドアを閉めたところ、ドアの向こうで喚き声が響いた。
「シャノン様!? 私のことを忘れたのですか? ひどいです! あまりにひどいです!」
「なになに?」「若い女だ」「なんか揉めてる?」「強盗ですか?」「なんか面白そう」
対局が終わったらしく、メイドたちがぞろぞろとやってきた。こいつらが、あらぬ誤解をすると面倒だな。
「ちょっとお前たち、あっちで掃除でもしててくれるか? それにあんたも、俺の家の前で喚くのはやめてくれ」
しかし、なおもお嬢様はドアの向こうで喚き続けるし、メイドたちは面白がって集まってくる。
「私、マリアベルは今日で十六歳になったのですよ! あの日から今まで、私の気持ちは少しも変わりませんでした! 誓い合ったじゃないですか!? 思い出してください!」
マリアベル? 十六歳? 誓い合った?
「本当に忘れちゃったんですか!? 嘘ですよね!? あの日の出会いは、私にとって、雷に打たれるようでした!」
あの日の出会い……? 俺、人生でモテたことあったっけ?
何か思い出せそうだ。マリアベル? うーん……。
「もしかして……あのマリアなのか……!?」
「そうですとも! あのマリアです! あの日、結婚を誓い合ったマリアなのです!」
「結婚?」「誰?」「愛人?」「修羅場?」「うちのご主人様に限って、人違いでは?」
メイドたちがざわめき立つ。
昔のことですっかり忘れていたけれど……いろいろ思い出してきた。
あれは十年くらい前か?
どっかの貴族のパーティーで、名前も知らん迷子の幼女に懐かれて、帰り際、「結婚して」とか何とか言われた。当然ながら断ったが、幼女が俺のズボンをつかんで離さないものだから、仕方なく、大人になっても今日の気持ちがずっと変わらなかったら結婚してやる、とか何とか言ったのだ。その幼女が確か、マリアちゃんと呼ばれていたっけ……?
「マジかよ……」
あの幼女が、この美少女!?
俺はもう一度この美少女の顔をよく見て確かめようと思って、ドアを開けた。その瞬間、マリアベルが飛びついてきて、俺は勢いで押し倒された。
「思い出してくれたんですね!? 会いたかったですシャノン様! シャノン様はあの日と変わらず素敵です!」
「い、いや、確かにそれっぽいことは言った気がするが、十年も――ん゛ッ!?」
俺はマリアベルに口を塞がれた。マリアベルの唇で。
「もう大人のキスだって……できるんですから!」
「っ!?」
マリアベルの舌が入ってきて、俺の舌に絡みつく。えっちな水音が脳内に直接響いてくるようで、頭がぼんやりするし、混乱していて、マリアベルにされるがままだった。唇が柔らかくて最高だ。いい香りもする。なんか柔らかいものも当たってるし。なんだか、すげえ幸せな気分だ……。
エントランスに集合していたメイドたちが、ぽかんとした顔で俺たちを見下ろしていた。
* * *
リサは客間と廊下の間のドアに耳を付けて、中の会話をなんとか聞き取ろうとしていた。同じようにドアに貼り付いているメイドが五名。
というのも、数分前にこの部屋に、館の主であるシャノンと、突然現れた謎の美少女――マリアベルが二人だけで入っていったのである。
「絶対にドアを開けるな」とシャノンに命令されただけでも珍しいことだが、内側からカギまでかけられている。よほど聞かれたくない話をしているのだろう。
「何を話してるのかしら?」「よく聞こえないわ」「ちょっと、押さないでよ」「しゃべるな、聞こえない」
メイドたちは必死である。一方で、あまり興味が無さそうに、掃除や洗濯をしているメイドもいる。
さっきから聞こえるのは、「結婚」とか「この館」とか「売る」といった断片的な言葉だけである。
「やっぱりあれ、婚約者だったのよ」「あんなキモいご主人様に婚約者なんているわけないじゃん」「でもラブラブだったよ?」「シャノン様は困ってた」
「結婚詐欺かも」
エマが呟いた言葉に、「それだ!」とメイドたちがハモった。
「でもうち、お金あるの?」「さあ」「ブドウ畑がある」「それにこの館もあるじゃない」「畑も館も、あの女に盗られちゃうの?」「ていうか、私たちも売られるかもよ」「それは……ないでしょ」
シャノンとマリアベルの話し合いは、一時間以上に及んだ。
結局、決定的な情報は得られないまま、ドアが開かれた。
「おい、お前たち、なんで集まってんだ」
「集まってないわ、掃除してるだけよ」「そうです、掃除中です」「メイドを疑うなんて主人の恥」
「よく分からんが、お客様がお帰りだ。誰か玄関まで案内してやってくれ」
しかしメイドたちは主人の命令を無視して、それぞれ持ち場に散っていった。
「おいおい。なんなんだよ……」
「ここのメイドたちは変わってるわね。うちの館では、命令を無視するなんて絶対にありえないのに」
マリアベルが不思議そうにメイドの背中を見送る。
シャノンはため息を吐いて、廊下を歩きだす。
「どうせ嫉妬でもしてるんだろ」
「メイドが主人に嫉妬?」
「そうだ」
「不思議。シャノン様ってやっぱり他の人とは違うわ。そこが素敵」
マリアベルがシャノンの腕に抱き着く。
「そりゃ、どうも」
誉められ慣れていないシャノンは、少々照れたように言って、そのまま歩く。
一方、散っていったメイドたちは、こっそりと三々五々に集まって、密会を始めていた。
「やっぱりあの女、怪しい」「なにあのイチャラブは?」「やっぱ詐欺師」「シャノン様が騙されて、館を乗っ取られたら大変です」
メイドたちが見下ろす窓の向こう、庭を横切って、門を出ていくマリアベル。門前で待機していた馬車に乗り込み、帰っていく。
「……調査する必要があるわね」
「ええ」
「ご主人様を詐欺師から守るために」
「そして我々の雇用を守るために」
シャノンが主人になって以来、初めてメイドたちが団結した瞬間だった。
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