上 下
422 / 424

第128話 初恋の想い出と2人だけのディナー②

しおりを挟む
 だがこの機会は逃すわけにはいくまい。
 コボルトたちは元魔物の現獣人だ。だがいまだに魔物として迫害する人間たちに、集落に忍び込んだ盗賊たちを捕まえて役人に引き渡しても、なんの罰も与えられずに釈放されるという扱いを受けている。

 そのイメージを払拭し、なおかつコボルトたちに新たな収入源をと、俺の出資で王宮近くの、貴族がたくさん集まる街で、コボルトの店を始めることにしたのだ。
 先代勇者であるランチェスター公と行動をともにした、元拳闘士のオンスリーさんも店に立ってくれることになっている。

 コボルトの店を始めるにあたり、最終的にコボルトたちに店を譲渡するつもりでいる俺は、譲渡時にかかる税金対策の為、俺から借金をする形で、あらかじめコボルトたちが店の権利を持つ状態で、店を始めてもらうつもりでいた。

 俺は完済するまでのんびり待つつもりではいるが、借りる側からすれば莫大な借金は不安でしかないだろう。
 そこにきて、隣国からのむこう30年間の仕入れ保証。しかも契約書つき。コボルトたちも安心してくれるに違いない。

「……やらせていただきます!」
 こうして俺は、ジョスラン侍従長の還暦祝いの為の料理を作ることになったのだった。
 しかし引き受けたものの、この世界の珍しい食材なんて、……おそらくだが、魔物を使った料理だよな?

 俺からするとすべての魔物が珍しい食材なんだが、オーク肉なんかは普段から食べられているというし、なんだったら珍しいんだろうな?
 俺は王宮から帰る足で、冒険者ギルドに立ち寄ってみることにした。

 いつもの受付嬢が朗らかに俺を出迎えてくれる。
「あの……すみません、少々お伺いしたいのですが。」
「はい、なんでしょうか?」
「王族の方でも珍しいと感じる食材になるような魔物とは、どんなものがいますでしょうか?」

「王族の方でも……ですか?」
「はい。」
「そうですね……、おそらくは大抵のものは召し上がられていると思いますので、代表的なもので言うのなら、まずはアビスドラゴンでしょうか。」

「アビスドラゴン?」
「深淵を覗くものと言われるドラゴンです。火山の火口に暮らしていて、普段は出てこないので害はないのですが、繁殖時期にのみ山を降りて、動物や他の魔物、はては人間までも襲うと言われています。」

 ……つまりは人を食べるということか。人を食べた魔物を食材にはしたくないなあ、さすがに。なんとなく気持ちが悪い。
 だが、その繁殖した子どもならどうだろうか?まだ人を襲っていない筈だから、それなら別に気持ち悪くないな。

「それとカセウェアリーですね。」
 どこかで聞いたような単語だな。
「それはどのような?」
「同じく火山の近くか、地底火山の近くに暮らすと言われる魔物です。火を食べて生きると言われる鳥の姿をしていますが、詳しい生態は分かりません。」

 ああ、カセウェアリーって、ヒクイドリってことか。元の世界でも、世界一危険な鳥だったよな。以前討伐したダイアウルフといい、元の世界に存在していた動物が、魔物になっているケースのひとつなんだろう。
 しかし火山か……。オリハルコン銃を武器にする俺とは相性が悪い地形だな。

「めしあがられたことがあるかは分かりませんが、シーサーペントも珍しい食材ですよ。めったに手に入らないですが、手に入らないという程のものではないですね。」
 確かに、ロンメルが以前料理に使っていたな。あれも美味しかったな。

 王宮勤めだから珍しい食材も食べてきているだろうが、ジョスラン侍従長自身は王族ではないし、そこまで色々食べてきてはいないかも知れない。
 あとはこちらの料理法で振る舞ってみることにしようか。

 俺はまずは食材を手に入れることにした。
 お祝いの料理、かつ王宮で振る舞うともなると、コース料理であることは必須のように思う。
 前菜、スープ、魚、メイン、デザート。最低限これくらいは欲しい。

 それと、ジョスラン侍従長はおそらく無類の酒好きだからな。料理に合う酒を準備したい。きっと喜んでくれる筈だ。
 俺は、食材を手に入れるのに、協力出来ることはしてくれるという、メイベル王太后の約束を取り付けていた。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...