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第123話 コボルトの店の椅子とテーブル③
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「はい、とても良いです。近々安産祈願の為に、一度実家に戻って、カーバンクルさまに安産の願いを捧げてくるそうです。」
「──カーバンクルにですか?」
アエラキのご両親じゃないか。
安産祈願って、戌の日の帯祝いみたいなものか?臨月で行く人もいるが、普通は5ヶ月くらいで行くものじゃなかったかな。イヴリンさんはかなりお腹が大きかった筈だが。
「はい、キシンはイヴリンの実家があるということもありますが、カーバンクルさまはとても多産で、家族を大切にする精霊なのですよ。家族の健康や安産を願う精霊信仰があります。最近お姿を確認出来たこともあり、各地から安産祈願に人が集まっているとのことだそうです。それでイヴリンも行きたいと。
わたくしも同行予定です。」
アエラキの兄弟も多かったな、確かに。
「それでしたら、パーティクル公爵家からのご招待のおりに、一緒に行かれてはいかがですか?ご家族も一緒にと言ってくださっていますし、温泉もあって、カーバンクルのいる場所にも、公爵家の別荘は近いですよ?
それに魔道具で山の上まで運んでくださるそうなので、妊婦さんでも安心して山に登れるかと。招待状は届いていますよね?」
「はい、ですが……。なぜか妻と、わたくしの両親も、と書かれておりまして……。イヴリンはわたくしの母と仲が良いですから、とても楽しみにしているようですが、わたくしは母と顔を合わせるのが苦手で……。」
これは先日俺が頼んでおいたことだ。サニーさんとお母さんが、腹を割って話せる機会をもうけたいのだとミーティアを送ったら、快諾の返事とともに招待状が届いた。
国内有数の水魔法使いの名家である、ニュートンジョン侯爵家の嫡男、サニーさんの貴族籍離脱については、貴族の間でかなり有名な話なのだそうだ。パーティクル公爵も、貴族の時から付き合いのあるサニーさんと、そのご両親のことを、かなり心配なさっていたとのこと。自分たちが雪解けに手を貸せるのであれば、とても嬉しいと言ってくれた。
「俺も祖母と両親を連れて行く予定だ。サニーのご両親が、うちの親の話し相手になってくれたら嬉しいよ。駄目かい?」
エドモンドさんも後押しをする。
「……正直決めかねているのです。ですのでまだ、両親には話せていなくて……。」
サニーさんはそう言って目線を落とした。
「──それより、まずはテーブルと椅子を確認して下さい。中で木工加工職人の方がお待ちです。その話は、また今度ゆっくりと。」
「ああ、それもそうですね。長いこと外で立ち話をしてしまいました。では入りましょうか。とても楽しみです。」
俺たちは話を中断して、コボルトの店のテーブルと椅子を作ってくれている、木工加工職人の工房の中へ入った。
中は木の削りカスが散らばり、雑然としていたが、とてもいい木の香りがした。よく手入れのされた道具たちが、この工房の主人の腕を物語っているかのようだった。
「やあ、どうも、あんたが依頼人かい?
木工加工職人のレーベンだ。」
「ジョージ・エイトです。
今日はよろしくお願いいたします。」
レーベンさんは日に焼けた、少し目の小さな、たくましい中年男性だった。
気難しい人が多いという、職人さんにしては、かなり気さくな印象を受ける。
「レーベンさんはアンデオールさんという、国内有数の木工加工職人の弟子なんですよ。
王宮のテーブルと椅子も作っている程の方なんです。なので腕は確かです。」
とサニーさんが紹介してくれた。
「アンデオールさんのお弟子さんでしたか!
実は今、アンデオールさんに、馬車の車輪を大量にお願いしているんですよ。」
「師匠に馬車の車輪を大量に……?ああ、ひょっとして、あんたがジョージさんか!
師匠から聞いているよ。あんたのおかげで息子が独り立ちしたとな!師匠のところの妖精も、1体預かってるんだって?」
レーベンさんがカラカラと笑う。
「妖精だって!?
ジョージ、また守護者が増えたのか?」
エドモンドさんが驚いてる。
「いえ、カイアのペットです。」
「ペット?」
ああ、ペットという言葉を知らないのか。
「ああ、ええと、パーティクル公爵の犬みたいな感じの存在です。樹木の妖精なので、カイアのそばは居心地がいいらしくて。」
「妖精が、犬と同じって……。
さすがジョージだな……。」
なにがさすがなんだろうか。
「だからかねえ?あんたが来た途端、木が喜んでるよ。妖精に愛されてるんだな。」
レーベンさんが笑う。
「──木が喜ぶ?」
随分と不思議なことを言うなあ。
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「──カーバンクルにですか?」
アエラキのご両親じゃないか。
安産祈願って、戌の日の帯祝いみたいなものか?臨月で行く人もいるが、普通は5ヶ月くらいで行くものじゃなかったかな。イヴリンさんはかなりお腹が大きかった筈だが。
「はい、キシンはイヴリンの実家があるということもありますが、カーバンクルさまはとても多産で、家族を大切にする精霊なのですよ。家族の健康や安産を願う精霊信仰があります。最近お姿を確認出来たこともあり、各地から安産祈願に人が集まっているとのことだそうです。それでイヴリンも行きたいと。
わたくしも同行予定です。」
アエラキの兄弟も多かったな、確かに。
「それでしたら、パーティクル公爵家からのご招待のおりに、一緒に行かれてはいかがですか?ご家族も一緒にと言ってくださっていますし、温泉もあって、カーバンクルのいる場所にも、公爵家の別荘は近いですよ?
それに魔道具で山の上まで運んでくださるそうなので、妊婦さんでも安心して山に登れるかと。招待状は届いていますよね?」
「はい、ですが……。なぜか妻と、わたくしの両親も、と書かれておりまして……。イヴリンはわたくしの母と仲が良いですから、とても楽しみにしているようですが、わたくしは母と顔を合わせるのが苦手で……。」
これは先日俺が頼んでおいたことだ。サニーさんとお母さんが、腹を割って話せる機会をもうけたいのだとミーティアを送ったら、快諾の返事とともに招待状が届いた。
国内有数の水魔法使いの名家である、ニュートンジョン侯爵家の嫡男、サニーさんの貴族籍離脱については、貴族の間でかなり有名な話なのだそうだ。パーティクル公爵も、貴族の時から付き合いのあるサニーさんと、そのご両親のことを、かなり心配なさっていたとのこと。自分たちが雪解けに手を貸せるのであれば、とても嬉しいと言ってくれた。
「俺も祖母と両親を連れて行く予定だ。サニーのご両親が、うちの親の話し相手になってくれたら嬉しいよ。駄目かい?」
エドモンドさんも後押しをする。
「……正直決めかねているのです。ですのでまだ、両親には話せていなくて……。」
サニーさんはそう言って目線を落とした。
「──それより、まずはテーブルと椅子を確認して下さい。中で木工加工職人の方がお待ちです。その話は、また今度ゆっくりと。」
「ああ、それもそうですね。長いこと外で立ち話をしてしまいました。では入りましょうか。とても楽しみです。」
俺たちは話を中断して、コボルトの店のテーブルと椅子を作ってくれている、木工加工職人の工房の中へ入った。
中は木の削りカスが散らばり、雑然としていたが、とてもいい木の香りがした。よく手入れのされた道具たちが、この工房の主人の腕を物語っているかのようだった。
「やあ、どうも、あんたが依頼人かい?
木工加工職人のレーベンだ。」
「ジョージ・エイトです。
今日はよろしくお願いいたします。」
レーベンさんは日に焼けた、少し目の小さな、たくましい中年男性だった。
気難しい人が多いという、職人さんにしては、かなり気さくな印象を受ける。
「レーベンさんはアンデオールさんという、国内有数の木工加工職人の弟子なんですよ。
王宮のテーブルと椅子も作っている程の方なんです。なので腕は確かです。」
とサニーさんが紹介してくれた。
「アンデオールさんのお弟子さんでしたか!
実は今、アンデオールさんに、馬車の車輪を大量にお願いしているんですよ。」
「師匠に馬車の車輪を大量に……?ああ、ひょっとして、あんたがジョージさんか!
師匠から聞いているよ。あんたのおかげで息子が独り立ちしたとな!師匠のところの妖精も、1体預かってるんだって?」
レーベンさんがカラカラと笑う。
「妖精だって!?
ジョージ、また守護者が増えたのか?」
エドモンドさんが驚いてる。
「いえ、カイアのペットです。」
「ペット?」
ああ、ペットという言葉を知らないのか。
「ああ、ええと、パーティクル公爵の犬みたいな感じの存在です。樹木の妖精なので、カイアのそばは居心地がいいらしくて。」
「妖精が、犬と同じって……。
さすがジョージだな……。」
なにがさすがなんだろうか。
「だからかねえ?あんたが来た途端、木が喜んでるよ。妖精に愛されてるんだな。」
レーベンさんが笑う。
「──木が喜ぶ?」
随分と不思議なことを言うなあ。
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