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第121話 ハンバーグ工房長のスカウト③
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「つまり、ジョージが欲しいのは、ティファではなく、この俺……?」
「……そう言うと、なんだか語弊がある気もしますが、まあ、そういうことですね。」
「それだけじゃない。ジョージはこの村の全員を雇いたいと言ってくれているのさ。とてもよい話だろう?お前さんも木こりでそんなに稼いでいるわけじゃないわけだしな。
本当にティファを嫁にやる時に、いい支度金稼ぎが出来ると思って。な?」
「ティファを……、嫁に……。」
それを聞いて、またラズロさんがぷるぷるしだしてしまう。
「ラグナス村長、その話はちょっと……。」
「あ、ああ、そうか。すまんすまん。」
ラズロさんは、ハーッとため息をついて椅子に座り直し、テーブルに腕を置いた。
「俺を工房長に、ティファも含めた村のみんなも、だったか?──それは無理だな。」
「なぜだね?」
ラグナス村長が不思議そうに言う。
「だってそうだろう。この村は今、年寄りばかりだ。それにジョージが提案してくれた食用花の事業もある。やれると思うかね?
唯一若いアスターもジョージと仕事をするんだと言って、みんなそれも手伝うことになってるんだ。年寄りにこれ以上は無理だ。」
と言った。俺はニヤリとした。
「ちょっとすみません。
みんなを呼んで来ますね。」
「──みんな?」
不思議そうに俺を見るラズロさん。
俺は椅子から立ち上がると、外に出て、
「みなさん、もういいですよ!」
と声をはりあげて大きく手を振った。
みんなが一斉にワーッと走って影から出て来ると、ラグナス村長の村の家々のドアを、それぞれがノックした。
──コンコン。ガチャッ。
「はい?どちらさ──」
「なんだ、どうしたね?」
玄関の前で両手で口元を覆い、声も出せずに立ち尽くす妻のマイヤーさんに、ガーリンさんが不思議そうに声をかける。
「……ただいま、父さん、母さん。」
「すみません、長いこと、家をあけてしまって。お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。アーリーは元気にしてましたか?」
ドアの前に立っていたのは、長い間出稼ぎに出ていた、マイヤーさん、ガーリンさんの息子夫婦だった。
「オリバー……!エミリーも……!!
ああ、なんてことかしら。
アーリー!アーリー!!
あなた、アーリーを早く呼んで来てちょうだい!!」
「……泣かないでよ、母さん。」
「もう、なんてことかしら。年寄をあんまり驚かさないでちょうだい。」
泣き出してしまったマイヤーさんを、オリバーさんが抱きしめる。そこにガーリンさんがアーリーちゃんを連れて戻って来た。
「アーリー!
ほら、お父さんとお母さんだぞ!」
ガーリンさんに言われても、アーリーちゃんは事態がまだ飲み込めないようだった。
立ち尽くすアーリーちゃんの目線に合わせてしゃがみ込むと、エミリーさんがアーリーちゃんを見つめて微笑んだ。
「アーリー?
お母さんの顔、忘れちゃった?」
アーリーちゃんの顔が、だんだんと涙でクシャクシャになってゆく。
「おか……あ、さん……。」
アーリーちゃんがゆっくりと、まだ頭が大きくてバランスの悪い足取りで、エミリーさんに近寄って両手を伸ばした。
「ああ……!!アーリー!!
会いたかったわ……!」
「おかあさん……!!」
エミリーさんはしっかりと、アーリーちゃんを抱きしめた。
村のそこここで、みんなのすすり泣く声が聞こえる。今日、ラグナス村長の村は、これで全員が揃ったのだった。
「──こういうわけです。
みなさん出稼ぎ先で毎日働けているわけではないと、だから帰って来れないのだとラグナス村長から伺いまして。俺の工房の方が安定して稼げますし、通勤の為の馬車も用意します。みなさんここで暮らせるんです。」
「ラズロ、お前がうなずいてくれさえすればな。わしもお前しかいないと思うよ。
どうだね?ジョージのハンバーグ工房の、工房長をやってくれんかね?」
ラグナス村長が再び言った。
「こんなの……断れるわけがねえ。
こっちこそ、みんなの為に頼むよ。」
ラズロさんが俺に頭を下げた。
「──だが、ティファはやらんからな。」
そう言って顔を上げて俺を睨む。
「お父さんったら、もう……。
私とジョージさんはなんともないったら。
ジョージさんに失礼でしょう?」
困ったようにそう言うティファさんを見ながら、ラズロは手強いぞ?ジョージ、と、ラグナス村長が余計なことを言うのだった。
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「……そう言うと、なんだか語弊がある気もしますが、まあ、そういうことですね。」
「それだけじゃない。ジョージはこの村の全員を雇いたいと言ってくれているのさ。とてもよい話だろう?お前さんも木こりでそんなに稼いでいるわけじゃないわけだしな。
本当にティファを嫁にやる時に、いい支度金稼ぎが出来ると思って。な?」
「ティファを……、嫁に……。」
それを聞いて、またラズロさんがぷるぷるしだしてしまう。
「ラグナス村長、その話はちょっと……。」
「あ、ああ、そうか。すまんすまん。」
ラズロさんは、ハーッとため息をついて椅子に座り直し、テーブルに腕を置いた。
「俺を工房長に、ティファも含めた村のみんなも、だったか?──それは無理だな。」
「なぜだね?」
ラグナス村長が不思議そうに言う。
「だってそうだろう。この村は今、年寄りばかりだ。それにジョージが提案してくれた食用花の事業もある。やれると思うかね?
唯一若いアスターもジョージと仕事をするんだと言って、みんなそれも手伝うことになってるんだ。年寄りにこれ以上は無理だ。」
と言った。俺はニヤリとした。
「ちょっとすみません。
みんなを呼んで来ますね。」
「──みんな?」
不思議そうに俺を見るラズロさん。
俺は椅子から立ち上がると、外に出て、
「みなさん、もういいですよ!」
と声をはりあげて大きく手を振った。
みんなが一斉にワーッと走って影から出て来ると、ラグナス村長の村の家々のドアを、それぞれがノックした。
──コンコン。ガチャッ。
「はい?どちらさ──」
「なんだ、どうしたね?」
玄関の前で両手で口元を覆い、声も出せずに立ち尽くす妻のマイヤーさんに、ガーリンさんが不思議そうに声をかける。
「……ただいま、父さん、母さん。」
「すみません、長いこと、家をあけてしまって。お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。アーリーは元気にしてましたか?」
ドアの前に立っていたのは、長い間出稼ぎに出ていた、マイヤーさん、ガーリンさんの息子夫婦だった。
「オリバー……!エミリーも……!!
ああ、なんてことかしら。
アーリー!アーリー!!
あなた、アーリーを早く呼んで来てちょうだい!!」
「……泣かないでよ、母さん。」
「もう、なんてことかしら。年寄をあんまり驚かさないでちょうだい。」
泣き出してしまったマイヤーさんを、オリバーさんが抱きしめる。そこにガーリンさんがアーリーちゃんを連れて戻って来た。
「アーリー!
ほら、お父さんとお母さんだぞ!」
ガーリンさんに言われても、アーリーちゃんは事態がまだ飲み込めないようだった。
立ち尽くすアーリーちゃんの目線に合わせてしゃがみ込むと、エミリーさんがアーリーちゃんを見つめて微笑んだ。
「アーリー?
お母さんの顔、忘れちゃった?」
アーリーちゃんの顔が、だんだんと涙でクシャクシャになってゆく。
「おか……あ、さん……。」
アーリーちゃんがゆっくりと、まだ頭が大きくてバランスの悪い足取りで、エミリーさんに近寄って両手を伸ばした。
「ああ……!!アーリー!!
会いたかったわ……!」
「おかあさん……!!」
エミリーさんはしっかりと、アーリーちゃんを抱きしめた。
村のそこここで、みんなのすすり泣く声が聞こえる。今日、ラグナス村長の村は、これで全員が揃ったのだった。
「──こういうわけです。
みなさん出稼ぎ先で毎日働けているわけではないと、だから帰って来れないのだとラグナス村長から伺いまして。俺の工房の方が安定して稼げますし、通勤の為の馬車も用意します。みなさんここで暮らせるんです。」
「ラズロ、お前がうなずいてくれさえすればな。わしもお前しかいないと思うよ。
どうだね?ジョージのハンバーグ工房の、工房長をやってくれんかね?」
ラグナス村長が再び言った。
「こんなの……断れるわけがねえ。
こっちこそ、みんなの為に頼むよ。」
ラズロさんが俺に頭を下げた。
「──だが、ティファはやらんからな。」
そう言って顔を上げて俺を睨む。
「お父さんったら、もう……。
私とジョージさんはなんともないったら。
ジョージさんに失礼でしょう?」
困ったようにそう言うティファさんを見ながら、ラズロは手強いぞ?ジョージ、と、ラグナス村長が余計なことを言うのだった。
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