上 下
331 / 424

第103話 貴族街でのイベント提案④

しおりを挟む
 俺はカイアと、イッチニ、イッチニ、と歩く練習をしたのだった。
 しばらくそうしていると、誰かが慌ただしく家のドアをノックする音に気が付いた。
「──俺だ!ジョージ!証明してくれ!」
 ……エドモンドさんだ。事前の訪問連絡と許可が必要だと、手紙に書いておいたんだがな。焦って飛んで来たのだろう。

 コボルトのアシュリーさんとララさんも、今はまだ人目に触れないほうがいいので、2階に通じる階段に隠れて貰い、カイアたちには庭でじっとしてて貰うことにして、俺はドアをあけた。俺の手紙を握りしめたエドモンドさんが、焦ったような、だが嬉しそうな表情で、目を輝かせて俺を見る。

「俺の商売の協力者で、ルピラス商会の副長であるエドモンドさんで間違いありません。
 中にお通ししますね。」
「ルピラス商会は存じておりますし、お姿は何度も拝見しております。ジョスラン侍従長に取り次がせていただいたこともありますから、エドモンドさんのことは分かりますが、次からは必ず許可をお取りくださいね。」

 兵士長らしき人から、エドモンドさんが絞られている。頭をかきながらエドモンドさんが家の中に入ってくると、
「やあ、すまない。デカい取り引きになるとふんで、さっそく飛んできたんだ。凄くいい家じゃあないか!ジョージ!」
「だと思いましたよ。どうぞ。」

「久しぶりね!エドモンド。」
「お久しぶりです。」
「やあ、アシュリーさん、ララさん、今日もお美しい。……ええと、こちらの方は……。」
 エドモンドさんが、まばたきも忘れて、ほうけたように円璃花の姿に見惚れている。そういえば、円璃花が王宮に来た時も、そのままメイベル王太后のところに行ったから、エドモンドさんとは初対面だったか。

「これが、噂の聖女様です。
 しばらく俺のところで預かることになったと王宮で話していたのを、エドモンドさんも聞いてらっしゃいましたよね?それにルピラス商会の商会長と副長だけには、王宮からの伝令でも伝えてあると伺っていましたが。」
「あ、ああ。話にだけはな。なにかあった時に色々頼むこともあるだろうと。それにしても伝説通りだ……。とてもお美しい……。」
 聖女様は代々美人なのかな?

「エリカ・トーマスです。はじめまして。」
 円璃花がエドモンドさんにカーテシーで挨拶をする。エドモンドさんは緊張したようにエドモンド・ルーファスです、と挨拶を返した。俺は外から来たエドモンドさんの為に、冷やしておいたオンバ茶を出した。
「うん!冷たいのもいいな!」

 出さないのもなんなので、テーブルについた円璃花とアシュリーさんたちにも、冷たいオンバ茶を出したのだが、
「あら?これ、王宮で飲んだのと同じ?」
 と円璃花が首をかしげている。
 普段はあたたかくして飲んでいるのだが、あの日王宮で出たオンバ茶は冷たかったから同じものだと思っていなかったらしい。

 確かに冷たいと少し味が変わるんだよな。
「これも同じオンバ茶だぞ。セレス様は冷たいほうがお好きだから、王宮では冷たくして出したんだろう。メイベル王太后が言っていた、若返りのお茶が、普段お前が飲んでるオンバ茶だよ。セレス様が俺から仕入れた、コボルトの若返りのお茶だと言ってただろ?」
「そう言えば……。」

 円璃花が、あの時の会話を思い出しながら首をひねった。
「それで、ウォーターガイドってのは、どんなやつだ?さっそく見せてくれないか?」
 一気にオンバ茶を飲み干したエドモンドさんが、目を輝かせて俺に前のめりに言ってくる。俺は苦笑しながら、
「流しにあります。」

 立ち上がってエドモンドさんを流しに誘導した。エドモンドさんは蛇口をひねって水の出方を確認すると、嬉しそうに、
「こいつはいい!子どものいる家庭が全部欲しがるやつじゃないか!相変わらずジョージは凄いものを用意するなあ!」
 と、手を洗っている。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

転生犬は陰陽師となって人間を助けます!

犬社護
ファンタジー
犬神 輝(いぬがみ あきら)は、アルバイトが終わり帰ろうとしたところ、交通事故に遭い死んでしまった。そして-------前世の記憶を持ったまま、犬に転生した。 暫くの間は、のほほんとした楽しい日常だった。しかし、とある幽霊と知り合ったことがきっかけで、彼は霊能力に目覚めた。様々な動物と話すことが可能となったが、月日を重ねていくうちに、自分だけが持つ力を理解し、その重要性に葛藤していくことになるとは、この時はわからなかった。 -------そして、関わった多くの人々や動物の運命を改変していくことも。 これは、楽しい日常とちょっと怖い非日常が織り成す物語となっています。 犬視点で物語をお楽しみ下さい。 感想をお待ちしています。 完結となっていますが、とりあえず休載とさせて頂きます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

処理中です...