上 下
282 / 424

第90話 最初の夜③

しおりを挟む
「譲次が死んだと聞いて、本当に悲しかったわ。お葬式も済んだあとで、ご実家を知らなかったからお線香もあげられなかった。
 ……しばらくなんにもなんにも手につかなくて、どうしてもっと会っておかなかったんだろうって思ったわ。」

「……そうか、すまない。」
「でも、またこうして会えたわ!
 だからもういいの。
 ──でも不思議ね?譲次、声だけは変わってない気がするんだけど。」
「そうなのか?──だが言われてみれば、円璃花もそうかも知れないな。」

「ほんと?ならそうなのかも。
 譲次の声って渋くていいわよね。その見た目にはだいぶ大人っぽいけど。」
 円璃花がクスリと笑う。確かに俺の声は妙に特徴的で、声で寄ってくる相手もたまにいたくらいではあった。

「背も同じくらいかしら?日本人にしてはかなり背が高かったものね。」
「両親がどちらも背が高かったからな。
 円璃花はだいぶ身長がのびたな。」
「そこも転生時に絶対譲れないポイントだったのよね。背が低いの、悩みだったもの。」

 どうやら転生時の見た目の条件に、身長も付け加えていたらしい。
 日本人の場合、女性は小柄な方が好かれると思うが、大人っぽい美人を目指す円璃花としては、ヒールの似合う背が高い女性になりたかったらしく、転生前は自分の身長をよく嘆いていたものだ。

 顔が小さいから、遠目に見ると一見そこまで低いとわからないんだがな。
「譲次の頭皮マッサージ、変わってないわ。
 ほんと気持ちいい……。」
「おい、寝るなよ?」
「分かってる……。」

 そう言いながら円璃花は既に船を漕いでいる。風呂で寝られたら、髪を乾かして服を着替えさせてベッドに運ばなくてはならない。今までは別れたとはいえ裸を見慣れていたから気にしていなかったが、さすがに新しい体になった今はきまずい。

「よし、こんなもんか。円璃花、完全に寝ちまう前に風呂からあがるぞ?」
「ん……。」
 俺にうながされて椅子から立ち上がるが、もう既にだいぶ眠たそうだ。
「急いで髪を乾かすから、それで早く着替えてベッドにいこう。」

 俺はリビング兼キッチンに円璃花を連れて行くと、椅子に座らせ、新たにドライヤーを3つ出し、俺の手持ちと、両サイドにハンズフリーで使えるドライヤースタンドを出して乗せ、一気に髪を乾かすことにした。ちなみにドライヤーは3つとも円璃花が自宅で使っていた、ひとつ8万近くする7Dのものだ。

 髪の毛の乾燥時のダメージを最小限におさえるので、脱色していて髪が痛みやすかった円璃花のお気に入りの品だ。2時間髪の毛にドライヤーの風を当て続けても、髪の毛がまったく傷まないという、公式の動画でも有名な高級品だ。あまりに高いのでコスパの面で人におすすめはしないが。

 髪の毛を乾かし終えたあと、
「バスローブが濡れているから、新しいものに着替えられるか?」
 と円璃花に声をかける。
「ん……。」
 と半分寝ぼけたような声が聞こえたが、俺の手渡したバスローブを受け取って立ち上がり、目を閉じたまま服を脱ごうとするので慌ててリビングを出た。

「──もういいか?」
 声をかけるが反応がない。そっとリビングを覗くと、円璃花はバスローブを着替えたあとで、再び椅子に座って寝息を立てていた。
「やれやれ。」
 俺は円璃花を抱き上げると、恐る恐る2階に上がる階段をゆっくりとのぼった。

 カイアとアエラキを抱いてのぼった時もそうだったが、両手が塞がった状態で急な階段をのぼるのは案外怖いんだよな。
 落としてしまったらという恐怖もあるし。
 だがなんとかのぼりおえると、円璃花の部屋のドアを開け、円璃花をベッドに横にしてブランケットをかけてやった。

 円璃花の部屋の窓から星空が見える。
「明日、円璃花と相談して、ここにもカーテンをつけないとな。」
 窓から外を覗くと、足元にランタンというかカンテラというか、明かりを置いているのだろう、家の周囲を兵士らしき人影たちが、大勢守ってくれているのが見える。

 どうやらちょうど夜勤の人たちと交代の時間のようだ。
 馬車らしき影が家の前に2台あり、家を警備してくれていた兵士たちが持ち場を離れたと思うと、馬車に吸い込まれてゆき、新しい兵士が同じ場所に立った。

「遅くまでご苦労様だな。彼らにも何か出してやれたらいいんだが、俺もさすがに眠いから、後日にさして貰おう。」
 俺は自分の部屋に戻り、何を出してやろうか考えながら、気がつけば眠りにおちて、そのままぐっすりと寝たのだった。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...