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第83話 元カノは聖女様③

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「まあ、それだけじゃなく、本来俺じゃない人間を転生させる筈だったらしい。
 だから、今後別に新たに勇者様が現れる可能性も、じゅうぶんあるわけだ。」
「……なるほどね。それで私と同じ世界から来ました、ということは譲次は勇者かも?だなんて思われたら、私と同じく、偽物扱いされてしまいかねないわね。」

「ああ。だからあくまで俺は、勇者とは無関係ということにしておきたいんだ。」
「うーん……そうねえ……。
 どうしたらいいのかしら……。
 ──そうだわ!
 私も譲次も、体は別のもので、お互いのことが最初は分からなかったでしょう?」

「そうだな?」
「魂が同じ世界から来たけれど、私の肉体は確かに聖女のものとして、神様に与えられたものよ。
 だけど、私は元々普通の人間だわ。
 ──魂が聖女なわけじゃない。
 そこを説明すればどうかしら?」

「うーん、どうだろうな?」
「私たちの世界には、生まれ変わりというものが、たくさんの国で信じられているじゃない?この世界はどうなの?
 普通に生まれ変わることはないの?
 同じ世界だったり他の世界だったりで。」

「さあ……、あるかも知れないが、聞いたことがないから分からないな。」
「なければ、私たちの世界は、みんな何かしらに転生するものだと説明するわ。
 私たちは輪廻転生を布教してる宗教の国だもの。普通の人に転生する人もいれば、聖女に転生する人もいるというだけの話よ。」

「まあ……、正直うまい言い訳が思いつかないし、そう話してみるしかないか……。」
「まかせて!プレゼンは私の得意分野よ!
 だてに普段から、ドラマや映画のコラボ、取ってきてないんだから!」
「……そうだったな、任せるよ。
 ──敏腕社長様。」
 自信タップリにそう言う円璃花に、俺はそう返したのだった。

「そろそろ、行くか?」
「……その前に、メイクを直したいわ。
 散々泣いちゃったから。」
「久々にやってやるよ。」
「本当!?でも、この世界に、大したメイク道具はないのよね……。」
 円璃花が目線を落とす。

「──これ、なーんだ?」
 俺は目の前のテーブルに、手を横にすべらすと同時にパッとメイク道具一式を出した。
「え!?これ、私の普段使いの……。
 なんで!?どうして!?」
「これが、俺が料理以外で貰ったスキルさ。欲しいものが何でも出せる。
 内緒だぞ?お前にしか話してないんだ。」

 円璃花がパアアアッと表情を明るくする。
「最高よ!譲次!!」
 そう言って俺の首に抱きついてきた。
 俺はメイクを施した顔を鏡で見せてやり、満足した円璃花を連れて部屋の外に出た。
「おお!どうかね?」
 外でずっと待ってくれていたのか、ランチェスター公が声をかけてくる。

「はい、だいぶ落ち着いたようです。
 ですが、彼女の話を聞く限りでは、ノインセシア王国で、かなりつらい目にあっていたらしく……。王家の皆様に直接事情をお話したいのですが、お時間を取っていただけませんでしょうか?」
 俺はランチェスター公にたずねた。

「かまわんよ。
 そういうことなら孫たちも呼んでこよう。
 今なら全員揃っておる筈だからの。
 少し待ってておくれ。」
 そう言って、ランチェスター公が一度この場を離れた。

 少しするとまた戻ってきて、準備が出来たからこっちにおいで、と、俺たちを誘導してくれた。
 ランチェスター公について、円璃花と2人で赤い絨毯の上を歩く。そして、円璃花の部屋の前のように、兵士が槍を持って立っている部屋の前に誘導された。

 先程まで円璃花がいた部屋よりも、明らかにドアが大きい。背も高く、幅も広い。
 待て、待ってくれ。
 さっき、孫、と言ったな?
 セレス様だけなら、孫、だよな?
 たち?孫、たち?まさか………。

 ゆっくりとドアが開けられた瞬間、
「ランチェスター公、エリカ・トーマス様、ジョージ・エイト様、おなーりー。」
 と、どこかから声がして……。
 廊下から繋がった赤い絨毯の先の一段高い場所には、明らかに国王様らしき男性が座っていたのだった。

 そう言えば、国王様はセレス様の実兄。
 ランチェスター公からすれば孫だな……。
 正面に国王様らしき方、左に女王様らしき方、右にパトリシア王女、絨毯の脇にセレス様をはじめとして、大勢の、国の重鎮と思わしき、正装の従者の方々。
 ちょっと軽く相談、の筈が、俺たちは突然国王様に謁見することになったのだった。

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