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第81話 食事を拒む聖女様②
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ノインセシア王国の人間に姿を見られるわけにも、ましてや瘴気を払う力を持ち始めていることも、知られるわけにはいかない。
そうなると、ノインセシア王国にいる間は気を抜けないから、外にも出してやれない。
──2人をずっと、マジックバックの中に入れていろとでも?
そんな可哀想なことはしたくないし、2人に会えないのは俺だって辛い。
もしもよそ様に預けて面倒を見て貰うにしたったって、最低でも一週間はかかりそうな内容なのに、俺にはそんな期間預けられる関係の人間なんていない。
それにもし、一週間じゃ済まなかったら?
聖女様がこの世界を救うまでの間、毎日料理をするよう言われたとしたら?
俺は強制的に聖女様の料理番、という立場になってしまうことだろう。
じゅうぶん考えられる可能性だ。
世界の危機で、その為に聖女様の力が必要なのは分かるが、普通に考えて、なぜ俺が小さい子を置いてまで、そんな我儘な女の世話をしにいかなくちゃならないんだ?
コボルトの店だってこれからなのだから、今俺がこの地を離れるわけにはいかない。
世界の危機は一個人でなく、国が対応すべき事柄だと思う。俺一人に背負わせる問題じゃない。出来ることなら協力はするが。それらを踏まえた上で俺はきっぱりと一言、
「──お断りさせて下さい。」
と言ったのだった。
「……俺の作る料理は、どれも簡単なものばかりです。特別な材料もありますが、それらはお渡しすることが可能です。
材料をマジックバックに入れて持っていけば腐りませんし、どなたか宮廷料理人の方に作り方をお教えして、その方に行っていただくわけにはまいりませんでしょうか?」
「……どうしても無理かしら?」
セレス様が柳眉を下げる。
「俺には小さい子どももおりますし、コボルトの店の問題もあります。今この国を長期間離れるわけには……。
お世話になっておきながら、お役に立てず心苦しいのですが……。」
「そう……そうね。分かったわ。
確かにそうよね。聖女様の問題は世界全体の問題だけれど、コボルトの店の問題は我が国の問題でもあるわ。
今ジョージが長期間この国を離れなくてはならなくなってしまったら、店の準備がとまってしまうわね。」
「はい。申し訳ありませんが……。」
「いいえ、仕方ないわ。長い目で考えたら、確かにジョージの言う通り、料理を専門にしている人間に、料理法を教えて、聖女様専任として働いて貰ったほうがお互いの為よね。
ノインセシア王国の料理を、聖女様が今後もすべて拒否なさるというのであれば、1日2日で終わるような話ではないもの。」
「……確かに、その方がよろしゅうございますね、ノインセシア王国から専任の料理人を招くか、我が国からジョージ様に料理方法を教わった宮廷料理人を、ノインセシア王国に派遣するのがよろしいでしょう。
ようは聖女様が、料理を口にしてさえくだされば、結果は同じことです。」
ジョスラン侍従長も同意してくれた。
「それじゃあ申し訳ないけれど、聖女様が希望されているその料理の数々を、うちの宮廷料理人に教えてもらえないかしら。」
「ええ、それでしたら協力させていただきます。申し訳ありません、色々とお世話になっておきながら……。」
「いいえ、こちらこを無理を言ってごめんなさいね?ジョージには甘えてばかりね。
ついつい頼りにしてしまって……。」
「そう言っていただけるのは非常にありがたいです。皆さんにお世話になっている身ですし、少しでも恩義に報いれれば幸いです。」
良かった、他所の国に長期間行くという、最悪の事態はさけられそうだ。
その時、突然扉があいて、白髪にサンタクロースのような白ひげの老人が、ひょっこりと扉から顔をのぞかせた。
「……?」
「ランチェスター公!?」
「お祖父様!!」
ジョスラン侍従長とセレス様が驚いて声を上げる。お祖父様ということは、前々国王様か!!いや、公ということは、イギリス王室風にいえば、女王の夫ということかな?
結構なお年の筈だが、筋肉こそ衰えている感じがするものの、シャンと背筋を伸ばして立っていて、只者ではない感じがする。
「協力は得られそうかの?」
くりくりとした小さい目を無邪気に輝かせている。パトリシア様とどこか似ているな。
見た目がどう、というよりも、いたずら好きの子どものような、王族らしからぬ印象を受けるところが、だが。
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そうなると、ノインセシア王国にいる間は気を抜けないから、外にも出してやれない。
──2人をずっと、マジックバックの中に入れていろとでも?
そんな可哀想なことはしたくないし、2人に会えないのは俺だって辛い。
もしもよそ様に預けて面倒を見て貰うにしたったって、最低でも一週間はかかりそうな内容なのに、俺にはそんな期間預けられる関係の人間なんていない。
それにもし、一週間じゃ済まなかったら?
聖女様がこの世界を救うまでの間、毎日料理をするよう言われたとしたら?
俺は強制的に聖女様の料理番、という立場になってしまうことだろう。
じゅうぶん考えられる可能性だ。
世界の危機で、その為に聖女様の力が必要なのは分かるが、普通に考えて、なぜ俺が小さい子を置いてまで、そんな我儘な女の世話をしにいかなくちゃならないんだ?
コボルトの店だってこれからなのだから、今俺がこの地を離れるわけにはいかない。
世界の危機は一個人でなく、国が対応すべき事柄だと思う。俺一人に背負わせる問題じゃない。出来ることなら協力はするが。それらを踏まえた上で俺はきっぱりと一言、
「──お断りさせて下さい。」
と言ったのだった。
「……俺の作る料理は、どれも簡単なものばかりです。特別な材料もありますが、それらはお渡しすることが可能です。
材料をマジックバックに入れて持っていけば腐りませんし、どなたか宮廷料理人の方に作り方をお教えして、その方に行っていただくわけにはまいりませんでしょうか?」
「……どうしても無理かしら?」
セレス様が柳眉を下げる。
「俺には小さい子どももおりますし、コボルトの店の問題もあります。今この国を長期間離れるわけには……。
お世話になっておきながら、お役に立てず心苦しいのですが……。」
「そう……そうね。分かったわ。
確かにそうよね。聖女様の問題は世界全体の問題だけれど、コボルトの店の問題は我が国の問題でもあるわ。
今ジョージが長期間この国を離れなくてはならなくなってしまったら、店の準備がとまってしまうわね。」
「はい。申し訳ありませんが……。」
「いいえ、仕方ないわ。長い目で考えたら、確かにジョージの言う通り、料理を専門にしている人間に、料理法を教えて、聖女様専任として働いて貰ったほうがお互いの為よね。
ノインセシア王国の料理を、聖女様が今後もすべて拒否なさるというのであれば、1日2日で終わるような話ではないもの。」
「……確かに、その方がよろしゅうございますね、ノインセシア王国から専任の料理人を招くか、我が国からジョージ様に料理方法を教わった宮廷料理人を、ノインセシア王国に派遣するのがよろしいでしょう。
ようは聖女様が、料理を口にしてさえくだされば、結果は同じことです。」
ジョスラン侍従長も同意してくれた。
「それじゃあ申し訳ないけれど、聖女様が希望されているその料理の数々を、うちの宮廷料理人に教えてもらえないかしら。」
「ええ、それでしたら協力させていただきます。申し訳ありません、色々とお世話になっておきながら……。」
「いいえ、こちらこを無理を言ってごめんなさいね?ジョージには甘えてばかりね。
ついつい頼りにしてしまって……。」
「そう言っていただけるのは非常にありがたいです。皆さんにお世話になっている身ですし、少しでも恩義に報いれれば幸いです。」
良かった、他所の国に長期間行くという、最悪の事態はさけられそうだ。
その時、突然扉があいて、白髪にサンタクロースのような白ひげの老人が、ひょっこりと扉から顔をのぞかせた。
「……?」
「ランチェスター公!?」
「お祖父様!!」
ジョスラン侍従長とセレス様が驚いて声を上げる。お祖父様ということは、前々国王様か!!いや、公ということは、イギリス王室風にいえば、女王の夫ということかな?
結構なお年の筈だが、筋肉こそ衰えている感じがするものの、シャンと背筋を伸ばして立っていて、只者ではない感じがする。
「協力は得られそうかの?」
くりくりとした小さい目を無邪気に輝かせている。パトリシア様とどこか似ているな。
見た目がどう、というよりも、いたずら好きの子どものような、王族らしからぬ印象を受けるところが、だが。
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