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第75話 カーバンクルの守護③

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「俺に用事というのは?」
「この子のことだ。」
 カーバンクルは、一番大きなオムツウサギの子を見ながら言った。
「この子はこの地ではなく、お主を守護したいと言って来た。
 どうか共に連れて行ってやって欲しい。」

「ええ!?
 で、ですが、こんなに小さいのに、親兄弟と離れて暮らすのは……。」
「いつかは別の地を守護することになる。
 それが遅いか早いかの違いだけだ。
 我らのことを考えてくれるのであれば、時々会いに来て欲しい。それで構わない。」

 困ったな……。うちにはカイアもいることだし、一緒に暮らすとなると……。
 悩んだ挙げ句、俺はこの子を引き取るかどうかを、カイアに決めて貰うことにした。
 カイアをマジックバッグから出し、カイアの目線にしゃがみこんだ。

「カイア、あのな?これからお友だちが、俺とカイアと一緒に住みたいって言うんだが、カイアはどうしたい?」
 カイアは一番大きなオムツウサギの子の目をじっと見つめた。
「ピョルッ!ピョルッ!」

 カイアは嬉しそうに両方の枝をブンブンと振った。そして一番大きなオムツウサギの子のところに行き、そっとオムツウサギの子を抱きしめる。オムツウサギの子も嬉しそうに抱き返した。どうやらカイアは、この子と一緒に暮らしたいようだな。

「うちの子が歓迎しているようなので、引き受けることにします。」
「そうか、それは良かった。では、この子に名をつけてやって欲しい。」
「ええ!?そういうのは、親御さんがするものなのでは……。と言うか、この子たちには名前がないのですか?」

「ない。我もない。精霊が人間単体を守護する場合、守護対象に付けられるのが通常だ。
 名付けを受け入れその者を守護する。」
「うーん、名前……。名前かあ……。
 あ、そうだ、精霊の力が高まると、俺が精霊魔法を使えるようになると言われたのですが、カーバンクルも魔法を使うのですか?」

「使う。ドライアドは土と水属性。
 カーバンクルは風と闇属性だ。だがどちらも力が高まれば、聖属性の魔法を使う。
 この子はまだ最近、風属性が使えるようになったばかりだがな。」
「──じゃあ、君の名前はアエラキだ!
 優しい風、という意味だよ。」

「ピイイイイ!」
 嬉しそうにアエラキが、ピョンピョンと俺のまわりを跳ねた。
 本当はギリシャ語で、そよ風という意味なんだが、優しい風という表現のほうが、この子に合っている気がした。

「じゃあ、連れて帰ります。たぶんですが、近いうちに、パーティクル公爵家の温泉がこの山にあって、そこに招待される予定なので、その時にでもまたお伺いしますね。」
「ああ、もう少し上の方に、大きな人間の家があったな。万年雪の降る場所だ。」

「はい、恐らくそこかと。
 では、その時まで。」
「ああ。」
「人間に見られるとまずいから、アエラキはカイアと一緒に、マジックバッグの中に入っていてくれな。さあ、お父さんお母さんと、兄弟たちにバイバイしような。」

 アエラキが家族に手を振る。カイアも一緒に手を振った。2人をマジックバッグの中に入れ、俺は洞窟の外に出た。
 外では、足元から冷えてきたのか、男性2人が少し寒そうに震えながら、全員で洞窟を見守っていた。

「用事が済みました。」
「なんだったのですか?」
「ここに来た時に、俺が地面に絨毯を敷いてやったのですが、それを貰ってもいいかということでした。暖かくて、とても喜んでくれたようです。」

 まあ、嘘は言っていない。全部を言っていないというだけだ。
「そうでしたか。我々はすぐにこのことをギルドに報告致します。クエストもこれにて完了ということで結構です。お帰りいただいても大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。
 それでは、まだ帰りの馬車に間に合いそうなので、俺はこのまま宿を引き払って、失礼させていただきますね。」
 人々の信仰が高まれば、この地は安全だろう。そうなると、楽しみだなあ、温泉。

 だけど、カイアに続いて、まさかの守護精霊が2人目か……。俺が本当に精霊魔法が使えるようになったら、あんまり知られないようにしたほうがいいだろうなあ。カイアの加護だけでも珍しいと言われたのに、こんな人間他にいるとは思えないものな。

 けど、カイアに一緒に暮らしてくれるお友だちが出来たのは嬉しい出来事だったな。
 何より、俺には分からないカイアの言葉が通じているらしいのがありがたい。
 これからはカイアも、お友だちとたくさんおしゃべりが出来るようになるな。

 カイアは大人しい子ではあるけど、誰とも話せないのと、話さないのは違うしな。
 早く俺とも話せるようになれる日が来ないかな。最初になんて言ってくれるだろう。
 俺はその日を想像しながら山を降りて宿に戻り、チェックアウトすることを告げて、家に向かう馬車に乗ったのだった。

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