上 下
223 / 443

第73話 謎の洞窟①

しおりを挟む
「そのレモンのハーブソルトとやらを、試しに食べてみたいんだが、ひとつ売ってくれないか?味を知っておきたいんだ。」
 とエドモンドさんが言ってきた。
「ああ、ハーブソルトは単体で食べるものじゃないんですよ。」

「単体で食べるものじゃない?」
 俺の言葉に首をかしげるエドモンドさん。「ええ、ようするに、調味料の一種です。
 肉や魚にかけて食べるものですね。
 野菜にもあいますよ。」
「じゃあ、肉にかけて出して貰えるか?
 味を知らないと、売る時に困るからな。」

「それはアラベラさんにお願いしませんと、俺にはなんとも……。アラベラさん、こちらの食堂で、ハーブソルトを使った肉料理を出していただくことは可能でしょうか?」
 俺はアラベラさんを振り返った。アラベラさんは嬉しそうにこっくりとうなずいた。

「ええ、もちろんです。私もルピラス商会に商品を扱っていただけるのであれば、こんなに嬉しいことはありませんから。」
 そう言って、ミーアさんにレモンのハーブソルトの入った瓶を手渡し、
「いつもお出ししている肉に、これをかけて焼いてきてもらえるかい?」
 と言った。

「わかりました、準備してきます。」
 そう言って、ミーアさんはレモンのハーブソルトの瓶を受け取り、キッチンの奥に通じる扉の中へと消えて行った。
 この宿の食堂は受付のすぐ脇にあり、とくに扉などでも遮られていない。

 そこのキッチンでレモンのハーブソルトを作っていたのだった。キッチンに居ても、お客さんが入ってくれば、キッチンから入り口が見えるので、すぐに対応可能だ。
 そうしてミーアさんは奥から肉を持って来ると、フライパンで肉を焼き、その上にレモンのハーブソルトを振りかけた。

「どうぞ、こちらにおかけになって下さい。今お持ちしますので。」
 エドモンドさんがアラベラさんにうながされ、食堂のテーブルへ移動する。アラベラさんがテーブルにカトラリーを並べた。
 俺も反応が気になるので、試食の様子を見守ることにした。

 馬車で一緒だった乗客たちも、ウッド男爵が来る前に、ジャスミンさんに挨拶して店を出て行ったし、食事の時間じゃないからか、食堂にはお客さんがいなかったので、貸切状態だった。
 熱々のレアステーキが皿に乗せられて運ばれてくる。

 エドモンドさんがレアステーキを、一口サイズに切って口に運ぶ。
「これは……食べたことのある味に、なにか別のものを加えているのか?爽やかで、こっちのほうが肉がうまく感じる。というか、食べ疲れないな、肉の油は食べるうちに胃が疲れてくる感じがするもんなんだが……。」

 そう言いながら、あっという間にモリモリと、レアステーキをたいらげてしまった。
「脂肪吸収を抑える働きがありますから、それかも知れませんね。」
 と俺は答えた。特に皮に多く含まれる成分だからな。まあ、腸での吸収を抑える働きだから、胃は単にさっぱりさせてるだけかも知れないが。

「野菜にも魚にも合いますし、つけ置きして焼いても美味しいですよ。これ単体でもいいですし、コイツを日常使いの料理の下味に使う国もありますね。」
 ハーブソルトと、バジルやオリーブオイルを、鳥の胸肉に揉み込んで、フライパンや電子レンジで加熱したものが、コンビニなんかでよく売られているハーブサラダチキンだ。

「ふむ。平民の為のものという感じだな。
 悪くない。これはどの程度もつんだ?」
「季節にもよりますが、風味が出来立てに近い状態を保てるのが、大体常温で7日間程度でしょうか。
 まあ、多少風味は落ちても食べられる期間は、湿気の少ない場所に置いておけば1ヶ月から2ヶ月というところですね。」

 市販品は1~2年もつが、手作りはどうしても短い。冷蔵庫に入れた方がいい派と、冷蔵庫に入れると湿気でやられてしまう派がいて、なかなかにお手製ハーブソルトの管理は悩ましい問題でもある。
「塩なのにそんなに短いのか?」
 エドモンドさんが首をかしげる。
 まあ、当然の疑問だよな。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

処理中です...