207 / 443
第69話 キャンベル商人ギルド長①
しおりを挟む
「この地区の商人ギルド長のザーカリー・キャンベルと申します。本日はよろしくおねがい致します。」
「あ、はい……。
よろしくおねがい致します……。」
ギルド長が出てくるのは、冒険者ギルド以来だな。また何かまずかったのだろうか?
キャンベル商人ギルド長は、王侯貴族とやり取りすることが多いらしく、冒険者ギルドのギルド長よりも、だいぶ仕立ての良い服を着た、丁寧な物腰の人だった。
モノクルだったか、片目だけにメガネをつけた、細身ながらにしっかりした体つきの年配の男性だ。
コショウに驚いていたからそれだろうか。そういえば、コショウは昔金と同じ価格で取引されていたと聞いたことがあるな。
だが、パーティクル公爵家の料理にも使っていたし、さすがにそこまでの価値ではないだろう。……ないよな?
「ジョージ様は、コショウを大量にお持ちであるとお伺いしましたが、お間違いありませんでしょうか?」
「ええ、はい、まあ。
ああ、純粋な黒胡椒じゃないから珍しいってことですか?確かにこれは、黒胡椒と白胡椒をブレンドしたものになりますが。」
けど別に、黒胡椒と白胡椒は、収穫時期と収穫後の処理が異なるだけで、原材料は同じものなんだけどな。
黒胡椒は未熟果の皮付き、白胡椒は完熟果の皮なし、っていうだけだ。
「いえ、コショウはそのものが大変貴重なものになります。この国には存在せず、他の国より輸入しているものになりますので。」
ああ……。やっぱりそっちか……。
元の世界でも、コショウは確かインドが原産だった筈だ。
「商人ギルドの人間は、持ち込み商品の買付をおこなうこともありますので、調味料の味を研修期間中に覚えます。ですので味を知っておりますが、平民は通常コショウの味を知りません。貴族と一部の裕福な商人、及び王族のみが食べているものになります。」
「ええと……。売りに出すとまずいでしょうか?市場価格が下がるですとか……。」
「まず、そこが、こちらがジョージ様に確認したい点になります。
ジョージ様は、コショウを一般流通させたいとお考えですか?それとも、富裕層のみが購入する商品としてお考えですか?」
「売っていないとのことでしたので、平民が気軽に買えるようにしたいのですが……。」
「でしたら、ことは簡単ではありません。
この国だけであれば、貴重なコショウが気軽に手に入るようになることで、料理の幅も広がり、喜ばれることでしょう。
ですが、他の国はそうはいきません。」
キャンベル商人ギルド長の視線が鋭くなって、俺はつばも出ていないのに、喉がつばを飲み込む動きをして、空気を飲み込んだ。
「特に、コショウを貴重な外貨獲得手段にしている産出国にとっては大打撃でしょう。
我が国で安く買い付けたコショウを、他の国に転売する輩も現れましょう。
そうした時、考えうる最悪の事態は、産出国との──戦争です。」
俺は再びゴクリと空気を飲み込んだ。
「昔は砂糖と塩がそうでした。
海のない国にとっては、特に塩は貴重なものでした。単なる調味料としてでなく、生死を分ける重要なものでしたから。
戦争の引き金にも何度もなりました。
ですが、以前この国に現れた勇者様と聖女様が、色々な食材とともに手軽に手に入る塩と砂糖を大量にもたらされ、結果著しく値段が下がり、以来庶民も気軽に砂糖と塩を手に入れられるようになったのです。」
以前にも同じことがあったってことか。
まあ、砂糖と塩がほとんど手に入らない世界で、それを手に入れられる手段を持っていたなら、誰でも考えることは一緒だよな。
塩はいろんなところから手に入るから問題はないが、コショウが一つの国に独占されているとなると、高値で売り払って一時的に小銭を稼ぐならいざ知らず、儲けるつもりでもそうでなくても、大量に販売するとなると市場が混乱して、あちらこちらから反発があるということか。
「1つの国が調味料を独り占めしていることを、よいと思っている国はありません。
ですが戦争と混乱を招いた場合、非難されるのは我が国です。それを回避する為には、いざ売るとなった場合、この国だけでなく、すべての国に行き渡るよう、一斉にコショウの値段が下がるよう、仕向ける必要があると思います。」
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
「あ、はい……。
よろしくおねがい致します……。」
ギルド長が出てくるのは、冒険者ギルド以来だな。また何かまずかったのだろうか?
キャンベル商人ギルド長は、王侯貴族とやり取りすることが多いらしく、冒険者ギルドのギルド長よりも、だいぶ仕立ての良い服を着た、丁寧な物腰の人だった。
モノクルだったか、片目だけにメガネをつけた、細身ながらにしっかりした体つきの年配の男性だ。
コショウに驚いていたからそれだろうか。そういえば、コショウは昔金と同じ価格で取引されていたと聞いたことがあるな。
だが、パーティクル公爵家の料理にも使っていたし、さすがにそこまでの価値ではないだろう。……ないよな?
「ジョージ様は、コショウを大量にお持ちであるとお伺いしましたが、お間違いありませんでしょうか?」
「ええ、はい、まあ。
ああ、純粋な黒胡椒じゃないから珍しいってことですか?確かにこれは、黒胡椒と白胡椒をブレンドしたものになりますが。」
けど別に、黒胡椒と白胡椒は、収穫時期と収穫後の処理が異なるだけで、原材料は同じものなんだけどな。
黒胡椒は未熟果の皮付き、白胡椒は完熟果の皮なし、っていうだけだ。
「いえ、コショウはそのものが大変貴重なものになります。この国には存在せず、他の国より輸入しているものになりますので。」
ああ……。やっぱりそっちか……。
元の世界でも、コショウは確かインドが原産だった筈だ。
「商人ギルドの人間は、持ち込み商品の買付をおこなうこともありますので、調味料の味を研修期間中に覚えます。ですので味を知っておりますが、平民は通常コショウの味を知りません。貴族と一部の裕福な商人、及び王族のみが食べているものになります。」
「ええと……。売りに出すとまずいでしょうか?市場価格が下がるですとか……。」
「まず、そこが、こちらがジョージ様に確認したい点になります。
ジョージ様は、コショウを一般流通させたいとお考えですか?それとも、富裕層のみが購入する商品としてお考えですか?」
「売っていないとのことでしたので、平民が気軽に買えるようにしたいのですが……。」
「でしたら、ことは簡単ではありません。
この国だけであれば、貴重なコショウが気軽に手に入るようになることで、料理の幅も広がり、喜ばれることでしょう。
ですが、他の国はそうはいきません。」
キャンベル商人ギルド長の視線が鋭くなって、俺はつばも出ていないのに、喉がつばを飲み込む動きをして、空気を飲み込んだ。
「特に、コショウを貴重な外貨獲得手段にしている産出国にとっては大打撃でしょう。
我が国で安く買い付けたコショウを、他の国に転売する輩も現れましょう。
そうした時、考えうる最悪の事態は、産出国との──戦争です。」
俺は再びゴクリと空気を飲み込んだ。
「昔は砂糖と塩がそうでした。
海のない国にとっては、特に塩は貴重なものでした。単なる調味料としてでなく、生死を分ける重要なものでしたから。
戦争の引き金にも何度もなりました。
ですが、以前この国に現れた勇者様と聖女様が、色々な食材とともに手軽に手に入る塩と砂糖を大量にもたらされ、結果著しく値段が下がり、以来庶民も気軽に砂糖と塩を手に入れられるようになったのです。」
以前にも同じことがあったってことか。
まあ、砂糖と塩がほとんど手に入らない世界で、それを手に入れられる手段を持っていたなら、誰でも考えることは一緒だよな。
塩はいろんなところから手に入るから問題はないが、コショウが一つの国に独占されているとなると、高値で売り払って一時的に小銭を稼ぐならいざ知らず、儲けるつもりでもそうでなくても、大量に販売するとなると市場が混乱して、あちらこちらから反発があるということか。
「1つの国が調味料を独り占めしていることを、よいと思っている国はありません。
ですが戦争と混乱を招いた場合、非難されるのは我が国です。それを回避する為には、いざ売るとなった場合、この国だけでなく、すべての国に行き渡るよう、一斉にコショウの値段が下がるよう、仕向ける必要があると思います。」
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
312
お気に入りに追加
1,848
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~
昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。
前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。
ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。
俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。
領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。
その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる