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第68話 アサリの水煮缶の豆乳クラムチャウダーとスープスパ③

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「朝ごはんはこれにしましょう!
 きっとイヴリンも喜んでくれるに違いありません!」
「いいと思いますよ。クラムチャウダーは作り置きしたものを明日温めて、パスタをその場で茹でたものを加えてあげたら、イヴリンさんも驚くと思います。」

「反応が楽しみで、わたくし今夜は寝られないかも知れません!」
「寝て下さい。」
 目を輝かせているさまは、やはり彼の実年齢が子どもなのだと思わせる。俺は思わず微笑ましくなって笑った。
 サニーさんは夫婦の寝室に行き、俺は2階の隣の客室を借りて、その日は休んだ。

 朝、ドンガラガッシャーン!グワングワングワングワン……という音に目を覚ますと、下に降りたらキッチンでサニーさんが寸胴鍋を落っことしていた。
 こっそり料理して驚かせようとして、鍋を取り落として失敗してしまったらしい。小さい子のいたずらみたいだな。中身が入っていなくて幸いだったが。

「……イヴリンは、今の音で起きてしまったでしょうか……。」
 心配そうなサニーさん。
 俺は階段の上で、俺の様子を心配そうに覗き込んでいたイヴリンさんに、振り返ってシーッと唇に指を当てて黙っていて貰うと、
「起きてきてはいないようですね、急いで準備をしましょう。俺も手伝います。」
 と言った。

 イヴリンさんは顎に拳をあててクスクスと声を出さずに笑うと、そーっと部屋にまた引き上げて行ってくれた。
 クラムチャウダーを温め直しながら、パスタを茹でる。パスタをザルに上げて、パスタ同士がひっつかないように、軽くバターを絡めておいた。サニーさんがイヴリンさんを呼びに、2階の部屋に上がって行った。

「おはようございます。」
「おはようございます。」
 俺とイヴリンさんは、改めて朝の挨拶をした。イヴリンさんは俺を見てクスリと微笑んだ。俺も微笑んだ。共犯者気分だ。
 サニーさんの様子がいつもと違うことに、イヴリンさんも気が付いたようだ。

「イヴリン、今朝はわたくしが料理をしたのです。気に入って貰えれば、これから毎日でも作ります。美味しいと思って貰えるとよいのですが……。」
 サニーさんはソワソワと手を動かしながら、イヴリンさんに椅子をすすめた。

 イヴリンさんは目を丸くしながら、
「サニーが料理を作ってくれたの?
 私の為に?」
 とサニーさんを見上げて言った。
 サニーさんは慣れない手付きでお皿にクラムチャウダーを盛り付けし、パセリを散らした。散らし方が下手で、見た目はちょっと汚いが、愛情はタップリと入っている。

「ど、どうぞ、召し上がれ。」
 俺と自分の前にも皿を置いたが、サニーさんは皿に手を付けずに、じっとイヴリンさんの反応を見守っている。
「……!美味しい!凄く美味しいわ!」
 サニーさんがほっとした表情を見せた。

「これは麺を加えて食べても、とても美味しいものなのです。入れてみましょうか?」
「食べたいわ!」
 サニーさんは、嬉しそうなイヴリンさんからお皿を受け取ると、茹でておいたパスタを加えて、上から追加でクラムチャウダーをかけ、再びイヴリンさんの目の前に置いた。

 ツルツルとパスタを吸い込みながら、満面の笑みのイヴリンさん。それを嬉しそうに見つめているサニーさん。
「美味しい……、とても美味しいわ。
 こんな料理は、はじめて……。」
「これはスープ自体にとても栄養がある料理なのです。女性やお年寄りに、特に必要な栄養が詰まっているそうです。」

 サニーさんが昨日俺から聞いた受け売りをイヴリンさんに話す。
「わたくしは、これをずっとあなたと食べていきたい。これからも、あなたの喜ぶことをしていきたい。
 何をすればよいのか分からないので、今まで自分から動けずにいましたが、これからはもっと自分でも考えます。だから……。」

「──はい。これからも、ずっと一緒にいてくださいね、サニー。」
 幸せそうな表情で、イヴリンさんがサニーさんを見つめる。
 サニーさんは本当に嬉しそうだった。
 俺もサニーさんもクラムチャウダーのスープスパをたいらげ、俺は2人に見送られながら、サニーさんの家をあとにした。

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