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第66話 母の真意②
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「いつもすみません、お母様。」
嬉しそうにそれを受け取ると、イヴリンさんは一度キッチンに戻り、お皿を出して箱の中のケーキを皿に並べて再び戻ってきた。
ケーキは3つしかなかったので、俺、サニーさん、ニュートンジョン侯爵夫人の前に、イヴリンさんはケーキを置いた。
「どうぞ。ここのお店のケーキはお砂糖が控えめなので、甘い物が食べたい時に、私でも安心して食べられるんです。
お母様がいつも持ってきて下さって。」
ああ、出産前後は妊娠高血圧症候群になることがあるから、甘い物は要注意だよな。
重度になるとお腹の子どもの発育が悪くなったり、胎盤剥離が起きたりする、恐ろしい病気だ。
血圧が問題なくても、別の問題が起こることもある。友人の娘さんの出産時も、乳腺炎になってしまうとかで、好きに甘い物が食べられないと言っていたっけ。
「わたくしはそんなに甘いものが好きではないの。だからこれはあなたが食べなさい。」
そう言ってニュートンジョン侯爵夫人は、イヴリンさんの前にケーキを置いた。自分の分をさっさと食べだしてしまっていたサニーさんが、気まずそうな表情を浮かべる。
ニュートンジョン侯爵夫人が、確実にイヴリンさんの為に持ってきてくれた、砂糖少なめのケーキなのに、イヴリンさんが食べられないのを気にしなかったのは、さすがにまずいぞ、サニーさん。
客の俺ですら、そこに思い至って、ケーキに手を出したものか戸惑ったのに。
それにしても、出産前後は体質が変わるから、女性は大変だよな。そこに気を配ってお菓子を持ってきてくれているのか。
……あれ?優しいんじゃないか?
怯えるサニーさんの様子と、イヴリンさんの前のニュートンジョン侯爵夫人のイメージがつながらない。
「──それで、サニー。」
俺の隣の席で、イヴリンさんの出してくれたお茶を一口飲んだニュートンジョン侯爵夫人が、サニーさんをジロリと睨む。
「いつ産まれてもおかしくない状態だという嫁を、ご近所様に何のお願いもせず、連絡もなしに仕事だからと、ほったらかして泊まりで出かけるとは何事ですか。
妊娠中の女性が家で1人だなんて、どれだけ恐ろしいことだか分からないのですか?」
「はい……、申し訳ありませんお母様。」
サニーさんはすっかり縮こまっている。
「わたくしはあなたの育て方を間違えてしまったかも知れませんね。」
「そんなことありませんわ、お母様。
サニーさんはいつも私を手伝ってくれる、優しい旦那様です。」
笑顔のイヴリンさんに、サニーさんが救いを求める目線を向ける。
「──手伝う、という考えがそもそもの間違いなのです。わたくしたちの元を離れ、従者のいない生活を選んだのは、あなたなのですよ、サニー。それならば、夫婦でともに支え合わなくてはならない筈。
この先子どもが産まれても、あなたは手伝いで済ませるつもりなのですか?」
「はい……、申し訳ありません、お母様。」
んんん?
「サニー、こんな時間だし、お母様とジョージさんにも、夕食を召し上がっていただいたらどうかしら?」
「ああ、そのつもりだよ。
準備してくれるかい?」
「ええ。」
話題を変えてくれたイヴリンさんに、サニーさんがほっとした表情を浮かべた。
「──サニー。」
サニーさんがビクッとする。
「身重の妻を働かせて、あなたは何もしないつもりなの。なぜ、座ったままなのかしら。この時間なら、もう馬車はありませんよね。
ということは、ジョージさんにはこのまま家にお泊りいただくのよね?
それならば、ベッドの準備はもう済んでいるということでいいのかしら?」
「い、いえ、まだ……。イヴリンが……。」
「イヴリンは体が小さいのですよ。つまり子どもがお腹にいることで、イヴリンの体重は元の1.5倍。筋肉だってないわ。
この状態でベッドメイキングをするのがどれほどの重労働なのか、あなたは想像したことがあるのかしら。」
ニュートンジョン侯爵夫人が、冷たい眼差しでサニーさんにたたみかける。
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嬉しそうにそれを受け取ると、イヴリンさんは一度キッチンに戻り、お皿を出して箱の中のケーキを皿に並べて再び戻ってきた。
ケーキは3つしかなかったので、俺、サニーさん、ニュートンジョン侯爵夫人の前に、イヴリンさんはケーキを置いた。
「どうぞ。ここのお店のケーキはお砂糖が控えめなので、甘い物が食べたい時に、私でも安心して食べられるんです。
お母様がいつも持ってきて下さって。」
ああ、出産前後は妊娠高血圧症候群になることがあるから、甘い物は要注意だよな。
重度になるとお腹の子どもの発育が悪くなったり、胎盤剥離が起きたりする、恐ろしい病気だ。
血圧が問題なくても、別の問題が起こることもある。友人の娘さんの出産時も、乳腺炎になってしまうとかで、好きに甘い物が食べられないと言っていたっけ。
「わたくしはそんなに甘いものが好きではないの。だからこれはあなたが食べなさい。」
そう言ってニュートンジョン侯爵夫人は、イヴリンさんの前にケーキを置いた。自分の分をさっさと食べだしてしまっていたサニーさんが、気まずそうな表情を浮かべる。
ニュートンジョン侯爵夫人が、確実にイヴリンさんの為に持ってきてくれた、砂糖少なめのケーキなのに、イヴリンさんが食べられないのを気にしなかったのは、さすがにまずいぞ、サニーさん。
客の俺ですら、そこに思い至って、ケーキに手を出したものか戸惑ったのに。
それにしても、出産前後は体質が変わるから、女性は大変だよな。そこに気を配ってお菓子を持ってきてくれているのか。
……あれ?優しいんじゃないか?
怯えるサニーさんの様子と、イヴリンさんの前のニュートンジョン侯爵夫人のイメージがつながらない。
「──それで、サニー。」
俺の隣の席で、イヴリンさんの出してくれたお茶を一口飲んだニュートンジョン侯爵夫人が、サニーさんをジロリと睨む。
「いつ産まれてもおかしくない状態だという嫁を、ご近所様に何のお願いもせず、連絡もなしに仕事だからと、ほったらかして泊まりで出かけるとは何事ですか。
妊娠中の女性が家で1人だなんて、どれだけ恐ろしいことだか分からないのですか?」
「はい……、申し訳ありませんお母様。」
サニーさんはすっかり縮こまっている。
「わたくしはあなたの育て方を間違えてしまったかも知れませんね。」
「そんなことありませんわ、お母様。
サニーさんはいつも私を手伝ってくれる、優しい旦那様です。」
笑顔のイヴリンさんに、サニーさんが救いを求める目線を向ける。
「──手伝う、という考えがそもそもの間違いなのです。わたくしたちの元を離れ、従者のいない生活を選んだのは、あなたなのですよ、サニー。それならば、夫婦でともに支え合わなくてはならない筈。
この先子どもが産まれても、あなたは手伝いで済ませるつもりなのですか?」
「はい……、申し訳ありません、お母様。」
んんん?
「サニー、こんな時間だし、お母様とジョージさんにも、夕食を召し上がっていただいたらどうかしら?」
「ああ、そのつもりだよ。
準備してくれるかい?」
「ええ。」
話題を変えてくれたイヴリンさんに、サニーさんがほっとした表情を浮かべた。
「──サニー。」
サニーさんがビクッとする。
「身重の妻を働かせて、あなたは何もしないつもりなの。なぜ、座ったままなのかしら。この時間なら、もう馬車はありませんよね。
ということは、ジョージさんにはこのまま家にお泊りいただくのよね?
それならば、ベッドの準備はもう済んでいるということでいいのかしら?」
「い、いえ、まだ……。イヴリンが……。」
「イヴリンは体が小さいのですよ。つまり子どもがお腹にいることで、イヴリンの体重は元の1.5倍。筋肉だってないわ。
この状態でベッドメイキングをするのがどれほどの重労働なのか、あなたは想像したことがあるのかしら。」
ニュートンジョン侯爵夫人が、冷たい眼差しでサニーさんにたたみかける。
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