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第63話 集落での挨拶③
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「まずは私の家にご案内します。歓迎の催しの準備が終わるまで、少しの間お待ちいただければ幸いです。」
コボルトには敬語の文化がないとアシュリーさんは言っていたけれど、集落をまとめるコボルトとして、オッジさんも人間と接する機会が多いからなのか、ちゃんとした敬語を使うんだよな。
オッジさんの家に案内される最中も、左を向けばコボルト、右を向けばコボルト、という状況に、パーティクル公爵が、それを顔に出して興奮しすぎないよう、気を配っている様子が伺えた。
セレス様は、そんな夫の様子を、微笑ましげに愛おしげに見つめていた。
歓迎の催しの準備を終えたら、呼びに行く役目をオンスリーさんがすると言ったが、
「オンスリーさんは、この催しの主役のお一人ですよ、俺が皆さんを迎えに行きますので、コボルトは全員揃って、皆さまをお迎えしたほうがよろしいかと。」
と俺が言ったので、オンスリーさんもみんなと一緒に、ハンザさんの店でセレス様たちを出迎えることになった。
準備が終わり、俺がオッジさんの店に迎えに行くと、パーティクル公爵はそれはそれはもう、ソファの上でソワソワと落ち着かない様子だった。もうすぐ夢が叶うんだものな。
ハンザさんの店の前につくと、店に入り切らなかったコボルトたちが、店の前に置かれたテーブルの前に立って、俺たちを笑顔と拍手で出迎えてくれた。
パーティクル公爵の目は既に感激でうるみはじめていた。それを見た俺とサニーさんが、後ろで微笑んだ。
店のドアと窓を全開にして、入り切らなかったコボルトたちも、外から店の中を覗く形で、歓迎の催しが始まった。
パーティクル公爵とセレス様は、オッジさんにお言葉を頂戴出来ますでしょうか、と言われて快くうなずいた。
「このような盛大な歓迎をいただき、まことに嬉しく思っております。
コボルトの集落に来ることは、私の幼い頃よりの長年の夢でした。」
パーティクル公爵が静かに話し出す。
「はじめは、人間の言葉を話す、人型の犬がいると言われ、犬が大好きだった幼い私は、単純にそこに興味を持ちました。
ですが、様々な文献にて、コボルトの歴史に触れ、勇者様とともに命を賭(と)してこの国を救った英雄であることを知り、憧れが尊敬に変わりました。」
会場内外のコボルトたちも、神妙な顔つきでそれを聞いている。
「そんな中で……、そんな、勇気があり、仲間思いの、人間を救った英雄であるコボルトが……、人間から迫害を……。
──すみません。」
パーティクル公爵はこらえきれない様子でハンカチを取り出して目頭を押さえた。
「受けているということを知り、ひどく胸を痛め、自分になにか出来ることはないかと、長年思っておりました。
今回妻であるセレスを通じて、コボルトの皆さまの店を出すお手伝いをさせていただけることになり、大変嬉しく思っております。
一緒に素晴らしい店を作りましょう。」
パーティクル公爵の挨拶が終わり、先程よりも大きな拍手が、会場の中からも外からも聞こえた。
続いてセレス様が挨拶する番になった次の瞬間、驚くような困ったような声が、入り口近くから聞こえた。
お父さんお母さんと一緒に、大人しく話を聞いていた筈のヨシュア君と、ララさんの一番下の弟のマークス君が、ヨシュア君につられて、歓迎の催し会場内でかけっこをはじめてしまったのだ。セレス様が元王族だと知っている大人のコボルトたちは大慌てだ。
この国の法律は分からないが、日本だって偉い人の前を子どもが横切っただけで、殺されてしまった時代が存在する。
もちろんセレス様はそんなことはしないだろうが、大人たちはそれを恐れたのか、あまり場にそぐわない行動だとはいえ、子どものしたことをたしなめるだけとは思えない、焦ったような目線で子どもたちを見ていた。
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コボルトには敬語の文化がないとアシュリーさんは言っていたけれど、集落をまとめるコボルトとして、オッジさんも人間と接する機会が多いからなのか、ちゃんとした敬語を使うんだよな。
オッジさんの家に案内される最中も、左を向けばコボルト、右を向けばコボルト、という状況に、パーティクル公爵が、それを顔に出して興奮しすぎないよう、気を配っている様子が伺えた。
セレス様は、そんな夫の様子を、微笑ましげに愛おしげに見つめていた。
歓迎の催しの準備を終えたら、呼びに行く役目をオンスリーさんがすると言ったが、
「オンスリーさんは、この催しの主役のお一人ですよ、俺が皆さんを迎えに行きますので、コボルトは全員揃って、皆さまをお迎えしたほうがよろしいかと。」
と俺が言ったので、オンスリーさんもみんなと一緒に、ハンザさんの店でセレス様たちを出迎えることになった。
準備が終わり、俺がオッジさんの店に迎えに行くと、パーティクル公爵はそれはそれはもう、ソファの上でソワソワと落ち着かない様子だった。もうすぐ夢が叶うんだものな。
ハンザさんの店の前につくと、店に入り切らなかったコボルトたちが、店の前に置かれたテーブルの前に立って、俺たちを笑顔と拍手で出迎えてくれた。
パーティクル公爵の目は既に感激でうるみはじめていた。それを見た俺とサニーさんが、後ろで微笑んだ。
店のドアと窓を全開にして、入り切らなかったコボルトたちも、外から店の中を覗く形で、歓迎の催しが始まった。
パーティクル公爵とセレス様は、オッジさんにお言葉を頂戴出来ますでしょうか、と言われて快くうなずいた。
「このような盛大な歓迎をいただき、まことに嬉しく思っております。
コボルトの集落に来ることは、私の幼い頃よりの長年の夢でした。」
パーティクル公爵が静かに話し出す。
「はじめは、人間の言葉を話す、人型の犬がいると言われ、犬が大好きだった幼い私は、単純にそこに興味を持ちました。
ですが、様々な文献にて、コボルトの歴史に触れ、勇者様とともに命を賭(と)してこの国を救った英雄であることを知り、憧れが尊敬に変わりました。」
会場内外のコボルトたちも、神妙な顔つきでそれを聞いている。
「そんな中で……、そんな、勇気があり、仲間思いの、人間を救った英雄であるコボルトが……、人間から迫害を……。
──すみません。」
パーティクル公爵はこらえきれない様子でハンカチを取り出して目頭を押さえた。
「受けているということを知り、ひどく胸を痛め、自分になにか出来ることはないかと、長年思っておりました。
今回妻であるセレスを通じて、コボルトの皆さまの店を出すお手伝いをさせていただけることになり、大変嬉しく思っております。
一緒に素晴らしい店を作りましょう。」
パーティクル公爵の挨拶が終わり、先程よりも大きな拍手が、会場の中からも外からも聞こえた。
続いてセレス様が挨拶する番になった次の瞬間、驚くような困ったような声が、入り口近くから聞こえた。
お父さんお母さんと一緒に、大人しく話を聞いていた筈のヨシュア君と、ララさんの一番下の弟のマークス君が、ヨシュア君につられて、歓迎の催し会場内でかけっこをはじめてしまったのだ。セレス様が元王族だと知っている大人のコボルトたちは大慌てだ。
この国の法律は分からないが、日本だって偉い人の前を子どもが横切っただけで、殺されてしまった時代が存在する。
もちろんセレス様はそんなことはしないだろうが、大人たちはそれを恐れたのか、あまり場にそぐわない行動だとはいえ、子どものしたことをたしなめるだけとは思えない、焦ったような目線で子どもたちを見ていた。
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