上 下
188 / 443

第63話 集落での挨拶③

しおりを挟む
「まずは私の家にご案内します。歓迎の催しの準備が終わるまで、少しの間お待ちいただければ幸いです。」
 コボルトには敬語の文化がないとアシュリーさんは言っていたけれど、集落をまとめるコボルトとして、オッジさんも人間と接する機会が多いからなのか、ちゃんとした敬語を使うんだよな。

 オッジさんの家に案内される最中も、左を向けばコボルト、右を向けばコボルト、という状況に、パーティクル公爵が、それを顔に出して興奮しすぎないよう、気を配っている様子が伺えた。
 セレス様は、そんな夫の様子を、微笑ましげに愛おしげに見つめていた。

 歓迎の催しの準備を終えたら、呼びに行く役目をオンスリーさんがすると言ったが、
「オンスリーさんは、この催しの主役のお一人ですよ、俺が皆さんを迎えに行きますので、コボルトは全員揃って、皆さまをお迎えしたほうがよろしいかと。」

 と俺が言ったので、オンスリーさんもみんなと一緒に、ハンザさんの店でセレス様たちを出迎えることになった。
 準備が終わり、俺がオッジさんの店に迎えに行くと、パーティクル公爵はそれはそれはもう、ソファの上でソワソワと落ち着かない様子だった。もうすぐ夢が叶うんだものな。

 ハンザさんの店の前につくと、店に入り切らなかったコボルトたちが、店の前に置かれたテーブルの前に立って、俺たちを笑顔と拍手で出迎えてくれた。
 パーティクル公爵の目は既に感激でうるみはじめていた。それを見た俺とサニーさんが、後ろで微笑んだ。
 店のドアと窓を全開にして、入り切らなかったコボルトたちも、外から店の中を覗く形で、歓迎の催しが始まった。

 パーティクル公爵とセレス様は、オッジさんにお言葉を頂戴出来ますでしょうか、と言われて快くうなずいた。
「このような盛大な歓迎をいただき、まことに嬉しく思っております。
 コボルトの集落に来ることは、私の幼い頃よりの長年の夢でした。」

 パーティクル公爵が静かに話し出す。
「はじめは、人間の言葉を話す、人型の犬がいると言われ、犬が大好きだった幼い私は、単純にそこに興味を持ちました。
 ですが、様々な文献にて、コボルトの歴史に触れ、勇者様とともに命を賭(と)してこの国を救った英雄であることを知り、憧れが尊敬に変わりました。」

 会場内外のコボルトたちも、神妙な顔つきでそれを聞いている。
「そんな中で……、そんな、勇気があり、仲間思いの、人間を救った英雄であるコボルトが……、人間から迫害を……。
 ──すみません。」
 パーティクル公爵はこらえきれない様子でハンカチを取り出して目頭を押さえた。

「受けているということを知り、ひどく胸を痛め、自分になにか出来ることはないかと、長年思っておりました。
 今回妻であるセレスを通じて、コボルトの皆さまの店を出すお手伝いをさせていただけることになり、大変嬉しく思っております。
 一緒に素晴らしい店を作りましょう。」

 パーティクル公爵の挨拶が終わり、先程よりも大きな拍手が、会場の中からも外からも聞こえた。
 続いてセレス様が挨拶する番になった次の瞬間、驚くような困ったような声が、入り口近くから聞こえた。

 お父さんお母さんと一緒に、大人しく話を聞いていた筈のヨシュア君と、ララさんの一番下の弟のマークス君が、ヨシュア君につられて、歓迎の催し会場内でかけっこをはじめてしまったのだ。セレス様が元王族だと知っている大人のコボルトたちは大慌てだ。

 この国の法律は分からないが、日本だって偉い人の前を子どもが横切っただけで、殺されてしまった時代が存在する。
 もちろんセレス様はそんなことはしないだろうが、大人たちはそれを恐れたのか、あまり場にそぐわない行動だとはいえ、子どものしたことをたしなめるだけとは思えない、焦ったような目線で子どもたちを見ていた。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...