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第60話 聖女降臨の情報②

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「あら、それなら今度いらしたら?」
 アシュリーさんの発言に、パーティクル公爵が目を丸くする。
「う……伺わせていただいてもよろしいのですか?私は人間ですし、おまけに貴族です。
 貴族はコボルトを虐げている、代表格のような人間たちですよ?」

「コボルトには上も下もないわ。
 一応便宜上、集落をまとめてくれているコボルトはいるけれど、自分たちが、誰を好きで招きたいか、誰を嫌いで拒絶したいか、ただそれだけの話よ。
 ──私は、あなたが好き。だからみんなに紹介しても大丈夫と思ってる。」
「アシュリーさん……。」
 パーティクル公爵が泣きそうだ。

「はい、ぜひ伺わせてください!
 いつにいたしましょうか?」
「明日は?」
「ちょうど予定がありません!妻のセレスも同行させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ。」

「それなら、せっかく部屋を用意させたことだし、今日はこのまま当家にお泊まりいただいて、そのまま明日の朝、コボルトの集落に向かいましょう。
 私も他のコボルトとも話してみたいわ。王家を救ってくれた英雄の一族に、元王家の一員として、直接お礼が言いたいもの。」

「本当?それはとてもおじいちゃんが喜ぶと思うわ。前回の勇者様に同行した名誉ある一族であることを、祖父はとても誇りに思っているんです。」
「ご存命なの!?」
「コボルトは人間よりも長生きだから。」

「嬉しい……。お伺い出来ることを、国王様にも知らせなくちゃ。いつか正式に、私の兄も……、国王様も集落に伺わせて下さい。
 これを機会に、コボルトと再び手を取り合えることを、王家は願っているのです。」
 セレス様も泣きそうだ。

 アシュリーさんとララさんは、目線で会話をするように微笑みあった。
 次の聖女様もこの国に現れていたら、今度はアシュリーさんが同行してたかもな。
 なんせ実績のある英雄の孫だからな。
 これで、貴族たちが受け入れてくれれば、コボルトに対する迫害はなくなるだろう。

「あの……。」
 消え入りそうな声が聞こえる。サニーさんだ。みんながサニーさんに振り返る。
「わたくしも、コボルトの集落に同行させていただけませんでしょうか?
 内装を考えるにあたり、実際に生活様式を目の当たりにしたいと思っているのです。」

「もちろんよ。一緒に行きましょう。」
 恐る恐る切り出したサニーさんに、あっさりと笑顔でそう言うアシュリーさん。
 サニーさんは飛び上がりそうになりながら喜んだ。実際、ちょっと椅子から浮いた。
 なんだろう、その両手両足を広げた飛び上がり方のせいで、ますますサニーさんが、世界で一番有名な配管工さんに見えてくる。

 パーティーは名残惜しい中楽しく終わり、セレス様はサニーさんの部屋もナンシーさんに用意させ、王家に渡す手紙を書くので、便箋を持ってきてと告げた。
 次の日仕事があるという、エドモンドさんとロンメルは、来る時に乗ってきた馬車で帰って行った。

 俺とカイアは、お風呂の準備をすると言われて、部屋で待っていた。大浴場しかないので、先にアシュリーさんとララさんが、セレス様とお風呂に入っているからだ。
「カイア、おっきなお風呂楽しみだなあ。
 お父さんの国は手足の伸ばせるお風呂が好きな国でな。お父さんも、おっきなお風呂が大好きなんだ。
 よく温泉や銭湯に行ったもんだよ。」

 カイアも楽しそうにはしゃいでいる。
「さ、お風呂に入る準備をしておこうな。
 お湯を吸ったらのぼせちまうからな。」
「ピョル!」
 俺はビニールカバーを取り出して、カイアの根っこの1つ1つに取り付けてやった。

 使い捨ての防水シューズカバーを、カイアの根っこの太さに合わせて、お手製で改造したものだ。カイアはお風呂自体は大好きなのだが、精霊でもあり植物でもあるので、お湯に触れると勝手に根っこが水分を吸って、短時間でのぼせてしまう。

 ビニールカバーをつけてやることで、普通に風呂に入ることが出来るようになるのだ。
 これをつけたまま湯船に入る許可は、さっきパーティクル公爵にいただいておいた。さすがに他所様の家の風呂で、許可なくお湯に異物を入れるわけにはいかないからな。

 コンコン、とドアがノックされる。ドアを開けると、ナンシーさんが立っていた。
「お待たせいたしました。お風呂の準備が出来ました。ご案内いたします。」
 ナンシーさんに案内されて、大浴場につくと、大きな扉の向こうに脱衣所があり、そのまた向こうに別の大きな扉が見えた。

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