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第56話 パーティクル公爵という人②

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「あら、私もかたくるしいのは嫌だわ。」
 とセレス様がこちらを振り返る。
「今まで通り呼んでちょうだい。
 もちろん公的な場ではその限りではないけれど、ここには私たちしかいないのだから、別に構わないでしょう?ねえ、ジョージ。」
 とニッコリされてしまった。

「まあ……そのようにおっしゃられるのであれば……。かしこまりました、アルフレート様とお呼びさせていただきます。」
「うん、まあ、そこもおいおいだね。」
 と、パーティクル公爵は意味深なことを言って、うんうんうなずきながら微笑んだ。

「私はそれに従わせていただくわ、そもそもコボルトには、本来敬語の文化ってものがないのよ。生きとし生けるもの皆、神のもとに平等というのが、コボルトの考え方なの。
 私は外の人間と接する機会も多いから、一応敬語は分かるけど、大抵のコボルトはそのことを知らないわ。
 お店に立つ時も、それを了承して貰わないと、多分みんな接客が難しいわよ?」

「そうだったんですね……。貴族街のお店ですし、きちんとした服装も敬語も、必要だと考えていたのですが、そこはエドモンドさんと相談が必要かも知れませんね。」
「いいんじゃないかな?そのままで。」
 パーティクル公爵が笑顔で言う。
「ですが……。」

「貴族街の店の商人たちは、下級貴族もいるが、大抵は平民だ。ただしい敬語が分かっている人間は数が知れているから、おかしな敬語を無理やり使うより、そのままで接したほうが好感が持たれると思う。
 そもそも上級貴族は直接店に行くことが少ないからね。来るとしたら下級貴族かな。」

「そういうものなんですね。」
「普通は商人を自宅に呼んで商品を見せてもらうものだからね。ルピラス商会も、うちの出入り商人なんだ。自宅に直接来ていただいて、商品を選ばせて貰っているよ。」
「なるほど……。それなら無理に敬語にする必要はなさそうです。そういう店だとご理解いただいたほうが早いですね。」
 俺はうなずいた。

「……ところで、話は変わるが、出来た子だろう?ナンシーは。」
 見ていたことに気付かれていたらしい。
「ええ、お若いのに素晴らしいですね。
 下級貴族のお嬢さんか何かですか?」
「──と、思うだろう?」
「違うんですか?」
 所作の美しさといい、流暢な敬語といい、てっきり、なにがしかの専門教育を受けた人なのだろうと思っていたのだが。

「あの子はもともと孤児でね。それぞれの地方には、貴族の出資している養護院というものがあるんだが、そこの出身なんだ。
 それをすると貴族のおさめる税金が安くなる。まあ、貴族にとっては、ただの税金対策の一貫ではあるから、確かに教育までを施しているところは少ないがね。」

 寄付による控除ってことか。確かに前世でも、それをする企業や個人は多かったな。
 この世界にもその機能があるってことか。
 単に税金対策として寄付する先と考えているだけなら、日本でも、寄付した先がどういう活動をしているかまでを、考える企業は少ないだろうな。個人でやる場合も、返礼品目当てのふるさと納税が流行ってたしな。

「それを変えたのが、この人なのよ。」
 セレス様が自慢げな微笑みを浮かべて話に加わってきた。
「アルフレートと私は幼馴染なんだけど、昔から彼にはそういうところがあったの。
 領地に暮らしている人たちのことを、いつも考えていたわ。」

「そうなんですか?」
「孤児たちのことを知って、大きくなって公爵家をついだら、かならず仕組みを変えるんだと言っていたわね。懐かしいわ。
 だから私は、この人を選んだの。誰でも好きな男を婿にしてやると言われたけれど、アルフレート以外考えられなかったわ。」

「セレス……、恥ずかしいよ。」
 パーティクル公爵は、本当に恥ずかしそうに、赤面しながら身を縮めた。
「いいじゃない、本当のことよ?
 私はあなたがどれだけ素敵な人かということを、たくさんの人に知って欲しいの。
 たまにちょっと浮世離れした、困ったところもあるけれどね。」

 肩をすくめながら自分を褒めてくれるセレス様に、恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうなパーティクル公爵。仲がいい夫婦だな。
 なるほどな、ララさんを強引に連れてきてしまうようなところもあるけれど、そういう周りの人間のことを考えられる人でもあるわけか。愛している夫であるなら尚の事、その部分だけでパーティクル公爵という人を判断して欲しくはないだろうな。

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