162 / 424
第55話 ララさんの行方②
しおりを挟む
「はい、急ぎましょう。」
俺たちはララさんがさらわれた方向を追って走り出した。それをサニーさんが心配そうに見つめていた。
「……多分、ここだわ。」
アシュリーさんが見つけた場所は、とても広くてきれいな庭を持つ大豪邸だった。
この国の貴族がどの程度のお金を持っているのか分からないが、とても下級貴族のものとは思えない。
「かなり立場が上のほうの貴族かも知れませんね……。エドモンドさんを連れてこなくて正解でした。人目につかない場所から庭に侵入しましょう。」
「ええ。」
俺とアシュリーさんは、裏門と正門の間の柵で周囲を見回した。
「──ここならひと目につかなそうです。
ここを乗り越えましょう。」
「ええ。」
俺が柵に手をかけて登ろうとすると、アシュリーさんが精霊魔法で体を浮かせて、柵の向こうへと運んでくれた。
「そんな魔法もあるんですね。」
「精霊魔法は人間の使う魔法にはないものも多いのよ。さっ。行きましょう。」
俺たちは身を屈めて、木々に隠れながら庭を突っ切って建物に近付いた。
「人のいない部屋のどこかが、窓の鍵がかかっていないといいんですが……。」
「鍵をあける魔法ならあるわよ?」
「本当ですか?ああ、そもそも罠解除は精霊魔法にしかないんでしたよね。鍵解除もあるってことですか。」
「ええ。」
「じゃあ、俺が部屋の中を確認します。これだけ広い家なら、誰もいない部屋もある筈です。そこの窓の鍵をあけてください。
そこから侵入しましょう。」
「分かったわ。」
俺はこっそりと窓の端から中を覗く。ベッドメイキングをしているメイドさんの姿が見えた。始めたばかりのようで、まだ時間がかかりそうだ。ここから離れた部屋で、あいている部屋があるといいんだが……。
俺たちは静かに移動すると、誰もいない部屋、かつ、さっきのメイドさんのいるベッドのある部屋から離れた部屋を見つけた。
「──ここにしましょう。」
「鍵をあけるわよ。」
アシュリーさんが魔法を使い、俺が窓をそっとあける。たてつけが悪くて音がしたらどうしようかなと心配したが、きちんと油をさしているのかスムーズに窓があいた。
「ここで靴を履き替えましょう。泥のついた靴跡を見られたら、後で人がこの部屋に来た時に、バレてしまいますからね。」
「ええ?でも、靴なんて……。」
俺は窓のヘリに腰掛けて、靴を出して履き替えると、泥のついた靴をマジックバッグの中にしまい、床に降り立った。
「はい、どうぞ、アシュリーさん。」
俺は続いて窓のヘリに腰掛け、靴を履き替えろと言われて、困った表情を浮かべたアシュリーさんに、靴を出して渡した。
「ええ?ジョージ、あなたどうして、コボルト専用の靴なんて持ち合わせていたの?
あなたに用なんてない筈でしょう?」
コボルトの足は俺たち人間とは大分違う。だから人間の靴は履けないし、俺たち人間もコボルトの靴は履けない。
なんというか、足首の先がちょっと短くて足首が大分細いのだ。元が犬の魔物だからだろう。手の指の長さも、犬に比べれば長いほうだが、人間に比べるとかなり短い。
「まあ……、店長就任祝いのプレゼントと思って下さい。」
まあ、半分はあながち嘘じゃない。実際、長時間の立ち仕事になるだろうから、靴をプレゼントしたいなとは考えていたのだ。アシュリーさんの普段遣いの靴は冒険者用のもので、貴族街の店に立てるような、仕立てのよいものがなかったから。服は制服を作ろうと思っているが、靴はいちから作るのもな。
「ジョージ……。ありがとう。凄く素敵な靴だわ。あとでじっくり眺めるわね。」
そう言ってアシュリーさんは靴を履き替えると、自分のマジックバッグの中に靴をしまって床に降り立った。
「感知魔法を使うわ。周囲に人がいないか確認してから外に出ましょう。」
「はい。」
アシュリーさんが感知魔法を使う。
「……大丈夫よ。近くには誰もいない。外に出ましょう。」
ドアノブをそっとあけて部屋の外に出る。
「こっちだわ。」
アシュリーさんがララさんの匂いを嗅いで、その後を俺がついていく。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
俺たちはララさんがさらわれた方向を追って走り出した。それをサニーさんが心配そうに見つめていた。
「……多分、ここだわ。」
アシュリーさんが見つけた場所は、とても広くてきれいな庭を持つ大豪邸だった。
この国の貴族がどの程度のお金を持っているのか分からないが、とても下級貴族のものとは思えない。
「かなり立場が上のほうの貴族かも知れませんね……。エドモンドさんを連れてこなくて正解でした。人目につかない場所から庭に侵入しましょう。」
「ええ。」
俺とアシュリーさんは、裏門と正門の間の柵で周囲を見回した。
「──ここならひと目につかなそうです。
ここを乗り越えましょう。」
「ええ。」
俺が柵に手をかけて登ろうとすると、アシュリーさんが精霊魔法で体を浮かせて、柵の向こうへと運んでくれた。
「そんな魔法もあるんですね。」
「精霊魔法は人間の使う魔法にはないものも多いのよ。さっ。行きましょう。」
俺たちは身を屈めて、木々に隠れながら庭を突っ切って建物に近付いた。
「人のいない部屋のどこかが、窓の鍵がかかっていないといいんですが……。」
「鍵をあける魔法ならあるわよ?」
「本当ですか?ああ、そもそも罠解除は精霊魔法にしかないんでしたよね。鍵解除もあるってことですか。」
「ええ。」
「じゃあ、俺が部屋の中を確認します。これだけ広い家なら、誰もいない部屋もある筈です。そこの窓の鍵をあけてください。
そこから侵入しましょう。」
「分かったわ。」
俺はこっそりと窓の端から中を覗く。ベッドメイキングをしているメイドさんの姿が見えた。始めたばかりのようで、まだ時間がかかりそうだ。ここから離れた部屋で、あいている部屋があるといいんだが……。
俺たちは静かに移動すると、誰もいない部屋、かつ、さっきのメイドさんのいるベッドのある部屋から離れた部屋を見つけた。
「──ここにしましょう。」
「鍵をあけるわよ。」
アシュリーさんが魔法を使い、俺が窓をそっとあける。たてつけが悪くて音がしたらどうしようかなと心配したが、きちんと油をさしているのかスムーズに窓があいた。
「ここで靴を履き替えましょう。泥のついた靴跡を見られたら、後で人がこの部屋に来た時に、バレてしまいますからね。」
「ええ?でも、靴なんて……。」
俺は窓のヘリに腰掛けて、靴を出して履き替えると、泥のついた靴をマジックバッグの中にしまい、床に降り立った。
「はい、どうぞ、アシュリーさん。」
俺は続いて窓のヘリに腰掛け、靴を履き替えろと言われて、困った表情を浮かべたアシュリーさんに、靴を出して渡した。
「ええ?ジョージ、あなたどうして、コボルト専用の靴なんて持ち合わせていたの?
あなたに用なんてない筈でしょう?」
コボルトの足は俺たち人間とは大分違う。だから人間の靴は履けないし、俺たち人間もコボルトの靴は履けない。
なんというか、足首の先がちょっと短くて足首が大分細いのだ。元が犬の魔物だからだろう。手の指の長さも、犬に比べれば長いほうだが、人間に比べるとかなり短い。
「まあ……、店長就任祝いのプレゼントと思って下さい。」
まあ、半分はあながち嘘じゃない。実際、長時間の立ち仕事になるだろうから、靴をプレゼントしたいなとは考えていたのだ。アシュリーさんの普段遣いの靴は冒険者用のもので、貴族街の店に立てるような、仕立てのよいものがなかったから。服は制服を作ろうと思っているが、靴はいちから作るのもな。
「ジョージ……。ありがとう。凄く素敵な靴だわ。あとでじっくり眺めるわね。」
そう言ってアシュリーさんは靴を履き替えると、自分のマジックバッグの中に靴をしまって床に降り立った。
「感知魔法を使うわ。周囲に人がいないか確認してから外に出ましょう。」
「はい。」
アシュリーさんが感知魔法を使う。
「……大丈夫よ。近くには誰もいない。外に出ましょう。」
ドアノブをそっとあけて部屋の外に出る。
「こっちだわ。」
アシュリーさんがララさんの匂いを嗅いで、その後を俺がついていく。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
388
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
お兄様のためならば、手段を選んでいられません!
山下真響
ファンタジー
伯爵令嬢のティラミスは実兄で病弱の美青年カカオを愛している。「お兄様のお相手(男性)は私が探します。お兄様を幸せするのはこの私!」暴走する妹を止められる人は誰もいない。
★魔力が出てきます。
★よくある中世ヨーロッパ風の世界観で冒険者や魔物も出てきます。
★BL要素はライトすぎるのでタグはつけていません。
★いずれまともな恋愛も出てくる予定です。どうぞ気長にお待ちください。
休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった…
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
ただの世界最強の村人と双子の弟子
ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する!
主人公は姉妹、大英雄です。
学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。
本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。
次回作は公開しているので、そちらも是非。
誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。
初心者なので訂正することが多くなります。
気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる