135 / 424
第46話 杏と粒あんのクリームサンド④
しおりを挟む
俺はナナリーさんが小さく切ってくれたナインテイルのタンに、ふうふうと息を吹きかけてから、カイアの口に運ぶ。
「熱くないか?」
カイアはナインテイルのタンをモグモグと食べながら、目をキラキラとさせている。
気に入ったらしい。
スープも冷ましてやってから口に運ぶ。
スープも気に入ったようだ。
そんな俺たちの光景を、ナナリーさんが微笑ましげに見ていた。
俺だけが食べているママガッソに、カイアが興味を示す。
「これは少し大人の味かもしれないぞ?」
ほんの少しだけ切って食べさせてやったところ、少しむずかしい顔をした。
発酵食品は独特な味だからなあ。やっぱりカイアにはまだ少し早かったか。
「やっぱり苦手みたいですね。」
「そうですね。まだ小さいので。」
俺とナナリーさんが顔を見合わせて笑う。
「カイアちゃんはこれをどうぞ。」
そう言って、パンに生クリームとオレンジ色の果実と、黒い何かの挟まれたサンドイッチを出してくれた。
一口食べたカイアが、あまりの美味しさに目を丸くして、ピョルルル!ピョルルル!と喜んで、俺にも食べるよう差し出してきた。
これは……。杏と粒あんのクリームサンドか!柔らかくしたクリームチーズに粉糖を加えてよく混ぜたものを、泡だてた生クリームに加えて、杏のシロップ漬けのシロップの水分を切り、食パンに粒あん、クリーム、杏のシロップ漬けを挟んだものだ。
この世界で粒あんにお目にかかるとは!
「とても美味しいです。
カイアも喜んでますよ。」
「それは良かったです。昔おじいちゃんが勇者様の武器を作った際に、この粒あんっていうのを教えて下さって、それを元に聖女様が祖母と考案した料理なんですよ?」
勇者は前世が日本人だったのかな?
「この粒あんは、どこででも手に入るんですか?」
「元になる植物は勇者様が広めて作ってるところもありますけど、甘くして食べるのはうちの家系くらいじゃないでしょうか?
普通に煮豆として食べられてますね。」
「そうなんですね、もったいない。」
「ねえ?こんなに美味しいのに、豆を甘くするのが気持ち悪いみたいで。
でもお店に出すと、そうと分からずに、みなさん美味しいって召し上がって下さいますけどね。」
そう言ってナナリーさんはいたずらっぽく笑った。
「──大変美味しかったです、ごちそうさまでした。」
「はい、じゃあ、これ、お土産の分のママガッソです。」
そう言って、油紙を敷いた、なにかの植物で編まれた弁当箱を出してくれる。
「そういえば先日お借りしたお弁当箱、持ってくるのを失念してしまいました。」
「また今度で結構ですよ。またいらして下さいますでしょ?」
「はい、じゃあ、その時にまた。
カイア、お外に出るから、またマジックバッグの中に入ってくれ。」
カイアはマジックバッグの中に入る前に、ナナリーさんにバイバイと手を振った。ナナリーさんも笑顔で振り返してくれた。
俺はヴァッシュさんの工房に戻った。そろそろ出来た頃だろうか?
俺が工房に立ち寄ると、ミスティさんが出てきて、ちょうど出来ましたよ、と魔導具を渡してくれた。代金は預けているお金から引いておきますね、と言われたので、そのまま魔導具をマジックバッグにしまった。
さっそく帰って試そうと思って帰ろうとした瞬間、俺はエドモンドさんに自動乾燥機能付き食器洗浄機だけを渡して、コボルトの集落から預かってきた、お茶や食器を渡すのをすっかり失念していたことを思い出した。王宮におさめる分を取りにいったというのに。
エドモンドさんも何も言わないから、そのまま帰ってきてしまったのだ。
俺はルピラス商会に立ち寄ることにした。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
「熱くないか?」
カイアはナインテイルのタンをモグモグと食べながら、目をキラキラとさせている。
気に入ったらしい。
スープも冷ましてやってから口に運ぶ。
スープも気に入ったようだ。
そんな俺たちの光景を、ナナリーさんが微笑ましげに見ていた。
俺だけが食べているママガッソに、カイアが興味を示す。
「これは少し大人の味かもしれないぞ?」
ほんの少しだけ切って食べさせてやったところ、少しむずかしい顔をした。
発酵食品は独特な味だからなあ。やっぱりカイアにはまだ少し早かったか。
「やっぱり苦手みたいですね。」
「そうですね。まだ小さいので。」
俺とナナリーさんが顔を見合わせて笑う。
「カイアちゃんはこれをどうぞ。」
そう言って、パンに生クリームとオレンジ色の果実と、黒い何かの挟まれたサンドイッチを出してくれた。
一口食べたカイアが、あまりの美味しさに目を丸くして、ピョルルル!ピョルルル!と喜んで、俺にも食べるよう差し出してきた。
これは……。杏と粒あんのクリームサンドか!柔らかくしたクリームチーズに粉糖を加えてよく混ぜたものを、泡だてた生クリームに加えて、杏のシロップ漬けのシロップの水分を切り、食パンに粒あん、クリーム、杏のシロップ漬けを挟んだものだ。
この世界で粒あんにお目にかかるとは!
「とても美味しいです。
カイアも喜んでますよ。」
「それは良かったです。昔おじいちゃんが勇者様の武器を作った際に、この粒あんっていうのを教えて下さって、それを元に聖女様が祖母と考案した料理なんですよ?」
勇者は前世が日本人だったのかな?
「この粒あんは、どこででも手に入るんですか?」
「元になる植物は勇者様が広めて作ってるところもありますけど、甘くして食べるのはうちの家系くらいじゃないでしょうか?
普通に煮豆として食べられてますね。」
「そうなんですね、もったいない。」
「ねえ?こんなに美味しいのに、豆を甘くするのが気持ち悪いみたいで。
でもお店に出すと、そうと分からずに、みなさん美味しいって召し上がって下さいますけどね。」
そう言ってナナリーさんはいたずらっぽく笑った。
「──大変美味しかったです、ごちそうさまでした。」
「はい、じゃあ、これ、お土産の分のママガッソです。」
そう言って、油紙を敷いた、なにかの植物で編まれた弁当箱を出してくれる。
「そういえば先日お借りしたお弁当箱、持ってくるのを失念してしまいました。」
「また今度で結構ですよ。またいらして下さいますでしょ?」
「はい、じゃあ、その時にまた。
カイア、お外に出るから、またマジックバッグの中に入ってくれ。」
カイアはマジックバッグの中に入る前に、ナナリーさんにバイバイと手を振った。ナナリーさんも笑顔で振り返してくれた。
俺はヴァッシュさんの工房に戻った。そろそろ出来た頃だろうか?
俺が工房に立ち寄ると、ミスティさんが出てきて、ちょうど出来ましたよ、と魔導具を渡してくれた。代金は預けているお金から引いておきますね、と言われたので、そのまま魔導具をマジックバッグにしまった。
さっそく帰って試そうと思って帰ろうとした瞬間、俺はエドモンドさんに自動乾燥機能付き食器洗浄機だけを渡して、コボルトの集落から預かってきた、お茶や食器を渡すのをすっかり失念していたことを思い出した。王宮におさめる分を取りにいったというのに。
エドモンドさんも何も言わないから、そのまま帰ってきてしまったのだ。
俺はルピラス商会に立ち寄ることにした。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
427
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説
元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました
きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。
元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。
もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~
白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。
目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。
今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる!
なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!?
非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。
大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして……
十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。
エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます!
エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~
ねぎさんしょ
ファンタジー
【完結保証】15万字足らず、約60話にて第一部完結します!
勇者の血筋に生まれながらにしてジョブ適性が『村人』であるレジードは、生家を追い出されたのち、自力で勇者になるべく修行を重ねた。努力が実らないまま生涯の幕を閉じるも、転生により『勇者』の適性を得る。
しかしレジードの勇者適性は、自分のステータス画面にそう表示されているだけ。
他者から確認すると相変わらず村人であり、所持しているはずの勇者スキルすら発動しないことがわかる。
自分は勇者なのか、そうでないのか。
ふしぎに思うレジードだったが、そもそも彼は転生前から汎用アビリティ『複合技能』の極致にまで熟達しており、あらゆるジョブのスキルを村人スキルで再現することができた。
圧倒的な火力、隙のない肉体強化、便利な生活サポート等々。
「勇者こそ至高、勇者スキルこそ最強。俺はまだまだ、生家<イルケシス>に及ばない」
そう思いこんでいるのはレジード当人のみ。
転生後に出会った騎士の少女。
転生後に再会したエルフの弟子。
楽しい仲間に囲まれて、レジードは自分自身の『勇者』を追い求めてゆく。
勇者スキルを使うための村人スキルで、最強を証明しながら……
※カクヨム様、小説家になろう様でも連載予定です。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる