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第46話 杏と粒あんのクリームサンド④

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 俺はナナリーさんが小さく切ってくれたナインテイルのタンに、ふうふうと息を吹きかけてから、カイアの口に運ぶ。
「熱くないか?」
 カイアはナインテイルのタンをモグモグと食べながら、目をキラキラとさせている。
 気に入ったらしい。

 スープも冷ましてやってから口に運ぶ。
 スープも気に入ったようだ。
 そんな俺たちの光景を、ナナリーさんが微笑ましげに見ていた。
 俺だけが食べているママガッソに、カイアが興味を示す。
「これは少し大人の味かもしれないぞ?」

 ほんの少しだけ切って食べさせてやったところ、少しむずかしい顔をした。
 発酵食品は独特な味だからなあ。やっぱりカイアにはまだ少し早かったか。
「やっぱり苦手みたいですね。」
「そうですね。まだ小さいので。」
 俺とナナリーさんが顔を見合わせて笑う。

「カイアちゃんはこれをどうぞ。」
 そう言って、パンに生クリームとオレンジ色の果実と、黒い何かの挟まれたサンドイッチを出してくれた。
 一口食べたカイアが、あまりの美味しさに目を丸くして、ピョルルル!ピョルルル!と喜んで、俺にも食べるよう差し出してきた。

 これは……。杏と粒あんのクリームサンドか!柔らかくしたクリームチーズに粉糖を加えてよく混ぜたものを、泡だてた生クリームに加えて、杏のシロップ漬けのシロップの水分を切り、食パンに粒あん、クリーム、杏のシロップ漬けを挟んだものだ。
 この世界で粒あんにお目にかかるとは!

「とても美味しいです。
 カイアも喜んでますよ。」
「それは良かったです。昔おじいちゃんが勇者様の武器を作った際に、この粒あんっていうのを教えて下さって、それを元に聖女様が祖母と考案した料理なんですよ?」
 勇者は前世が日本人だったのかな?

「この粒あんは、どこででも手に入るんですか?」
「元になる植物は勇者様が広めて作ってるところもありますけど、甘くして食べるのはうちの家系くらいじゃないでしょうか?
 普通に煮豆として食べられてますね。」
「そうなんですね、もったいない。」

「ねえ?こんなに美味しいのに、豆を甘くするのが気持ち悪いみたいで。
 でもお店に出すと、そうと分からずに、みなさん美味しいって召し上がって下さいますけどね。」
 そう言ってナナリーさんはいたずらっぽく笑った。

「──大変美味しかったです、ごちそうさまでした。」
「はい、じゃあ、これ、お土産の分のママガッソです。」
 そう言って、油紙を敷いた、なにかの植物で編まれた弁当箱を出してくれる。
「そういえば先日お借りしたお弁当箱、持ってくるのを失念してしまいました。」

「また今度で結構ですよ。またいらして下さいますでしょ?」
「はい、じゃあ、その時にまた。
 カイア、お外に出るから、またマジックバッグの中に入ってくれ。」
 カイアはマジックバッグの中に入る前に、ナナリーさんにバイバイと手を振った。ナナリーさんも笑顔で振り返してくれた。

 俺はヴァッシュさんの工房に戻った。そろそろ出来た頃だろうか?
 俺が工房に立ち寄ると、ミスティさんが出てきて、ちょうど出来ましたよ、と魔導具を渡してくれた。代金は預けているお金から引いておきますね、と言われたので、そのまま魔導具をマジックバッグにしまった。

 さっそく帰って試そうと思って帰ろうとした瞬間、俺はエドモンドさんに自動乾燥機能付き食器洗浄機だけを渡して、コボルトの集落から預かってきた、お茶や食器を渡すのをすっかり失念していたことを思い出した。王宮におさめる分を取りにいったというのに。
 エドモンドさんも何も言わないから、そのまま帰ってきてしまったのだ。
 俺はルピラス商会に立ち寄ることにした。

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