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第38話 思わぬ流通革命①

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「この地方の乾物?」
「ええ。そういった物があると伺って、ぜひ食べてみたいなと思ってまして。」
「あら、そういうことなら、おすそ分けは乾物にすればよかったかしら。
 ちょっと待ってて、持ってくるわ。」
 マイヤーさんがそう言って、食事もそこそこに席を立とうとする。

「いえ、毎回いただいてしまうのも申し訳ないので、もしご迷惑でなければ、お時間のある時に作り方を教えていただけるとありがたいのですが。」
「ええ、もちろん構いませんよ。
 ふふ、私にもジョージに教えられることがあるのね、嬉しいわ。」
 マイヤーさんが少女のように顔をほころばせる。

「この間まとめて作ってしまったから、しばらくは作る予定がないのだけれど、作る時になったら、予めお知らせするわね。」
「はい、よろしくお願いします。とても楽しみです。」
 俺とマイヤーさんは、そう言ってニッコリと微笑み合う。

「──そういえば、ジョージは結婚しないのかい?カイアちゃんがいるとなると、それを受け入れてくれる奥さんを探すのは難しいかも知れないが……。」
 ガーリンさんが聞いてくる。
「あまり考えたことはないですね。
 価値観が合わないと、……正直厳しいと思っているので。」

 前世で子持ちのシングルマザーと同棲していた時にも、俺と家事のやり方が合わず衝突することが多く、人と暮らすことの大変さは身にしみて分かっている。
 例えば、俺としてはグラスの底に汚れが残っているのに、洗い物が終わったと思うのが理解出来なかったし、そのグラスで飲み物を飲みたくはなかった。

 その汚れから雑菌が繁殖することだってあるし、小さい子どもがいるのだから、特に気をつけるべきだと思った。料理店でそんなグラスが出てきたらクレームものだろう。
 哺乳瓶は消毒するのに、普段使いのグラスや皿に、汚れが残っているのが気にならないのは、彼女の親がそういう人だったからなのだろうと思う。

 ソファをどかして掃除機をかけないのも理解出来なかった。ゴミが落ちていることだってあるし、ホコリも当然たまる。
 どかして掃除をしてみたら、ソファの下から、カビのはえたパンと、乾いた肉のかけららしきものが見つかったこともあった。
 子どもが潜り込んで、うっかり口にしたらどうするつもりなんだと喧嘩になった。

 やたらと散らかしてそのままにするのも無理だった。子どもの口に入る大きさのものばかりなのが、また耐えられなかった。
 職場の弁当交換会でその話をしたら、男女逆ね、と言われたが、小さい子がいるなら男女関係なく気を配るべきだと思う。
 昔うっかり飴を飲み込んでしまって、喉を詰まらせたことがあるから余計にそう思う。

「価値観は確かに大切ね。譲り合うことも大切だけど、元が大きくずれていたら、合わせるのがしんどいですもの。」
 とマイヤーさんが言った。
「素敵だなと思う方はいて、そのご家族にも気に入っていただけたのたのですが、年の差があり過ぎると言われてしまって。
 今のところ、その方以上の人は見つからないですね。」

「ほーお、どんな人だね?」
 ガーリンさんが興味深げに目を光らせる。
「食堂をやっていて、いつも朗らかで笑顔の素敵な、ご家族と仲のいい方です。」
「いいじゃないいか。」
「ただ、年齢が30近い方でしたので。」
 ああ……。とガーリンさんとマイヤーさんが納得した表情をする。

「だがジョージは女を見る目があるな。」
「そうね、そういう基準で女性を選べるのなら、きっと素敵な方と巡り会えるわ。」
「そうだといいんですがね。」
 俺は苦笑した。
 なにせ前世から見つからないからな、もはや諦めを通り越して無我の境地だ。

「ティファさんはどうなんだ?
 彼女もいつも笑顔で、ご家族とも仲がいいだろう。料理の腕もなかなかだぞ?」
「年齢がちょっと……。10代はさすがにきついです。せめて20代ですね。」
「なんだ、ジョージは年上好みか。」
 ガーリンさんは笑ったが、俺は子どもをそういう対象として見られないのだから仕方がない。20代前半ですら正直キツイ。

「ジョージはちょっと老成したようなところがあるから、年上の女性のほうが合うかもしれないわね。」
 マイヤーさんが笑う。
 実際年なんだがな。本当は話の合う同年代がいいんだが、今の体じゃ、逆に俺が息子のようになってしまうからな……。
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