1 / 470
第1話 土鍋ご飯蟹チャーハンとモヤシと卵の中華スープ①
しおりを挟む
気が付けば、真っ白な世界にいた。
目の前には、光り輝く空中に浮いた老人。
「ちょっと間違えてしまっての。」
「はあ。」
「君を元の世界に戻すことはかなわんのだ。」
「そうですか。」
「……君、少しも動揺しとらんな。」
「だって無理なんですよね?」
「まあそうなんだが……。」
「じゃあ、考えても仕方がないんで、別にいいです。」
日本のサラリーマンは、思考を止めることに慣れているのだ。
俺はそれなりに仕事をして、それなりにお付き合いした女性も何人かいたが、いまだ独身。特に困る相手もいない。
相手の女性が良くなかったとかそういうことではなく、仕事が忙しかったり、飯を作って食べる時間が楽しかっただけだ。
あまり話さないので、よく知らない人からは、いつも機嫌が悪いかのように思われがちだが、単に関心のないことを無理に話したいと思わないというだけだ。
1人で気楽に好きな料理をして暮らせるのであれば、それでじゅうぶんなのだ。
「せめてもの詫びとして、好きなスキルを3つ授けよう。」
「スキル?」
「まあ、平たく言えば、あちらの世界で、便利に使える能力ということだな。」
「じゃあ、どんな食材でも手に入るスキルと、どんな食材かを理解するスキルと、まだ見ぬレシピを知るスキルを下さい。」
俺はひと息でそこまで言った。
「急に食い気味だな。
──というか、そんなのでいいのか?」
「料理することと、食べることにしか、興味がないので。」
「……まあ、いいだろう。本人の望みだからな。」
「あ、調味料とかも、ちゃんと手に入りますよね?
肉があって塩コショウがないとか、魚があって醤油がなかったら、最悪なんで。」
「……欲しいものが何でも手に入る、にした方が、いいんじゃないのか?」
「じゃあそれでお願いします。」
「見た目は君じゃない人間を召喚する時ように準備してたものになるから、大分若返ることになるが、……まあ、君なら気にせんか。」
「性別が女になるとか、生まれつき難病を抱えてるとかでなければ。」
「健康な若い男だから安心してくれ。」
「じゃあ、それでいいです。」
「言葉も分かるし読み書きも出来る。
ちゃんと服や簡単なものは与えることになっているから、それも安心してくれ。」
全裸の可能性は考えていなかった。
「では、頑張ってくれ。
本当にすまんね。」
こうして中年サラリーマンだった俺は、ある日突然異世界に送られることとなった。
仕事引き継ぎ出来なくて申し訳ないなあ、と思いながら。
たどり着いた先はどこかの村の近くのようだった。
ちゃんと服を着ている。半袖にベストのような上着、ズボンに紐のついた長い革靴。
これがこの世界の標準装備ということか。
「とりあえず、家を見つけて飯を食おう。」
俺は村の人をたずねることにした。
「あの、すみません。」
洗濯物を干している若い女性に声をかける。
「この村に、空き家はありませんか?
住むところを探してるんですが。」
いきなり見知らぬ相手に話しかけられて怖かったのだろうか。
女性は突如真っ赤になると、体を強ばらせて小走りに逃げていってしまった。
「──なんだ、お前、突然やって来て。
この村に住みたいだ?」
かわりにコワモテの男がやって来た。
年齢的に彼女の父親だろうか。
「はい、家を探しています。」
「そんなもんねえよ。
他をあたんな。
勝手に森の木を切り出すんじゃねえぞ?」
そう言って追い返されてしまった。
まいったな。家も準備して貰えば良かった。
とぼとぼと道を歩きながら、そういえば、何でも手に入るスキルを貰ったことを思い出した。
家も出せないだろうか。
俺は何もない野っぱらの前で、
「家。」
と言った。
すると目の前に丸太で組まれた家が、突然、デン、と現れる。
────────────────────
他作品で2作品、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援よろしくお願いいたします。
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
目の前には、光り輝く空中に浮いた老人。
「ちょっと間違えてしまっての。」
「はあ。」
「君を元の世界に戻すことはかなわんのだ。」
「そうですか。」
「……君、少しも動揺しとらんな。」
「だって無理なんですよね?」
「まあそうなんだが……。」
「じゃあ、考えても仕方がないんで、別にいいです。」
日本のサラリーマンは、思考を止めることに慣れているのだ。
俺はそれなりに仕事をして、それなりにお付き合いした女性も何人かいたが、いまだ独身。特に困る相手もいない。
相手の女性が良くなかったとかそういうことではなく、仕事が忙しかったり、飯を作って食べる時間が楽しかっただけだ。
あまり話さないので、よく知らない人からは、いつも機嫌が悪いかのように思われがちだが、単に関心のないことを無理に話したいと思わないというだけだ。
1人で気楽に好きな料理をして暮らせるのであれば、それでじゅうぶんなのだ。
「せめてもの詫びとして、好きなスキルを3つ授けよう。」
「スキル?」
「まあ、平たく言えば、あちらの世界で、便利に使える能力ということだな。」
「じゃあ、どんな食材でも手に入るスキルと、どんな食材かを理解するスキルと、まだ見ぬレシピを知るスキルを下さい。」
俺はひと息でそこまで言った。
「急に食い気味だな。
──というか、そんなのでいいのか?」
「料理することと、食べることにしか、興味がないので。」
「……まあ、いいだろう。本人の望みだからな。」
「あ、調味料とかも、ちゃんと手に入りますよね?
肉があって塩コショウがないとか、魚があって醤油がなかったら、最悪なんで。」
「……欲しいものが何でも手に入る、にした方が、いいんじゃないのか?」
「じゃあそれでお願いします。」
「見た目は君じゃない人間を召喚する時ように準備してたものになるから、大分若返ることになるが、……まあ、君なら気にせんか。」
「性別が女になるとか、生まれつき難病を抱えてるとかでなければ。」
「健康な若い男だから安心してくれ。」
「じゃあ、それでいいです。」
「言葉も分かるし読み書きも出来る。
ちゃんと服や簡単なものは与えることになっているから、それも安心してくれ。」
全裸の可能性は考えていなかった。
「では、頑張ってくれ。
本当にすまんね。」
こうして中年サラリーマンだった俺は、ある日突然異世界に送られることとなった。
仕事引き継ぎ出来なくて申し訳ないなあ、と思いながら。
たどり着いた先はどこかの村の近くのようだった。
ちゃんと服を着ている。半袖にベストのような上着、ズボンに紐のついた長い革靴。
これがこの世界の標準装備ということか。
「とりあえず、家を見つけて飯を食おう。」
俺は村の人をたずねることにした。
「あの、すみません。」
洗濯物を干している若い女性に声をかける。
「この村に、空き家はありませんか?
住むところを探してるんですが。」
いきなり見知らぬ相手に話しかけられて怖かったのだろうか。
女性は突如真っ赤になると、体を強ばらせて小走りに逃げていってしまった。
「──なんだ、お前、突然やって来て。
この村に住みたいだ?」
かわりにコワモテの男がやって来た。
年齢的に彼女の父親だろうか。
「はい、家を探しています。」
「そんなもんねえよ。
他をあたんな。
勝手に森の木を切り出すんじゃねえぞ?」
そう言って追い返されてしまった。
まいったな。家も準備して貰えば良かった。
とぼとぼと道を歩きながら、そういえば、何でも手に入るスキルを貰ったことを思い出した。
家も出せないだろうか。
俺は何もない野っぱらの前で、
「家。」
と言った。
すると目の前に丸太で組まれた家が、突然、デン、と現れる。
────────────────────
他作品で2作品、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援よろしくお願いいたします。
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
1,543
お気に入りに追加
1,851
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる