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第3章

第406話 英雄の生み出し方講座

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「……厳密に言うと、違います。」
「──厳密に言うと?」
 エリクソンさんが訝しげに目を細める。

 僕は今がチャンスだと思った。
 エリクソンさんに、新たな英雄を育てる手助けをして欲しいのだと話すんだ。

「僕も、エリクソンさんと同じく、話していい相手が決まっているんです。エリクソンさん。僕と魔法の契約を結んでいただけませんか?このことを他に漏らさないという。」

「……いいわ。私はずっと、待つともなく、待っていたの。パルフェのペンダントを持って私の前に現れる人を。そのあなたの話が聞けるのなら、もちろん契約するわ。」

 エリクソンさんはそううなずいてくれた。
 エリクソンさんが取り出した、魔法の契約書──魔塔で新たに魔法を許可する際なんかにたくさん使うらしい──にサインをする。

 サインした魔法の秘密保持契約書を空中に放り投げると、青い炎を上げて燃え尽きる。
「ちなみにこれ、私が開発した魔法なのよ。
 今じゃ当たり前に使われているわね。」

「そうだったんですね!僕は普段は商人をしているので、何度もお世話になっています。
 本当にすごい方だったんですね。」

「無属性魔法が私の専門だからね。
 さ、これで契約は出来たわ。
 話してちょうだい。あなたの秘密を。」

 僕はこっくりとうなずいた。
「──僕の使命は、たくさんの英雄を育てること、なんです。」
「……たくさんの、英雄?」

「はい。魔王は封印しか出来ないもの、倒すことの出来ないもの。それがこれまでの常識であったと思います。実際エリクソンさんたちも、魔王を倒すことは出来なかった。」

「ええ、そうね。」
「異世界から勇者や聖女を召喚したり、この世界の人間に特別な力を与えてなお、それでも封印しか出来なかった。……勇者の心臓にある、世界樹の種を成長させる方法で。」

 ですが、と僕は続ける。
「本来神さまは、この世界のかなりの数の人間たちに、魔王を倒す力をもともと授けていたんだと僕は教わったんです。」

「ど、どういうこと!?」
「僕が受けたお告げはこうでした。」
 直接母さまたちに聞いた話だけど、僕自身が神さまってことはまだ話せないからね。

 お告げってことにしておくのが、いちばんいいと思う。話も通じやすいしね。
「この世界の人間は、すべて勇者や聖女などの、英雄に変化する可能性があるのだと。」

「この世界のすべての人間……?
 だけど勇者は聖女は、異世界から召喚されることがほとんどだと聞くわ。
 私の代でもそうだったし。」

「はい、僕もそう聞いています。だけど僕には勇者や聖女になれる可能性のある人間がわかるんです。──スキルは変化する。変化の果てに勇者や聖女のスキルがあるんです。」

「スキルが……変化する……。」
「勇者のスキルは、剣聖のスキルの先にあるものでした。剣聖が剣神になって、最終的に勇者になるんです。」

「じゃ……じゃあ、今剣聖のスキルを持つ人は、勇者になれる可能性がある人だっていうことなの!?異世界から召喚しなくても、この世界の人間が勇者になれる……。」

「はい。そして、剣聖のスキル自体、他のスキルから変化させられるものなんです。」
「剣聖にスキルが変化する……?
 待って!?聞いたことがあるわ!?」

「僕の叔父さん──Sランク冒険者のセオドア・ラウマンは、上級ですらない片手剣使いのスキル持ちから、剣聖にスキルが変化しました。変化に必要な条件を満たしたんです。
 だから誰でも剣聖になれるんです。」

 エリクソンさんは呆然としていた。
 空になったままのグラスは、だらりと下げられた手に持ったまま、お酒を注ぐ部分が絨毯のほうを向いて垂れ下がっている。

「僕の友人もそうです。彼女も上級ですらない片手剣使いでしたが、今では上級片手剣使いにスキルが変化しました。剣聖になるのもそう遠い話ではないと思います。」

「あなたの叔父さんが、あの、セオドア・ラウマン卿だったなんて……。
 じゃあ、あなたはセオドア・ラウマン卿を勇者にしようと考えているの?」

「はい、そのつもりでいます。叔父さんだけじゃなく、友人も、他にもたくさん、勇者だけでなく、聖女も英雄も、たくさん育てる予定なんです。それが僕の使命だから。」

「ひょっとしてあなた……。やっぱりお告げを受けているんじゃないの?
 神の託宣は“えらばれしもの”だけでなく、勇者や聖女にも直接届くものなのよ。」

「そのことを知っているんですね。はい、今回のお告げの対象は勇者でも聖女でもなく、それを育てる人間のことを指し示しているんです。英雄を育てる力を託された存在、それが今回のお告げの意味なんです。」

「そうなの……。魔塔にも毎回託宣は届いているのよ。お告げの正確な意味の、解読の研究もしているからね。あなたがあの、“ななつをすべしもの”なのね……?」

 エリクソンさんは興奮したように、目を見開いて僕を見つめながら、ゴクリと喉を鳴らしてつばを飲み込んだ

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