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第3章

第384話 95番目の肖像画の秘密

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【それで、名前はどうしますか?】

 あっ。そっか、どうしようかな。

「ねえ、ヒルデ、好きな蝶々と、鳥の名前を教えてくれない?」
「へっ!?す、好きな蝶々と鳥の名前?
 それを聞いてどうするの?」

「あ、うん、さっき生み出した魔法の手紙に名前をつけなくちゃいけなくて。そうしないとこの世界に定着しないからさ。」

「え?わ、私の好きなものを……、魔法の手紙の名前にするの?」
 ヒルデがギュッと拳を握りながら、僕をジッと見つめてくる。

「僕、これを世界に広めようと思っているんだよね。せっかくだから、販売してみんなが買えるようにしたくて。」

 家族や恋人にすぐに届けられる魔法の手紙なんて、みんな飛びつくぞ!
 他の国にいたって、船便で届けるよりもずっと早く届くからね!

 船便だとルートによっては、最悪1年かかることだってあるくらいだもの。
 僕はこれを無属性の魔法使いが使える魔法として誕生させた。

 無属性の魔法使いは、契約魔法の元になるインクを作ったり、大切な魔法ではあるけれど、国の防衛の要にならないから、あんまり重要視されていないんだよね。

 そもそも魔法を学ぶ時に、魔法として数えられないものなんだ。魔法は、聖、闇、火、水、風、土、回復の7つとされているけど、実際には生活魔法というものもある。

 生活魔法は汚れをキレイにしたりするだけの魔法で、無属性魔法のひとつだ。文章を書く時に単語の頭につけるけど、読まない文字、パルをもじって、無性のパルと呼ばれてる。

 学校で教えてもらうこともないから、基本商人の下について、そこで無属性魔法使いから直接弟子になって教えてもらったりする。

 攻撃や防御にまったく関係ない魔法だからね。魔法の手紙を作るには、ぴったりの魔法使いだ。そして無属性魔法使いは、存外たくさん存在するという。

 属性魔法使いよりもたくさんいるというから、人を雇いやすいという点でも、商売を始めるのにちょうどいい。

「え……!?わ、私の好きなものを名前につけた商品を、世界中に広めるって……。
 え!?」

 ヒルデが妙に慌てた様子で、頬を両手で挟んで目を泳がせている。
「そ、そんな、バカップルみたいな……。
 で、でも、アレックスが言うなら……。」

 また何かゴニョゴニョ言ってるね?
「ヒルデがどうしても嫌なら、自分でつけるよ?嫌かな?」
「い、嫌……じゃ、ない、けど……。」

「良かった。じゃあ教えて?」
「そ、そうね、蝶々だったら、リリルリ蝶が好きよ?鳥は……ミーティアかしら。」

「ミーティアは、オレンジ色の、凄く早く飛ぶ鳥だよね?うん、ぴったりかも。
 だったら語呂を寄せたほうがいいかな。」

 命名!普通の速度の魔法の手紙をリーティア、早く届く魔法の手紙をミーティア、秘匿事項の魔法の手紙をガーティア!

【命名:リーティア。
 魔法によって作成された手紙。頭の中で思い浮かべた文字を文章にする為の物。
 固定、とすることで文字が消えないようにし、消す、とすることで文字を消すことが可能。作成者の音声で、記載された文字を頭の中に自動で再生します。
 リーティアと唱えることで発動します。
 属性:無属性魔法。
 対象者を認識している場合、対象者の位置を魔法で特定可能。
 対象者の居場所を認識している場合、対象者を正確に認識しておらずとも伝達可能。
 認識阻害魔法の影響を受ける。
 文章固定後は蝶々の姿で手紙を伝達可能。

 命名:ミーティア。
 魔法によって作成された手紙。頭の中で思い浮かべた文字を文章にする為の物。
 固定、とすることで文字が消えないようにし、消す、とすることで文字を消すことが可能。作成者の音声で、記載された文字を頭の中に自動で再生します。
 ミーティアと唱えることで発動します。
 属性:無属性魔法。
 対象者を認識している場合、対象者の位置を魔法で特定可能。
 対象者の居場所を認識している場合、対象者を正確に認識しておらずとも伝達可能。
 認識阻害魔法の影響を受ける。
 文章固定後は鳥の姿で手紙を伝達可能。
 リーティアの20倍の速度で到着可能。

 命名:ガーティア。
 魔法によって作成された手紙。頭の中で思い浮かべた文字を文章にする為の物。
 固定、とすることで文字が消えないようにし、消す、とすることで文字を消すことが可能。作成者の音声で、記載された文字を頭の中に自動で再生します。
 ガーティアと唱えることで発動します。
 属性:無属性魔法。
 対象者を認識している場合、対象者の位置を魔法で特定可能。
 対象者の居場所を認識している場合、対象者を正確に認識しておらずとも伝達可能。
 認識阻害魔法の影響を受けない。
 ただし作成にはアレックス・ラウマンの許可を必要とする。
 文章固定後はマッカクの姿で手紙を伝達可能。内容を秘匿し、強奪を試みるものを攻撃します。】

 ガーティアはガーディアンから語呂を寄せてみたよ。細かい取り決めも作ってみた。
「これで無事に、魔法の手紙が世界に定着したよ。ありがとう、ヒルデ。」

「これでいつでも魔法の手紙が、家族に出せるようになるってこと?」
「うん、町でそのうち売られるからね。」

「凄いわ……。ありがとう、アレックス。
 あら?あんた、何を踏んでるの?」
「え?踏んでる?──わっ!
 絵を踏んじゃったよ!」

 さっきスタミナ切れで尻もちをついた時に箱を少し崩しちゃって、そこに置いてあった絵が地面に落ちたのを僕が踏んでたらしい。

「もう、故人の遺品を踏むなんて……。」
 僕のどかした足の下から、ヒルデが絵を拾って、パンパンと汚れをはたいている。

「──え?これ、お祖母様の肖像画?
 ……間違いないわ、若い時のものよ、うちにあるもの。どうしてそれがここに?」
 ヒルデは肖像画を見つめてそう言った。

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